解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第1章 §4.1.4 ★★★ 古典では区別の無い qp と pq が、演算子では iℏ だけ違う。積を演算子に直す規則(順序づけ)は1通りに決まらず、規則どうしの差は ℏ の冪になる
qp をどう演算子にするか
古典の関数 qp を演算子にするとき、q^p^ と p^q^ のどちらを選ぶかで結果が変わる。交換関係から
(q^p^)†=p^†q^†=p^q^=q^p^−iℏ(4.1.13)
なので、q^p^ はエルミートでなく、要請 (Q2) を満たさない。両者を平均した
Q(qp)=21(q^p^+p^q^)=q^p^−2iℏ(4.1.14)
はエルミートになる。2つの因子しかないときは、この対称化で (Q2) が決まる。
因子が増えると、エルミートにする方法が1つではなくなる。よく使われる順序づけの規則を3つ挙げる。
定義 4.1.3(順序づけの規則)
qmpn に対して、
- Weyl の順序:m 個の q^ と n 個の p^ の並べ方すべてについて積を作り、その平均を取る。同じことを、ei(aq+bp) を ei(aq^+bp^) に写す線形写像として定義することもできる(Weyl 1927)1H. Weyl (1927), Z. Phys. 46, 1–46.。
- Born–Jordan の順序:m+11∑k=0mq^kp^nq^m−k2M. Born and P. Jordan (1925), Z. Phys. 34, 858–888.。
- 標準の順序:すべての q^ を左に、p^ を右に置く q^mp^n(エルミートとは限らない)。
qp では Weyl と Born–Jordan はどちらも式 (4.1.14) を与える。違いが現れるのは q2p2 からで、下の例題で計算するように、Weyl の順序と Born–Jordan の順序の差は定数 ℏ2/6 である。どちらもエルミートで、ℏ→0 で古典の q2p2 に戻るので、要請 (Q1)・(Q2) だけからはどちらが正しいかを決められない。
順序が問題になる場面と、ならない場面
この曖昧さは、量子力学の初めの計算ではほとんど表に出てこない。直交座標の H=∑ipi2/(2m)+V(q) には q と p の積が無いので、順序の選び方が無いからである。順序が問題になる Hamiltonian は、q と p が同じ項に掛かって現れるものに限られる。代表的なものは次の3つである。
- 電磁場中の粒子 H=(p−qeA(r))2/(2m)。展開すると p⋅A と A⋅p が現れ、1成分ごとに p^A+Ap^=2Ap^−iℏA′ となる(A′ は A の微分)。対称に並べるのが自然で、Coulomb ゲージ ∇⋅A=0 では2つの並べ方の差が消える(電荷を qe と書いたのは座標 q と区別するため。第4部第6章)。
- 曲線座標。球座標の動径運動量 pr を −iℏ∂r とするとエルミートにならない(4.1.6節の例題)。
- 位置に依存する質量(半導体の異なる層をまたぐ有効質量など)。pm(q)1p の並べ方で境界条件が変わる。
いずれの場合も、どの順序を選ぶかは理論の外から(直交座標で書いた結果と一致させる、ゲージ変換で不変にする、実験と合わせる)決めることになる。
例題 4.1.4 q2p2 の3つの順序づけ ★★
オリジナル[q^,p^]=iℏ を使い、次をそれぞれ q^2p^2+αiℏq^p^+βℏ2 の形に直して α,β を求めよ。
- (1) p^2q^2。
- (2) Weyl の順序 W(q2p2)。6通りの並べ方の平均で、41(q^2p^2+2q^p^2q^+p^2q^2) に等しい。
- (3) Born–Jordan の順序 31(q^2p^2+q^p^2q^+p^2q^2)。
最後に、(2) と (3) の差を求めよ。
解答
基本になるのは p^q^=q^p^−iℏ と、例題 4.1.2 の [p^2,q^]=−2iℏp^ である。
(1) p^2q^=q^p^2−2iℏp^ を2回使う。p^2q^2=(q^p^2−2iℏp^)q^=q^(q^p^2−2iℏp^)−2iℏ(q^p^−iℏ)=q^2p^2−4iℏq^p^−2ℏ2。よって α=−4, β=−2。
(2) q^p^2q^=q^(q^p^2−2iℏp^)=q^2p^2−2iℏq^p^。これと (1) を代入して
W(q2p2)=41(q^2p^2+2q^2p^2−4iℏq^p^+q^2p^2−4iℏq^p^−2ℏ2)=q^2p^2−2iℏq^p^−21ℏ2.
α=−2, β=−1/2。6通りの並べ方(qqpp, qpqp, qppq, pqqp, pqpq, ppqq)の平均を直接計算しても同じ結果になる。
(3) 31(q^2p^2+q^2p^2−2iℏq^p^+q^2p^2−4iℏq^p^−2ℏ2)=q^2p^2−2iℏq^p^−32ℏ2。α=−2, β=−2/3。
差は W(q2p2)−BJ(q2p2)=(−21+32)ℏ2=61ℏ2 で、恒等演算子の定数倍である。(2) と (3) はどちらもエルミートで(α=−2 のとき −2iℏq^p^ のエルミートでない部分と q^2p^2 のエルミートでない部分が打ち消し合う)、エネルギーの原点が ℏ2/6 ずれる程度の違いしかない。古典の極限 ℏ→0 ではどちらも q2p2 に戻るので、古典力学からはどちらを選ぶべきかが決まらない。
1 H. Weyl (1927), Z. Phys. 46, 1–46.
2 M. Born and P. Jordan (1925), Z. Phys. 34, 858–888.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com