解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第1章 §4.1.6 ★★ 授業の「p を −iℏ∇ に置き換える」は直交座標の位置表示での規則 (Q3)。曲線座標では対称化が要る
量子力学の授業での書き方
学部の量子力学の授業は、ふつう次の順に進む。まず波動関数 ψ(r,t) と、運動量を p^=−iℏ∇ に置き換える規則を公準として与え、古典のエネルギー E=p2/(2m)+V に代入して Schrödinger 方程式 iℏ∂tψ=(−2mℏ2∇2+V)ψ を得る。次に [x^,p^x]=iℏ を計算で確かめ、そこから不確定性関係 σxσpx≥ℏ/2 を導く。期待値の時間変化は dtd⟨A^⟩=iℏ1⟨[A^,H^]⟩ と書き、Ehrenfest の定理を「古典力学が平均として成り立つ」ことの説明に使う。
この章の形と並べると、次の表のようになる。
| 授業での書き方 | この章での位置づけ |
| 出発点 | p^=−iℏ∇ を公準とする | 並進の生成子から式 (4.1.10)、表示の一意性は定理 4.1.2 |
| 交換関係 | [x^,p^x]=iℏ を計算で確かめる | {q,p}=1 に規則 (Q3) を当てた式 (4.1.3) |
| Hamiltonian | 古典のエネルギーに代入 | 量子化の写像 Q。積が無いので順序は問題にならない |
| 時間発展 | dtd⟨A^⟩=⟨[A^,H^]⟩/(iℏ) | dtdA={A,H} の写し(式 (4.1.2)) |
| 古典との関係 | Ehrenfest の定理 | 2次以下で厳密(命題 4.1.4)、3次以上で ℏ2 の補正 |
授業の手順は、直交座標で H=p2/(2m)+V(r) の形をした系に限れば、この章の手続きと同じ結果になる。その範囲では q と p の積が現れないので順序の問題が無く、括弧も (Q3) が厳密に成り立つ2次以下の組み合わせしか必要にならないからである。授業で「古典の式の p を −iℏ∇ に置き換える」と言うとき、暗に直交座標を選んでいる。
不確定性関係は、古典の Poisson 括弧には対応するものが無い。交換子が 0 でないことから、エルミートな A^,B^ についてσAσB≥21⟨[A^,B^]⟩ が出るが、古典の {q,p}=1 は2つの量を同時に確定させることを妨げない。
曲線座標では置き換えに注意が要る
授業の手順を球座標でそのまま行うと、誤った結果になる。古典の Hamiltonian はH=2mpr2+2mr2L2+V(r)(pr=r⋅p/r は動径方向の運動量)と書けるが、pr を −iℏ∂r に置き換えると、動径方向の Laplace 演算子 r21∂rr2∂r が再現されない。下の例題で見るように、pr を対称化して量子化すれば正しい形が出る。
例題 4.1.6 動径運動量の量子化 ★★
オリジナル3次元で、p^=−iℏ∇ とし、動径方向の単位ベクトルを er=r/r と書く。
- (1) p^r=21(er⋅p^+p^⋅er) を r だけの関数 g(r) に当て、p^r=−iℏ(∂r+r1) となることを示せ。
- (2) [r,p^r]=iℏ と、p^r2=−ℏ2r21∂r(r2∂r) を示せ。
- (3) 体積要素 r2dr の内積で、p^r はエルミートだが −iℏ∂r はエルミートでないことを確かめよ。
解答
(1) er⋅p^g=−iℏer⋅∇g=−iℏg′。もう一方は p^⋅(erg)=−iℏ∇⋅(erg)=−iℏ(g∇⋅er+er⋅∇g) で、∇⋅(r/r)=3/r−r⋅r/r3=2/r なので −iℏ(2g/r+g′)。平均すると p^rg=−iℏ(g′+g/r)。
(2) [r,p^r]g=−iℏ(r(g′+g/r)−((rg)′+g))=−iℏ(rg′+g−g−rg′−g)=iℏg。また p^r=−iℏr1∂rr と書けるので p^r2=−ℏ2r1∂r2r。r1(rg)′′=g′′+r2g′=r21(r2g′)′ だから p^r2=−ℏ2r21∂rr2∂r で、Laplace 演算子の動径部分に −ℏ2 を掛けたものと一致する。
(3) ∫0∞r2g1(p^rg2)dr で p^r=−iℏr1∂rr を使い部分積分すると、∫0∞rg1(−iℏ)(rg2)′dr=∫0∞(−iℏ)(rg1)′rg2dr(端の項 r2g1g2 は r=0 と ∞ で 0)となり、∫r2p^rg1g2dr に等しい。−iℏ∂r だけだと、同じ部分積分で r2 の微分から −iℏ⋅2r の余分な項が出て、エルミートにならない。たとえば g1=e−r, g2=re−r で両辺が一致しないことを計算で確かめられる。古典の pr は er⋅p という積なので、4.1.4節の順序の問題がここで現れる。対称化すると、エルミート性と正しい Laplace 演算子の両方が得られる。
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