解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第10章 §4.10.3 ★★★ 有効質量は H=ε(k) の2階微分。満ちたバンドは電流を運ばず、1つ空いたバンドは正の電荷と正の質量を持つ正孔として動く
有効質量
速度 (4.10.5) を時間で微分し、式 (4.10.6) を使うと
v˙i=ℏ1j∑∂ki∂kj∂2εk˙j=j∑ℏ21∂ki∂kj∂2εFj,F=−e(E+v×B)
となる。力と加速度を結ぶ係数を
(m∗−1)ij=ℏ21∂ki∂kj∂2ε(4.10.11)
と書き、有効質量テンソルの逆数と呼ぶ。Newton の運動方程式 v˙=F/m の 1/m が、Hamiltonian ε(k) の2階微分の行列に置き換わった。自由な粒子 H=∣p∣2/(2m) でも、1/m は H の p についての2階微分である。その意味で、有効質量は「質量とは何か」を Hamiltonian の言葉で定義し直したものになっている。
1次元の tight-binding (4.10.4) では
m∗(k)1=ℏ22tha2coska,m∗(0)=2tha2ℏ2(4.10.12)
である。底の近くでは正の一定の質量 m∗(0) を持つ自由な粒子のようにふるまう。ka=±π/2 では 1/m∗=0 で、力を加えても速度が変わらない。BZ の端の近く k=π/a−δ では 1/m∗<0 で、力の向きと逆に加速される。ε が上に有界だから、エネルギーを上げ続けることができず、上の端の近くでは速度を下げる向きにしか進むことができない。負の質量は、この有界性の言い換えである。
満ちたバンドは電流を運ばない
体積 Vs の結晶で、BZ の中の k は体積 (2π)3/Vs ごとに1つずつ並ぶ。スピン1つのバンドの全部の状態を電子が占めるとき、電流密度は
j=Vs−ek∈BZ∑v(k)=−e∫BZ(2π)3d3kℏ1∇kε(k)
である。ε は周期関数 (4.10.1) なので、1周期の範囲で微分を積分すると 0 になる(1次元なら ∫−π/aπ/adkdεdk=ε(π/a)−ε(−π/a)=0)。したがって満ちたバンドは電流を運ばない。電場をかけても、式 (4.10.10) で全部の電子の k が同じだけずれるだけで、周期性から占有の様子は BZ 全体として変わらない。これが、バンドが全部満ちた結晶(絶縁体)が電気を流さない理由である。
正孔
バンドのうち、k0 の1つだけが空いているとする。電流は満ちたバンドの電流 0 から、k0 の電子の寄与を引いたもので
j=0−Vs−ev(k0)=Vs+ev(k0)(4.10.13)
である。空いた状態は、速度 v(k0) で動く電荷 +e の粒子と同じ電流を運ぶ。空いた状態の k0 は、そこにいるはずの電子と同じ式 (4.10.6) で動く(ほかの全部の電子が同じ式で動き、空いた所はその流れに乗って移るから)。
空いた状態がバンドの上の端の近くにあるとき、そこでは m∗<0 である。速度の時間変化は
v˙(k0)=m∗1(−e(E+v×B))=∣m∗∣1(+e(E+v×B))
で、正の電荷 +e と正の質量 ∣m∗∣ を持つ粒子の運動方程式と同じになる。これを正孔と呼ぶ。正孔は、ほとんど満ちたバンドを「空いた所の運動」として書き直したもので、新しい粒子を仮定したわけではない。上の端の負の質量と、電子の負の電荷の2つの負号が打ち消し合っている。
例題 4.10.3 有効質量の大きさと、上の端での加速の向き ★★
オリジナルth=1.0eV、a=0.30nm の1次元の tight-binding のバンドを考える。
- (1) バンドの底と上の端の有効質量を、電子の質量 me を単位にして求めよ。
- (2) 上の端の近く k=π/a−δ(0<δa≪1)にいる電子に +x 向きの電場 E をかける。δ と速度 v はどちら向きに変わるか。
解答
(1) 式 (4.10.12) から
m∗(0)=2tha2ℏ2=2×1.602×10−19×(0.30×10−9)2(1.0546×10−34)2=3.86×10−31kg=0.423me.
上の端では cos(π)=−1 なので m∗(π/a)=−0.423me である。
(2) 力は F=−eE<0 なので、式 (4.10.10) から k˙=−eE/ℏ<0 で、k=π/a−δ の δ は増える。速度は v=ℏ2thasin(π−δa)≈ℏ2tha2δ>0 で、δ が増えると +x 向きに速くなる。電子は力(−x 向き)と逆の +x 向きに加速される。これは質量が負であることそのもので、正孔の言葉では「電荷 +e の正孔が電場の向きに加速される」と言い直すことができる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com