解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第9章 §5.9.6 ★★ 無限に長い線電荷の電位の「基準点」、点電荷の自己エネルギーの「半径」、Casimir 効果の ∑n=−1/12 は、どれも正則化と、そのパラメータが物理量に残らないことの例
この節だけ SI で書く。電磁気学の授業では、発散を「基準点を選ぶ」「有限の大きさを仮定する」と言い換えて扱ってきた。この章の言葉で並べ直す。
無限に長い線電荷の電位
単位長さあたりの電荷 λe(ϕ4 の結合定数 λ と区別するため添字 e を付ける)が z 軸に一様に分布しているとき、授業では Gauss の法則から電場E(r)=λe/(2πε0r) を求め、電位を
ϕ(r)=−2πε0λelnr0r(5.9.24)
と書く。基準点 r0 は任意で、「無限遠を基準にできない」と注意される。電荷を足し合わせて電位を直接求めると、ϕ(r)=4πε0λe∫−∞∞r2+z2dz が大きな ∣z∣ で対数発散する。これはこの章の泡の図 B と同じ対数発散である。
正則化は2通りできる。線の長さを 2L に限ると(切断)
ϕL(r)=4πε0λe2arsinhrL=2πε0λe[lnr2L+O(L2r2)].(5.9.25)
線の方向の次元を 1−ϵ にすると(次元正則化。∫dnz(r2+z2)−1/2=πn/2Γ(21−n)rn−1/Γ(21) を n=1−ϵ で使う)
ϕϵ(r)=4πε0λeπ−ϵ/2Γ(2ϵ)(μr)−ϵ=2πε0λe[ϵ1−2γE−ln(πμr)]+O(ϵ)(5.9.26)
になる(μ は次元を合わせる長さの逆数)。3つの式 (5.9.24)・(5.9.25)・(5.9.26) は、lnr0↔ln2L↔ϵ1−2γE−ln(πμ) という定数の読み替えで一致する。授業の「基準点 r0」は正則化のパラメータの役をしていた。
測れるものは2点の電位差と電場で、どちらも正則化によらない。電場 E=−∂ϕ/∂r は電位を外のパラメータ r で1回微分したもので、被積分関数が ∣z∣−3 で減るので積分は収束する。これは命題 5.9.3 の「微分すると収束する」と同じ仕組みである。
例題 5.9.8 線電荷の電位差 ★★
オリジナルλe=1.0nCm−1 の線電荷について、r1=1.0cm と r2=10cm の電位差 ϕ(r1)−ϕ(r2) を求めよ。長さ 2L=2.0m の有限の線(中央の点から垂直に測る)ではいくらになるか。
解答
(5.9.25) と (5.9.26) のどちらでも、差をとると ln2L や 1/ϵ が消えて
ϕ(r1)−ϕ(r2)=2πε0λelnr1r2=2×8.988×109mF−1×1.0×10−9Cm−1×ln10=41.4V.
有限の線では 4πε0λe⋅2[arsinh(L/r1)−arsinh(L/r2)]=41.3V で、無限の線との差は 0.04V である。差は (5.9.25) の O(r2/L2) の項 4πε0λe2L2r2 から出て、4πε0λe2L2r22−r12=8.988V×20.0099=0.04V である。正則化のパラメータ L は、電位差に r2/L2 の小さな補正としてしか残らない。
点電荷の自己エネルギー
半径 a の球殻に電荷 q を一様に置くと、静電エネルギーは U=q2/(8πε0a) で、a→0 で1次の発散をする。授業では「電子に有限の大きさを仮定する」ことがあり、U=mec2 とおくと a=re/2(re=e2/(4πε0mec2)=2.818fm は古典電子半径。CODATA 2018 の定数から計算)になる。半径 a は切断 Λ∼1/a に当たる。
同じ量を Fourier 空間で書くと U=21∫(2π)3d3kε0k2q2 で、被積分関数は k のべきだけで質量の次元を持つ量を含まない。5.9.4節で見たとおり、次元正則化ではこの積分は 0 になる。1次の発散は2乗の発散と同じく「次数を持つ多項式の0次の項」で、次元正則化では見えない。点電荷の自己エネルギーは、電子の質量の測った値に吸い込まれる量であって、それだけを取り出して測ることはできない。量子電磁気学では、電子の自己エネルギーの発散は1次から対数へ弱まり、質量の補正は電子の質量に比例する(第5部第10章で結果を引く)。
Casimir 効果の ∑n=−1/12
第5部第3章(第5部第3章)では、2枚の壁の間の零点エネルギーを指数の切断 e−nξ で正則化し、∑n≥1ne−nξ=1/ξ2−1/12+O(ξ2) から Casimir 力を出した。1/ξ2 の項は壁の間隔に比例する体積のエネルギーで、壁の外の同じ量と打ち消すので力に入らない。力を決めるのは −1/12 である。ここで切断の関数を取り替えても −1/12 が変わらないことを確かめる。
切断の関数を g(nξ)(g(0)=1、滑らかで速く減る)とすると、Euler–Maclaurin の公式∑n≥1f(n)=∫0∞fdn−21f(0)−∑k≥1(2k)!B2kf(2k−1)(0)(B2k は Bernoulli 数、B2=1/6)を f(n)=ng(nξ) に当てて
n≥1∑ng(nξ)=ξ2Cg−121+O(ξ2),Cg=∫0∞xg(x)dx(5.9.27)
を得る(f(0)=0、f′(0)=g(0)=1 で −2B2f′(0)=−121)。ξ−2 の係数 Cg は g によるが、−1/12 はよらない。解析接続で定めた Riemann のゼータ関数の値 ζ(−1)=−1/12 は、∑n−s を s について延長して s=−1 の値を読むもので、次元正則化と同じ考え方の正則化である。ゼータ関数では 1/ξ2 に当たる項がはじめから現れない点も、次元正則化で Λ2 が現れないことと同じである。

図 5.9.4 切断の関数を変えて ∑ng(nξ) から Cg/ξ2 を引いた値(実線)。ξ→0 でどちらも −1/12(点線)に近づく。近づき方は g によって違い、指数の切断は +ξ2/240、Gauss の切断は −ξ2/120
例題 5.9.9 Gauss の切断でも −1/12 ★★
オリジナルg(x)=e−x2 とする。(5.9.27) の Cg を求め、ξ2 の項の係数を Euler–Maclaurin の公式の次の項(B4=−1/30)から求めよ。ξ=0.05 で ∑ne−(nξ)2−Cg/ξ2 はいくらになるか。
解答
Cg=∫0∞xe−x2dx=21。f(n)=ne−n2ξ2=n−ξ2n3+⋯ なので f′′′(0)=−6ξ2。Euler–Maclaurin の次の項は−4!B4f′′′(0)=−24−1/30(−6ξ2)=−120ξ2 である。したがって
n≥1∑ne−(nξ)2=2ξ21−121−120ξ2+O(ξ4).
ξ=0.05 では −121−1200.0025=−0.083354 で、数値の和も −0.083354 になる。指数の切断の 1/ξ2(Cg=1)と Gauss の切断の 1/(2ξ2) は違うが、ξ0 の項 −1/12 は同じである。1/ξ2 の項が正則化に依存するのは、それが壁の間隔に比例する(体積に比例する局所的な)エネルギーで、命題 5.9.3 の多項式の部分に当たるためである。
対応の表
| 授業での書き方 | この章の形 |
| 線電荷の電位 | 基準点 r0 を選ぶ (5.9.24) | 切断 L (5.9.25)・次元正則化 (5.9.26)。lnr0 は Creg に当たる |
| 測れる量 | 電位差・電場 | 差 B(p)−B(0)・微分 ∂B/∂p2(命題 5.9.3) |
| 点電荷の自己エネルギー | 有限の半径 a を仮定 | 1次の発散=多項式の0次。次元正則化で 0 |
| Casimir 効果 | 指数の切断で ∑n=1/ξ2−1/12 | 切断の関数によらない −1/12 (5.9.27)、ζ(−1) は解析接続 |
| 零点エネルギー | 正規順序で捨てる(第5部第2章) | 質量の0次の多項式(宇宙項に当たる局所的な定数) |
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com