近似の数理 第7章 §7.4 ★★★ 半古典近似は「最高階の係数 ℏ2 が小さい」特異摂動であり、BO の核の運動の扱いの土台
特異摂動としての WKB
1次元 Schrödinger 方程式 −2mℏ2ψ′′+Vψ=Eψ を
εy′′=Q(x)y,ε=ℏ2,Q(x)=2m(V(x)−E)(7.6)
と書く。最高階の微分に小さい係数 ε が掛かっており、ε=0 では Qy=0、すなわち y=0 という無意味な方程式になる。モデル問題よりも極端な特異摂動であり、解は全域で ε に依存した速い変化(波長 ℏ/p の振動、または減衰)をする。したがって冪展開ではなく、指数の肩を展開する。
y=exp(ε1(S0(x)+εS1(x)+εS2(x)+⋯)).
代入して ε0、ε1/2 の項をそろえると
(S0′)2=Q(アイコナール方程式),2S0′S1′+S0′′=0(輸送方程式)
が得られる。第1式から S0=±∫xQdx′、第2式から S1′=−Q′/(4Q) すなわち S1=−41lnQ(検算スクリプト)。よって
y∼Q(x)−1/4exp(±ε1∫xQ(x′)dx′).(7.7)
古典的に許された領域(E>V、Q<0)では p(x)=2m(E−V) を局所運動量として Q=−p2、Q=ip であり、ψ∼p−1/2exp(±i∫pdx/ℏ) となる。振幅 p−1/2 は「粒子が速く通る場所ほど見つかりにくい」という古典的な滞在時間の比 ∣ψ∣2∝1/p に対応し、輸送方程式は確率の流れの保存 ∣ψ∣2p=一定 を表す。
展開が意味を持つ条件は、次の項 εS2 が小さいことである。計算するとε∣Q′∣/∣Q∣3/2≪1、物理の言葉では「局所的な de Broglie 波長 λ=2πℏ/p の間にポテンシャルがほとんど変わらない」(∣dλ/dx∣≪1)という条件になる。
転回点と Airy 関数による接続
Q(x)=0、すなわち V=E となる転回点では (7.7) の振幅 Q−1/4 が発散し、WKB は破綻する。これは境界層の状況と同じで、転回点のまわりの薄い層では「速い変化」の仮定が成り立たない。層の中では別の伸長変数で内部問題を解き、外側の WKB 解(外部解に当たる)と接合する。
転回点 x=a で V′(a)>0(右側が禁止領域)とし、Q≈Q1(x−a)、Q1=2mV′(a)>0 と線形化する。伸長変数を
z=(εQ1)1/3(x−a)
とおくと (7.6) は d2y/dz2=zy(Airy 方程式)になる。層の幅は ε1/3=ℏ2/3 であり、モデル問題の幅 ε とは指数が違うが、主要釣り合いから層の幅が決まる論理は同じである。禁止領域 z→+∞ で減衰する解はAiry 関数 Ai(z) で、その両側の漸近形は
Ai(z)∼2πz1/4e−32z3/2 (z→+∞),Ai(z)∼π∣z∣1/4cos(32∣z∣3/2−4π) (z→−∞)
である(z=±6,±10 で数値と照合、検算スクリプト)。
接合は、内部変数で ∣z∣≫1(Airy の漸近形が使える)かつ外部変数で ∣x−a∣≪1(線形化が使える)という重なり領域 ℏ2/3≪∣x−a∣≪1 で行う。そこでは ∫xapdx′/ℏ=32∣z∣3/2、p−1/2∝∣z∣−1/4が成り立つ(線形化した p=Q1(a−x) で直接積分すれば確かめられる)。したがって Airy の両側の漸近形は、外部の WKB 解の言葉で
p2cos(ℏ1∫xapdx′−4π)⟷∣p∣1exp(−ℏ1∫ax∣p∣dx′)(7.8)
という対応(接続公式)になる。左右の係数 2 と 1 は Airy の漸近形の係数 1/π と 1/(2π) の比から来ており、位相 −π/4 は転回点で波が「4分の1波長分だけ遅れて」反射されることを表す。
接続公式の向き
接続公式 (7.8) は、禁止領域で減衰する解から許容領域の振動解へ向かう方向に使うのが安全である。逆向きに使うと、許容領域側の位相がわずかにずれただけで禁止領域に指数的に増大する解が混ざり、その係数は WKB の精度では決まらない。数学的には、増大解に比べて指数的に小さい減衰解の係数は漸近展開では捉えられない(Stokes 現象)ためである。
Bohr–Sommerfeld の量子化条件
2つの転回点 a<b の間の井戸を考える。左の転回点 a から接続すると許容領域の解はcos(∫axp/ℏ−π/4) に、右の転回点 b から接続すると cos(∫xbp/ℏ−π/4) に比例する。Φ=∫abpdx/ℏ とおくと後者は cos(Φ−π/2−(∫axp/ℏ−π/4)) と書け、二つが同じ関数(の定数倍)であるためには Φ−π/2=nπ でなければならない。よって
∮pdx=2∫abpdx=2πℏ(n+21),n=0,1,2,…(7.9)
を得る。古い量子論の量子化条件に 1/2 が付いた形であり、この 1/2 は二つの転回点での π/4 の位相の和から来ている。
例題 7.4 調和振動子と四次ポテンシャルの WKB 準位 ★★★
オリジナル[標準的な題材を自作]
- (1) V=21mω2x2 に (7.9) を適用し、En=(n+21)ℏω を導け。
- (2) ℏ=1、2m=1 の単位で V=x4 の WKB 準位を I=∫011−u4du を用いて表せ。
- (3) (2) を数値解と比べた結果から、WKB の精度が n とともにどう変わるかを、展開パラメータの観点から説明せよ。
解答
(1) 転回点は ±A、A=2E/(mω2)。∮pdx=2∫−AA2m(E−21mω2x2)dx は楕円 p2/(2mE)+x2/A2=1 の面積 π2mEA=2πE/ω に等しい(検算スクリプト)。(7.9) から 2πE/ω=2πℏ(n+21)、すなわち En=(n+21)ℏω。調和振動子では WKB が全準位で厳密値を与える。これは偶然ではなく、高次の補正 S2,S3,… の量子化条件への寄与が二次ポテンシャルではすべて打ち消し合うためである。
(2) p=E−x4、転回点 ±E1/4。x=E1/4u と置換して∮pdx=4E3/4I。量子化条件 4E3/4I=2π(n+21) から
EnWKB=(2Iπ(n+21))4/3,I≈0.87402.
(3) 有限差分で数値的に解いた固有値と比べると次の通り(検算スクリプト)。
| n | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 数値解 | 1.0604 | 3.7997 | 7.4557 | 11.6447 | 16.2618 | 21.2383 |
| WKB | 0.8671 | 3.7519 | 7.4140 | 11.6115 | 16.2336 | 21.2137 |
| 相対誤差 | −18% | −1.3% | −0.56% | −0.29% | −0.17% | −0.12% |
WKB の展開パラメータは「ポテンシャルの変化の尺度に対する de Broglie 波長の比」であり、量子数 n が大きいほど波長は井戸の幅に比べて短くなる。実効的な ℏ は 1/n 程度と見なせるので、n が大きいほど精度が上がる。n=0 では波長が井戸の幅と同程度で、転回点の層(幅 ℏ2/3)が井戸全体を覆ってしまい、誤差は 18% に達する。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com