近似の数理 第8章 §8.4 ★★★ 流体方程式の骨組み(保存則)は Boltzmann 方程式から無条件に出る。近似が入るのは応力と熱流束の閉じ方だけ
Boltzmann 方程式 (8.3) に衝突不変量 ϕ∈{m,mv,2m∣v∣2} を掛けて v で積分すると、右辺は 0 になり、
∂t∂∫ϕfdv+∇x⋅∫vϕfdv=0
を得る。巨視的な量を次のように定める。
ρ=m∫fdv,ρu=m∫vfdv,23nkBT=2m∫∣c∣2fdv(c=v−u),Pij=m∫cicjfdv,q=2m∫∣c∣2cfdv.
c を特異速度(流れに乗った系から見た分子の速度)、Pij を応力テンソル(圧力テンソル)、q を熱流束という。温度 T は、特異速度の運動エネルギーで定義している。v=u+c を代入して整理すると(例題 8.5)、
∂tρ+∇⋅(ρu)=0,∂t(ρui)+∂j(ρuiuj+Pij)=0,∂t(21ρ∣u∣2+23nkBT)+∂j[(21ρ∣u∣2+23nkBT)uj+Pijui+qj]=0(8.22)(8.23)(8.24)
(繰り返す添字は和を取る)。これは質量・運動量・エネルギーの保存則であり、どんな f についても厳密に成り立つ。
しかし式 (8.22)–(8.24) は閉じていない。未知量 ρ,u,T(5 個)に対し、方程式は 5 本だが、Pij(6 成分)と q(3 成分)が f のより高次のモーメントとして新たに現れる。Pij や q の時間発展を求めようとして v のより高い冪を掛けて積分すると、さらに高次のモーメントが現れ、連鎖は終わらない。これは第6章の BBGKY 階層(k 粒子分布の方程式に k+1 粒子分布が現れる)と同じ構造であり、第9章で扱う乱流の Reynolds 応力(平均流の方程式に揺らぎの相関が現れる)とも同じ構造である。
流体方程式のどこが近似か
保存則 (8.22)–(8.24) は近似でない。近似が入るのは、Pij と q を ρ,u,T とその勾配で表す構成則の部分だけである。
- Pij=pδij、q=0(p=nkBT)と置くと圧縮性 Euler 方程式になる。
- Pij=pδij−μ(∂iuj+∂jui−32δij∇⋅u)、q=−κ∇T と置くと圧縮性 Navier–Stokes–Fourier 方程式になる。
後の 2 節は、この二つの構成則が Boltzmann 方程式から Kn の 0 次と 1 次として出てくること、そのとき μ と κ が分子の衝突から計算できることを示す。
例題 8.5 保存則と Euler 方程式の構成則 ★★★
オリジナル[標準的な題材を自作]
- Boltzmann 方程式に mvi を掛けて積分し、運動量保存則 (8.23) を導け。
- f が Maxwell 分布 Mn,u,T のとき、Pij=nkBTδij、q=0 となることを示せ。1 次元 Gauss 積分 ∫Rc2e−c2/(2s)dc/2πs=s は使ってよい。
解答
(1) mvi は衝突不変量なので右辺は 0 で、∂t∫mvif+∂j∫mvivjf=0。第1項は ∂t(ρui)。第2項で vi=ui+ci と書くと
∫mvivjf=uiuj∫mf+ui∫mcjf+uj∫mcif+∫mcicjf=ρuiuj+Pij.
中央の 2 項は ∫mcf=∫mvf−u∫mf=ρu−ρu=0 により消える。
(2) Maxwell 分布は特異速度 c について 3 成分が独立な Gauss 分布(各成分の分散 s=kBT/m)に n を掛けたものである。i=j なら ∫cicjM=n⟨ci⟩⟨cj⟩=0、i=j なら ∫ci2M=ns。よって Pij=mnsδij=nkBTδij。熱流束 ∫∣c∣2ciM は c↦−c で符号を変える奇関数の積分なので 0。以上を式 (8.23)–(8.24) に入れると、p=nkBT を圧力とする圧縮性 Euler 方程式になる。内部エネルギー密度は 23p なので、比熱比は γ=3/25/2=35(単原子気体の値)である(検算スクリプト)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com