量子力学の様々な構成方法 第1部 第3章 §1.3.4 ★★★ 自由粒子のハミルトニアンは運動量表示で対角なので、伝播関数も波束の広がりも1行の Gauss 積分に帰着する
位置表示で書くと偏微分方程式
自由粒子 H^=p^2/(2m) の時間発展を位置表示で書くと、(1.3.5) から
iℏ∂t∂ψ=−2mℏ2∂x2∂2ψ(1.3.12)
で、これは熱方程式に虚数の係数を付けた偏微分方程式である。H^ の核 ⟨x∣H^∣x′⟩=−2mℏ2δ′′(x−x′) は対角のすぐ近くに値を持つが、対角ではない。この表示のまま解こうとすると、偏微分方程式の解法(Fourier 変換か、類似解の仮定)を持ち出すことになる。
運動量表示で書くと掛け算
運動量表示では (1.3.11) から ⟨p∣H^∣ψ⟩=2mp2ψ~(p) で、H^ は対角である。Schrödinger 方程式は各 p ごとの常微分方程式iℏ∂tψ~=2mp2ψ~ に分かれ、
ψ~(p,t)=e−ip2t/(2mℏ)ψ~(p,0)(1.3.13)
で解き終わる。運動量の分布 ∣ψ~(p,t)∣2 は時間によらない。自由粒子では運動量が保存するので、これは当然の結果である。
位置表示へ戻すには (1.3.10) を使う。ψ~(p,0)=∫⟨p∣x′⟩ψ(x′,0)dx′ を入れて p の積分を先に行うとψ(x,t)=∫K(x,t;x′,0)ψ(x′,0)dx′ の形になり、核は
K(x,t;x′,0)=∫⟨x∣p⟩e−ip2t/(2mℏ)⟨p∣x′⟩dp=2πℏ1∫exp[ℏip(x−x′)−2mℏitp2]dp
である。指数を p について平方完成すると −2mℏit(p−tm(x−x′))2+2ℏtim(x−x′)2 になる。∫e−aq2dq=π/a はRea>0 で成り立つので、t を t−iη(η→+0)とずらして a=it/(2mℏ) の実部を正にしてから使うと、
K(x,t;x′,0)=2πℏ1it2πmℏeim(x−x′)2/(2ℏt)=2πiℏtmexp(2ℏtim(x−x′)2)(1.3.14)
を得る(i=eiπ/4 の枝を取る)。共通例題③の正答の形(第1部第1章)と一致する。第1部第1章では同じ式を運動量の完全系の挿入として導き、例題で Schrödinger 方程式と合成則を確かめた。ここでの読み方は「H^ を対角にする表示で解き、最後に表示を取り替えた」ということである。第3部では、同じ K を作用 m(x−x′)2/(2t) の Gauss 積分として読み直す。
波束の広がりを運動量表示で数える
波束の幅も、運動量表示で数えると見通しがよい。ψ~(p,0)=A(p)eiθ0(p)(A≥0)と書くと、(1.3.13) は位相に−p2t/(2mℏ) を足すだけである。位置の演算子 x^=iℏ∂p の期待値は、A が実なので iℏ∫AA′dp=0 となる項を除いて
⟨x^⟩(t)=−ℏ∫A2∂pθdp=⟨x^⟩(0)+m⟨p^⟩t,⟨x^2⟩(t)=ℏ2∫(A′2+A2(∂pθ)2)dp
となる。初めの状態で位置と運動量の相関が無い場合(θ0 が p の1次式。下の Gauss 波束はその例)、これを展開すると
σx(t)2=σx(0)2+m2σp2t2(1.3.15)
になる(θ0=−px0/ℏ とすると ∂pθ=−x0/ℏ−pt/(mℏ) で、ℏ2∫A2(∂pθ)2=⟨(x0+pt/m)2⟩。ℏ2∫A′2 は時刻 0 の位置の分散 σx(0)2 に等しい)。運動量の分布が変わらず、各成分が速さ p/m で走るので、位置の分散には運動量の分散が t2/m2 倍で足される。Gauss 波束では σp=ℏ/(2σ0) を入れて
σ(t)2=σ02+(2mσ0ℏt)2=σ02(1+t∗2t2),t∗:=ℏ2mσ02(1.3.16)
で、共通例題③の正答と一致する。第1部第1章では同じ式を Heisenberg 描像の x^H(t)=x^+p^t/m から出した。運動量表示の計算は、その Heisenberg 描像の式を p^ の固有値ごとに読んだものになっている。この式の形は 第1部第1章の図 に描いた。t≪t∗ では初めの幅がほぼ保たれ、t≫t∗ では σpt/m で広がり、2つの近似は t=t∗ で交わる(そこで厳密な値は 2σ0)。
例題 1.3.5 冷却原子の飛行時間法 ★★
オリジナル87Rb 原子(m=86.909u=1.443×10−25kg)を幅 σ0=1μm の Gauss 波束(p0=0)に用意し、時刻 0 に閉じ込めを切って自由に広がらせる。
- (1) t∗ と、速度の広がり σp/m を求めよ。
- (2) t=10ms と 20ms での幅 σ(t) を求めよ。
- (3) t≫t∗ で測った位置の分布から何が読み取れるかを、(1.3.13) を使って述べよ。
解答
(1) t∗=2mσ02/ℏ=2×1.443×10−25×10−12/(1.055×10−34)s=2.74ms。σp/m=ℏ/(2mσ0)=3.65×10−4ms−1=0.365mms−1。
(2) (1.3.16) から σ(10ms)=1μm×1+(10/2.737)2=3.79μm、σ(20ms)=7.38μm。t が t∗ の数倍を越えると、幅は t にほぼ比例して増える。
(3) t≫t∗ では (1.3.15) の第2項が支配的で、位置 x に見つかる原子は速度 x/t を持っていたものとみなせる。(1.3.13) で運動量の分布 ∣ψ~(p)∣2 は飛行中に変わらないから、長い飛行の後の位置の分布は、閉じ込めを切った瞬間の運動量表示の分布を x=pt/m で写したものになる。冷却原子の実験で運動量の分布を測るとき、飛行時間の後の吸収像を撮るのはこのためである。
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