量子力学の様々な構成方法 第10部 第2章 §10.2.3 ★★★ ιXfω=df で関数からベクトル場を作り、Hamilton 方程式と Poisson 括弧を座標によらない形にする。前量子化の −iℏXf の Xf がこれ
内部積とハミルトンベクトル場の定義
ベクトル場 X と2形式 ω から、1つ目の入れ口に X を入れた1形式 ιXω=ω(X,⋅) を作る操作を内部積と呼ぶ。1形式 α には ιXα=α(X)(関数)と定める。
定義 10.2.5(ハミルトンベクトル場)
シンプレクティック多様体 (M,ω) の上の滑らかな関数 f に対し、
ιXfω=df(10.2.10)
を満たすベクトル場 Xf を f のハミルトンベクトル場と呼ぶ。
式 (10.2.10) は、各点で「ω の行列 Σ について XfTΣ=(∇f)T」という連立1次方程式で、非退化性 (S2) から Σ は正則なので、解 Xf はただ1つ存在する。標準の ω=∑idqi∧dpi では Σ=J で、Xf=(JT)−1∇f=J∇f となるから
Xf=i∑(∂pi∂f∂qi∂−∂qi∂f∂pi∂).(10.2.11)
1自由度で確かめると、ιXf(dq∧dp)=dq(Xf)dp−dp(Xf)dq=fpdp+fqdq=df である(fq=∂f/∂q などと書いた)。例えば Xq=−∂p、Xp=∂q で、運動量 p のハミルトンベクトル場は q 方向の並進、位置 q のハミルトンベクトル場は p 方向の負の向きの並進である。
f=H のとき、XH の積分曲線 x˙=XH(x) は q˙i=∂H/∂pi, p˙i=−∂H/∂qi で、Hamilton 方程式そのものである。したがって Hamilton 方程式は座標によらない形で
x˙=XH(x),ιXHω=dH(10.2.12)
と書ける。XH は H の等高線に接する。実際、XH(H)=dH(XH)=ω(XH,XH)=0(反対称性)で、XH の方向に H は変化しない。勾配 ∇H が等高線に垂直なのに対し、XH は ω を通して勾配を「90度回した」向きを向く(図 10.2.2)。この「回す」操作には長さや角度を測る計量は要らず、ω だけで決まる。

図 10.2.2 調和振動子 H=21(p2+q2)(m=ω0=1 の単位)の等高線(灰色の円)とハミルトンベクトル場 XH=p∂q−q∂p(青の矢印)。XH は等高線に接して時計回りに回り、勾配 ∇H(赤)を ω で 90∘ 回した向きを向く。
Poisson 括弧を ω で書く
命題 10.2.6(ω と Poisson 括弧 ★★★)
標準の ω=∑idqi∧dpi と式 (10.2.1) の Poisson 括弧について、次が成り立つ。
ω(Xf,Xg)Xf(g)={f,g},=dg(Xf)={g,f}.(10.2.13)(10.2.14)
証明
行列で書くと Xf=J∇f、ω(u,v)=uTJv なので、ω(Xf,Xg)=(∇f)TJTJJ∇g=(∇f)TJ∇g(JTJ=1)で、これは ∑i(fqigpi−fpigqi)={f,g} である。2つ目は式 (10.2.11) を g に当てて ∑i(fpigqi−fqigpi)={g,f}。
式 (10.2.13) を一般のシンプレクティック多様体での Poisson 括弧の定義に採る。そうすると、時間発展はdtdg=XH(g)={g,H} となり、記法の正本の dtdA={A,H} と一致する。式 (10.2.14) の右辺の順序 {g,f} は、解析力学の巻で生成子 G で関数を動かす作用素を DGA={A,G} と定めたものと同じで、XG=DG である(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第11章)。
ハミルトンベクトル場の交換子
ベクトル場 u,v の交換子 [u,v] を、関数への作用 [u,v](F)=u(v(F))−v(u(F)) で定める。2階微分が打ち消し合うので [u,v] もベクトル場で、成分は [u,v]a=∑b(ub∂bva−vb∂bua) である。
命題 10.2.7(ハミルトンベクトル場の交換子 ★★★)
[Xf,Xg]=−X{f,g}.(10.2.15)
証明
任意の関数 h に当てる。式 (10.2.14) から[Xf,Xg](h)=Xf({h,g})−Xg({h,f})={{h,g},f}−{{h,f},g}。Jacobi 恒等式 {{h,g},f}+{{g,f},h}+{{f,h},g}=0 を使うと、右辺は −{{g,f},h}={h,{g,f}}=−{h,{f,g}}=−X{f,g}(h) となる。
右辺の負号は、式 (10.2.14) で Xf を {⋅,f}(f を後ろに置く括弧)として定めたことによる順序の約束で、f↦Xf は Lie 代数の反準同型になる。f↦−Xf と符号を替えると準同型 [−Xf,−Xg]=−X{f,g} になり、前量子化の演算子 −iℏXf+⋯ の先頭の −iℏXf はこの組み合わせになっている(第10部第3章で交換関係 [f^,g^]=iℏ{f,g} を確かめる)。6節で、量子の交換子でも同じ負号が出ることを示す。
例題 10.2.3 2次の関数のハミルトンベクトル場とスクイーズ ★★
オリジナル1自由度の相空間で考える。
- (1) Xq2、Xp2、Xqp を求めよ。
- (2) [Xq2,Xp2] を成分で計算し、式 (10.2.15) を確かめよ。
- (3) Xqp の流れ(x˙=Xqp の解)を求め、どんな変換か述べよ。第10部第1章の D^=(q^p^+p^q^)/2 と結びつけよ。
解答
(1) 式 (10.2.11) から Xq2=−2q∂p、Xp2=2p∂q、Xqp=q∂q−p∂p。
(2) u=Xq2(成分 (0,−2q))、v=Xp2(成分 (2p,0))とする。[u,v]q=u(vq)−v(uq)=−2q∂p(2p)−0=−4q、[u,v]p=u(vp)−v(up)=0−2p∂q(−2q)=4p。よって [Xq2,Xp2]=−4q∂q+4p∂p。一方 {q2,p2}=2q⋅2p=4qp で X4qp=4q∂q−4p∂p なので、[Xq2,Xp2]=−X{q2,p2} が成り立つ。
(3) q˙=q、p˙=−p から q(s)=esq(0)、p(s)=e−sp(0)。q 方向に es 倍、p 方向に e−s 倍する変換で、面積を保ったまま相空間を引き伸ばす(スクイーズ)。積 qp は保存する。第10部第1章で D^ は Weyl 順序で qp を量子化したもので、q^,p^ との交換子 [q^,D^]/(iℏ)=q^、[p^,D^]/(iℏ)=−p^ は式 (10.2.14) の Xqp(q)=q、Xqp(p)=−p と同じ形である。2次の関数ではハミルトンベクトル場の作用と量子の交換子の作用が厳密に一致し、Groenewold の定理で食い違いが出たのは3次以上だった(第10部第1章)。
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