tecktom.com

シンプレクティック形式と Darboux の定理

2026年10月17日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第10部 第2章 準備:微分形式・シンプレクティック形式・ハミルトンベクトル場
目次
  1. 定義
  2. Darboux の定理
  3. シンプレクティック・ポテンシャルとその取り替え
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第10部 第2章 §10.2.2 ★★★ 幾何学的量子化の出発点の対象。閉じていて非退化な2形式 ω\omega が Poisson 括弧の情報をすべて持つ

定義

定義 10.2.3(シンプレクティック形式)

偶数次元 2fd2f_{\mathrm d} の多様体 MM の上の2形式 ω\omega が次の2つを満たすとき、ω\omega をシンプレクティック形式、組 (M,ω)(M,\omega) をシンプレクティック多様体と呼ぶ。

  1. (S1) 閉じている:dω=0\mathrm{d}\omega=0。
  2. (S2) 非退化:各点で、すべての vv について ω(u,v)=0\omega(u,v)=0 となる接ベクトル uu は u=0u=0 に限る。

相空間 R2fd\mathbb{R}^{2f_{\mathrm d}} の標準の例は

ω=∑i=1fddqi∧dpi,ω(u,v)=uTJ v,J=(01fd−1fd0)(10.2.7)\omega=\sum_{i=1}^{f_{\mathrm d}}\mathrm{d} q_i\wedge\mathrm{d} p_i ,\qquad \omega(u,v)=u^{\mathsf T}\mathsf J\,v,\qquad \mathsf J=\begin{pmatrix}0&1_{f_{\mathrm d}}\\-1_{f_{\mathrm d}}&0\end{pmatrix}\tag{10.2.7}

である(ベクトルの成分は (q1,…,qfd,p1,…,pfd)(q_1,\dots,q_{f_{\mathrm d}},p_1,\dots,p_{f_{\mathrm d}}) の順に並べる)。行列 J\mathsf J は解析力学の巻で正準変換の条件 MTJM=JM^{\mathsf T}\mathsf JM=\mathsf J に出てきたものと同じである(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第12章)。成分が定数なので dω=0\mathrm{d}\omega=0、det⁡J=1≠0\det\mathsf J=1\neq0 なので非退化である。

2つの条件の意味を述べる。(S2) は、行列で書くと ω\omega の行列が正則であることで、3節で関数 ff からベクトル場 XfX_f を一意に作るときに使う。奇数次元では反対称行列の行列式が det⁡Σ=det⁡ΣT=(−1)ndet⁡Σ\det\Sigma=\det\Sigma^{\mathsf T}=(-1)^n\det\Sigma から0になるので、シンプレクティック多様体は必ず偶数次元である。(S1) は、6節で示すように Poisson 括弧の Jacobi 恒等式と同じ内容を持ち、4節では「Hamilton の流れが ω\omega を保つ」ことの根拠になる。

ω\omega の fdf_{\mathrm d} 乗は ωfd=fd! dq1∧dp1∧⋯∧dqfd∧dpfd\omega^{f_{\mathrm d}}=f_{\mathrm d}!\,\mathrm{d} q_1\wedge\mathrm{d} p_1\wedge\cdots\wedge\mathrm{d} q_{f_{\mathrm d}}\wedge\mathrm{d} p_{f_{\mathrm d}} で、各 dqi∧dpi\mathrm{d} q_i\wedge\mathrm{d} p_i は2形式どうしなので互いに交換し、同じ ii の項を2回含む積は0になるため fd!f_{\mathrm d}! 個の同じ項が残る。ωfd/fd!\omega^{f_{\mathrm d}}/f_{\mathrm d}! を Liouville の体積形式と呼び、統計力学の相空間の体積要素 ∏idqi dpi\prod_i\mathrm{d} q_i\,\mathrm{d} p_i にあたる。非退化性 (S2) は「ωfd\omega^{f_{\mathrm d}} がどこでも0でない」ことと同値である。

Darboux の定理

標準の例 (10.2.7) は特別な例に見えるが、局所的にはすべてのシンプレクティック形式がこの形になる。

定理 10.2.4(Darboux の定理 ★★★)

シンプレクティック多様体 (M,ω)(M,\omega) の各点のまわりに座標 (q1,…,qfd,p1,…,pfd)(q_1,\dots,q_{f_{\mathrm d}},p_1,\dots,p_{f_{\mathrm d}}) が取れて、その座標で ω=∑idqi∧dpi\omega=\sum_i\mathrm{d} q_i\wedge\mathrm{d} p_i と書ける。

この座標を Darboux 座標(正準座標)と呼ぶ。定理は G. Darboux の Pfaff 問題の研究に遡る1G. Darboux (1882), Bull. Sci. Math. (2) 6, 14–36, 49–68.下の脚注へ。1自由度では証明が短い。2次元の2形式は ω=ρ(x,y) dx∧dy\omega=\rho(x,y)\,\mathrm{d} x\wedge\mathrm{d} y(ρ≠0\rho\neq0)と書け、q=xq=x、p=∫0yρ(x,y′) dy′p=\int_0^y\rho(x,y')\,\mathrm{d} y' と置くとdq∧dp=dx∧(ρ dy+∂xp dx)=ρ dx∧dy\mathrm{d} q\wedge\mathrm{d} p=\mathrm{d} x\wedge(\rho\,\mathrm{d} y+\partial_xp\,\mathrm{d} x)=\rho\,\mathrm{d} x\wedge\mathrm{d} y となる。一般の次元の証明(Moser の方法)は dω=0\mathrm{d}\omega=0 を使って ω\omega を標準形へ連続的に変形するもので、ここでは省く。

Darboux の定理は「シンプレクティック多様体には局所的な不変量が無い」ことを言っている。Riemann 計量には曲率という局所的な量があり、1点のまわりで平らな計量にすることはできない(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第13章)。シンプレクティック形式にはそれに当たる量が無いので、違いが出るのは ω\omega を大きな領域で積分した量(面積・体積・閉じた曲面の上の積分)だけである。第10部第3章の整数条件 (1/2πℏ)∫ω∈Z(1/2\pi\hbar)\int\omega\in\mathbb{Z} がこの種の量であることは、この性質と対応している。

シンプレクティック・ポテンシャルとその取り替え

ω\omega は閉じているので、Poincaré の補題によって局所的には ω=dθ\omega=\mathrm{d}\theta と書ける1形式 θ\theta がある。θ\theta をシンプレクティック・ポテンシャルと呼ぶ。この巻では R2fd\mathbb{R}^{2f_{\mathrm d}} で

θ=−∑ipi dqi,dθ=ω(10.2.8)\theta=-\sum_ip_i\,\mathrm{d} q_i,\qquad \mathrm{d}\theta=\omega\tag{10.2.8}

を標準に取る。θ\theta は ω\omega から一意には決まらず、関数 λ\lambda について θ→θ+dλ\theta\to\theta+\mathrm{d}\lambda と取り替えても dθ\mathrm{d}\theta は変わらない(例題 10.2.1 の θ1,θ2,θ3\theta_1,\theta_2,\theta_3)。これは電磁気のベクトルポテンシャルのゲージ変換 A→A+∇λ\bm{A}\to\bm{A}+\nabla\lambda と同じ構造で、ω\omega が磁場 ∇×A\nabla\times\bm{A}、θ\theta がベクトルポテンシャルにあたる。第10部第3章では、θ\theta を接続(ベクトルポテンシャル)、ω/ℏ\omega/\hbar をその曲率(磁場)として、この対応をそのまま量子化に使う。

球面の面積形式:1組の座標で覆えない相空間

半径1の球面を極角 ϑ∈(0,π)\vartheta\in(0,\pi) と方位角 φ\varphi で表し、正の定数 SS について

ωS=Ssin⁡ϑ dϑ∧dφ\omega_S=S\sin\vartheta\,\mathrm{d}\vartheta\wedge\mathrm{d}\varphi

と置く(外向きの法線で向きを付けた面積要素の SS 倍)。2次元なので dωS=0\mathrm{d}\omega_S=0 で、sin⁡ϑ≠0\sin\vartheta\neq0 の所で非退化である。d(Scos⁡ϑ)=−Ssin⁡ϑ dϑ\mathrm{d}(S\cos\vartheta)=-S\sin\vartheta\,\mathrm{d}\vartheta を使うと

ωS=dφ∧d(Scos⁡ϑ)(10.2.9)\omega_S=\mathrm{d}\varphi\wedge\mathrm{d}(S\cos\vartheta)\tag{10.2.9}

となり、(q,p)=(φ, Scos⁡ϑ)(q,p)=(\varphi,\,S\cos\vartheta) が Darboux 座標である。p=Scos⁡ϑp=S\cos\vartheta は、球面の点を長さ SS のベクトル S\bm{S} と見たときの zz 成分 SzS_z にあたる。この座標は北極と南極で使えない(φ\varphi が定まらない)ので、球面全体は1組の Darboux 座標では覆えない。全体の積分は ∫S2ωS=4πS\int_{S^2}\omega_S=4\pi S で、0でない。閉じた曲面で ωS=dθ\omega_S=\mathrm{d}\theta と書ける1形式 θ\theta が全体にあれば、Stokes の定理で境界が無いから ∫ωS=0\int\omega_S=0 となるはずなので、球面全体で定義された θ\theta は存在しない。第10部第5章でスピンを球面の量子化として扱うとき、この性質が整数条件 2S/ℏ∈Z2S/\hbar\in\mathbb{Z} につながる。

座標 (φ,Scos⁡ϑ)(\varphi,S\cos\vartheta) は、球面を外接する円柱へ水平に射影する地図で、Archimedes が示した「球面の帯の面積は、同じ高さの円柱の帯の面積に等しい」という事実をωS\omega_S の言葉で言い直したものである(図 10.2.1)。高さ Scos⁡ϑS\cos\vartheta が Sz1Sz_1 から Sz2Sz_2 までの帯の ωS\omega_S の積分は 2πS(z2−z1)2\pi S(z_2-z_1) で、高さの差だけで決まる。

図

図 10.2.1 球面の Darboux 座標 (q,p)=(φ,Scos⁡ϑ)(q,p)=(\varphi,S\cos\vartheta)。球面の点を外接する円柱へ水平に射影すると、球面の帯(赤)と同じ高さの円柱の帯(青)は ωS\omega_S で測った面積が等しい(Archimedes)。円柱を切り開くと、ωS=dq∧dp\omega_S=\mathrm{d} q\wedge\mathrm{d} p の長方形 0≤q<2π0\le q<2\pi, −S≤p≤S-S\le p\le S になり、全体の面積は 4πS4\pi S。

例題 10.2.2 作用角変数は Darboux 座標である ★★

オリジナル1自由度の調和振動子 H=p22m+12mω02q2H=\frac{p^2}{2m}+\frac12m\omega_0^2q^2 で、作用変数 J>0J>0 と角変数 θa\theta_{\mathrm a} をq=2J/(mω0)sin⁡θaq=\sqrt{2J/(m\omega_0)}\sin\theta_{\mathrm a}, p=2mω0Jcos⁡θap=\sqrt{2m\omega_0J}\cos\theta_{\mathrm a} で導入する(角振動数を ω0\omega_0、角変数を θa\theta_{\mathrm a} と書き、ω\omega・θ\theta と区別する)。

  1. (1) dq∧dp=dθa∧dJ\mathrm{d} q\wedge\mathrm{d} p=\mathrm{d}\theta_{\mathrm a}\wedge\mathrm{d} J を示せ。
  2. (2) H=ω0JH=\omega_0J を示し、(θa,J)(\theta_{\mathrm a},J) で書いた Hamilton 方程式を解け。
  3. (3) この Darboux 座標が使えない点を答え、第2部第2章で「作用角で量子化すると零点エネルギーが出ない」ことと結びつけよ。
解答

(1) dq=2Jmω0cos⁡θa dθa+sin⁡θa2mω0J dJ\mathrm{d} q=\sqrt{\tfrac{2J}{m\omega_0}}\cos\theta_{\mathrm a}\,\mathrm{d}\theta_{\mathrm a}+\tfrac{\sin\theta_{\mathrm a}}{\sqrt{2m\omega_0J}}\,\mathrm{d} J、dp=−2mω0Jsin⁡θa dθa+mω02Jcos⁡θa dJ\mathrm{d} p=-\sqrt{2m\omega_0J}\sin\theta_{\mathrm a}\,\mathrm{d}\theta_{\mathrm a}+\sqrt{\tfrac{m\omega_0}{2J}}\cos\theta_{\mathrm a}\,\mathrm{d} J。dθa∧dJ\mathrm{d}\theta_{\mathrm a}\wedge\mathrm{d} J の係数は Jacobi 行列式

∂q∂θa∂p∂J−∂q∂J∂p∂θa=2Jmω0mω02Jcos⁡2θa+sin⁡θa2mω0J2mω0Jsin⁡θa=1\frac{\partial q}{\partial \theta_{\mathrm a}}\frac{\partial p}{\partial J}-\frac{\partial q}{\partial J}\frac{\partial p}{\partial \theta_{\mathrm a}} =\sqrt{\frac{2J}{m\omega_0}}\sqrt{\frac{m\omega_0}{2J}}\cos^2\theta_{\mathrm a}+\frac{\sin\theta_{\mathrm a}}{\sqrt{2m\omega_0J}}\sqrt{2m\omega_0J}\sin\theta_{\mathrm a}=1

なので dq∧dp=dθa∧dJ\mathrm{d} q\wedge\mathrm{d} p=\mathrm{d}\theta_{\mathrm a}\wedge\mathrm{d} J。

(2) p22m=ω0Jcos⁡2θa\frac{p^2}{2m}=\omega_0J\cos^2\theta_{\mathrm a}、12mω02q2=ω0Jsin⁡2θa\frac12m\omega_0^2q^2=\omega_0J\sin^2\theta_{\mathrm a} で、和は ω0J\omega_0J。(θa,J)(\theta_{\mathrm a},J) を (q,p)(q,p) の役に置くとθ˙a=∂H/∂J=ω0\dot\theta_{\mathrm a}=\partial H/\partial J=\omega_0、J˙=−∂H/∂θa=0\dot J=-\partial H/\partial\theta_{\mathrm a}=0 なので、θa=ω0t+θa(0)\theta_{\mathrm a}=\omega_0t+\theta_{\mathrm a}(0)、JJ は一定である。

(3) J=0J=0(原点 q=p=0q=p=0)では θa\theta_{\mathrm a} が定まらず、座標が使えない。θa\theta_{\mathrm a} は周期 2π2\pi なので、(θa,J)(\theta_{\mathrm a},J) が覆う領域は原点を除いた平面で、R2\mathbb{R}^2 の Darboux 座標 (q,p)(q,p) とは大域的な形が違う(帯 {0≤θa<2π, J>0}\{0\le\theta_{\mathrm a}<2\pi,\ J>0\} の端が貼り合わさった円柱)。局所的には同じ ω\omega でも、量子化の手続きを当てる座標の大域的な形が違えば結果が変わりうる。第2部第2章では、作用角で量子化すると E=nℏω0E=n\hbar\omega_0 となって零点エネルギーが出ないことを見た(第2部第2章)。これは「局所的に同じで大域的に違う」状況の例で、Darboux の定理が局所的な主張にとどまることが量子化の結果の違いとして現れている。

1 G. Darboux (1882), Bull. Sci. Math. (2) 6, 14–36, 49–68.

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com

← AI生成教科書『虎の巻』の記事一覧へ