量子力学の様々な構成方法 第10部 第3章 §10.3.2 ★★★ 前量子化は ∇=d+(i/ℏ)θ の共変微分で、括弧が保たれる理由は曲率が (i/ℏ)ω であること。荷電粒子の最小結合と同じ式
共変微分
式 (10.3.2) の最初の2項をまとめると
−iℏXf+θ(Xf)=−iℏ(Xf+ℏiθ(Xf))=−iℏ∇Xf,∇X=X+ℏiθ(X)(10.3.4)
となる。∇=d+(i/ℏ)θ を共変微分(または接続)と呼ぶ。前量子化の演算子は
Qpre(f)=−iℏ∇Xf+f(10.3.5)
と書ける。この形は、荷電粒子の量子力学で微分 ∂j を共変微分 Dj=∂j−(ie/ℏ)Aj に置き換える最小結合と同じ構造をしている(電荷 +e の粒子。記法の正本の Dμ=∂μ+iqAμ/ℏ を3次元の成分で書いたもの)。配位空間の1形式 θmag=−eA⋅dx を作ると D=d+(i/ℏ)θmag となり、前量子化の θ と同じ位置に入る。運動量 p を eA に読み替えると θ=−pdq と θmag=−eA⋅dx は同じ形である。
ゲージ変換
θ は ω から一意に決まらず、θ→θ′=θ+dλ(λ は実関数)と取り替えてもよい(第10部第2章)。このとき波動関数を F→F′=e−iλ/ℏF と取り替えると
∇′F′=(d+ℏiθ+ℏidλ)(e−iλ/ℏF)=e−iλ/ℏ(dF−ℏidλF+ℏiθF+ℏidλF)=e−iλ/ℏ∇F
となり、共変微分は位相を掛けるだけの変換を受ける。したがって
Qpre′(f)(e−iλ/ℏF)=e−iλ/ℏQpre(f)F,Qpre′(f)=e−iλ/ℏQpre(f)eiλ/ℏ(10.3.6)
で、θ の選び方を替えた2つの前量子化はユニタリ同値である(掛け算 e−iλ/ℏ は ∣e−iλ/ℏ∣=1 なのでノルムを保つ)。これは電磁気のゲージ変換 A→A+∇Λ、ψ→eieΛ/ℏψ と同じで、λ=−eΛ と対応する。物理的な内容(スペクトル・期待値)は θ の選び方によらず、ω=dθ だけで決まる。
曲率と括弧
2つのベクトル場 U,W について
[∇U,∇W]−∇[U,W]=ℏiω(U,W)(10.3.7)
が成り立つ。実際、左辺の微分の部分は [U,W]−[U,W]=0 で消え、掛け算の部分はℏi(Uθ(W)−Wθ(U)−θ([U,W]))=ℏidθ(U,W) となる。左辺を接続の曲率と呼ぶ。接続 ∇ の曲率は2形式 (i/ℏ)ω である。電磁気では D の曲率は [Dx,Dy]=−(ie/ℏ)Bz で、磁場に −e/ℏ を掛けたものになる。相空間の ω/ℏ は「相空間に一様にかかった磁場」の役を受け持つ。
定理 10.3.3(括弧の保存は曲率で決まる ★★★)
一般の接続 ∇ について Q(f)=−iℏ∇Xf+f と置き、その曲率を R(U,W)=[∇U,∇W]−∇[U,W] と書く。このとき
[Q(f),Q(g)]−iℏQ({f,g})=−ℏ2R(Xf,Xg)+iℏ{f,g}
で、(P3) がすべての f,g で成り立つことと R=(i/ℏ)ω は同値である。
証明
[Q(f),Q(g)]=−ℏ2[∇Xf,∇Xg]−iℏ[∇Xf,g]−iℏ[f,∇Xg] で、[∇X,g]=X(g)(掛け算の部分は g と交換する)から第2・3項は −iℏXf(g)+iℏXg(f)=2iℏ{f,g}。第1項は曲率の定義と [Xf,Xg]=−X{f,g} から −ℏ2(R(Xf,Xg)−∇X{f,g})。iℏQ({f,g})=ℏ2∇X{f,g}+iℏ{f,g} を引くと主張の式を得る。右辺が0になるのは R(Xf,Xg)=(i/ℏ){f,g}=(i/ℏ)ω(Xf,Xg) のときで、各点でハミルトンベクトル場 Xf はすべての接ベクトルを作れる(ω の非退化性。f として座標の1次関数を取ればよい)ので、これは2形式として R=(i/ℏ)ω と同値である。
定理 10.3.3 は、1節で係数 c を合わせた計算の意味を述べている。括弧を保つために合わせたのは、接続の曲率という1つの量で、θ の選び方には依らない。前量子化とは「曲率が (i/ℏ)ω の接続を探すこと」と言い換えられる。R2fd では θ=−∑ipidqi と置くだけで見つかるが、4節で見るように相空間が球面のように閉じていると、この問題に答えが無いことがある。
例題 10.3.2 一様磁場の運動量の交換子は曲率である ★★
オリジナル平面 (x,y) を運動する電荷 +e の粒子に、z 方向の一様磁場 B をかける。ベクトルポテンシャルを対称ゲージ A=(−By/2,Bx/2) に取る。
- (1) θmag=−eA⋅dx の外微分を求めよ。
- (2) 運動学的運動量 πj=−iℏ∂j−eAj=−iℏDj について [πx,πy] を直接計算し、式 (10.3.7) の形と比べよ。
- (3) ゲージを A′=A+∇Λ(Λ=Bxy/2)に替えたとき、A′ と波動関数の変換を書け。
解答
(1) θmag=−e(−2Bydx+2Bxdy)=2eB(ydx−xdy)。d(ydx)=dy∧dx=−dx∧dy、d(xdy)=dx∧dy なので dθmag=2eB(−2)dx∧dy=−eBdx∧dy。
(2) πx=−iℏ∂x+2eBy、πy=−iℏ∂y−2eBx。交換子は[−iℏ∂x,−2eBx]+[2eBy,−iℏ∂y]=2iℏeB+2iℏeB=iℏeB。一方 D=d+(i/ℏ)θmag の曲率は式 (10.3.7) から (i/ℏ)dθmag(∂x,∂y)=−(i/ℏ)eB で([∂x,∂y]=0)、[πx,πy]=(−iℏ)2[Dx,Dy]=−ℏ2⋅(−ℏieB)=iℏeB と一致する。運動量の成分どうしが交換しないことは、磁場という曲率があることの量子力学での表れである(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第6章)。
(3) ∇Λ=(By/2,Bx/2) なので A′=(0,Bx)(Landau ゲージ)。θmag′=θmag−edΛ で、本文の λ=−eΛ にあたり、波動関数は ψ′=e−iλ/ℏψ=eieΛ/ℏψ=eieBxy/(2ℏ)ψ と変わる。[πx′,πy′]=iℏeB はゲージによらない。
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