量子力学の様々な構成方法 第10部 第4章 §10.4.5 ★★ 整数条件を満たす面積 A のトーラスを偏極すると、実偏極でも正則偏極でも状態の数が N=∫ω/(2πℏ) になる。一様磁場の案内中心では Landau 準位の縮退 eBA/h
設定
第10部第3章の総合問題では、一様磁場 B の中の電荷 +e の粒子の案内中心が平面 (x,y) に住む相空間で、ωB=−eBdx∧dy であること、平面を周期的に閉じた面積 A のトーラスでは整数条件から eBA/h∈Z となることを示し、偏極した空間の次元が N=eBA/h になることをこの章へ送った(第10部第3章)。符号を気にせずに済むよう、向きを合わせて ω=κdx∧dy(κ>0)と書き、トーラスを x∼x+a、y∼y+b(面積 A=ab)とする。案内中心では κ=eB で、x と y の役を入れ替えれば ωB の向きになる。整数条件は
N=2πℏκab∈Z>0(10.4.21)
である。
トーラスの上の切断
θ=−κydx と取る(dθ=κdx∧dy)。θ は x について周期的だが、y→y+b で θ→θ−κbdx=θ+dλ(λ=−κbx)と変わる。トーラスの上の切断は、平面の上の関数で、y 方向に1周したときに第10部第3章のゲージ変換の規則 F→e−iλ/ℏF で貼り合うもの
F(x+a,y)=F(x,y),F(x,y+b)=eiκbx/ℏF(x,y)(10.4.22)
として表される。2つの条件が両立する(x→x+a で位相 eiκab/ℏ=e2πiN=1)ことが、ちょうど整数条件 (10.4.21) である。
定理 10.4.5(トーラスの偏極した空間の次元 ★★)
整数条件 (10.4.21) のもとで、次が成り立つ。
- (i) y 方向の実偏極 span{∂y} について偏極した切断は、N 本の葉 xk=ka/N(k=0,1,…,N−1)の上だけに台を持ち、その空間は N 次元である。
- (ii) 正の正則偏極(w=x−iy の正則関数)について偏極した切断の空間は N 次元である。
証明
(i) θ(∂y)=0 なので ∇∂y=∂y で、偏極した切断は F=ϕ(x)。条件 (10.4.22) の2つ目は ϕ(x)=eiκbx/ℏϕ(x) となり、eiκbx/ℏ=1 の x では ϕ(x)=0。κb/ℏ=2πN/a なので、ϕ が0でありうるのは x=ka/N の上だけで、x の周期 a の中に N 本ある。したがって偏極した切断は ϕ(x)=∑k=0N−1ckδ(x−xk) の形の超関数で、N 個の係数で決まる。葉 x=xk は、y 方向に1周したときのホロノミー(位相 eiκbx/ℏ)が1になる葉、すなわち Bohr–Sommerfeld の葉である。
(ii) w=x−iy について ∂wˉ=21(∂x−i∂y) で、iω(∂w,∂wˉ)=κ/2>0 なので正の偏極である。θ(∂wˉ)=−κy/2 から、偏極の条件 ∂wˉF−2ℏiκyF=0 の解は、∂wˉ(y2)=−iy を使って
F=e−κy2/(2ℏ)g(w)(g は正則関数)
である。条件 (10.4.22) の1つ目は g(w+a)=g(w) で、g は Fourier 級数 g(w)=∑n∈Zcne2πinw/a に展開できる。2つ目は、ix+y=iw を使うと
g(w−ib)=eiκbw/ℏ+κb2/(2ℏ)g(w)=eπNb/ae2πiNw/ag(w)
となる。両辺の e2πimw/a の係数を比べると
cme2πmb/a=eπNb/acm−N.(10.4.23)
これは cm を cm−N から決める漸化式で、c0,c1,…,cN−1 を自由に選べば残りはすべて決まる。cr+kN を解くとln∣cr+kN/cr∣=kπNb/a−a2πb(kr+2Nk(k+1)) で、k→±∞ で −πNbk2/a のように減るので、級数はすべての w で収束する。したがって偏極した切断の空間は N 次元である。
偏極の向きを逆にする(x+iy の正則関数を取る)と、同じ計算で因子が e+κy2/(2ℏ)、係数が e+πNbk2/a のように増え、0以外の解は無い。正の条件は、ここでも状態が存在するための条件になっている。(ii) の g は Jacobi のテータ関数で、整数 N はトーラスの上の線束の次数(ω/(2πℏ) の全積分)にあたる。次数 N の正の線束の正則切断が N 個あることは Riemann–Roch の定理の特別な場合で、上の証明はそれを Fourier 級数で直接示したものである。
2つの偏極で次元が一致するのは、状態の数が偏極の選び方によらず、相空間の面積を 2πℏ=h で割った数で決まることを示している。案内中心の相空間では N=eBA/h で、これは1つの Landau 準位の縮退度(単位面積あたり eB/h。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第6章)と一致する。B=1.0008T、A=1μm2 では N=242 である(第10部第3章の総合問題 (4))。「相空間の体積 hfd あたり1つの状態」という統計力学の数え方が、ここでは偏極した空間の次元として厳密に成り立っている。

図 10.4.3 トーラス(x∼x+a、y∼y+b、N=5)の y 方向の実偏極。葉は鉛直の線で、1周のホロノミー eiκbx/ℏ が1になる N 本の葉 xk=ka/N(実線)だけに偏極した切断が載る。点線の葉(例えば x=(k+21)a/N)ではホロノミーが −1 で、切断は0でなければならない。
例題 10.4.5 N=1 のトーラスとテータ関数 ★★
オリジナルa=b=1、κ=2πℏ(N=1)のトーラスで考える。
- (1) 実偏極の Bohr–Sommerfeld の葉は何本で、どこにあるか。
- (2) 正則偏極の漸化式 (10.4.23) を解き、g(w)=∑ncne2πinw を c0 で表せ。
- (3) ∣F∣2=e−2πy2∣g∣2 が x→x+1、y→y+1 で不変であることを確かめよ。
解答
(1) xk=k/N で N=1 なので、x=0 の1本だけである。
(2) 漸化式は cme2πm=eπcm−1。cm=c0exp(πm−2π∑j=1mj)=c0eπm−πm(m+1)=c0e−πm2(負の m にも同じ式が使える)。したがって
g(w)=c0n∈Z∑e−πn2+2πinw,
これは Jacobi のテータ関数 ϑ3(πw,e−π) である。偏極した空間は g の定数倍だけの1次元で、トーラス全体で状態が1つである。
(3) x→x+1 は w→w+1 で g は周期1。y→y+1 は条件 (10.4.22) から F に位相 eiκx/ℏ=e2πix が掛かるだけで、∣F∣2 は変わらない。∣F∣2 はトーラスの上の関数として well-defined で、全面積 1 の上の確率密度として規格化できる。
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