量子力学の様々な構成方法 第10部 第5章 §10.5.4 ★★★ エネルギーの等高線で作る実偏極の半形式は、軌道を1周すると符号が反転する。前量子化のホロノミーとあわせると ∮pdq=2πℏ(n+21) が出て、振動子では厳密、一般には WKB の接続公式と同じ条件になる
軌道に沿う偏極
1自由度の束縛運動で、エネルギーの等高線 H=E を葉とする実偏極 PH=span{XH} を取る(平衡点では退化するが、そこを除けば偏極である)。第10部第3章で示したとおり、前量子の切断を葉に沿って共変定数にすると、葉を1周したホロノミーは exp(ℏi∮pdq) で、偏極した切断はホロノミーが1になる葉(Bohr–Sommerfeld の葉)の上にだけ載る。振動子ではこれが E=nℏω0 で、21 が足りなかった。
PH の標準束は dH の倍である(dH(XH)={H,H}=0)。LXHdH=d(XHH)=0 なので、dH は葉に沿って一定に見える。しかし半形式は符号 ± の選び方を相空間全体で連続に揃えて初めて意味を持ち、その揃え方は平面全体で決まっている(平面では例えば dzs がいたる所で0にならない半形式を与える)。葉の上の dH を、平面全体の基準 dzs と比べて測ると、比は対 (dzs,dH) で与えられる。
命題 10.5.4(軌道の半形式のホロノミー ★★★)
調和振動子 H=p2/(2m)+mω02q2/2 の等高線 H=E>0 と任意の ℓs>0 について、
(dzs,dH)2=21(ℓsi∂p∂H+ℏℓs∂q∂H)(10.5.8)
は軌道を1周する間に原点のまわりをちょうど1回まわる。したがって dH を連続に延長すると、1周で符号が −1 になる。
証明
dzs=21(dq/ℓs+iℓsdp/ℏ) と dH=Hqdq+Hpdp の外積は 21(Hp/ℓs−iℓsHq/ℏ)ω で、−i で割ると式 (10.5.8) になる。軌道 q=Acosω0t、p=−mω0Asinω0t(時計回り)に沿って、右辺は 2Aω0(ℏmω0ℓscosω0t−ℓsisinω0t) となる。これは実軸と虚軸の上に半軸を持つ楕円を時計回りに1周し、原点を内側に含む。複素数が原点のまわりを1回まわると偏角が 2π 変わり、平方根の偏角は π 変わるので、平方根は −1 倍で戻る。ℓs を変えても楕円の形が変わるだけで巻き数は変わらない。

図 10.5.1 振動子の軌道に沿う半形式の対 (dzs,dH)2(式 (10.5.8))が複素平面に描く楕円。転回点(p=0)で実軸を、q=0 で虚軸を横切り、時計回りに原点を1回まわる。転回点から次の転回点までに偏角が π 変わるので、半形式の平方根は転回点ごとに −π/2 ずつ位相を持つ。
半形式つきの Bohr–Sommerfeld 条件
半形式つきの切断 s⊗ν が葉の上で一価であるためには、s のホロノミーと ν のホロノミーの積が1でなければならない。命題 10.5.4 から ν のホロノミーは −1 なので、
exp(ℏi∮pdq)⋅(−1)=1⟺∮pdq=2πℏ(n+21)(10.5.9)
となる。振動子では ∮pdq=2πE/ω0(楕円の面積)なので E=ℏω0(n+21) で、2節の正則偏極の結果と一致する。前量子化だけでは実偏極も正則偏極も ℏω0n を与え、半形式を入れると両方とも ℏω0(n+21) を与える。どちらの段階でも、2つの偏極は同じスペクトルを出す。
一般の閉じた軌道では、平面に描いた曲線の接線が1周で何回まわるかで平方根の符号の変化が決まる。接線の向きの直線(Lagrange 部分空間)が1周で μ/2 回まわるとき、μ を軌道の Maslov 指数と呼び、条件は ∮pdq=2πℏ(n+μ/4) となる。凸な閉曲線では μ=2 で 21 が出る。多自由度の不変トーラスへの拡張(独立な閉曲線ごとに Maslov 指数を付ける形)は J. B. Keller が WKB の側から与えた1J. B. Keller (1958), “Corrected Bohr–Sommerfeld quantum conditions for nonseparable systems”, Ann. Phys. (N.Y.) 4, 180–188.。
WKB の接続公式との対応
半形式つきの Bohr–Sommerfeld の葉の切断を、BKS の対で鉛直の偏極(位置表示)へ移すと、WKB の波動関数が出る。
命題 10.5.5(Bohr–Sommerfeld の葉の切断の位置表示 ★★★)
転回点 q−<q+ の間で、葉の切断を鉛直の葉に沿って積分したものは
ψ(q)∝∣p(q)∣1cos(ℏ1∫qq+∣p(q′)∣dq′−4π),∣p(q)∣=2m(E−V(q))(10.5.10)
である。
証明
鉛直の葉 q= 一定は軌道と p=±∣p(q)∣ の2点で交わる。葉の切断は δ(H−E) に比例するので、p について積分すると各交点から 1/∣Hp∣=m/∣p∣ が出る。半形式の対は (dq,dH)2=dq∧dH/(−iω)=iHp=ip/m で、その平方根の大きさは ∣p∣/m、位相は p>0 で eiπ/4、p<0 で e−iπ/4 である(図 10.5.1 の向きに連続に延長した枝)。大きさを掛け合わせると各交点の重みは ∣p∣−1/2 に比例する。前量子の切断の位相は軌道に沿って eℏi∫pdq で増える(∇XHs=0 と θ(XH)=−p2/m から)。上の枝(p>0)の点 q では左の転回点からの W(q)=∫q−q∣p∣dq′、下の枝では右の転回点を回ってきた 2W(q+)−W(q) が位相になる。2つを足すと
eiπ/4eiW(q)/ℏ+e−iπ/4ei(2W(q+)−W(q))/ℏ=2eiW(q+)/ℏcos(ℏW(q+)−W(q)−4π)
となり、W(q+)−W(q)=∫qq+∣p∣dq′ なので主張を得る。
式 (10.5.10) は、右の転回点での WKB の接続公式が与える形(転回点から測った位相に −π/4)と同じである。第3部第4章で、停留位相の伝播関数が焦点を越えるごとに位相 −π/2 を持つことを示した(第3部第4章)。図 10.5.1 の転回点ごとの −π/2 はそれと同じ量で、半形式の平方根が転回点(偏極 PH が鉛直の偏極と一致する点=焦点)で枝を移ることにあたる。左の転回点から測った形との整合(2つの転回点の両方で接続公式が成り立つこと)が、ちょうど条件 (10.5.9) である。振動子 n=6 で式 (10.5.10) と厳密な固有関数を ∣q∣<0.8q+ で比べると、形の相関は 0.9999 で、−π/4 を除くと 0.70 に下がる(verify_ch10-05.py)。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏ/∮pdq→0(軌道の作用が ℏ に比べて大きい) | 証明 条件付き(1自由度で転回点が孤立し、ポテンシャルが滑らかなとき。半形式つきの条件は調和振動子で厳密、一般には準位の誤差が ℏ の高次) | 行き先 近似の数理 第7章
例題 10.5.4 4次の振動子の Bohr–Sommerfeld ★★★
オリジナルℏ=m=1 として H=p2/2+q4 を考える。
- (1) ∮pdq=42IE3/4、I=∫011−u4du を示し、条件 (10.5.9) から En を求めよ。
- (2) I=0.87402 を使って n=0,1,2,3 の値を、21 を落とした条件の値とあわせて求めよ。厳密な固有値は 0.6680、2.3936、4.6968、7.3357 である。
- (3) 相対誤差が n とともにどう変わるかを述べ、半形式の補正が何を担っているかを説明せよ。
解答
(1) 転回点は q=±E1/4。∮pdq=4∫0E1/42(E−q4)dq で q=E1/4u と置くと 42E1/2E1/4∫011−u4du=42IE3/4。条件 42IE3/4=2π(n+21) から
En=(22Iπ(n+21))4/3.
(2) 21 あり:0.5463、2.3636、4.6705、7.3148。21 なし(n+21 を n に替える):0、1.3765、3.4686、5.9558。
(3) 21 ありの相対誤差は n=0 で −18.2%、n=3 で −0.28% と、n が大きいほど小さくなる。21 なしでは基底状態が0になり、n=3 でも −19% ずれる。半形式の補正は、準位の間隔を局所的な角振動数 ω(E)=2π/T(E)(T は周期)で測って準位を ℏω(E)/2 ほど上げるもので、その寄与がなければ n を大きくしても誤差の比が縮まらない。残りの誤差は ℏ の高次の補正で、図 10.5.2 のように小さい n ほど目立つ。

図 10.5.2 H=p2/2+q4(ℏ=m=1)の最初の4準位。点線が厳密な固有値、赤の実線が半形式つきの Bohr–Sommerfeld 条件、青の実線が前量子化だけの条件(21 なし)。21 を入れると準位の並びがほぼ重なり、ずれは基底状態で最も大きい。
1 J. B. Keller (1958), “Corrected Bohr–Sommerfeld quantum conditions for nonseparable systems”, Ann. Phys. (N.Y.) 4, 180–188.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com