量子力学の様々な構成方法 第3部 第2章 §3.2.5 ★★★ 演算子の順序は区間のどこで評価するかに対応する。Weyl の順序は中点。速度に比例する項があると評価点で答えが変わる
3つの順序と3つの評価点
x^ と p^ の両方を含む演算子の位置表示の行列要素を、運動量の完全系を挟んで計算する。f,g を1変数の関数として
⟨x′∣g(p^)f(x^)∣x⟩⟨x′∣f(x^)g(p^)∣x⟩=∫2πℏdpeip(x′−x)/ℏg(p)f(x)(x^ を右=前の点 x),=∫2πℏdpeip(x′−x)/ℏf(x′)g(p)(x^ を左=後の点 x′)(3.2.15)(3.2.16)
である。区間の時間の向きでは x が前の時刻、x′ が後の時刻の位置なので、x^ を右に寄せた順序は「前の点」、左に寄せた順序は「後の点」での評価に対応する。両者の中間に当たるのが Weyl の順序で、第5部で導入する Weyl 記号 AW(x,p)=∫dy⟨x−y/2∣A^∣x+y/2⟩eipy/ℏ を Fourier 逆変換すると
⟨x′∣A^∣x⟩=∫2πℏdpeip(x′−x)/ℏAW(2x+x′,p)(3.2.17)
となる。これは近似でなく、どんな A^ についても成り立つ恒等式である。すなわち、Weyl 記号で書いた古典の関数を中点で評価すれば、行列要素がそのまま得られる。例として (p^f(x^)+f(x^)p^)/2 の Weyl 記号は pf(x) で、式 (3.2.15) と式 (3.2.16) の平均 p(f(x)+f(x′))/2 は中点の値 pf((x+x′)/2) と O((x′−x)2) しか違わない。Weyl の対応と密度行列・Wigner 関数との関係は第5部第2章(第5部第2章)で扱う。
ポテンシャルの評価点は残らない
V(x) を前の点 xk で評価するか、中点や後の点で評価するかの違いは、1区間の指数で ℏϵ(V(xk+λη)−V(xk))≈ℏϵλV′(xk)η である(0≤λ≤1 が評価点)。例題 3.2.3 で見たとおり η は ϵ の大きさで、しかも ⟨η⟩=0 なので、この差の平均は ϵ⋅⟨η2⟩∼ϵ2 の大きさになる。N=t/ϵ 区間で足しても O(ϵ) で、ϵ→0 で消える。したがってポテンシャルの評価点は極限に残らない。これは Trotter の積公式で分割の順序を変えても極限が同じであることの、経路積分の側からの見方である。
速度に比例する項では評価点が残る
荷電粒子のように、ハミルトニアンが H^=(p^−a(x^))2/(2m)+V(x^) の形をとる場合を考える(1次元の電荷 q の粒子では a=qAx)。Lagrangian は L=2mx˙2+a(x)x˙−V(x) で、離散化した作用の1区間は 2ϵmη2+a(xˉ)η−ϵV と書ける。ここで xˉ=xk+λη が a の評価点である。a(xˉ)η の評価点による違いは λa′(xk)η2 で、ポテンシャルの場合と違って ϵ が掛かっていない。η2∼iℏϵ/m なので、この差は1区間あたり O(ϵ) になり、N 区間で足すと有限の量が残る。
この残りを求めるには、1区間の核を使って ψ(x,t+ϵ)=∫dηKϵei[⋯]/ℏψ(x+η,t) を η について展開し、例題 3.2.3 の ⟨ηn⟩ で平均すればよい(この展開の手順は第3部第5章の主題である)。ϵ の1次の係数を読むと
iℏ∂t∂ψ=[2m(p^−a(x^))2+V(x^)+(1−2λ)2miℏa′(x^)]ψ(3.2.18)
となる(検算は verify_ch3-02.py で行った)。余分の項が消えるのは中点 λ=1/2 のときだけである。
基準の側から見ると、この結果は演算子の順序の問題そのものである。[p^,a(x^)]=−iℏa′(x^) を使うと、p^ を左に寄せた形は
2mp^2−2p^a+a2=2mp^2−(p^a+ap^)+a2+2miℏa′(3.2.19)
で、右辺の第1項が Weyl の順序(対称化)の (p^−a)2/(2m) である。左端での評価(λ=0)は p^ を左に寄せた順序に当たるので、式 (3.2.18) の余分の項 2miℏa′ と一致する。対称化した (p^−a)2 はエルミートだが、余分の項 iℏa′/(2m) は反エルミートなので、λ=1/2 の離散化は確率を保存しない時間発展を与える(次の例題)。
要点
基準の演算子の順序と、経路積分の評価点は次のように対応する。
| 基準(演算子の順序) | 経路積分(区間の評価点) | 1区間の行列要素の式 |
| x^ を右(g(p^)f(x^)) | 前の点 xk | (3.2.15) |
| x^ を左(f(x^)g(p^)) | 後の点 xk+1 | (3.2.16) |
| Weyl の順序 | 中点 (xk+xk+1)/2 | (3.2.17)(恒等式) |
V(x) だけなら評価点は極限に残らない。a(x)x˙ の形の項は、1区間の変位が ϵ の大きさを持つため評価点が極限に残り、エルミートな H^ に対応するのは中点だけである。
例題 3.2.5 評価点を誤ると確率が保存しない ★★
オリジナル式 (3.2.18) で、H^λ=H^1/2+iΓ^、Γ^=(1−2λ)2mℏa′(x^) と書く。H^1/2 と Γ^ はエルミートである。
- (1) iℏ∂tψ=H^λψ のもとで、ノルムの時間変化 dtd⟨ψ∣ψ⟩ を ⟨a′⟩ で表せ。
- (2) λ=0(左端で評価)、a(x)=a0x/ℓ(ℓ は長さ)のとき、1回の時間 mℓ/a0 のあいだにノルムは何倍になるか。ゲージ変換で a を消すことができる場合なのに、ノルムが変わる理由を述べよ。
解答
(1) ∂tψ=−ℏiH^1/2ψ+ℏ1Γ^ψ なので
dtd⟨ψ∣ψ⟩=⟨∂tψ∣ψ⟩+⟨ψ∣∂tψ⟩=ℏi⟨ψ∣H^1/2−H^1/2∣ψ⟩+ℏ2⟨ψ∣Γ^∣ψ⟩=m1−2λ⟨a′⟩⟨ψ∣ψ⟩
である(最後の ⟨a′⟩ は規格化した期待値)。H^1/2 の寄与はエルミートであるために消え、Γ^ の寄与だけが残る。
(2) a′=a0/ℓ は定数なので、(1) から ⟨ψ∣ψ⟩∝ea0t/(mℓ) となる。時間 mℓ/a0 のあいだにノルムの2乗は e=2.72 倍になる。1次元では a(x) はゲージ変換 ψ→eiχ(x)/ℏψ(χ′=a)で消せるので、正しい時間発展ではノルムも確率分布も a に依存しないはずである。左端の離散化では、全微分 χ′(x)x˙dt=dχ の和 ∑kχ′(xk)ηk が χ(xf)−χ(xi) に一致せず、−21∑kχ′′(xk)ηk2 だけずれる。この和は ηk2∼iℏϵ/m によって有限の値 −2miℏ∫χ′′dt に収束し、位相でなく実の指数因子として現れてノルムを変える。中点で評価すると χ′(xˉk)ηk=χ(xk+1)−χ(xk)+O(ηk3) となり、全微分が正しく端の値の差になる。ゲージ不変性が保たれるのは中点の離散化である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com