量子力学の様々な構成方法 第3部 第2章 §3.2.4 ★★ 運動量の積分を最後まで残すと、指数は ∫(px˙−H)dt。p を積分すると Legendre 変換の逆で Lagrangian に戻る
運動量の積分を残した形
3.2.3節では運動量の積分 (3.2.10) を各区間ですぐに実行した。これを実行せずに残すと、式 (3.2.4) は
K(xf,t;xi,0)=N→∞lim∫k=1∏N−1dxkk=0∏N−12πℏdpkexp{ℏik=0∑N−1[pk(xk+1−xk)−ϵH(pk,xk)]}(3.2.13)
となる(H(p,x)=p2/(2m)+V(x))。指数の和は ϵ→0 で ∫0t(px˙−H)dt、すなわち相空間の作用の離散版で、これを位相空間の経路積分と呼ぶ。位置の積分が N−1 個、運動量の積分が N 個で数が合わないのは、位置は両端が固定され、運動量は区間ごとに1つずつ自由に動くからである。解析力学で相空間の作用を変分するとき、q の端だけを固定し p の端を固定しないこと(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第8章)と同じ非対称が、ここに現れている。
式 (3.2.13) は、H(p,x) が p の2次式でなくても書けるので、位置の経路積分 (3.2.12) より一般の形である。ただし、それが ⟨xk+1∣e−iH^ϵ/ℏ∣xk⟩ に等しいためには、関数 H(p,x) と演算子 H^ の対応(演算子の順序)を決めなければならない。上の形は「p^ の関数を左に、x^ の関数を右に置いた順序」に対応する。この点は3.2.5節で詳しく扱う。
運動量を積分すると Lagrangian に戻る
H=p2/(2m)+V では指数は pk の2次式なので、各 pk の積分は Gauss 積分で厳密に実行でき、3.2.3節の式 (3.2.11) に戻る。このとき指数の pk についての停留点は
∂pk∂[pkΔxk−2mϵpk2]=0⟹pk∗=mϵΔxk,Δxk=xk+1−xk(3.2.14)
で、停留値は ϵ⋅2m(Δxk/ϵ)2 である。px˙−H を p について停留させると L(x,x˙) になるという Legendre 変換の逆の関係が、区間ごとに成り立っている。2次式の Gauss 積分は停留値の指数関数と定数(ここでは m/(2πiℏϵ))の積に厳密に等しいので、H が p の2次式なら位相空間の形と位置の形は同じものである。この Legendre 変換の見方は解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第8章(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第8章)が詳しく扱っている。
ほかの巻では
解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第8章は、正準量子化から出発して同じ式 (3.2.13) と式 (3.2.12) を導き、「量子力学の Lagrangian 形式」として読む。この章は同じ計算を「基準と経路積分という2つの構成が同値であることの証明」として読み、Trotter の積公式による誤差の見積もりと、演算子の順序と評価点の対応(3.2.5節)を加えている。
例題 3.2.4 場所で変わる質量と経路積分の測度 ★★
オリジナル質量が場所で変わる H(p,x)=p2/(2m(x))+V(x) を、式 (3.2.13) の形の位相空間の経路積分で扱う(たとえば組成が場所で変わる半導体の中の電子の有効質量)。
- (1) 各 pk を積分し、位置の経路積分の前因子と指数を求めよ。
- (2) 3つの中間点で m(xk)/m0=1, 1.5, 2 となる経路の前因子は、質量が m0 で一定の場合の何倍か。
- (3) 式 (3.2.13) がこの H について ⟨xk+1∣e−iH^ϵ/ℏ∣xk⟩ を与えるのは、H^ をどの順序で書いたときか。その H^ はエルミートか。
解答
(1) 区間 k の pk の積分は、3.2.3節の計算で m を m(xk) に置き換えたものなので、
∫2πℏdpkexp{ℏi[pkΔxk−2m(xk)ϵpk2]}=2πiℏϵm(xk)exp[2ℏϵim(xk)Δxk2]
である。指数は ϵ2m(xk)(Δxk/ϵ)2 で Lagrangian 2m(x)x˙2−V(x) の離散版になるが、前因子 ∏km(xk)/(2πiℏϵ) は経路に依存する。
(2) 区間の前因子の比 m(xk)/m0 を掛け合わせて 1×1.5×2=3=1.73 倍である。
(3) ∣xk⟩ に右から作用する演算子は xk で評価された数になり、左の ⟨xk+1∣ には p^ の関数が運動量の完全系を通して作用する。したがって式 (3.2.13) の被積分関数が H(pk,xk) になるのは、H^=p^22m(x^)1+V(x^) のように p^ を左、x^ の関数を右に置いた順序のときである。この H^ の随伴は 2m(x^)1p^2 で、m(x^) が定数でなければ p^2 と可換でないので元と異なり、エルミートでない。物理のハミルトニアンとしては p^2m(x^)1p^ などのエルミートな順序を選ぶ必要があり、そのとき離散化の評価点は左端からずれる。前因子が経路に依存し、順序の選び方で離散化が変わるという2点は、質量が一定の場合には表に出なかった経路積分の測度の問題である。
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