量子力学の様々な構成方法 第3部 第5章 §3.5.2 ★★★ 1区間の核を ϵ の1次まで展開すると、前因子が0次で決まり、1次から Schrödinger 方程式が出る。Feynman (1948) の導出
前因子を未知の定数として展開する
前因子を未知の定数 N(ϵ) とし、式 (3.5.3) に y=x−η を入れる。
ψ(x,t+ϵ)=N(ϵ)∫dηeimη2/(2ℏϵ)e−iϵV(x−η)/ℏψ(x−η,t).(3.5.6)
右辺の eimη2/(2ℏϵ) 以外の2つの因子を展開する。η は ϵ の大きさなので、ϵ の1次まで残すには ϵ の1次と η2 までを残せばよい。
e−iϵV(x−η)/ℏψ(x−η,t)=1−ℏiϵV(x)+ℏiϵηV′(x)+O(ϵ2),=ψ(x,t)−η∂xψ(x,t)+2η2∂x2ψ(x,t)−6η3∂x3ψ(x,t)+O(η4).(3.5.7)(3.5.8)
ϵηV′ の項は ϵ3/2 の大きさで、しかも奇数次なので平均すると消える。η3 の項も平均で消え、η4 の項は ϵ2 の大きさである。積をとって η で積分すると、N∫dηeimη2/(2ℏϵ)ηn=N2πiℏϵ/m⟨ηn⟩ なので
ψ(x,t+ϵ)=Nm2πiℏϵ[ψ−ℏiϵVψ+2⟨η2⟩∂x2ψ+O(ϵ2)](3.5.9)
を得る(右辺の ψ とその微分はすべて (x,t) での値)。
0次が前因子を決め、1次が方程式を与える
ϵ→0 で左辺は ψ(x,t) に近づくので、右辺の ϵ の0次の係数は1でなければならない。したがって
N(ϵ)=2πiℏϵm(3.5.10)
である。第3部第1章で「Kϵ→δ」から選んだ前因子が、ここでは「波動関数が時間について連続に変わる」ことの帰結として一意に決まる。この値を入れ、⟨η2⟩=iℏϵ/m を使うと、式 (3.5.9) の ϵ の1次は
ψ(x,t+ϵ)−ψ(x,t)=ϵ[2miℏ∂x2ψ−ℏiVψ]+O(ϵ2)(3.5.11)
になる。両辺に iℏ/ϵ を掛けて ϵ→0 とすれば
iℏ∂t∂ψ=−2mℏ2∂x2∂2ψ+V(x)ψ(3.5.12)
が得られる。これが Schrödinger 方程式で、Feynman (1948) が経路積分の論文1R. P. Feynman (1948), Rev. Mod. Phys. 20, 367–387。この論文は経路積分を要請として置いたうえで、それが Schrödinger 方程式を満たすことを示し、通常の定式化と同値であることを述べている。の中で示した導出である。
導出のどこで何が決まったかを整理しておく。運動エネルギーの項 −2mℏ2∂x2 は、核の幅 ⟨η2⟩=iℏϵ/m から出た。古典の作用の 2mx˙2 の係数 m が核の幅を決め、その幅が2階微分の係数になる。ポテンシャルの項は作用の −ϵV がそのまま1次の項になったもので、展開の中で V の微分は1次に残らない。係数に i が付くのは、核が実の Gauss 関数でなく eimη2/(2ℏϵ) の形をしていて、分散 ⟨η2⟩ が純虚数だからである。
評価点はどこでもよい
V を前の点でなく、区間の内分点 x−η+λη=x−(1−λ)η(0≤λ≤1)で評価しても結果は変わらない。式 (3.5.7) の ηV′ の係数が (1−λ) 倍になるだけで、その項は奇数次なので平均すると消え、次の ϵη2V′′ は ϵ2 の大きさだからである。ポテンシャルの評価点が極限に残らないという第3部第2章の結論を、逆向きの計算からも確かめたことになる。時間に依存するポテンシャル V(x,t) でも、展開は各時刻で同じように進むので、方程式は V(x,t) を入れた形になる。
1次で切った誤差の大きさ
式 (3.5.11) で落とした項は ϵ2 の大きさで、N=t/ϵ 区間で足し合わせても全体で O(ϵ) に収まる。自由な部分の誤差は例題 3.5.1 の (2) で L2 のノルムで評価した。V の部分は ∣e−iϵV/ℏ−1+iϵV/ℏ∣≤(ϵV)2/(2ℏ2) で同じように抑えられる。図 3.5.2 は、Gauss 型の波束で1区間の厳密な結果と1次の式の差を測ったもので、差が ϵ2 に比例していることがわかる。

図 3.5.2 Gauss 型の波束 e−x2/(2s2) に自由な1区間の核を当てた厳密な結果と、1次の式 (3.5.11) との差の L2 ノルム(もとの波束のノルムで割ったもの)。横軸は ϵ を波束の時間の尺度 ms2/ℏ で割った量。点線は 32105a2 で、小さい a での誤差の主要項(verify_ch3-05.py で計算)。
例題 3.5.2 Gauss 型の波束で1区間を厳密に行う ★★★
オリジナル初めの波動関数を ψ0(x)=e−x2/(2s2) とし、自由粒子の1区間の核を当てる。
- (1) ψ(x,ϵ)=∫dyKϵ(x,y)ψ0(y) を厳密に求めよ。
- (2) その ϵ の1次が ψ0+2miℏϵψ0′′ に等しいことを確かめよ。
- (3) 電子で s=1nm のとき、a=ℏϵ/(ms2) が1になる ϵ を求めよ。ϵ=10−16s のとき、x=0 での厳密な値と1次の式の差を求めよ。
解答
(1) Kϵ(x,y)=c/πe−c(x−y)2(c=−im/(2ℏϵ))と書くと、二つの Gauss 関数の畳み込みは分散の和を持つ Gauss 関数になる。実の正の c で計算すると ∫dyc/πe−c(x−y)2−y2/(2s2)=(s2+1/(2c)s2)1/2exp(−2(s2+1/(2c))x2) で、これを 1/(2c)=iℏϵ/m へ接続すると
ψ(x,ϵ)=(s2+iℏϵ/ms2)1/2exp(−2(s2+iℏϵ/m)x2)
となる。波束の幅の2乗 s2 が複素数 s2+iℏϵ/m に置き換わった形で、分散 ⟨η2⟩=iℏϵ/m がそのまま足されている。
(2) a=ℏϵ/(ms2) と書くと s2+iℏϵ/m=s2(1+ia) で、(1+ia)−1/2=1−2ia+O(a2)、exp(−2s2(1+ia)x2)=e−x2/(2s2)(1+2s2iax2+O(a2)) である。積の1次は
ψ(x,ϵ)=ψ0+2ia(s2x2−1)ψ0+O(a2).
一方 ψ0′′=(s4x2−s21)ψ0 なので 2miℏϵψ0′′=2ia(s2x2−1)ψ0 となり、一致する。
(3) a=1 となるのは ϵ=ms2/ℏ=9.11×10−31×10−18/(1.055×10−34)s=8.64×10−15s である。ϵ=10−16s では a=0.0116 で、x=0 の厳密な値 (1+ia)−1/2 と1次の式 1−ia/2 の差は 83a2 の大きさ、数値で 5.0×10−5 である。図 3.5.2 の誤差もこの大きさの桁で、a を半分にすると誤差は 1/4 になる。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ϵ=t/N→0(1区間の核の ϵ 展開と時間分割の極限) | 証明 条件付き(V が実数で滑らか、導関数が有界、ψ が Schwartz 空間に属するなら、1区間の展開の誤差は L2 で O(ϵ2)。分割の極限は Chernoff の積公式による。3.5.4節) | 行き先 近似の数理 第3章
1 R. P. Feynman (1948), Rev. Mod. Phys. 20, 367–387。この論文は経路積分を要請として置いたうえで、それが Schrödinger 方程式を満たすことを示し、通常の定式化と同値であることを述べている。
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