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ユニタリ性と時間発展の群

2026年10月17日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3部 第5章 経路積分から Schrödinger 方程式を導く
目次
  1. ヒルベルト空間
  2. 1区間の核はユニタリ
  3. 合成則と群
  4. 時間分割の極限:Chernoff の積公式
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第3部 第5章 §3.5.4 ★★★ 1区間の核は実の作用ならそれだけでユニタリで、合成則で群をなす。Stone の定理が自己共役な生成子を与え、Chernoff の積公式が時間分割の極限を保証する

前節までで、経路積分で伝わる波動関数が Schrödinger 方程式を満たすことを示した。しかし基準の公理 Q5(第1部第2章)が要求するのは、時間発展がヒルベルト空間のユニタリ演算子で与えられ、時間について群をなすことである。微分方程式を満たすだけでは、解が一意か、確率が保存するかはまだわからない。この節では、それらを経路積分の側から確かめる。

ヒルベルト空間

Feynman の要請には、確率密度が ∣ψ(x,t)∣2\lvert \psi(x,t)\rvert ^2 であることが含まれている。全確率が有限であるためには ∫∣ψ∣2dx<∞\int\lvert \psi\rvert ^2\mathrm{d} x<\infty が要るので、波動関数の住む空間は2乗可積分な関数の空間 L2(R)L^2(\mathbb{R}) で、内積 ⟨φ, ψ⟩=∫φ∗ψ dx\langle \varphi,\,\psi\rangle =\int\varphi^*\psi\,\mathrm{d} x が入ったヒルベルト空間になる。このヒルベルト空間は経路積分の側では「Born の規則から決まる入れ物」であり、基準の側の公理 Q1 の状態空間に当たる。

1区間の核はユニタリ

式 (3.5.2) の核が定める演算子を K^ϵ\hat K_\epsilon と書く。VV が実数なら K^ϵ\hat K_\epsilon はユニタリである。実際、K^ϵ†K^ϵ\hat K_\epsilon^\dagger\hat K_\epsilon の積分核を計算すると

∫dx Kϵ(x,y)∗Kϵ(x,z)=m2πℏϵ eiϵ[V(y)−V(z)]/ℏ eim(z2−y2)/(2ℏϵ)∫dx eim(y−z)x/(ℏϵ)=δ(y−z)(3.5.19)\int\mathrm{d} x\,K_\epsilon(x,y)^*K_\epsilon(x,z)=\frac{m}{2\pi\hbar\epsilon}\,\mathrm{e}^{\mathrm{i}\epsilon[V(y)-V(z)]/\hbar}\,\mathrm{e}^{\mathrm{i} m(z^2-y^2)/(2\hbar\epsilon)}\int\mathrm{d} x\,\mathrm{e}^{\mathrm{i} m(y-z)x/(\hbar\epsilon)}=\delta(y-z)\tag{3.5.19}

となる。指数の xx の2次の項が K∗K^* と KK で打ち消し合い、xx について1次の項だけが残るので、xx の積分は 2πℏϵmδ(y−z)\frac{2\pi\hbar\epsilon}{m}\delta(y-z) になる。デルタ関数の台 y=zy=z の上では前の2つの位相因子は1なので、全体は δ(y−z)\delta(y-z) である。K^ϵK^ϵ†=1^\hat K_\epsilon\hat K_\epsilon^\dagger=\hat 1 も同じ計算で確かめられる。この計算は ϵ\epsilon について近似を1つも使っていない。1区間の核は、作用が実数であるというだけの理由で、有限の ϵ\epsilon のまま確率を保存する。これは基準の側で e−iH^0ϵ/ℏe−iV^ϵ/ℏ\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat H_0\epsilon/\hbar}\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat V\epsilon/\hbar} がユニタリ演算子の積であることに対応する。

合成則と群

時間分割を細かくした極限で定まる演算子を U^(t)\hat U(t) と書く。合成則 K(x,t+s;x′)=∫dx′′ K(x,t+s;x′′,s)K(x′′,s;x′)K(x,t+s;x')=\int\mathrm{d} x''\,K(x,t+s;x'',s)K(x'',s;x')(第3部第1章)は、時間によらない VV のもとで U^(t+s)=U^(t)U^(s)\hat U(t+s)=\hat U(t)\hat U(s) を意味する。U^(0)=1^\hat U(0)=\hat 1 は Kϵ→δK_\epsilon\to\delta から、U^(t)\hat U(t) のユニタリ性はユニタリな K^ϵ\hat K_\epsilon の積の極限であることから従う。さらに t→0t\to0 で U^(t)ψ→ψ\hat U(t)\psi\to\psi(強連続性)が成り立つ。これらをまとめると、{U^(t)}t∈R\{\hat U(t)\}_{t\in\mathbb{R}} は強連続な1径数ユニタリ群である。

定理 3.5.1(Stone の定理 ★★★)

ヒルベルト空間 H\mathcal{H} の上の強連続な1径数ユニタリ群 U^(t)\hat U(t)(U^(t+s)=U^(t)U^(s)\hat U(t+s)=\hat U(t)\hat U(s)、U^(0)=1^\hat U(0)=\hat 1)に対して、U^(t)=e−iH^t/ℏ\hat U(t)=\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat Ht/\hbar} となる自己共役演算子 H^\hat H がただ1つ存在する。H^\hat H の定義域は極限 lim⁡t→0iℏ(U^(t)ψ−ψ)/t\lim_{t\to0}\mathrm{i}\hbar(\hat U(t)\psi-\psi)/t が存在する ψ\psi の全体で、そこでの値が H^ψ\hat H\psi である。

この定理は M. H. Stone (1932), Ann. of Math. 33, 643–648 による。証明は関数解析の教科書に譲る。経路積分の言葉で言えば、合成則とユニタリ性と連続性を持つ伝播関数は、必ずある自己共役なハミルトニアンの指数関数である。そのハミルトニアンが何かを決めるのが、前節の展開である。展開の結果 iℏ(K^ϵψ−ψ)/ϵ→(−ℏ22m∂x2+V)ψ\mathrm{i}\hbar(\hat K_\epsilon\psi-\psi)/\epsilon\to(-\frac{\hbar^2}{2m}\partial_x^2+V)\psi は、生成子を滑らかな ψ\psi の上で計算したものになっている。

時間分割の極限:Chernoff の積公式

残る問題は、1区間の演算子 K^ϵ\hat K_\epsilon の生成子が H^\hat H であること(前節)から、K^t/NN\hat K_{t/N}^N の極限が本当に e−iH^t/ℏ\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat Ht/\hbar} になるかである。これを保証するのが次の定理である。

定理 3.5.2(Chernoff の積公式 ★★)

F(ϵ)F(\epsilon)(ϵ≥0\epsilon\ge0)をヒルベルト空間の上のノルム1以下の演算子の族とし、F(0)=1^F(0)=\hat 1、ϵ\epsilon について強連続とする。ある部分空間 S\mathcal S の上で lim⁡ϵ→0(F(ϵ)ψ−ψ)/ϵ=−iℏH^ψ\lim_{\epsilon\to0}(F(\epsilon)\psi-\psi)/\epsilon=-\frac{\mathrm{i}}{\hbar}\hat H\psi が成り立ち、H^\hat H が S\mathcal S の上で本質的に自己共役であるとする。このとき、すべての ψ\psi についてF(t/N)Nψ→e−iH^t/ℏψF(t/N)^N\psi\to\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat Ht/\hbar}\psi(N→∞N\to\infty)が成り立つ。

この定理は P. R. Chernoff (1968), J. Funct. Anal. 2, 238–242 による(そこでは一般の縮小半群について述べられていて、ここに書いたのはユニタリ群の場合への当てはめである)。F(ϵ)=K^ϵF(\epsilon)=\hat K_\epsilon とおき、S\mathcal S を Schwartz 空間(滑らかで、遠方で速く減衰する関数の空間)にとる。VV が実数で滑らか、導関数が有界なら、例題 3.5.1 の (2) と同じ評価で前節の展開が L2L^2 の意味で成り立ち、−ℏ22m∂x2+V-\frac{\hbar^2}{2m}\partial_x^2+V は Schwartz 空間の上で本質的に自己共役である。こうして、Feynman の導出(前節)は Chernoff の積公式の仮定を確かめる計算として読み直せる。Nelson (1964)1E. Nelson (1964), J. Math. Phys. 5, 332–343。Trotter の積公式を使って、Feynman が要請として置いた式が成り立つことを証明した。下の脚注へが Trotter の積公式で示したことを、ここでは1区間の核の展開から示したことになる。

自己共役性の条件

形式的に −ℏ22m∂x2+V-\frac{\hbar^2}{2m}\partial_x^2+V と書いても、特異なポテンシャル(原点で強く引き付ける −1/x2-1/x^2 型など)では Schwartz 空間の上で本質的に自己共役にならず、自己共役な拡張が複数ありうる。そのとき「経路積分が定める H^\hat H」がどれかは、Chernoff の積公式の仮定が満たされないので、この節の議論からは決まらない。経路積分の測度の厳密な定義の難しさとあわせて、第3部第7章(第3部第7章)で扱う。

例題 3.5.4 作用が複素数になると確率が減る ★★

オリジナルポテンシャルに負の虚部を加えて V−iΓ/2V-\mathrm{i}\Gamma/2(Γ>0\Gamma>0 は定数)とする。このようなポテンシャルは、粒子が別の過程で失われる場合(崩壊・吸収)の簡単な模型に使われる。

  1. (1) 式 (3.5.19) の計算をやり直し、1区間の核のノルムがどう変わるかを求めよ。
  2. (2) 時刻 tt の全確率を求めよ。
  3. (3) Γ=1 μeV\Gamma=1\,\mu\mathrm{eV} のとき、確率が 1/e1/\mathrm{e} になる時間を求めよ。
解答

(1) 1区間の核に因子 e−iϵ(−iΓ/2)/ℏ=e−ϵΓ/(2ℏ)\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\epsilon(-\mathrm{i}\Gamma/2)/\hbar}=\mathrm{e}^{-\epsilon\Gamma/(2\hbar)} が掛かる。K∗KK^*K ではこれが2乗されて e−ϵΓ/ℏ\mathrm{e}^{-\epsilon\Gamma/\hbar} になり、式 (3.5.19) は e−ϵΓ/ℏδ(y−z)\mathrm{e}^{-\epsilon\Gamma/\hbar}\delta(y-z) に変わる。すなわち K^ϵ†K^ϵ=e−ϵΓ/ℏ1^\hat K_\epsilon^\dagger\hat K_\epsilon=\mathrm{e}^{-\epsilon\Gamma/\hbar}\hat 1 で、1区間ごとにノルムの2乗が e−ϵΓ/ℏ\mathrm{e}^{-\epsilon\Gamma/\hbar} 倍になる。

(2) N=t/ϵN=t/\epsilon 区間でこれが積み重なって、全確率は e−NϵΓ/ℏ=e−Γt/ℏ\mathrm{e}^{-N\epsilon\Gamma/\hbar}=\mathrm{e}^{-\Gamma t/\hbar} になる。Schrödinger 方程式の側では ddt∥ψ∥2=2ℏIm⁡⟨ψ∣H^∣ψ⟩=−Γℏ∥ψ∥2\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}\lVert \psi\rVert ^2=\frac{2}{\hbar}\operatorname{Im}\langle \psi | \hat H | \psi \rangle =-\frac{\Gamma}{\hbar}\lVert \psi\rVert ^2 で、同じ結果である。作用の虚部は経路ごとの振幅の大きさを変え、作用が実数であることと時間発展がユニタリであることが対応している。

(3) ℏ/Γ=1.055×10−34/(1.602×10−25) s=6.58×10−10 s=0.658 ns\hbar/\Gamma=1.055\times10^{-34}/(1.602\times10^{-25})\,\mathrm s=6.58\times10^{-10}\,\mathrm s=0.658\,\mathrm{ns} である。

1 E. Nelson (1964), J. Math. Phys. 5, 332–343。Trotter の積公式を使って、Feynman が要請として置いた式が成り立つことを証明した。

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