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束縛状態のスペクトルは遠回り

2026年10月17日7分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3部 第7章 経路積分の得意な問題と限界
目次
  1. 伝播関数から準位を読む手順
  2. 時間分割したままでは準位がずれる
  3. 水素原子は Gauss 積分に乗らない
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第3部 第7章 §3.7.3 ★★ 経路積分はまず伝播関数を与え、準位は対角和をとって指数の和に開き直してから読む。調和振動子でもその手順が要り、水素原子では Gauss 積分にすら乗らない

伝播関数から準位を読む手順

基準の側で束縛状態のスペクトルを出すのは固有値問題 H^∣n⟩=En∣n⟩\hat H| n \rangle =E_n| n \rangle で、調和振動子なら a^,a^†\hat a,\hat a^\dagger の代数だけで En=ℏω(n+12)E_n=\hbar\omega(n+\frac12) が出る(第2部第4章)。経路積分の側で準位を読むには、次の3段を踏む。

  1. 伝播関数 K(xf,t;xi,0)K(x_f,t;x_i,0) を計算する(Gauss 積分などで)。
  2. 対角和 ∫dx K(x,t;x,0)=Tr⁡e−iH^t/ℏ=∑ne−iEnt/ℏ\int\mathrm{d} x\,K(x,t;x,0)=\operatorname{Tr}\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat Ht/\hbar}=\sum_n\mathrm{e}^{-\mathrm{i} E_nt/\hbar} をとる。虚時間なら Z(β)=Tr⁡e−βH^=∑ne−βEnZ(\beta)=\operatorname{Tr}\mathrm{e}^{-\beta\hat H}=\sum_n\mathrm{e}^{-\beta E_n} である。
  3. 結果を指数の和に開き直し、指数から EnE_n を読む。または Fourier 変換した ∫dt eiEt/ℏTr⁡e−iH^t/ℏ\int\mathrm{d} t\,\mathrm{e}^{\mathrm{i} Et/\hbar}\operatorname{Tr}\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat Ht/\hbar} の極の位置から読む。

共通例題①では、Mehler 核(第3部第3章)を t=−iβℏt=-\mathrm{i}\beta\hbar に置いて対角和をとると、xx の Gauss 積分で

Z(β)=∫dx mω2πℏsinh⁡βℏωexp⁡[−mωx2(cosh⁡βℏω−1)ℏsinh⁡βℏω]=12sinh⁡(βℏω/2)(3.7.12)Z(\beta)=\int\mathrm{d} x\,\sqrt{\frac{m\omega}{2\pi\hbar\sinh\beta\hbar\omega}}\exp\Bigl[-\frac{m\omega x^2(\cosh\beta\hbar\omega-1)}{\hbar\sinh\beta\hbar\omega}\Bigr]=\frac{1}{2\sinh(\beta\hbar\omega/2)}\tag{3.7.12}

になり、等比級数に開いて Z=∑n≥0e−βℏω(n+1/2)Z=\sum_{n\ge0}\mathrm{e}^{-\beta\hbar\omega(n+1/2)} から En=ℏω(n+12)E_n=\hbar\omega(n+\frac12) を読む。答えは基準と同じだが、代数なら1行で済む所を、経路積分は3段の計算を経て同じ所へ戻ってくる。経路積分が直接与えるのは「時間 tt の後の振幅」であり、エネルギーはその時間についての Fourier 双対として間接に現れるからである。

時間分割したままでは準位がずれる

数値計算では経路積分を有限の NN で打ち切る。調和振動子の虚時間の経路積分を周期境界条件 xN=x0x_N=x_0 のまま幅 ϵ=βℏ/N\epsilon=\beta\hbar/N で時間分割すると、折れ線の Euclid の作用は∑k[m(xk+1−xk)22ϵ+ϵmω2xk22]\sum_k[\frac{m(x_{k+1}-x_k)^2}{2\epsilon}+\frac{\epsilon m\omega^2x_k^2}{2}] で、NN 次元の Gauss 積分は巡回行列の行列式で厳密に計算できる。行列の固有値 mϵ[2−2cos⁡(2πj/N)+ϵ2ω2]\frac m\epsilon[2-2\cos(2\pi j/N)+\epsilon^2\omega^2] の積は mNϵN(2cosh⁡Nϕ−2)\frac{m^N}{\epsilon^N}(2\cosh N\phi-2) で、ϕ\phi は

cosh⁡ϕ=1+(ϵω)22(3.7.13)\cosh\phi=1+\frac{(\epsilon\omega)^2}{2}\tag{3.7.13}

で定まる。前因子 (m/2πℏϵ)N/2(m/2\pi\hbar\epsilon)^{N/2} と Gauss 積分の (2πℏϵ/m)N/2(2\pi\hbar\epsilon/m)^{N/2} が打ち消し合い、

ZN=12cosh⁡Nϕ−2=12sinh⁡(Nϕ/2)(3.7.14)Z_N=\frac{1}{\sqrt{2\cosh N\phi-2}}=\frac{1}{2\sinh(N\phi/2)}\tag{3.7.14}

を得る。これは式 (3.7.12) の βℏω\beta\hbar\omega を NϕN\phi に置き換えた形なので、有限の NN で読める準位は En(ϵ)=ℏ(ϕ/ϵ)(n+12)E_n^{(\epsilon)}=\hbar(\phi/\epsilon)(n+\frac12) で、

ϕϵ=ω[1−(ϵω)224+3(ϵω)4640−⋯ ](3.7.15)\frac{\phi}{\epsilon}=\omega\Bigl[1-\frac{(\epsilon\omega)^2}{24}+\frac{3(\epsilon\omega)^4}{640}-\cdots\Bigr]\tag{3.7.15}

だけ小さい。準位の誤差は区間の幅の2乗 (ϵω)2(\epsilon\omega)^2 に比例する。基底エネルギーを読むには β→∞\beta\to\infty(励起状態の寄与 e−βℏω\mathrm{e}^{-\beta\hbar\omega} を消す)と ϵ→0\epsilon\to0(式 (3.7.15) の誤差を消す)を同時にとらなければならず、区間の数 N=βℏ/ϵN=\beta\hbar/\epsilon は両方の要求の積で増える。励起状態は e−βE1\mathrm{e}^{-\beta E_1} という小さい項の中にあるので、数値で読むのはさらに難しい。

例題 3.7.3 時間分割した振動子から基底エネルギーを読む ★★

オリジナル調和振動子の虚時間の経路積分を、βℏω=10\beta\hbar\omega=10、N=20N=20 で時間分割する。

  1. (1) ϵω\epsilon\omega と ϕ\phi を求め、−1βln⁡ZN-\frac1\beta\ln Z_N を ℏω\hbar\omega を単位に求めよ。
  2. (2) それを真の基底エネルギー ℏω/2\hbar\omega/2 と比べ、ずれの原因が励起状態の混入と時間分割のどちらかを判定せよ。
解答

(1) ϵω=βℏω/N=0.5\epsilon\omega=\beta\hbar\omega/N=0.5。式 (3.7.13) から cosh⁡ϕ=1.125\cosh\phi=1.125、ϕ=0.49493\phi=0.49493、ϕ/ϵ=0.98985 ω\phi/\epsilon=0.98985\,\omega。Nϕ=9.8985N\phi=9.8985 なので ZN=1/(2sinh⁡4.9493)=7.09×10−3Z_N=1/(2\sinh4.9493)=7.09\times10^{-3} である。2sinh⁡y=ey(1−e−2y)2\sinh y=\mathrm{e}^y(1-\mathrm{e}^{-2y}) を使うと−ln⁡ZN=Nϕ/2+ln⁡(1−e−Nϕ)=4.9493−0.00005-\ln Z_N=N\phi/2+\ln(1-\mathrm{e}^{-N\phi})=4.9493-0.00005 で、−1βln⁡ZN=0.4949 ℏω-\frac1\beta\ln Z_N=0.4949\,\hbar\omega である。

(2) 励起状態の混入は 1β∣ln⁡(1−e−Nϕ)∣≈110e−9.9=5×10−6\frac1\beta\lvert \ln(1-\mathrm{e}^{-N\phi})\rvert \approx\frac1{10}\mathrm{e}^{-9.9}=5\times10^{-6}(ℏω\hbar\omega を単位に)の大きさしかない。ずれ 0.0051 ℏω0.0051\,\hbar\omega のほとんどは、時間分割で準位間隔が ϕ/ϵ=0.99 ω\phi/\epsilon=0.99\,\omega に縮んだことによる。式 (3.7.15) の1次の項 (ϵω)2/24=0.0104(\epsilon\omega)^2/24=0.0104 の半分(零点エネルギーは 12ℏϕ/ϵ\frac12\hbar\phi/\epsilon)がこの 0.0050.005 に当たる。誤差を 10−410^{-4} に下げるには ϵω≈0.07\epsilon\omega\approx0.07、N≈140N\approx140 が要る。

水素原子は Gauss 積分に乗らない

調和振動子と自由粒子は作用が2次なので Gauss 積分で厳密に解けた。Coulomb ポテンシャル −e2/(4πε0r)-e^2/(4\pi\varepsilon_0r) では作用が2次でなく、1区間の核を掛け合わせても閉じた形にならない。W. Pauli は1926年に、行列力学の代数(Runge–Lenz ベクトルの保存)だけで水素のスペクトル En=−me42(4πε0)2ℏ2n2E_n=-\frac{me^4}{2(4\pi\varepsilon_0)^2\hbar^2n^2}(E1=−13.6 eVE_1=-13.6\,\mathrm{eV})を出した(W. Pauli (1926), Z. Phys. 36, 336–363)。経路積分で水素原子が厳密に解けたのはその半世紀あとで、I. H. Duru と H. Kleinert は、時間の刻みを場所によって伸び縮みさせる(擬時間)変換と、3次元の Coulomb 問題を4次元の調和振動子に写す Kustaanheimo–Stiefel 変換を組み合わせて、Gauss 積分に帰着させた(I. H. Duru, H. Kleinert (1979), Phys. Lett. B 84, 185–188)。変換を要したのは、次の節以降で見るとおり、1/r1/r の特異性が時間分割の積分そのものを壊すからでもある。束縛状態のスペクトルが目的なら、経路積分は最短の道ではない。この構成が向いているのは、伝播関数・古典極限・トンネル・位相・統計力学の分配関数のように、時間と作用が中心になる問題である。

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