実時間の経路積分には測度が無い
AI 生成・木下が未勉強
量子力学の様々な構成方法 第3部 第7章 §3.7.4 ★★ 虚時間では熱核の積が確率密度なので Wiener 測度が存在するが、実時間の1区間の核は絶対値が一定で全変動が無限になる。厳密な定義は演算子の極限・解析接続・振動積分のどれかで与える
虚時間では測度がある
第3部第1章で、時間分割の極限を と略記した。 は記号であって、経路の空間の上の測度(経路の集合に体積を割り当てる規則)として定義したわけではない。虚時間ではこの記号に中身がある。自由粒子の1区間の核は熱核
で、正で を満たす確率密度である(第3部第5章 の例題で出した形)。熱核の積は、分割を細かくしても互いに矛盾しない有限次元の分布の族になっているので、連続な経路の空間の上の確率測度が1つに定まる。これが N. Wiener が構成した Brown 運動の測度である(N. Wiener (1923), J. Math. Phys. 2, 131–174)。虚時間の経路積分は、 をこの測度で平均したものとして厳密に定義でき、それが Feynman–Kac の公式である(第3部第6章・第7部第6章)。
実時間では全変動が無限
実時間の1区間の核 は、絶対値が
で によらない。したがって で、1区間でさえ全変動(絶対値の積分)が無限である。 が成り立つのは、振動による打ち消し合いのおかげで、収束因子を入れた条件収束にすぎない。測度として扱うには、少なくとも有限な領域での絶対値の積分が有限で、分割を細かくしても有界に留まることが要る。幅 の領域に閉じ込めても1区間の全変動は で、 で発散し、 区間ではその 乗になる。R. H. Cameron は、分散を複素数にした Wiener 測度が経路の空間の上の可算加法的な測度に拡張できないことを示した(R. H. Cameron (1960), J. Math. and Phys. 39, 126–140)。実時間の は、Lebesgue 積分の意味での測度としては存在しない。
もう1つの難しさは、寄与する経路の形にある。第3部第5章の例題で見たとおり、1区間の変位は の大きさで、速度 は で発散する。虚時間の Wiener 測度でも、ほとんどすべての経路は連続だが至る所で微分できない。そういう経路の作用 は無限大で、被積分関数 は個々の経路に対しては定義されない。「すべての経路に を割り当てて足す」という要請は、時間分割の極限という手続きの略記として読むのが正確である。
厳密に定義する3つの道
測度が無くても、経路積分を厳密に定義する方法は3つ知られている。
- 演算子の極限として定義する。時間分割の積 の強収束の極限として定義する。Trotter の積公式(第3部第2章)と Chernoff の積公式(第3部第5章)がこの道で、E. Nelson(1964)がこれで Feynman の式を正当化した。得られるのは状態ごとの収束で、積分核が各点で収束することまでは言わない。
- 虚時間から解析接続する。Wiener 測度で定義した虚時間の量を、時間または質量について解析接続して実時間に戻す。Feynman–Kac の公式にもとづく道である。
- 振動積分として定義する。有限次元の Fresnel 積分 を、 が有界な測度の Fourier 変換であるとき正規化した線形汎関数として定め、無限次元へ延ばす。S. Albeverio と R. J. Høegh-Krohn がこの形で、ポテンシャルが有界な測度の Fourier 変換になる場合を厳密に扱った(S. Albeverio, R. J. Høegh-Krohn (1976), Mathematical Theory of Feynman Path Integrals, Lecture Notes in Mathematics 523, Springer)。
どの道も、適用できるポテンシャルの範囲に条件が付く。その条件が特異なポテンシャルで満たされるかどうかを、次の節で確かめる。
例題 3.7.4 1区間の全変動を数える ★★
オリジナル電子()の経路積分を で時間分割する。
- (1) 1区間の核の絶対値 を求め、幅 の領域でのその積分(全変動)を求めよ。
- (2) 同じ の虚時間の熱核の、同じ領域での積分は1を超えるか。
- (3) を10区間に分けたとき、(1) の全変動は全体で何倍になるか。それが「測度」として扱えないことの意味を述べよ。
解答
(1) 。幅 で積分すると である。全確率が1のはずの1区間の核が、絶対値の積分では1を大きく超える。
(2) 熱核は正で、全実数での積分がちょうど1なので、どの領域でも1を超えない。熱核の幅 は より狭いので、この領域でほぼ1になる。
(3) 10区間では 倍で、領域を広げても を細かくしても増える一方である。測度なら全体の大きさは有限の値に留まらなければならないので、実時間の核の積は打ち消し合いを含めてはじめて意味を持つ量で、各経路に正の重みを与える測度とは別物である。
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