量子力学の様々な構成方法 第3部 第7章 §3.7.5 ★★★ 第3部第5章の Chernoff の仮定を外れても、Coulomb なら実時間の時間分割は Trotter の積公式で収束する。虚時間の時間分割は崩れ、逆2乗では形式的な H ^ \hat H H ^ が自己共役な作用素を1つに決めない
第3部第5章の仮定と、外れる2つの例
第3部第5章(第3部第5章 )は、V V V が実数で滑らか、導関数が有界という仮定の下で、1区間の核の展開から Chernoff の積公式の前提を確かめ、時間分割の極限が e − i H ^ t / ℏ \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat Ht/\hbar} e − i H ^ t /ℏ に収束することを示した。Coulomb ポテンシャル V = − κ / r V=-\kappa/r V = − κ / r (水素なら κ = e 2 / ( 4 π ε 0 ) \kappa=e^2/(4\pi\varepsilon_0) κ = e 2 / ( 4 π ε 0 ) )は原点で発散し、導関数も有界でない。1次元の半直線の逆2乗 V = ℏ 2 2 m g x 2 V=\frac{\hbar^2}{2m}\frac{g}{x^2} V = 2 m ℏ 2 x 2 g はさらに強く発散する。どちらも物理で現れる(後者は3次元の動径方程式の遠心力の項と同じ形)。この2つで、仮定を外したときに何が残るかを順に見る。
Coulomb:実時間の時間分割は収束する
T. Kato は1951年に、原子・分子のハミルトニアン − ℏ 2 2 m ∇ 2 − κ / r -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2-\kappa/r − 2 m ℏ 2 ∇ 2 − κ / r が、自由粒子と同じ定義域 D ( H ^ 0 ) \mathcal{D}(\hat H_0) D ( H ^ 0 ) (2階の Sobolev 空間)の上で自己共役であることを示した(T. Kato (1951), Trans. Amer. Math. Soc. 70 , 195–211)。要は、1 / r 1/r 1/ r を原点の近く(r < 1 r<1 r < 1 )と遠く(r ≥ 1 r\ge1 r ≥ 1 )に分けると、前者は2乗可積分(∫ r < 1 r − 2 ⋅ 4 π r 2 d r = 4 π \int_{r<1}r^{-2}\cdot4\pi r^2\mathrm{d} r=4\pi ∫ r < 1 r − 2 ⋅ 4 π r 2 d r = 4 π )、後者は有界で、2乗可積分な部分は H ^ 0 \hat H_0 H ^ 0 に比べて相対的に小さい摂動になることにある(Kato–Rellich の定理)。したがって H ^ 0 + V ^ \hat H_0+\hat V H ^ 0 + V ^ は D ( H ^ 0 ) ∩ D ( V ^ ) = D ( H ^ 0 ) \mathcal{D}(\hat H_0)\cap\mathcal{D}(\hat V)=\mathcal{D}(\hat H_0) D ( H ^ 0 ) ∩ D ( V ^ ) = D ( H ^ 0 ) の上で自己共役で、第3部第2章の Trotter の積公式(第3部第2章 )の仮定がそのまま満たされる。実時間の時間分割 ( e − i H ^ 0 ϵ / ℏ e − i V ^ ϵ / ℏ ) N (\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat H_0\epsilon/\hbar}\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat V\epsilon/\hbar})^N ( e − i H ^ 0 ϵ /ℏ e − i V ^ ϵ /ℏ ) N は、Coulomb でも状態ごとに e − i H ^ t / ℏ \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat Ht/\hbar} e − i H ^ t /ℏ に収束する。e − i ϵ V / ℏ \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\epsilon V/\hbar} e − i ϵ V /ℏ は絶対値1の掛け算なので、原点での発散はユニタリ性を壊さない。第3部第5章の展開による証明(Chernoff)は使えないが、結論は別の定理で救われる。
Coulomb:虚時間の時間分割は崩れる
虚時間では事情が逆になる。1区間の因子は e − ϵ V / ℏ = e + ϵ κ / ( ℏ r ) \mathrm{e}^{-\epsilon V/\hbar}=\mathrm{e}^{+\epsilon\kappa/(\hbar r)} e − ϵ V /ℏ = e + ϵ κ / ( ℏ r ) で、引力のときに原点で指数的に発散する。中間の点 r k \bm{r}_k r k についての積分は、ほかの因子が原点で有限なので
∫ r < R d 3 r k e ϵ κ / ( ℏ r k ) = 4 π ∫ 0 R r 2 e ϵ κ / ( ℏ r ) d r = ∞ (3.7.18) \int_{r<R}\mathrm{d}^3r_k\,\mathrm{e}^{\epsilon\kappa/(\hbar r_k)}=4\pi\int_0^R r^2\mathrm{e}^{\epsilon\kappa/(\hbar r)}\mathrm{d} r=\infty\tag{3.7.18} ∫ r < R d 3 r k e ϵ κ / ( ℏ r k ) = 4 π ∫ 0 R r 2 e ϵ κ / ( ℏ r ) d r = ∞ ( 3.7.18 )
の形の発散を含み、有限の N N N のどの時間分割も無限大になる。e c / r \mathrm{e}^{c/r} e c / r は r → 0 r\to0 r → 0 で r r r のどんな負べきよりも速く増えるので、r 2 r^2 r 2 の体積因子では抑えられない。一方、時間分割をせずに Wiener 測度の上で e − ∫ V d τ / ℏ \mathrm{e}^{-\int V\mathrm{d}\tau/\hbar} e − ∫ V d τ /ℏ を平均した Feynman–Kac の公式は、Coulomb でも有限で、e − β H ^ \mathrm{e}^{-\beta\hat H} e − β H ^ を正しく与える。Brown 運動の経路はほとんど確実に原点にちょうど当たらず、当たりそうな経路も滞在時間が短いので、∫ d τ / r \int\mathrm{d}\tau/r ∫ d τ / r の平均が有限に留まるからである。この種の「Kato 類」のポテンシャルについての Feynman–Kac の公式は B. Simon の総説にまとまっている(B. Simon (1982), Bull. Amer. Math. Soc. 7 , 447–526)。破綻しているのは時間分割した近似の方で、「各区間でポテンシャルを1点で評価する」操作が、1 / r 1/r 1/ r の原点の近くに経路が留まることを過大に重みづける。Duru–Kleinert の変換(前節)は、原点の近くで時間の刻みを細かくする(擬時間 d s = d t / r \mathrm{d} s=\mathrm{d} t/r d s = d t / r )ことでこの過大な重みを取り除き、収束する時間分割を作り直したものと読める。
逆2乗:形式的な H ^ \hat H H ^ は作用素を1つに決めない
半直線 x > 0 x>0 x > 0 の上の H ^ = − ℏ 2 2 m d 2 d x 2 + ℏ 2 2 m g x 2 \hat H=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\mathrm{d}^2}{\mathrm{d} x^2}+\frac{\hbar^2}{2m}\frac{g}{x^2} H ^ = − 2 m ℏ 2 d x 2 d 2 + 2 m ℏ 2 x 2 g を考える。原点の近くで ψ = x s \psi=x^s ψ = x s と置くと s ( s − 1 ) = g s(s-1)=g s ( s − 1 ) = g から
s ± = 1 2 ± 1 4 + g (3.7.19) s_\pm=\frac12\pm\sqrt{\frac14+g}\tag{3.7.19} s ± = 2 1 ± 4 1 + g ( 3.7.19 )
で、エネルギーによらない2つの振る舞いが出る。x s x^{s} x s が原点の近くで2乗可積分なのは 2 Re s > − 1 2\operatorname{Re} s>-1 2 Re s > − 1 のときである。
g ≥ 3 4 g\ge\frac34 g ≥ 4 3 :s − ≤ − 1 2 s_-\le-\frac12 s − ≤ − 2 1 で x s − x^{s_-} x s − は2乗可積分でない。原点で許される振る舞いは x s + x^{s_+} x s + だけで、滑らかな関数の空間の上で H ^ \hat H H ^ は本質的に自己共役になり、自己共役な作用素がただ1つ決まる(Weyl の極限点の場合)。
− 1 4 ≤ g < 3 4 -\frac14\le g<\frac34 − 4 1 ≤ g < 4 3 :x s + x^{s_+} x s + も x s − x^{s_-} x s − も2乗可積分で、どちらを許すかを原点の境界条件として別に指定しなければならない(極限円の場合)。自己共役な拡張は実数1つの径数を持つ族になり、径数ごとにスペクトルが違う。
g < − 1 4 g<-\frac14 g < − 4 1 :s ± = 1 2 ± i ν s_\pm=\frac12\pm\mathrm{i}\nu s ± = 2 1 ± i ν (ν = − g − 1 / 4 \nu=\sqrt{-g-1/4} ν = − g − 1/4 )で、x cos ( ν ln x ) \sqrt x\cos(\nu\ln x) x cos ( ν ln x ) のように原点へ近づくほど速く振動する。どの自己共役な拡張もエネルギーが下に有界でなく、束縛準位が比 e − 2 π / ν \mathrm{e}^{-2\pi/\nu} e − 2 π / ν の等比数列で − ∞ -\infty − ∞ へ並ぶ。古典的には粒子が有限時間で原点に落ちる「原点への落下」の量子版で、K. M. Case が特異なポテンシャルの一般論の中で扱った(K. M. Case (1950), Phys. Rev. 80 , 797–806)。
g ≥ − 1 / 4 g\ge-1/4 g ≥ − 1/4 の範囲で下に有界であることは、Hardy の不等式 ∫ 0 ∞ ∣ ψ ′ ∣ 2 d x ≥ 1 4 ∫ 0 ∞ ∣ ψ ∣ 2 / x 2 d x \int_0^\infty\lvert \psi'\rvert ^2\mathrm{d} x\ge\frac14\int_0^\infty\lvert \psi\rvert ^2/x^2\,\mathrm{d} x ∫ 0 ∞ ∣ ψ ′ ∣ 2 d x ≥ 4 1 ∫ 0 ∞ ∣ ψ ∣ 2 / x 2 d x (ψ ( 0 ) = 0 \psi(0)=0 ψ ( 0 ) = 0 )から従う。
図 3.7.4 半直線の逆2乗 ℏ 2 2 m g / x 2 \frac{\hbar^2}{2m}g/x^2 2 m ℏ 2 g / x 2 の分類。g ≥ 3 / 4 g\ge3/4 g ≥ 3/4 でだけ、形式的な H ^ \hat H H ^ から自己共役な作用素がただ1つ決まる。
経路積分はこの選択に何を言うか。極限円の場合には、第3部第5章の議論(展開 → Stone → Chernoff)の最後の段の「本質的に自己共役」が成り立たないので、1区間の展開が形式的な H ^ \hat H H ^ を与えても、どの拡張に収束するかはその議論からは決まらない。虚時間で g > 0 g>0 g > 0 (反発)の場合には、T. Kato の積公式が答えを与える。非負の自己共役作用素 A ^ , B ^ \hat A,\hat B A ^ , B ^ について、定義域の共通部分が小さくても、( e − A ^ ϵ e − B ^ ϵ ) N (\mathrm{e}^{-\hat A\epsilon}\mathrm{e}^{-\hat B\epsilon})^N ( e − A ^ ϵ e − B ^ ϵ ) N は2次形式の和で定めた作用素の半群に強収束する(T. Kato (1978), in Topics in Functional Analysis , Adv. Math. Suppl. Stud. 3 , 185–195)。2次形式の和は Friedrichs の拡張と呼ばれる特定の拡張で、原点で x s + x^{s_+} x s + の振る舞いを選ぶ。虚時間の時間分割は、ほかの境界条件を指定しない限り、この「最も正則な」拡張を自動的に選ぶ。Kato の定理は縮小半群(虚時間)についてのもので、実時間のユニタリ群について同じ結論が一般に成り立つかは別の問題として残る。引力 g < 0 g<0 g < 0 では虚時間の因子 e ϵ ∣ g ∣ ℏ / ( 2 m x 2 ) \mathrm{e}^{\epsilon\lvert g\rvert \hbar/(2mx^2)} e ϵ ∣ g ∣ ℏ/ ( 2 m x 2 ) が Coulomb の場合と同じく原点で積分できず、時間分割した積分は崩れる。
例題 3.7.5 逆2乗の指数と境界条件 ★★
オリジナル 半直線の H ^ = − ℏ 2 2 m d 2 d x 2 + ℏ 2 2 m g x 2 \hat H=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\mathrm{d}^2}{\mathrm{d} x^2}+\frac{\hbar^2}{2m}\frac{g}{x^2} H ^ = − 2 m ℏ 2 d x 2 d 2 + 2 m ℏ 2 x 2 g について答えよ。
(1) g = 0.3 g=0.3 g = 0.3 のとき s ± s_\pm s ± を求め、原点の近くで2乗可積分なものを答えよ。
(2) (1) の場合、虚時間の時間分割(Kato の積公式)が選ぶのはどちらの振る舞いか。理由を述べよ。
(3) g = − 5 / 4 g=-5/4 g = − 5/4 のとき、隣り合う束縛準位の比を求めよ。
(4) 3次元の動径方程式で角運動量 ℓ \ell ℓ の遠心力の項 ℏ 2 2 m ℓ ( ℓ + 1 ) r 2 \frac{\hbar^2}{2m}\frac{\ell(\ell+1)}{r^2} 2 m ℏ 2 r 2 ℓ ( ℓ + 1 ) を u = r ψ u=r\psi u = r ψ について見ると、g = ℓ ( ℓ + 1 ) g=\ell(\ell+1) g = ℓ ( ℓ + 1 ) である。ℓ = 0 \ell=0 ℓ = 0 と ℓ ≥ 1 \ell\ge1 ℓ ≥ 1 で境界条件の要否がどう違うかを述べよ。
解答 (1) 式 (3.7.19) から s ± = 1 2 ± 0.55 = 1.2416 , − 0.2416 s_\pm=\frac12\pm\sqrt{0.55}=1.2416,\ -0.2416 s ± = 2 1 ± 0.55 = 1.2416 , − 0.2416 。2 s − > − 1 2s_->-1 2 s − > − 1 なので x − 0.24 x^{-0.24} x − 0.24 も2乗可積分で、両方とも許されてしまう(極限円)。境界条件を足さなければ作用素は決まらない。
(2) g > 0 g>0 g > 0 で V ^ ≥ 0 \hat V\ge0 V ^ ≥ 0 なので Kato の積公式が使え、極限は2次形式の和(Friedrichs の拡張)になる。2次形式 ∫ ( ∣ ψ ′ ∣ 2 + g ∣ ψ ∣ 2 / x 2 ) \int(\lvert \psi'\rvert ^2+g\lvert \psi\rvert ^2/x^2) ∫ (∣ ψ ′ ∣ 2 + g ∣ ψ ∣ 2 / x 2 ) が有限であるには、原点で ∣ ψ ∣ 2 / x 2 \lvert \psi\rvert ^2/x^2 ∣ ψ ∣ 2 / x 2 が積分できなければならず、x 2 s − − 2 = x − 2.48 x^{2s_--2}=x^{-2.48} x 2 s − − 2 = x − 2.48 は積分できないので x s − x^{s_-} x s − は排除され、x s + x^{s_+} x s + が選ばれる。
(3) ν = 5 / 4 − 1 / 4 = 1 \nu=\sqrt{5/4-1/4}=1 ν = 5/4 − 1/4 = 1 で、隣り合う準位の比は E n + 1 / E n = e − 2 π = 1.87 × 10 − 3 E_{n+1}/E_n=\mathrm{e}^{-2\pi}=1.87\times10^{-3} E n + 1 / E n = e − 2 π = 1.87 × 1 0 − 3 である。n n n を増やす向きには準位が0に集積し、逆向きにたどると負のエネルギーの絶対値が e 2 π = 535 \mathrm{e}^{2\pi}=535 e 2 π = 535 倍ずつ大きくなって − ∞ -\infty − ∞ へ並び続けるので、下に有界でない。
(4) ℓ ≥ 1 \ell\ge1 ℓ ≥ 1 では g = ℓ ( ℓ + 1 ) ≥ 2 ≥ 3 / 4 g=\ell(\ell+1)\ge2\ge3/4 g = ℓ ( ℓ + 1 ) ≥ 2 ≥ 3/4 で極限点の場合になり、境界条件なしに作用素が決まる。ℓ = 0 \ell=0 ℓ = 0 では g = 0 g=0 g = 0 で極限円の場合になり、u ( 0 ) = 0 u(0)=0 u ( 0 ) = 0 という境界条件を別に課している。物理ではこの条件を、3次元の ψ = u / r \psi=u/r ψ = u / r が原点で有限であること(− ∇ 2 -\nabla^2 − ∇ 2 の作用で δ ( 3 ) ( r ) \delta^{(3)}(\bm{r}) δ ( 3 ) ( r ) が出ないこと)から選んでいる。
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