量子力学の様々な構成方法 第4部 第2章 §4.2.4 ★★★ 浄化 ∣Ψ⟩ に基準の公理 Q1〜Q6 を当てると、A の側で (D2) 確率・(D3) 時間発展・(D4) 測定・(D5) 部分系がそのまま出てくる。結果は浄化の選び方によらない
同値の定理
浄化を使って、(D1)〜(D5) を基準の公理 Q1〜Q6 から導く。考え方は単純で、A の混合状態 ρ^A を見る代わりに、その浄化 ∣Ψ⟩AR を基準の公理に従う純粋状態として扱い、A に対する操作はすべて (A の操作)⊗1R として R に触らずに行う。そのとき A について得られる確率と状態が (D1)〜(D5) と一致することを示す。
定理 4.2.5(密度演算子の構成と基準の構成の同値 ★★★)
ρ^A を A の密度演算子、∣Ψ⟩∈HA⊗HR をその浄化とする。∣Ψ⟩ に基準の公理を当てると、次が成り立つ。
- (a) (D2 ← Q3)A の物理量 A^=∑aaP^a を測って a を得る確率は ⟨Ψ∣P^a⊗1∣Ψ⟩=Tr(ρ^AP^a)。
- (b) (D3 ← Q5)A だけのユニタリ U^ で ∣Ψ⟩↦(U^⊗1)∣Ψ⟩ と発展させると、その部分トレースは U^ρ^AU^†。
- (c) (D4 ← Q4)P^a⊗1 の測定で a を得た後の状態 (P^a⊗1)∣Ψ⟩/∥(P^a⊗1)∣Ψ⟩∥ の部分トレースは P^aρ^AP^a/Tr(ρ^AP^a)。結果を読まずに平均すると ∑aP^aρ^AP^a。
- (d) (D5 ← Q6)A が合成系 A=A1A2 なら、TrA2ρ^A=TrA2R∣Ψ⟩⟨Ψ∣ で、A1 の状態は全体の純粋状態の部分トレースとして同じものになる。
- (e) (予言の一意性)(a)〜(d) の右辺は ρ^A だけで決まり、浄化の選び方によらない。
したがって (D1)〜(D5) の予言はすべて、基準の公理に従う純粋状態の予言として再現される。第4部第1章の結果((D1)〜(D5) は ρ^=∣ψ⟩⟨ψ∣ で基準の公理に戻る)と合わせて、2つの構成は同値である。
証明
(a) Born の規則(Q3)を ∣Ψ⟩ と射影 P^a⊗1 に当て、部分トレースの特徴づけ Tr[∣Ψ⟩⟨Ψ∣(P^a⊗1)]=TrA(ρ^AP^a)(第4部第1章)を使う。
(b) TrR[(U^⊗1)∣Ψ⟩⟨Ψ∣(U^†⊗1)] を部分トレースの定義 ∑k(1⊗⟨k∣)⋯(1⊗∣k⟩) で書くと、U^⊗1 は 1⊗⟨k∣ と交換するので、U^ を外に出せて U^(TrR∣Ψ⟩⟨Ψ∣)U^†=U^ρ^AU^†。
(c) (b) と同じ理由で TrR[(P^a⊗1)∣Ψ⟩⟨Ψ∣(P^a⊗1)]=P^aρ^AP^a。規格化の因子は (a) の確率 Tr(ρ^AP^a) である。結果を読まない場合は、確率 Tr(ρ^AP^a) と測定後の縮約状態の積を足して ∑aP^aρ^AP^a。
(d) 部分トレースは順番に取ってよい(TrA2R=TrA2TrR)。これは定義の和を基底 ∣m⟩A2∣k⟩R で取るときに、和の順序を入れ替えるだけである。
(e) (a)〜(d) の右辺には ρ^A と A の演算子しか現れない。別の浄化 ∣Ψ′⟩ を取っても、定理 4.2.4 により ∣Ψ′⟩=(1⊗V^)∣Ψ⟩ で、A の操作は 1⊗V^ と交換し、V^†V^=1 が部分トレースの中で消えるので、同じ結果になる。
第4.2.1節の固有値分解の道と比べると、浄化の道の違いは (d) にある。浄化を作るときに R を「A とそれ以外の世界全部」と読めば、A がほかの系ともつれているときの A の混合状態は、全体の純粋状態の部分そのものである。第4.2.1節の ∣Φ+⟩ の例では、B が R の役を果たし、浄化は ∣Φ+⟩ 自身である。浄化の道では A と R の相関も基準の公理のまま計算できるので、⟨σx⊗σx⟩=1 も正しく出る。
測定を相互作用として書く
定理 4.2.5 の (c) は、A の測定を基準の公理の Q4 で扱った。浄化の道はもう一歩進めて、測定装置そのものを R の一部と見なし、「結果を読まない測定」をユニタリな相互作用と部分トレースだけで書くこともできる。量子ビット A を σz で測る装置を、指針の量子ビット R(初めは ∣0⟩)で表し、相互作用のユニタリ U^θ を
U^θ∣↑⟩∣0⟩=∣↑⟩∣0⟩,U^θ∣↓⟩∣0⟩=∣↓⟩(cosθ∣0⟩+sinθ∣1⟩)(4.2.8)
と定める(∣↑⟩∣1⟩、∣↓⟩∣1⟩ の行き先は、全体がユニタリになるように直交補空間で決める)。θ=π/2 なら、∣↓⟩ のときだけ指針が ∣1⟩ に倒れる完全な測定(制御 NOT ゲート)である。
A の初めの状態を α∣↑⟩+β∣↓⟩ とすると、相互作用の後の全体の状態は α∣↑⟩∣0⟩+β∣↓⟩(cosθ∣0⟩+sinθ∣1⟩) で、A の縮約密度演算子は
ρ^A=(∣α∣2αˉβcosθαβˉcosθ∣β∣2)(4.2.9)
になる。非対角要素に R の2つの状態の内積 ⟨0∣cosθ0+sinθ1⟩=cosθ が掛かる。θ=π/2 では非対角要素が消え、ρ^A=∣α∣2∣↑⟩⟨↑∣+∣β∣2∣↓⟩⟨↓∣=∑aP^aρ^A(0)P^a で、(D4) の結果を読まない測定そのものになる。0<θ<π/2 は指針が A の状態を不完全にしか区別しない弱い測定で、純粋度は θ とともに下がる。
(4.2.9) は、A の側だけで書くと ρ^A=∑kK^kρ^A(0)K^k†、K^k=⟨k∣RU^θ∣0⟩R という形になる。この例では K^0=∣↑⟩⟨↑∣+cosθ∣↓⟩⟨↓∣、K^1=sinθ∣↓⟩⟨↓∣ で、K^0†K^0+K^1†K^1=1 を満たす。「A と R の全体がユニタリに発展し、R を捨てる」と、A の側には (D3) のユニタリでも (D4) の射影でもない一般の写像が現れる。その一般論(Kraus 表示と、逆にどの完全正値写像もこの形に書けるという Stinespring の定理。Stinespring (1955), Proc. Amer. Math. Soc. 6, 211)は第4部第5章(第4部第5章)で扱う。
例題 4.2.4 指針の量子ビットで測る ★★★
オリジナル(4.2.8) の装置で、A の初めの状態を 0.6∣↑⟩+0.8∣↓⟩ とする。
- (1) θ=π/2 のとき、相互作用の後の A の縮約密度演算子を求め、σz の結果を読まない測定 ∑aP^aρ^P^a と一致することを確かめよ。
- (2) θ=π/2 で指針を ∣0⟩,∣1⟩ の基底で読む(R に Q4 を当てる)。指針が 1 を示す確率と、そのときの A の状態を求めよ。
- (3) θ=π/3 のとき、A の Bloch ベクトルと純粋度を求めよ。
解答
(1) 相互作用の後は 0.6∣↑⟩∣0⟩+0.8∣↓⟩∣1⟩。R についてトレースを取ると交差項は ⟨1∣0⟩=0 で消え、ρ^A=diag(0.36,0.64)。初めの状態 ρ^(0)=(0.360.480.480.64) に ∑aP^aρ^(0)P^a を当てると対角要素だけが残って同じ diag(0.36,0.64) になる。
(2) 1⊗∣1⟩⟨1∣ の確率は ∥0.8∣↓⟩∣1⟩∥2=0.64 で、測定後の全体の状態は ∣↓⟩∣1⟩、A の状態は ∣↓⟩。A の σz を直接測って −1 を得たときと同じ確率・同じ状態で、Lüders の規則 (D4) の選択的な場合が、R の測定と基準の公理から出てくる。
(3) (4.2.9) で α=0.6、β=0.8、cosθ=21 なので ρ↑↓=0.24。Bloch ベクトルはrx=2Reρ↑↓=0.48、ry=0、rz=0.36−0.64=−0.28。純粋度は 21(1+∣r∣2)=21(1+0.2304+0.0784)=0.654。初めの純粋状態(∣r∣=1、rx=0.96)から、指針とのもつれで rx が cosθ 倍に縮んだ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com