量子力学の様々な構成方法 第4部 第2章 §4.2.3 ★★★ どの密度演算子も、補助の系 R を足した純粋状態の部分トレースとして書ける。浄化は R の上の等長写像を除いて1つに決まる
存在
定義 4.2.2(浄化)
HA 上の密度演算子 ρ^A に対して、補助のヒルベルト空間 HR と単位ベクトル ∣Ψ⟩∈HA⊗HR でTrR∣Ψ⟩⟨Ψ∣=ρ^A を満たすものを、ρ^A の浄化と呼ぶ。
命題 4.2.3(浄化の存在)
ρ^A=∑k=1rλk∣ak⟩⟨ak∣(λk>0)とし、HR を r 次元以上のヒルベルト空間、{∣k⟩R} をその正規直交系とする。このとき
∣Ψ⟩=k=1∑rλk∣ak⟩∣k⟩R(4.2.5)
は ρ^A の浄化である。逆に、どの浄化でも dimHR≥r(r は ρ^A の階数)が必要である。
証明
TrR∣Ψ⟩⟨Ψ∣=∑k,lλkλl∣ak⟩⟨al∣⟨l∣k⟩R=∑kλk∣ak⟩⟨ak∣=ρ^A。逆向きは、浄化 ∣Ψ⟩ に定理 4.2.1 を当てると、Schmidt 階数が ρ^A の階数 r に等しく、R 側にも r 個の正規直交なベクトル ∣bk⟩ が要ることから従う。
第4部第1章の終わりで構成した浄化は、この命題で r=dA とした場合である。最小の補助系は ρ^A の階数と同じ次元を持てば足り、A と同じ次元の補助系を用意すればどの ρ^A も浄化することができる。
固有ベクトルを使わずに書く浄化もある。A の正規直交基底 ∣i⟩ を1つ固定し、R を A の複製(同じ次元)とすると
∣Ψρ⟩=i,j∑(ρ^A)ij∣i⟩∣j⟩R(4.2.6)
も浄化である。係数行列が C=ρ^A なので、CC†=ρ^A になるからである。これを標準の浄化と呼ぶことにする。第8部で代数の状態からヒルベルト空間を作り直す GNS 構成は、有限次元では標準の浄化と同じものになる(第4.2.6節)。
一意性
浄化はたくさんある。(4.2.5) の ∣k⟩R は R のどの正規直交系に取ってもよく、標準の浄化 (4.2.6) もある。しかし、それらの違いは R の上だけの変換に限られる。
定理 4.2.4(浄化の一意性 ★★★)
∣Ψ⟩∈HA⊗HR と ∣Ψ′⟩∈HA⊗HR′ がともに ρ^A の浄化で、dimHR≤dimHR′ なら、等長写像 V^:HR→HR′(V^†V^=1R)で
∣Ψ′⟩=(1A⊗V^)∣Ψ⟩(4.2.7)
を満たすものがある。HR=HR′ なら V^ はユニタリに取れる。
証明
ρ^A の正の固有値と固有ベクトルを λk、∣ak⟩(k=1,…,r)とする。定理 4.2.1 の構成 (4.2.3) は ∣Ψ⟩ と ρ^A の固有ベクトルだけを使うので、同じ ∣ak⟩ を両方に使って
∣Ψ⟩=k∑λk∣ak⟩∣bk⟩,∣Ψ′⟩=k∑λk∣ak⟩∣bk′⟩
と書ける。{∣bk⟩} は R の、{∣bk′⟩} は R′ の、ともに r 本の正規直交系である。V^∣bk⟩=∣bk′⟩ と定め、{∣bk⟩} の直交補空間を{∣bk′⟩} の直交補空間へ等長に送るように延ばす(dimHR≤dimHR′ なので延ばせる)。この V^ は等長写像で (4.2.7) を満たす。同じ次元なら延ばした写像は全射になり、ユニタリである。
固有値に重なりがあると固有ベクトル ∣ak⟩ の選び方は1通りでないが、証明では1組を固定して両方に使っているので問題は起きない。この定理は第4部第3章(第4部第3章)で、同じ ρ^ を与えるアンサンブルがどれだけあるかを数える道具になる。R の上で別の正規直交基底を測ると、A の側に別のアンサンブルが現れ、その平均がいつも ρ^A になる。第4部第1章の例題で B の σx と σz の測定を比べたのは、その最も小さな例である。
例題 4.2.3 同じ量子ビットの2つの浄化を結ぶ ★★★
オリジナル第4.2.1節の例題の ρ^=21(1+53σx)=54∣+⟩⟨+∣+51∣−⟩⟨−∣ を考える。補助の量子ビット R の基底を ∣0⟩,∣1⟩ とする。
- (1) (4.2.5) の浄化 ∣Ψ1⟩=54∣+⟩∣0⟩+51∣−⟩∣1⟩ を、A の基底 ∣↑⟩,∣↓⟩ で書き直せ。
- (2) 標準の浄化 (4.2.6) を A の基底 ∣↑⟩,∣↓⟩ と R の基底 ∣0⟩,∣1⟩ で書け(∣↑⟩↔∣0⟩、∣↓⟩↔∣1⟩ と対応させる)。
- (3) ∣Ψρ⟩=(1⊗V^)∣Ψ1⟩ を満たす R のユニタリ V^ を求めよ。
解答
(1) ∣±⟩=(∣↑⟩±∣↓⟩)/2 を代入して ∣↑⟩、∣↓⟩ でまとめると
∣Ψ1⟩=∣↑⟩⊗102∣0⟩+∣1⟩+∣↓⟩⊗102∣0⟩−∣1⟩.
(4/5/2=2/10、1/5/2=1/10。)
(2) ρ^=54∣+⟩⟨+∣+51∣−⟩⟨−∣。∣±⟩⟨±∣=21(1±σx) なので
ρ^=21(52+51)1+21(52−51)σx=251(3113),
∣Ψρ⟩=251(3∣↑⟩∣0⟩+∣↑⟩∣1⟩+∣↓⟩∣0⟩+3∣↓⟩∣1⟩).
(ρ^)2=201(106610)=21(1+53σx) で確かに ρ^ に戻る。
(3) ∣↑⟩ の相手どうし・∣↓⟩ の相手どうしが V^ で移り合えばよい。
V^102∣0⟩+∣1⟩=253∣0⟩+∣1⟩,V^102∣0⟩−∣1⟩=25∣0⟩+3∣1⟩.
2式の和と差を取ると V^104∣0⟩=254∣0⟩+4∣1⟩、V^102∣1⟩=252∣0⟩−2∣1⟩ なので
V^∣0⟩=2∣0⟩+∣1⟩,V^∣1⟩=2∣0⟩−∣1⟩,V^=21(111−1).
これは Hadamard 行列でユニタリである。定理 4.2.4 のとおり、2つの浄化は R だけの回転で移り合う。
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