量子力学の様々な構成方法 第4部 第2章 §4.2.6 ★★★ 基準 → 密度行列は ρ^=∣ψ⟩⟨ψ∣ と部分トレース、密度行列 → 基準は浄化。同じ浄化が、位相空間では Wigner 関数の周辺、代数的量子論では GNS 構成、熱平衡では熱場二重状態として現れる
両向きの矢印
同値性の地図(第1部第1章)で基準と第4部を結ぶ橋は、計画の橋の表の「状態ベクトル ↔ 密度行列:純粋状態 ρ^=∣ψ⟩⟨ψ∣(Trρ^2=1)/逆向きは浄化」である。第4部第1章とこの章で、この橋の両向きがそろった。図 4.2.3 に、2つの向きと、それぞれの要になる道具をまとめる。

図 4.2.3 基準と第4部を結ぶ橋。上の矢印(基準 → 密度行列)は第4部第1章、下の矢印(密度行列 → 基準)はこの章の定理 4.2.5。破線は、浄化がほかの部で同じものとして現れる場所。
2つの向きを式で並べると次の表になる。左の列は基準の構成の大きな系 AR の純粋状態での計算、右の列は第4部の構成の A だけの計算で、各行の両辺は定理 4.2.5 により等しい。
| 基準:浄化 ∣Ψ⟩AR で | 第4部:ρ^A=TrR∣Ψ⟩⟨Ψ∣ で |
| 確率 | ⟨Ψ∣P^a⊗1∣Ψ⟩ | Tr(ρ^AP^a) |
| 時間発展 | (U^⊗1)∣Ψ⟩ | U^ρ^AU^† |
| 測定後 | (P^a⊗1)∣Ψ⟩ を規格化 | P^aρ^AP^a/Tr(ρ^AP^a) |
| A と R の相互作用 | U^AR∣Ψ⟩∣0⟩E など | ∑kK^kρ^AK^k†(第4部第5章) |
| 浄化の取り替え | (1⊗V^)∣Ψ⟩ | 変わらない |
学部の標準的な授業では、2粒子の波動関数 ψ(x,y) から1粒子の密度行列を ρA(x,x′)=∫ψ(x,y)ψ(x′,y)dy で作る。これは第4.2.5節で使った部分トレースの位置表示で、この章の言葉では「基準 → 密度行列」の矢印である。逆に、どの1粒子の密度行列もこの形に書ける2粒子の波動関数がある、というのが浄化の存在 4.2.3 の位置表示での内容になる。
ほかの部での浄化
位相空間(第5部)では、A と R の Wigner 関数 WAR(x,p,y,k) を R の変数 y,k で積分すると、縮約密度演算子の Wigner 関数 WA(x,p) になる。Wigner 変換の定義(第5部第2章)で ∫dk が y の差の変数を 0 に固定し、∫dy が部分トレースの対角和になるからである。第4.2.5節の混合した波束の Wigner 関数は W(x,p)=exp(−x2/(2σ02)−p2/(2Δp2))/(2πσ0Δp) で、自由な時間発展はこれを x↦x+pt/m と剪断するだけである。(4.2.12) は、この剪断の後の x の分散として位相空間の言葉でも1行で出る。
代数的量子論(第8部)では、状態を期待値の割り当て ω(A^)=Tr(ρ^A^) として出発し、GNS 構成でヒルベルト空間とベクトルを作り直す(第8部第2章)。d×d 行列の代数で ρ^ が正則なとき、GNS のヒルベルト空間は行列の空間に内積 ⟨X,Y⟩=Tr(X†Y) を入れたもの(≅Cd⊗Cd)で、作り直されるベクトルは ρ^、つまり標準の浄化 (4.2.6) である。実際 ⟨ρ^,A^ρ^⟩=Tr(ρ^A^ρ^)=Tr(ρ^A^) で、浄化の確率の式と同じものになる。有限次元では「浄化」と「GNS 構成」は同じ橋を別の言葉で書いたものであり、無限自由度で浄化が使えなくなる場面でも GNS 構成は使える。第8部はその場面を扱う。
熱平衡(第4部第4章・第3部)では、熱平衡の密度演算子 e−βH^/Z=∑n(e−βEn/Z)∣n⟩⟨n∣ の浄化 (4.2.5) を
∣TFDβ⟩=n∑Ze−βEn/2∣n⟩∣n⟩R(4.2.16)
と書き、熱場二重状態と呼ぶ。熱平衡の期待値が1本の状態ベクトルの期待値として書くことができる。第3部の虚時間の経路積分で分配関数を作るときの、時間 βℏ の経路を半分ずつに分けた形との関係は第4部第4章で扱う。情報の巻では、地平面の外の放射と内側の相手が熱場二重状態をなす例を扱っている(相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部第2章)。
例題 4.2.6 調和振動子の熱場二重状態で ⟨n⟩ を出す ★★
オリジナル共通例題①の調和振動子 En=ℏω(n+21) の熱平衡を、浄化 (4.2.16) で扱う。q=e−βℏω と書く。
- (1) Z=∑ne−βEn を求め、e−βEn/Z=(1−q)qn を示せ。
- (2) ⟨TFDβ∣n^⊗1∣TFDβ⟩ を計算し、正答表の ⟨n⟩=1/(eβℏω−1) に一致することを示せ。
- (3) (1) の固有値の形を (4.2.15) と比べ、混合した波束の浄化との関係を述べよ。
解答
(1) Z=e−βℏω/2∑nqn=e−βℏω/2/(1−q)。分子分母に eβℏω/2 を掛けると Z=1/(eβℏω/2−e−βℏω/2)=1/(2sinh(βℏω/2)) で、正答表の形である。e−βEn/Z=e−βℏω/2qn⋅(1−q)eβℏω/2=(1−q)qn。
(2) n^⊗1 は ∣n⟩∣n⟩ に n を掛けるので、期待値は ∑nn(1−q)qn。∑nnqn=q/(1−q)2 から
⟨n⟩=(1−q)(1−q)2q=1−qq=q−1−11=eβℏω−11.
定理 4.2.5 (a) のとおり、Tr(ρ^n^) と同じ値が純粋状態の期待値として出た。
(3) どちらも Schmidt 係数の2乗が等比数列 (1−q)qn で、熱場二重状態は純粋度 μ=(1−q)/(1+q)=tanh(βℏω/2) の場合にあたる。第4.2.5節の混合した波束も同じ形の浄化を持ち、A の側で適当な振動数の振動子の基底を取り直せば熱場二重状態と同じ形に書くことができる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com