量子力学の様々な構成方法 第4部 第2章 §4.2.5 ★★★ 自由粒子の波束の広がりを密度行列で解き、正答表の σ(t)2=σ02+(ℏt/2mσ0)2 を再現する。混合した波束では ℏ/2σ0 が運動量の広がり Δp に置き換わり、同じ答えがアンサンブルと浄化からも出る
位置表示の密度行列
共通例題③は自由粒子 H^=p^2/(2m) の波束の広がりである。第4部の言葉で解くと、純粋な波束と混合した波束を同じ式で扱える。位置表示の密度行列 ρ(x,x′)=⟨x∣ρ^∣x′⟩ を、重心 X=(x+x′)/2 と差 ξ=x−x′ で
ρ(x,x′)=2πσ021exp(−2σ02X2−2ℏ2Δp2ξ2)(4.2.10)
と置く。対角要素 ρ(x,x) は位置の確率密度で、標準偏差 σ0 の Gauss 分布である。運動量の分布は Pr(p)=⟨p∣ρ^∣p⟩=2πℏ1∬ρ(x,x′)e−ip(x−x′)/ℏdxdx′ で、X と ξ の積分に分かれて、標準偏差 Δp の Gauss 分布になる。純粋度は ∬∣ρ(x,x′)∣2dxdx′ を同じ変数で計算して
μ:=Trρ^2=2πσ021⋅πσ0⋅Δpπℏ=2σ0Δpℏ(4.2.11)
である。純粋度は1を超えないので σ0Δp≥ℏ/2 で、これは不確定性関係である。等号 Δp=ℏ/(2σ0) のとき、(4.2.10) はψ(x)ψ(x′)、ψ(x)=(2πσ02)−1/4e−x2/(4σ02) そのもの(指数が −(x2+x′2)/(4σ02)=−X2/(2σ02)−ξ2/(8σ02))で、正答表の純粋な波束に一致する。
広がりの計算
(D3) により ρ^(t)=U^ρ^U^† で、位置の分散は、第4部第1章で描像の変換を示したのと同じくトレースの巡回性から Heisenberg 描像の x^H(t)=x^+p^t/m で計算することができる。第1部第1章で示した演算子の恒等式
x^H(t)2=x^2+mt(x^p^+p^x^)+m2t2p^2
は状態によらないので、混合状態でもそのまま使える。(4.2.10) は x↦−x で対称なので Tr[ρ^(x^p^+p^x^)]=0 で、⟨x^⟩=⟨p^⟩=0 だから
σ(t)2=σ02+(mΔpt)2(4.2.12)
を得る。純粋な波束 Δp=ℏ/(2σ0) では σ(t)2=σ02+(ℏt/(2mσ0))2 で、正答表(第1部第1章)の形と一致する。(4.2.11) を使って Δp を純粋度で書き、第1部第1章の時間の尺度 t∗=2mσ02/ℏ で測ると
σ02σ(t)2=1+μ21(t∗t)2(4.2.13)
である。同じ初めの幅でも、純粋度が μ の混合した波束は 1/μ 倍速く広がる(図 4.2.1)。

図 4.2.1 同じ初めの幅 σ0 を持つ純粋な波束(黒)と純粋度 μ=1/3 の混合した波束(青)の幅の時間変化 (4.2.13)。横軸の単位は t∗=2mσ02/ℏ。どちらも近似を含まない厳密な式(点線)。混合した波束の運動量の広がりは Δp=ℏ/(2σ0μ) で、その分だけ速く広がる。
アンサンブルと浄化から同じ答えを出す
(4.2.10) を、この章の2つの道の両方で純粋状態から作り直す。
アンサンブルの道では、純粋な波束 ψ(x) に平均の運動量 pˉ を与えた ψpˉ(x)=ψ(x)eipˉx/ℏ を、pˉ が平均 0、標準偏差 s の Gauss 分布 f(pˉ) に従うように確率的に準備する。密度行列は
∫f(pˉ)ψpˉ(x)ψpˉ(x′)dpˉ=ψ(x)ψ(x′)∫f(pˉ)eipˉ(x−x′)/ℏdpˉ=ψ(x)ψ(x′)exp(−2ℏ2s2ξ2)
で、(4.2.10) の Δp2=ℏ2/(4σ02)+s2 の場合になる。各成分の純粋な波束は平均位置 pˉt/m に動きながら σ02+(ℏt/2mσ0)2 で広がり、平均位置のばらつき s2t2/m2 が足されて (4.2.12) になる。
浄化の道では、補助の粒子 R(位置 y)を足し、R の波動関数を χ(y)(∣χ∣2 は標準偏差 w の Gauss 分布)として、全体の純粋状態を
Ψ(x,y)=ψ(x)χ(y)eigxy/ℏ(4.2.14)
と置く。これは積状態 ψ⊗χ に、A の運動量を R の位置 y に比例して gy だけずらす相互作用のユニタリ exp(igx^⊗y^/ℏ) を当てたものである。R についての部分トレース ρA(x,x′)=∫Ψ(x,y)Ψ(x′,y)dy は
ρA(x,x′)=ψ(x)ψ(x′)∫∣χ(y)∣2eig(x−x′)y/ℏdy=ψ(x)ψ(x′)exp(−2ℏ2g2w2ξ2)
で、s=gw としたアンサンブルの道と同じ密度行列になる。定理 4.2.5 (b) により、全体を U^A(t)⊗1 で発展させて位置の分散を純粋状態 Ψ で計算しても (4.2.12) が出る。実際、Ψ で p^ は −iℏ∂xψ の寄与と gy の寄与に分かれ、⟨p^2⟩=ℏ2/(4σ02)+g2w2、⟨x^p^+p^x^⟩=2g⟨x⟩⟨y⟩=0 である。
混合した波束の Schmidt 係数
浄化 (4.2.14) の Schmidt 係数、つまり (4.2.10) の固有値は、純粋度 μ だけで決まる等比数列になる。(4.2.10) は指数が x,x′ の2次式の Gauss 核で、適当な振動数の調和振動子の熱平衡の密度行列と同じ形をしているので、固有値は Boltzmann 因子の等比数列
λn=(1−q)qn(n=0,1,2,…),μ=n∑λn2=1+q1−q,q=1+μ1−μ(4.2.15)
になる(熱平衡の密度行列の固有値が等比数列になることは第4部第4章で示す。ここでは verify_ch4-02.py で (4.2.14) を格子に置いて対角化し、確かめた)。μ=1/3 なら q=1/2 で λn=2−(n+1)、もつれのエントロピーは −∑nλnlnλn=2ln2 である(図 4.2.2)。位置と運動量の両方に広がりを持つ混合した波束は、補助の粒子と「熱平衡の調和振動子のような」もつれ方をした純粋状態の一部分として書くことができる。

図 4.2.2 純粋度 μ=1/3 の混合した波束 (4.2.10) の固有値(=浄化 (4.2.14) の Schmidt 係数の2乗)λn=2−(n+1)。もつれのエントロピーは 2ln2。
例題 4.2.5 冷たい原子の波束はどれだけ速く広がるか ★★
オリジナル87Rb 原子(質量 m=1.443×10−25 kg)を、位置の標準偏差 σ0=1 μm の波束として準備する。
- (1) 純粋な波束のとき、t∗=2mσ02/ℏ と t=1 ms での幅 σ(t) を求めよ。
- (2) 波束の平均運動量が温度 T=1 μK の Maxwell 分布でばらつく(標準偏差 s=mkBT)とき、純粋度 μ と t=1 ms での幅を求めよ。
- (3) (2) の混合状態の浄化を (4.2.14) の形で1つ書け(g と w の関係だけでよい)。
解答
(1) ℏ/(2σ0)=5.27×10−29 kgm/s、t∗=2×1.443×10−25×10−12/(1.055×10−34)=2.74 ms。(4.2.13) で μ=1、t/t∗=0.365 なので σ=σ01+0.133=1.065 μm。1 ms ではほとんど広がらない。
(2) s=1.443×10−25×1.381×10−23×10−6=1.41×10−27 kgm/s で、ℏ/(2σ0) の約27倍である。Δp=(5.27×10−29)2+(1.41×10−27)2=1.41×10−27、μ=ℏ/(2σ0Δp)=0.0373。Δpt/m=1.41×10−27×10−3/(1.443×10−25)=9.79 μm で、σ=1+9.792 μm=9.84 μm。同じ初めの幅でも、温度による運動量のばらつきのほうが不確定性による広がりよりはるかに大きい。
(3) gw=s=mkBT であればよい。たとえば w=1 μm の補助の粒子と g=1.41×10−21 kg/s で結合させた純粋状態の一部分として、(2) の混合状態を書くことができる。浄化は一意でなく(定理 4.2.4)、g と w を gw を保って変えたものは R の上の変換(尺度の変更)で移り合う。
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