量子力学の様々な構成方法 第4部 第3章 §4.3.5 ★★★ 調和振動子の熱平衡は、止まっているエネルギー固有状態の Boltzmann 混合とも、古典の軌道どおりに振動するコヒーレント状態の Gauss 混合とも書ける。どちらで計算しても共通例題①の答えが同じ形で出る
共通例題①の調和振動子 H^=ℏω(a^†a^+21) の熱平衡 ρ^β=e−βH^/Z を、2つのアンサンブルで書く。ρ^β の導出と熱力学量は第4部第4章(第4部第4章)で扱うので、ここではアンサンブルとしての読み方の違いに絞る。以下 x:=βℏω、nˉ:=1/(ex−1) と書く。
エネルギー固有状態のアンサンブル
H^ の固有状態 ∣n⟩(En=ℏω(n+21))で e−βH^ は対角なので、固有アンサンブルは
ρ^β=n=0∑∞pn∣n⟩⟨n∣,pn=Ze−x(n+1/2)=(1−e−x)e−nx,Z=2sinh(x/2)1(4.3.16)
である(Z=∑ne−x(n+1/2)=e−x/2/(1−e−x)=1/(2sinh(x/2)))。pn は公比 e−x の幾何分布で、e−x=nˉ/(nˉ+1) を使うとpn=nˉn/(nˉ+1)n+1、平均は ⟨n⟩=∑nnpn=nˉ=1/(ex−1) となり、共通例題①の正答の形がそろう。このアンサンブルの各要素は定常状態で、どの物理量の期待値も時間に依存しない。「振動子は確率 pn でどれかの準位に止まっている」という読み方である。
コヒーレント状態のアンサンブル
コヒーレント状態 ∣α⟩=e−∣α∣2/2∑nn!αn∣n⟩(a^∣α⟩=α∣α⟩。光学と量子エレクトロニクス 第31章)を、複素平面上の Gauss 分布
P(α)=πnˉ1e−∣α∣2/nˉ,∫P(α)d2α=1(d2α=dReαdImα)(4.3.17)
で混ぜる。P≥0 なので、これは連続無限個の要素を持つアンサンブルである。混ぜた結果の行列要素は
⟨n∣(∫P(α)∣α⟩⟨α∣d2α)∣m⟩=∫P(α)e−∣α∣2n!m!αnα∗md2α.
α=seiθ と極座標にすると、αnα∗m=sn+mei(n−m)θ の θ の積分で n=m の項は消える。n=m では u=s2(d2α=sdsdθ=21dudθ)として
πnˉn!2π⋅21∫0∞e−u(1+1/nˉ)undu=nˉn!1⋅(1+1/nˉ)n+1n!=(nˉ+1)n+1nˉn(4.3.18)
となる。これは (4.3.16) の pn と同じなので、
∫P(α)∣α⟩⟨α∣d2α=n∑pn∣n⟩⟨n∣=ρ^β.(4.3.19)
コヒーレント状態 ∣α⟩ は時間発展で ∣αe−iωt⟩ に移り(全体の位相を除く)、位置の期待値は⟨x^⟩(t)=2ℏ/(mω)∣α∣cos(ωt−argα) と古典の振動子の軌道どおりに振動する。このアンサンブルは「振動子は振幅 ∣α∣ と位相 argα の古典的な振動をしていて、振幅は Gauss 分布、位相は一様に分布している」と読める。各要素は振動しているのに、位相が一様に分布しているので平均の ⟨x^⟩(t) は 0 で、ρ^β は定常である。2つの読み方は、要素が止まっているか動いているかで正反対だが、(4.3.19) により同じ ρ^β を与え、前節までの結果からどの測定でも区別できない。

図 4.3.3 βℏω=1(nˉ=0.582)の熱平衡の振動子の占有確率。棒はエネルギー固有状態のアンサンブルの重み、点はコヒーレント状態を (4.3.17) の Gauss 分布で混ぜたアンサンブルを数値積分して得た ⟨n∣ρ^∣n⟩。両者は小数第4位まで一致する(verify_ch4-03.py では 60 準位の行列全体の一致も確かめた)。
例題 4.3.5 止まっている混合と振動している混合で位置の分散を比べる ★★★
オリジナルβℏω=1 の熱平衡の振動子について、x^=ℏ/(2mω)(a^+a^†) の2乗の期待値を2つのアンサンブルで計算し、一致を確かめよ。
- (1) エネルギー固有状態のアンサンブルで、⟨n∣x^2∣n⟩=2mωℏ(2n+1) を使って ⟨x^2⟩ を求めよ。
- (2) コヒーレント状態のアンサンブルで、⟨α∣x^2∣α⟩=2mωℏ[(α+α∗)2+1] を示し、P(α) で平均せよ。
- (3) 数値を出し、coth(βℏω/2) と比べよ。p0 と nˉ も求めよ。
解答
(1) ⟨x^2⟩=2mωℏ∑npn(2n+1)=2mωℏ(2nˉ+1)。
(2) (a^+a^†)2=a^2+a^†2+a^†a^+a^a^†=a^2+a^†2+2a^†a^+1 を正規順序にして、a^∣α⟩=α∣α⟩、⟨α∣a^†=α∗⟨α∣ を使うと α2+α∗2+2∣α∣2+1=(α+α∗)2+1。P(α) は argα によらないので α2、α∗2 の平均は 0、∣α∣2 の平均は ∫P∣α∣2d2α=nˉ(u=∣α∣2 の指数分布の平均)。よって ⟨x^2⟩=2mωℏ(2nˉ+1) で (1) と一致する。
(3) nˉ=1/(e−1)=0.582、p0=1−e−1=0.632、2nˉ+1=2.164。一方 coth(21)=(e+1)/(e−1)=2.164 で、一般に 2nˉ+1=(ex+1)/(ex−1)=coth(x/2) が成り立つ。⟨x^2⟩=2mωℏcoth2βℏω は、平均エネルギー 2ℏωcoth2βℏω の半分が位置エネルギーにあることと合っている。エネルギー固有状態の読み方では「零点の広がり 1 と励起の広がり 2n の平均」、コヒーレント状態の読み方では「1つの波束の広がり 1 と、古典的な振幅のばらつき 2nˉ の和」と、同じ 2nˉ+1 を別の内訳で説明している。どちらの内訳も ρ^β からは読み取れない。
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