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量子の分布に何を求めるか

2026年10月17日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第5部 第1章 量子力学を「確率分布」で書けるか
目次
  1. 5つの要請
  2. 素朴な候補:周辺分布の積
  3. 非負の要請は他と両立しない
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第5部 第1章 §5.1.2 ★★★ 位相空間の構成の出発点の要請。5つは同時に課せるが、非負を加えると矛盾する

5つの要請

密度行列 ρ^\hat\rho から位相空間の関数 Wρ^(x,p)W_{\hat\rho}(x,p) を作る規則を考える。古典の分布の性質に合わせて、次の要請を並べる。

定義 5.1.1(位相空間の分布への要請)

密度行列 ρ^\hat\rho に関数 Wρ^(x,p)W_{\hat\rho}(x,p) を対応させる規則について、次の条件を考える。

  1. (W1) Wρ^W_{\hat\rho} は実数値で、∫Wρ^ dx dp=1\int W_{\hat\rho}\,\mathrm{d} x\,\mathrm{d} p=1。
  2. (W2) ρ^\hat\rho について線形:ρ^=∑kqkρ^k\hat\rho=\sum_k q_k\hat\rho_k なら Wρ^=∑kqkWρ^kW_{\hat\rho}=\sum_k q_kW_{\hat\rho_k}。
  3. (W3) 周辺分布が正しい:∫Wρ^ dp=⟨x∣ρ^∣x⟩\int W_{\hat\rho}\,\mathrm{d} p=\langle x | \hat\rho | x \rangle、∫Wρ^ dx=⟨p∣ρ^∣p⟩\int W_{\hat\rho}\,\mathrm{d} x=\langle p | \hat\rho | p \rangle。
  4. (W4) 平行移動と整合する:状態を位置で aa、運動量で p0p_0 だけずらすと、WW も (x,p)→(x−a,p−p0)(x,p)\to(x-a,p-p_0) とずれる。
  5. (W5) 至る所で非負:Wρ^(x,p)≥0W_{\hat\rho}(x,p)\ge0。

(W2) は混合状態の扱いから要る。確率 qkq_k で状態 ρ^k\hat\rho_k を用意するという操作は、古典では分布の重み付き和に対応する。量子でも同じ操作が ρ^=∑kqkρ^k\hat\rho=\sum_kq_k\hat\rho_k になる(第4部第1章)ので、分布の側も重み付き和になってほしい。(W2) を純粋状態 ρ^=∣ψ⟩⟨ψ∣\hat\rho=| \psi \rangle \langle \psi | で読むと、WW は ψ\psi と ψ∗\psi^* について1次ずつ、つまり ψ\psi の双線形な式になる。(W3) は、位置だけ・運動量だけを測る実験で、基準の Born の規則と同じ確率を出すための条件である。(W4) は、ψ(x)→ψ(x−a)\psi(x)\to\psi(x-a) や ψ(x)→eip0x/ℏψ(x)\psi(x)\to\mathrm{e}^{\mathrm{i} p_0x/\hbar}\psi(x) という操作が、位相空間の点を動かすだけになってほしいという条件である。

素朴な候補:周辺分布の積

最初に思いつく候補は、2つの周辺分布の積

Wψprod(x,p)=∣ψ(x)∣2 ∣φ(p)∣2,φ(p)=12πℏ∫ψ(x) e−ipx/ℏ dx(5.1.4)W^{\mathrm{prod}}_\psi(x,p)=\lvert \psi(x)\rvert ^2\,\lvert \varphi(p)\rvert ^2,\qquad \varphi(p)=\frac{1}{\sqrt{2\pi\hbar}}\int\psi(x)\,\mathrm{e}^{-\mathrm{i} px/\hbar}\,\mathrm{d} x\tag{5.1.4}

である。これは (W1)(W3)(W4)(W5) を満たす。しかし ψ\psi について4次の式なので (W2) を満たさない。さらに、積の候補は位置と運動量の相関を持てない。次の例題でこれを確かめる。

例題 5.1.2 チャープした Gauss 波束の相関 ★★★

オリジナルσ>0\sigma>0、κ\kappa を実数として、波束

ψ(x)=(2πσ2)−1/4exp⁡(−x24σ2+iκx2)\psi(x)=(2\pi\sigma^2)^{-1/4}\exp\Bigl(-\frac{x^2}{4\sigma^2}+\mathrm{i}\kappa x^2\Bigr)

を考える(位相が x2x^2 に比例するので「チャープした」波束と呼ぶ)。

  1. (1) ⟨x^2⟩\langle \hat x^2 \rangle と ⟨p^2⟩\langle \hat p^2 \rangle を求めよ。
  2. (2) 対称化した相関 C=12⟨x^p^+p^x^⟩C=\tfrac12\langle \hat x\hat p+\hat p\hat x \rangle を求めよ。
  3. (3) 積の候補 (5.1.4) で計算した ∫xp Wψprod dx dp\int xp\,W^{\mathrm{prod}}_\psi\,\mathrm{d} x\,\mathrm{d} p と比べよ。
解答

(1) ∣ψ∣2=(2πσ2)−1/2e−x2/(2σ2)\lvert \psi\rvert ^2=(2\pi\sigma^2)^{-1/2}\mathrm{e}^{-x^2/(2\sigma^2)} は分散 σ2\sigma^2 の正規分布なので ⟨x^2⟩=σ2\langle \hat x^2 \rangle =\sigma^2。p^ψ=−iℏψ′\hat p\psi=-\mathrm{i}\hbar\psi' を計算すると

p^ψ=−iℏ(−x2σ2+2iκx)ψ=(iℏ2σ2+2ℏκ)x ψ.\hat p\psi=-\mathrm{i}\hbar\Bigl(-\frac{x}{2\sigma^2}+2\mathrm{i}\kappa x\Bigr)\psi=\Bigl(\frac{\mathrm{i}\hbar}{2\sigma^2}+2\hbar\kappa\Bigr)x\,\psi .

よって ⟨p^2⟩=∫∣p^ψ∣2dx=(ℏ2/(4σ4)+4ℏ2κ2)σ2=ℏ2/(4σ2)+4ℏ2κ2σ2\langle \hat p^2 \rangle =\int\lvert \hat p\psi\rvert ^2\mathrm{d} x=\bigl(\hbar^2/(4\sigma^4)+4\hbar^2\kappa^2\bigr)\sigma^2=\hbar^2/(4\sigma^2)+4\hbar^2\kappa^2\sigma^2。

(2) 上の式から ⟨x^p^⟩=∫ψ∗x p^ψ dx=(iℏ/(2σ2)+2ℏκ)σ2=iℏ/2+2ℏκσ2\langle \hat x\hat p \rangle =\int\psi^*x\,\hat p\psi\,\mathrm{d} x=\bigl(\mathrm{i}\hbar/(2\sigma^2)+2\hbar\kappa\bigr)\sigma^2=\mathrm{i}\hbar/2+2\hbar\kappa\sigma^2。p^x^=x^p^−iℏ\hat p\hat x=\hat x\hat p-\mathrm{i}\hbar なので ⟨p^x^⟩=−iℏ/2+2ℏκσ2\langle \hat p\hat x \rangle =-\mathrm{i}\hbar/2+2\hbar\kappa\sigma^2。平均を取って

C=2ℏκσ2.C=2\hbar\kappa\sigma^2 .

κ>0\kappa>0 なら、右にいる粒子ほど正の運動量を持つ傾向がある。

(3) WψprodW^{\mathrm{prod}}_\psi は xx の関数と pp の関数の積で、∣φ(p)∣2\lvert \varphi(p)\rvert ^2 は偶関数なので∫xp Wψprod dx dp=⟨x⟩⟨p⟩=0\int xp\,W^{\mathrm{prod}}_\psi\,\mathrm{d} x\,\mathrm{d} p=\langle x \rangle \langle p \rangle =0 になる。κ≠0\kappa\ne0 なら正しい値 2ℏκσ22\hbar\kappa\sigma^2 と食い違う。自由粒子の波束は時間が経つとこの形のチャープを持つようになる(共通例題③)ので、積の候補では自由な広がりすら正しく書けない。

非負の要請は他と両立しない

積の候補が失敗したのは (W2) を満たさないからだった。では (W1)〜(W4) を満たしたうえで (W5) も満たす規則はあるか。答えは否で、(W2)(W3)(W5) の3つだけで矛盾が出る。

定理 5.1.2(非負で双線形な同時分布は無い ★★★)

純粋状態 ψ\psi に ψ\psi の双線形な式で Wψ(x,p)W_\psi(x,p) を対応させる規則で、(W3) と (W5) をすべての ψ\psi について満たすものは存在しない。

証明

そのような規則があったとする。xx の上で互いに重ならない区間 I1I_1、I2I_2 を取り、ψ1\psi_1 は I1I_1 の外で、ψ2\psi_2 は I2I_2 の外で 00 になる規格化された波動関数とする。複素数 c1,c2c_1,c_2 で ψ=c1ψ1+c2ψ2\psi=c_1\psi_1+c_2\psi_2 と置くと、双線形性から

Wψ=∣c1∣2W1+∣c2∣2W2+c1c2∗W12+c1∗c2W21W_\psi=\lvert c_1\rvert ^2W_1+\lvert c_2\rvert ^2W_2+c_1c_2^*W_{12}+c_1^*c_2W_{21}

と書ける。W1=Wψ1W_1=W_{\psi_1}、W2=Wψ2W_2=W_{\psi_2} で、W12W_{12}・W21W_{21} は ψ1\psi_1 と ψ2\psi_2 の交差の項である。各点 (x,p)(x,p) で、これは (c1,c2)(c_1,c_2) についての Hermite 形式で、(W5) からその値はつねに 00 以上である。つまり 2×22\times2 行列 (W1W12W21W2)\begin{pmatrix}W_1&W_{12}\\W_{21}&W_2\end{pmatrix} が各点で半正定値になる。

x∉I2x\notin I_2 の点を考える。(W3) から ∫W2 dp=∣ψ2(x)∣2=0\int W_2\,\mathrm{d} p=\lvert \psi_2(x)\rvert ^2=0 で、(W5) から W2≥0W_2\ge0 なので、ほとんどすべての pp で W2(x,p)=0W_2(x,p)=0 である。半正定値の 2×22\times2 行列の対角成分が 00 なら、その行と列の非対角成分も 00 になる(∣W12∣2≤W1W2\lvert W_{12}\rvert ^2\le W_1W_2)。したがって x∉I2x\notin I_2 で W12=W21=0W_{12}=W_{21}=0。同じ議論を x∉I1x\notin I_1 に使えば、I1I_1 と I2I_2 は重ならないので、すべての xx で W12=W21=0W_{12}=W_{21}=0 となる。

すると Wψ=∣c1∣2W1+∣c2∣2W2W_\psi=\lvert c_1\rvert ^2W_1+\lvert c_2\rvert ^2W_2 で、xx について積分すると (W3) から

∣φ(p)∣2=∣c1∣2∣φ1(p)∣2+∣c2∣2∣φ2(p)∣2\lvert \varphi(p)\rvert ^2=\lvert c_1\rvert ^2\lvert \varphi_1(p)\rvert ^2+\lvert c_2\rvert ^2\lvert \varphi_2(p)\rvert ^2

となるはずである。しかし実際の運動量分布は ∣c1φ1+c2φ2∣2\lvert c_1\varphi_1+c_2\varphi_2\rvert ^2 で、干渉項 2Re⁡(c1c2∗φ1φ2∗)2\operatorname{Re}(c_1c_2^*\varphi_1\varphi_2^*) を含む。2つの波束が離れた場所にあると φ1φ2∗\varphi_1\varphi_2^* は pp について振動し、一般には 00 でない(二重スリットの縞がこれである)。これは矛盾である。

この定理から、位相空間の構成は出発点で要請のどれかを諦めなければならない。Wigner は (W1)〜(W4) を残して (W5) を捨て、その結果 WW は負の値も取る「準確率分布」になる。(W5) を残して (W3) を捨てる道もあり、Husimi の QQ 関数がそれに当たる(第5部第6章)。どちらを選んでも、古典の分布と同じ性質をすべて持つ関数は作れない。上の証明の要は、重ね合わせの干渉項が運動量の周辺分布に現れることにある。このあたりの議論は Wigner 自身が後年まとめている(E. P. Wigner (1971)、“Quantum-mechanical distribution functions revisited”、Perspectives in Quantum Theory(W. Yourgrau・A. van der Merwe 編)、MIT Press、25 頁以降)。

木下の勉強ステータス

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