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電子と正孔:Fermi の海を真空に取り直す

2026年10月17日7分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第6部 第4章 物性の言葉:フォノン・マグノン・フォトン・電子と正孔・Hubbard 模型
目次
  1. 粒子と正孔の変換
  2. 正孔の量子数
  3. 真空の選び方は表示の選び方
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第6部 第4章 §6.4.3 ★★★ 詰まった準位の消滅演算子を生成演算子と読み替えると、Fermi の海が新しい真空になり、正の電荷と正の質量を持つ正孔が現れる

粒子と正孔の変換

相互作用の無い電子の1粒子の準位 εk\varepsilon _k(スピンなどの添字も kk に含める)にフェルミ粒子の演算子 c^k\hat c_k を置く。電子 NN 個の基底状態は、下から NN 個の準位を埋めた

∣FS⟩=∏εk<μc^k†∣0⟩| \mathrm{FS} \rangle =\prod_{\varepsilon _k<\mu}\hat c_k^\dagger| 0 \rangle

である(μ\mu は最後に埋めた準位と最初の空いた準位の間に取った化学ポテンシャル)。第2章で示したとおり、これは基準の言葉では Slater 行列式1つである。

∣FS⟩| \mathrm{FS} \rangle は真空 ∣0⟩| 0 \rangle から見ると NN 個の粒子を含む複雑な状態だが、詰まった準位を「穴があいていない」と見れば、何も励起されていない状態である。そこで

d^k†≔c^k(εk<μ),空いた準位 (εk>μ) はそのまま c^k(6.4.10)\hat d_k^\dagger\coloneqq\hat c_k\quad(\varepsilon _k<\mu),\qquad\text{空いた準位 }(\varepsilon _k>\mu)\text{ はそのまま }\hat c_k\tag{6.4.10}

と定義し直す。{d^k,d^k′†}+={c^k†,c^k′}+=δkk′\{\hat d_k,\hat d_{k'}^\dagger\}_+=\{\hat c_k^\dagger,\hat c_{k'}\}_+=\delta_{kk'} なので、新しい組も反交換関係を満たす。そして d^k∣FS⟩=c^k†∣FS⟩=0\hat d_k| \mathrm{FS} \rangle =\hat c_k^\dagger| \mathrm{FS} \rangle =0(詰まった準位にもう1個は入れない)、c^k∣FS⟩=0\hat c_k| \mathrm{FS} \rangle =0(空いた準位からは取れない)なので、∣FS⟩| \mathrm{FS} \rangle は新しい組の真空である。d^k†\hat d_k^\dagger が作る励起を正孔と呼ぶ。

ハミルトニアンも新しい組で書き直す。詰まった準位では c^k†c^k=1−d^k†d^k\hat c_k^\dagger\hat c_k=1-\hat d_k^\dagger\hat d_k なので

H^−μN^=∑k(εk−μ)c^k†c^k=EFS−μN+∑εk>μ(εk−μ) c^k†c^k+∑εk<μ(μ−εk) d^k†d^k(6.4.11)\hat H-\mu\hat N=\sum_k(\varepsilon _k-\mu)\hat c_k^\dagger\hat c_k =E_{\mathrm{FS}}-\mu N+\sum_{\varepsilon _k>\mu}(\varepsilon _k-\mu)\,\hat c_k^\dagger\hat c_k+\sum_{\varepsilon _k<\mu}(\mu-\varepsilon _k)\,\hat d_k^\dagger\hat d_k\tag{6.4.11}

になる(EFS=∑εk<μεkE_{\mathrm{FS}}=\sum_{\varepsilon _k<\mu}\varepsilon _k)。右辺の2つの和の係数はどちらも正で、電子を足しても正孔を作っても、∣FS⟩| \mathrm{FS} \rangle からエネルギーが上がる。∣FS⟩| \mathrm{FS} \rangle が新しい真空になったことは、ハミルトニアンの言葉では「励起のエネルギーがすべて正になった」ことに当たる。

図

図 6.4.2 Fermi の海 ∣FS⟩| \mathrm{FS} \rangle を真空に取ったときの電子と正孔の対の励起 c^k′†d^k†∣FS⟩=c^k′†c^k∣FS⟩\hat c_{k'}^\dagger\hat d_k^\dagger| \mathrm{FS} \rangle =\hat c_{k'}^\dagger\hat c_k| \mathrm{FS} \rangle。青い点は詰まった準位、白抜きの点が正孔、赤い点が μ\mu より上に移った電子である。励起のエネルギーは (εk′−μ)+(μ−εk)=εk′−εk>0(\varepsilon _{k'}-\mu)+(\mu-\varepsilon _k)=\varepsilon _{k'}-\varepsilon _k>0 である。

正孔の量子数

詰まった準位 kk から電子を1個取り除くと、系の全体の量子数から電子1個分が引かれる。結晶運動量 ℏk\hbar\bm{k}・スピンの zz 成分 σ\sigma・電荷 −e-e の電子を取り除いた状態は、基底状態から見て結晶運動量 −ℏk-\hbar\bm{k}・スピン −σ-\sigma・電荷 +e+e だけずれている。したがって d^kσ†\hat d_{\bm{k}\sigma}^\dagger が作る正孔は、運動量 −ℏk-\hbar\bm{k}、スピン −σ-\sigma、電荷 +e+e、エネルギー μ−εk\mu-\varepsilon _{\bm{k}} を持つ粒子として振る舞う。

電流についても同じ読み替えができる。電子の群速度を vk=ℏ−1∇kεk\bm{v}_{\bm{k}}=\hbar^{-1}\nabla_{\bm{k}}\varepsilon _{\bm{k}} とすると、満ちたバンドの電流は −e∑全部vk=0-e\sum_{\text{全部}}\bm{v}_{\bm{k}}=0 である(εk=ε−k\varepsilon _{\bm{k}}=\varepsilon _{-\bm{k}} なので v−k=−vk\bm{v}_{-\bm{k}}=-\bm{v}_{\bm{k}})。電子が1個 k0\bm{k}_0 から抜けると、電流は −e(∑vk−vk0)=+evk0-e(\sum\bm{v}_{\bm{k}}-\bm{v}_{\bm{k}_0})=+e\bm{v}_{\bm{k}_0} になる。これは、電荷 +e+e の粒子が「抜けた電子と同じ速度」で動いているのと同じである。

正孔の言葉が便利なのは、バンドの上端の近くに少数の穴があるときである。上端では εk\varepsilon _{\bm{k}} が上に凸なので、電子の有効質量は負になる。正孔のエネルギー μ−εk\mu-\varepsilon _{\bm{k}} は下に凸なので、正孔の質量は正になる。共通例題③の自由粒子の伝播と波束の広がりは、バンドの底の電子にも上端の正孔にも、質量を有効質量に置き換えてそのまま当てはまる(第3部第3章)。

例題 6.4.4 1次元のバンドの上端の正孔 ★★

オリジナル格子定数 aa の1次元の鎖で、1電子のバンドが εk=−2tcos⁡(ka)\varepsilon _k=-2t\cos(ka)(ホッピング t>0t>0)である。バンドがほぼ詰まり、上端の近くに正孔が少しある。

  1. (1) 上端 k=π/ak=\pi/a の近くで εk\varepsilon _k を展開し、電子の有効質量 m∗m^* と、正孔のエネルギー εh(q)=εtop−εk\varepsilon _{\mathrm h}(q)=\varepsilon _{\mathrm{top}}-\varepsilon _k の質量 mhm_{\mathrm h} を求めよ(q=k−π/aq=k-\pi/a)。
  2. (2) t=1 eVt=1\ \mathrm{eV}、a=0.3 nma=0.3\ \mathrm{nm} のとき mhm_{\mathrm h} を電子の質量 mem_{\mathrm e} を単位にして求めよ。
解答

(1) cos⁡(π+qa)=−cos⁡(qa)≈−1+(qa)2/2\cos(\pi+qa)=-\cos(qa)\approx-1+(qa)^2/2 なので、εk≈2t−ta2q2\varepsilon _k\approx2t-ta^2q^2 である。有効質量は m∗=ℏ2/(∂2ε/∂k2)=−ℏ2/(2ta2)m^*=\hbar^2/(\partial^2\varepsilon /\partial k^2)=-\hbar^2/(2ta^2) で負になる。正孔のエネルギーは εh(q)=2t−εk≈ta2q2=ℏ2q2/(2mh)\varepsilon _{\mathrm h}(q)=2t-\varepsilon _k\approx ta^2q^2=\hbar^2q^2/(2m_{\mathrm h}) で、mh=ℏ2/(2ta2)m_{\mathrm h}=\hbar^2/(2ta^2) と正になる。バンドの底 k=0k=0 の電子の有効質量も ℏ2/(2ta2)\hbar^2/(2ta^2) で、このバンドでは底の電子と上端の正孔が同じ大きさの質量を持つ。

(2) ℏ2/(2ta2)=(1.0546×10−34)2/(2×1.602×10−19×(3×10−10)2) kg=3.86×10−31 kg\hbar^2/(2ta^2)=(1.0546\times10^{-34})^2/(2\times1.602\times10^{-19}\times(3\times10^{-10})^2)\ \mathrm{kg}=3.86\times10^{-31}\ \mathrm{kg} で、mh=0.423 mem_{\mathrm h}=0.423\,m_{\mathrm e} である(verify_ch6-04.py)。半導体の価電子帯の正孔の質量が電子の質量の数分の1から同程度の大きさになるのは、バンドの幅が数 eV、格子定数が 0.3 nm 程度だからである。

真空の選び方は表示の選び方

同じ電子系に対して、真空を ∣0⟩| 0 \rangle(電子が1個も無い)に取るか ∣FS⟩| \mathrm{FS} \rangle に取るかは、物理の内容を変えない書き換えである。ではなぜ ∣FS⟩| \mathrm{FS} \rangle を選ぶのかというと、低いエネルギーの励起が少数の c^†\hat c^\dagger・d^†\hat d^\dagger で書けるからである。∣0⟩| 0 \rangle を真空にすると、Fermi の海の上の1個の励起でさえ N+1N+1 個の生成演算子の積になる。

この選び方は、量子物理工学の講義で「ハミルトニアンの一番大きい項の固有状態で表示する」と言われたことの第二量子化での形である。運動エネルギー(バンド)が一番大きいなら、その固有状態の Fermi の海を真空に取り、残りを電子と正孔の言葉で書く。Coulomb 反発が運動エネルギーと同じくらい大きいときは、どの状態を真空に取るべきかがはっきりしなくなる(次の節)。基準の言葉で表示の選び方を述べたものは 第1部第3章にある。

木下の勉強ステータス

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