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マグノン:スピンの向きの乱れをボース粒子として数える

2026年10月17日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第6部 第4章 物性の言葉:フォノン・マグノン・フォトン・電子と正孔・Hubbard 模型
目次
  1. スピンをボース粒子に写す
  2. 強磁性の鎖と1マグノンの状態
  3. 共通例題②:スピン は個数が 0 か 1 のボース粒子
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第6部 第4章 §6.4.2 ★★★ Holstein–Primakoff 変換はスピンの代数を個数の上限つきのボース粒子に写し、全部そろった状態を真空とする第二量子化を作る

スピンをボース粒子に写す

フォノンとフォトンは初めから調和振動子だったが、スピンは調和振動子ではない。スピン SS の状態は S^z\hat S^z の固有値 S,S−1,…,−SS,S-1,\dots,-S の 2S+12S+1 個しか無く、交換関係も [S^+, S^−]=2S^z\left[\hat S^+,\,\hat S^-\right]=2\hat S^z で、[a^, a^†]=1\left[\hat a,\,\hat a^\dagger\right]=1 とは違う。それでも、全部のスピンが上を向いた状態から測って「何段下がっているか」を個数と見なせば、ボース粒子の言葉で書ける。T. Holstein と H. Primakoff が強磁性体の磁化の解析に使った変換である(T. Holstein and H. Primakoff (1940), Phys. Rev. 58, 1098)。

1つのサイトに、ボースの演算子 b^,b^†\hat b,\hat b^\dagger([b^, b^†]=1\left[\hat b,\,\hat b^\dagger\right]=1、n^=b^†b^\hat n=\hat b^\dagger\hat b)を置き、

S^z=S−n^,S^+=2S−n^  b^,S^−=b^†2S−n^(6.4.5)\hat S^z=S-\hat n,\qquad\hat S^+=\sqrt{2S-\hat n}\;\hat b,\qquad\hat S^-=\hat b^\dagger\sqrt{2S-\hat n}\tag{6.4.5}

とおく。n^\hat n の固有値は 0,1,2,…0,1,2,\dots だが、使うのは n≤2Sn\le2S の 2S+12S+1 個の状態だけである。

命題 6.4.2(Holstein–Primakoff 変換 ★★★)

n≤2Sn\le2S の状態が張る 2S+12S+1 次元の部分空間は (6.4.5) の3つの演算子で閉じ、その上で [S^z, S^±]=±S^±\left[\hat S^z,\,\hat S^\pm\right]=\pm\hat S^\pm、[S^+, S^−]=2S^z\left[\hat S^+,\,\hat S^-\right]=2\hat S^z が成り立つ。したがってこの部分空間はスピン SS の表現と同じものである。

証明

関数 ff について b^f(n^)=f(n^+1)b^\hat bf(\hat n)=f(\hat n+1)\hat b、b^†f(n^)=f(n^−1)b^†\hat b^\dagger f(\hat n)=f(\hat n-1)\hat b^\dagger が成り立つ(n^\hat n の固有状態に当てて確かめられる)。S^−\hat S^- は n=2Sn=2S の状態に 2S−2S=0\sqrt{2S-2S}=0 を掛けてから b^†\hat b^\dagger を当てるので、n=2S+1n=2S+1 には出ていかない。S^+\hat S^+ と S^z\hat S^z は nn を増やさない。よって部分空間は閉じる。S^z\hat S^z との交換子は、S^+\hat S^+ が nn を1減らすことから [S^z, S^+]=S^+\left[\hat S^z,\,\hat S^+\right]=\hat S^+ である。次に

S^+S^−=2S−n^ b^b^†2S−n^=(2S−n^)(n^+1),S^−S^+=b^†(2S−n^)b^=(2S−n^+1)n^\hat S^+\hat S^-=\sqrt{2S-\hat n}\,\hat b\hat b^\dagger\sqrt{2S-\hat n}=(2S-\hat n)(\hat n+1),\qquad \hat S^-\hat S^+=\hat b^\dagger(2S-\hat n)\hat b=(2S-\hat n+1)\hat n

で(第2式は b^†f(n^)b^=f(n^−1)n^\hat b^\dagger f(\hat n)\hat b=f(\hat n-1)\hat n を使った)、差は 2S−2n^=2S^z2S-2\hat n=2\hat S^z になる。

(6.4.5) の平方根のため、ボース粒子どうしは「1つのサイトに 2S2S 個までしか入れない」という制約を持つ。平方根を 2S\sqrt{2S} で置き換えると、スピンは調和振動子そのもの(S^+≈2S b^\hat S^+\approx\sqrt{2S}\,\hat b)になる。これが線形スピン波の近似で、⟨n^⟩≪2S\langle \hat n \rangle \ll2S(スピンがほとんどそろっている、またはスピンが大きい)ときに正しい。

強磁性の鎖と1マグノンの状態

NsN_{\mathrm s} 個のサイトの輪(Ns+1N_{\mathrm s}+1 番目は1番目)に並んだスピン SS の Heisenberg 模型

H^=J∑j=1NsS^j⋅S^j+1=J∑j[S^jzS^j+1z+12(S^j+S^j+1−+S^j−S^j+1+)],J<0(6.4.6)\hat H=J\sum_{j=1}^{N_{\mathrm s}}\hat{\bm{S}}_j\cdot\hat{\bm{S}}_{j+1} =J\sum_{j}\Bigl[\hat S_j^z\hat S_{j+1}^z+\frac12\bigl(\hat S_j^+\hat S_{j+1}^-+\hat S_j^-\hat S_{j+1}^+\bigr)\Bigr],\qquad J<0\tag{6.4.6}

を考える。J<0J<0 が強磁性で、隣どうしのスピンがそろうとエネルギーが下がる(記法の正本の流儀で J>0J>0 が反強磁性)。全部のスピンが上を向いた状態 ∣F⟩| F \rangle では S^j+\hat S_j^+ が 0 を返すので、H^∣F⟩=JNsS2∣F⟩\hat H| F \rangle =JN_{\mathrm s}S^2| F \rangle で、これが基底状態である(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部第3章)。

∣F⟩| F \rangle を真空に取り、各サイトに (6.4.5) のボースの演算子 b^j\hat b_j を置く。線形スピン波の近似で S^j+≈2Sb^j\hat S_j^+\approx\sqrt{2S}\hat b_j、S^jz=S−n^j\hat S_j^z=S-\hat n_j を入れ、n^jn^j+1\hat n_j\hat n_{j+1}(ボースの4次)を落とすと

S^j⋅S^j+1≈S2−S(n^j+n^j+1)+S(b^jb^j+1†+b^j†b^j+1)\hat{\bm{S}}_j\cdot\hat{\bm{S}}_{j+1}\approx S^2-S(\hat n_j+\hat n_{j+1})+S\bigl(\hat b_j\hat b_{j+1}^\dagger+\hat b_j^\dagger\hat b_{j+1}\bigr)

となり、ハミルトニアンは粒子数を保つ2次形式

H^≈JNsS2+∣J∣S∑j(2n^j−b^j†b^j+1−b^j+1†b^j)(6.4.7)\hat H\approx JN_{\mathrm s}S^2+\lvert J\rvert S\sum_j\bigl(2\hat n_j-\hat b_j^\dagger\hat b_{j+1}-\hat b_{j+1}^\dagger\hat b_j\bigr)\tag{6.4.7}

になる。1粒子の行列は輪の上のホッピングの行列なので、命題 6.4.1 の UU は Fourier 変換 b^k=Ns−1/2∑je−ikjab^j\hat b_k=N_{\mathrm s}^{-1/2}\sum_j\mathrm{e}^{-\mathrm{i} kja}\hat b_j(k=2πm/(Nsa)k=2\pi m/(N_{\mathrm s}a)、aa は格子定数)で、

H^≈JNsS2+∑kℏωk b^k†b^k,ℏωk=2∣J∣S(1−cos⁡ka)(6.4.8)\hat H\approx JN_{\mathrm s}S^2+\sum_k\hbar\omega_k\,\hat b_k^\dagger\hat b_k,\qquad\hbar\omega_k=2\lvert J\rvert S\bigl(1-\cos ka\bigr)\tag{6.4.8}

を得る。b^k†\hat b_k^\dagger が作る素励起がマグノン(スピン波の量子)である。長波長では ℏωk≈∣J∣Sa2k2\hbar\omega_k\approx\lvert J\rvert Sa^2k^2 で、質量 ℏ2/(2∣J∣Sa2)\hbar^2/(2\lvert J\rvert Sa^2) の自由粒子のように振る舞う。

この近似は、マグノンが1個の部分空間では近似でなく厳密である。

命題 6.4.3(1マグノンの状態は厳密な固有状態 ★★★)

∣k⟩=b^k†∣F⟩=(2SNs)−1/2∑jeikjaS^j−∣F⟩| k \rangle =\hat b_k^\dagger| F \rangle =(2SN_{\mathrm s})^{-1/2}\sum_j\mathrm{e}^{\mathrm{i} kja}\hat S_j^-| F \rangle は (6.4.6) の厳密な固有状態で、固有値は JNsS2+2∣J∣S(1−cos⁡ka)JN_{\mathrm s}S^2+2\lvert J\rvert S(1-\cos ka) である。

証明

全マグノン数 ∑jn^j=NsS−∑jS^jz\sum_j\hat n_j=N_{\mathrm s}S-\sum_j\hat S_j^z は H^\hat H と交換するので(H^\hat H は全スピンの回転で不変)、マグノン1個の部分空間は H^\hat H で閉じる。この部分空間では各サイトの njn_j は 0 か 1 で、しかも2つのサイトが同時に 1 になることはない。S^j+=2S−n^jb^j\hat S_j^+=\sqrt{2S-\hat n_j}\hat b_j は nj=1n_j=1 の状態にしか 0 でない値を返さず、そのとき 2S−0\sqrt{2S-0} を掛ける。S^j−=b^j†2S−n^j\hat S_j^-=\hat b_j^\dagger\sqrt{2S-\hat n_j} は nj=0n_j=0 の状態にだけ当たり 2S\sqrt{2S} を掛ける。したがってこの部分空間の上で S^j±=2Sb^j,2Sb^j†\hat S_j^\pm=\sqrt{2S}\hat b_j,\sqrt{2S}\hat b_j^\dagger が厳密に成り立ち、落とした n^jn^j+1\hat n_j\hat n_{j+1} も 0 である。よって (6.4.7) は1マグノンの部分空間で厳密であり、その固有値が (6.4.8) の ℏωk\hbar\omega_k を足したものになる。

マグノンが2個以上になると、平方根と n^jn^j+1\hat n_j\hat n_{j+1} の項がマグノンどうしの相互作用として残り、(6.4.8) は近似になる。図 6.4.1 に S=12S=\frac12 の分散と、Ns=8N_{\mathrm s}=8 のスピンの輪を厳密対角化して得た1マグノンの準位を並べた。

図

図 6.4.1 スピン S=12S=\frac12 の強磁性の鎖のマグノンの分散。点線が (6.4.8)(1マグノンでは厳密)、実線が長波長の近似 ∣J∣S(ka)2\lvert J\rvert S(ka)^2、赤い点が Ns=8N_{\mathrm s}=8 の輪を厳密対角化して得た1マグノンの準位(ka=2πm/8ka=2\pi m/8。mm と 8−m8-m は同じ値)。座標は verify_ch6-04.py で計算した。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの マグノンの密度 ⟨n^j⟩/(2S)→0\langle \hat n_j \rangle /(2S)\to0(低温、または 1/S→01/S\to0)。線形スピン波 | 証明 条件付き(1マグノンの部分空間では厳密。3次元の量子 Heisenberg 強磁性体の低温の自由エネルギーの主要項がスピン波の値になることは Correggi–Giuliani–Seiringer(2015)が証明。自発磁化そのものは未解決) | 行き先 近似の数理 第13章

共通例題②:スピン 12\frac12 は個数が 0 か 1 のボース粒子

S=12S=\frac12 では (6.4.5) の部分空間は n=0,1n=0,1 の2次元で、S^z=12−n^\hat S^z=\frac12-\hat n、S^+=b^\hat S^+=\hat b、S^−=b^†\hat S^-=\hat b^\dagger(この2次元の上で)になる。これは個数が 0 か 1 に限られたボース粒子(ハードコア・ボース粒子)である。共通例題②の2準位系 H^=−(ℏΔ/2)σz−(ℏΩ/2)σx\hat H=-(\hbar\Delta/2)\sigma_z-(\hbar\Omega/2)\sigma_x は、σ=2S^\sigma=2\hat{\bm{S}} を通して

H^=−ℏΔ(12−n^)−ℏΩ2(1−n^ b^+b^†1−n^)(6.4.9)\hat H=-\hbar\Delta\Bigl(\frac12-\hat n\Bigr)-\frac{\hbar\Omega}{2}\Bigl(\sqrt{1-\hat n}\,\hat b+\hat b^\dagger\sqrt{1-\hat n}\Bigr)\tag{6.4.9}

と書ける。σz=+1\sigma_z=+1 の ∣e⟩| e \rangle はマグノンの真空 n=0n=0、∣g⟩| g \rangle はマグノン1個 n=1n=1 である。この2次元の上の行列は第1部第2章の行列と同じなので、∣g⟩| g \rangle から出発した Pe(t)=(Ω/Ω′)2sin⁡2(Ω′t/2)P_e(t)=(\Omega/\Omega')^2\sin^2(\Omega't/2)(Ω′=Ω2+Δ2\Omega'=\sqrt{\Omega^2+\Delta^2})がそのまま出る(第1部第2章)。磁場の中の電子スピンの磁気共鳴は、この意味で「マグノンが1個できたり消えたりする Rabi 振動」と読める。

例題 6.4.3 線形スピン波は Rabi 振動の始まりしか再現しない ★★★

オリジナルΔ=0\Delta=0 の (6.4.9) で、時刻 0 にマグノンの真空 ∣e⟩| e \rangle を用意する。

  1. (1) 厳密なマグノンの平均個数 ⟨n^⟩(t)\langle \hat n \rangle (t) を求めよ。
  2. (2) 平方根を 11 に置き換えた線形の近似 H^lin=−(ℏΩ/2)(b^+b^†)\hat H_{\mathrm{lin}}=-(\hbar\Omega/2)(\hat b+\hat b^\dagger) で、⟨n^⟩(t)\langle \hat n \rangle (t) を Heisenberg 方程式から求めよ。
  3. (3) 2つが一致する範囲を述べ、Ωt=π\Omega t=\pi での値を比べよ。
解答

(1) ⟨n^⟩\langle \hat n \rangle は ∣g⟩| g \rangle にいる確率で、Δ=0\Delta=0 の Rabi 振動から ⟨n^⟩(t)=sin⁡2(Ωt/2)\langle \hat n \rangle (t)=\sin^2(\Omega t/2) である。

(2) iℏ db^H/dt=[b^H, H^lin]=−(ℏΩ/2)[b^, b^†]=−ℏΩ/2\mathrm{i}\hbar\,\mathrm{d}\hat b_{\mathrm H}/\mathrm{d} t=\left[\hat b_{\mathrm H},\,\hat H_{\mathrm{lin}}\right]=-(\hbar\Omega/2)\left[\hat b,\,\hat b^\dagger\right]=-\hbar\Omega/2 なので b^H(t)=b^+iΩt/2\hat b_{\mathrm H}(t)=\hat b+\mathrm{i}\Omega t/2 である。真空での期待値は ⟨n^⟩(t)=⟨b^H†b^H⟩=(Ωt/2)2\langle \hat n \rangle (t)=\langle \hat b_{\mathrm H}^\dagger\hat b_{\mathrm H} \rangle =(\Omega t/2)^2 になる。状態は振幅 iΩt/2\mathrm{i}\Omega t/2 のコヒーレント状態で、個数は際限なく増える。

(3) sin⁡2(Ωt/2)=(Ωt/2)2−13(Ωt/2)4+⋯\sin^2(\Omega t/2)=(\Omega t/2)^2-\frac13(\Omega t/2)^4+\cdots なので、2つは ⟨n^⟩≪1\langle \hat n \rangle \ll1 の間だけ一致する。Ωt=0.2\Omega t=0.2 では相対的な差は 0.4%0.4\% 以下である。Ωt=π\Omega t=\pi では厳密な値は 11(完全に反転して止まる)、線形の近似は (π/2)2=2.47(\pi/2)^2=2.47 で、マグノンが 2S=12S=1 個までしか入らないという制約を線形の近似が忘れていることが分かる。多数のスピンの系で線形スピン波が使えるのは、マグノンが多数のサイトに薄く広がり、各サイトの ⟨n^j⟩\langle \hat n_j \rangle が 2S2S に比べて小さいときである。

木下の勉強ステータス

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