量子力学の様々な構成方法 第6部 第4章 §6.4.2 ★★★ Holstein–Primakoff 変換はスピンの代数を個数の上限つきのボース粒子に写し、全部そろった状態を真空とする第二量子化を作る
スピンをボース粒子に写す
フォノンとフォトンは初めから調和振動子だったが、スピンは調和振動子ではない。スピン S の状態は S^z の固有値 S,S−1,…,−S の 2S+1 個しか無く、交換関係も [S^+,S^−]=2S^z で、[a^,a^†]=1 とは違う。それでも、全部のスピンが上を向いた状態から測って「何段下がっているか」を個数と見なせば、ボース粒子の言葉で書ける。T. Holstein と H. Primakoff が強磁性体の磁化の解析に使った変換である(T. Holstein and H. Primakoff (1940), Phys. Rev. 58, 1098)。
1つのサイトに、ボースの演算子 b^,b^†([b^,b^†]=1、n^=b^†b^)を置き、
S^z=S−n^,S^+=2S−n^b^,S^−=b^†2S−n^(6.4.5)
とおく。n^ の固有値は 0,1,2,… だが、使うのは n≤2S の 2S+1 個の状態だけである。
命題 6.4.2(Holstein–Primakoff 変換 ★★★)
n≤2S の状態が張る 2S+1 次元の部分空間は (6.4.5) の3つの演算子で閉じ、その上で [S^z,S^±]=±S^±、[S^+,S^−]=2S^z が成り立つ。したがってこの部分空間はスピン S の表現と同じものである。
証明
関数 f について b^f(n^)=f(n^+1)b^、b^†f(n^)=f(n^−1)b^† が成り立つ(n^ の固有状態に当てて確かめられる)。S^− は n=2S の状態に 2S−2S=0 を掛けてから b^† を当てるので、n=2S+1 には出ていかない。S^+ と S^z は n を増やさない。よって部分空間は閉じる。S^z との交換子は、S^+ が n を1減らすことから [S^z,S^+]=S^+ である。次に
S^+S^−=2S−n^b^b^†2S−n^=(2S−n^)(n^+1),S^−S^+=b^†(2S−n^)b^=(2S−n^+1)n^
で(第2式は b^†f(n^)b^=f(n^−1)n^ を使った)、差は 2S−2n^=2S^z になる。
(6.4.5) の平方根のため、ボース粒子どうしは「1つのサイトに 2S 個までしか入れない」という制約を持つ。平方根を 2S で置き換えると、スピンは調和振動子そのもの(S^+≈2Sb^)になる。これが線形スピン波の近似で、⟨n^⟩≪2S(スピンがほとんどそろっている、またはスピンが大きい)ときに正しい。
強磁性の鎖と1マグノンの状態
Ns 個のサイトの輪(Ns+1 番目は1番目)に並んだスピン S の Heisenberg 模型
H^=Jj=1∑NsS^j⋅S^j+1=Jj∑[S^jzS^j+1z+21(S^j+S^j+1−+S^j−S^j+1+)],J<0(6.4.6)
を考える。J<0 が強磁性で、隣どうしのスピンがそろうとエネルギーが下がる(記法の正本の流儀で J>0 が反強磁性)。全部のスピンが上を向いた状態 ∣F⟩ では S^j+ が 0 を返すので、H^∣F⟩=JNsS2∣F⟩ で、これが基底状態である(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部第3章)。
∣F⟩ を真空に取り、各サイトに (6.4.5) のボースの演算子 b^j を置く。線形スピン波の近似で S^j+≈2Sb^j、S^jz=S−n^j を入れ、n^jn^j+1(ボースの4次)を落とすと
S^j⋅S^j+1≈S2−S(n^j+n^j+1)+S(b^jb^j+1†+b^j†b^j+1)
となり、ハミルトニアンは粒子数を保つ2次形式
H^≈JNsS2+∣J∣Sj∑(2n^j−b^j†b^j+1−b^j+1†b^j)(6.4.7)
になる。1粒子の行列は輪の上のホッピングの行列なので、命題 6.4.1 の U は Fourier 変換 b^k=Ns−1/2∑je−ikjab^j(k=2πm/(Nsa)、a は格子定数)で、
H^≈JNsS2+k∑ℏωkb^k†b^k,ℏωk=2∣J∣S(1−coska)(6.4.8)
を得る。b^k† が作る素励起がマグノン(スピン波の量子)である。長波長では ℏωk≈∣J∣Sa2k2 で、質量 ℏ2/(2∣J∣Sa2) の自由粒子のように振る舞う。
この近似は、マグノンが1個の部分空間では近似でなく厳密である。
命題 6.4.3(1マグノンの状態は厳密な固有状態 ★★★)
∣k⟩=b^k†∣F⟩=(2SNs)−1/2∑jeikjaS^j−∣F⟩ は (6.4.6) の厳密な固有状態で、固有値は JNsS2+2∣J∣S(1−coska) である。
証明
全マグノン数 ∑jn^j=NsS−∑jS^jz は H^ と交換するので(H^ は全スピンの回転で不変)、マグノン1個の部分空間は H^ で閉じる。この部分空間では各サイトの nj は 0 か 1 で、しかも2つのサイトが同時に 1 になることはない。S^j+=2S−n^jb^j は nj=1 の状態にしか 0 でない値を返さず、そのとき 2S−0 を掛ける。S^j−=b^j†2S−n^j は nj=0 の状態にだけ当たり 2S を掛ける。したがってこの部分空間の上で S^j±=2Sb^j,2Sb^j† が厳密に成り立ち、落とした n^jn^j+1 も 0 である。よって (6.4.7) は1マグノンの部分空間で厳密であり、その固有値が (6.4.8) の ℏωk を足したものになる。
マグノンが2個以上になると、平方根と n^jn^j+1 の項がマグノンどうしの相互作用として残り、(6.4.8) は近似になる。図 6.4.1 に S=21 の分散と、Ns=8 のスピンの輪を厳密対角化して得た1マグノンの準位を並べた。

図 6.4.1 スピン S=21 の強磁性の鎖のマグノンの分散。点線が (6.4.8)(1マグノンでは厳密)、実線が長波長の近似 ∣J∣S(ka)2、赤い点が Ns=8 の輪を厳密対角化して得た1マグノンの準位(ka=2πm/8。m と 8−m は同じ値)。座標は verify_ch6-04.py で計算した。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの マグノンの密度 ⟨n^j⟩/(2S)→0(低温、または 1/S→0)。線形スピン波 | 証明 条件付き(1マグノンの部分空間では厳密。3次元の量子 Heisenberg 強磁性体の低温の自由エネルギーの主要項がスピン波の値になることは Correggi–Giuliani–Seiringer(2015)が証明。自発磁化そのものは未解決) | 行き先 近似の数理 第13章
共通例題②:スピン 21 は個数が 0 か 1 のボース粒子
S=21 では (6.4.5) の部分空間は n=0,1 の2次元で、S^z=21−n^、S^+=b^、S^−=b^†(この2次元の上で)になる。これは個数が 0 か 1 に限られたボース粒子(ハードコア・ボース粒子)である。共通例題②の2準位系 H^=−(ℏΔ/2)σz−(ℏΩ/2)σx は、σ=2S^ を通して
H^=−ℏΔ(21−n^)−2ℏΩ(1−n^b^+b^†1−n^)(6.4.9)
と書ける。σz=+1 の ∣e⟩ はマグノンの真空 n=0、∣g⟩ はマグノン1個 n=1 である。この2次元の上の行列は第1部第2章の行列と同じなので、∣g⟩ から出発した Pe(t)=(Ω/Ω′)2sin2(Ω′t/2)(Ω′=Ω2+Δ2)がそのまま出る(第1部第2章)。磁場の中の電子スピンの磁気共鳴は、この意味で「マグノンが1個できたり消えたりする Rabi 振動」と読める。
例題 6.4.3 線形スピン波は Rabi 振動の始まりしか再現しない ★★★
オリジナルΔ=0 の (6.4.9) で、時刻 0 にマグノンの真空 ∣e⟩ を用意する。
- (1) 厳密なマグノンの平均個数 ⟨n^⟩(t) を求めよ。
- (2) 平方根を 1 に置き換えた線形の近似 H^lin=−(ℏΩ/2)(b^+b^†) で、⟨n^⟩(t) を Heisenberg 方程式から求めよ。
- (3) 2つが一致する範囲を述べ、Ωt=π での値を比べよ。
解答
(1) ⟨n^⟩ は ∣g⟩ にいる確率で、Δ=0 の Rabi 振動から ⟨n^⟩(t)=sin2(Ωt/2) である。
(2) iℏdb^H/dt=[b^H,H^lin]=−(ℏΩ/2)[b^,b^†]=−ℏΩ/2 なので b^H(t)=b^+iΩt/2 である。真空での期待値は ⟨n^⟩(t)=⟨b^H†b^H⟩=(Ωt/2)2 になる。状態は振幅 iΩt/2 のコヒーレント状態で、個数は際限なく増える。
(3) sin2(Ωt/2)=(Ωt/2)2−31(Ωt/2)4+⋯ なので、2つは ⟨n^⟩≪1 の間だけ一致する。Ωt=0.2 では相対的な差は 0.4% 以下である。Ωt=π では厳密な値は 1(完全に反転して止まる)、線形の近似は (π/2)2=2.47 で、マグノンが 2S=1 個までしか入らないという制約を線形の近似が忘れていることが分かる。多数のスピンの系で線形スピン波が使えるのは、マグノンが多数のサイトに薄く広がり、各サイトの ⟨n^j⟩ が 2S に比べて小さいときである。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com