量子力学の様々な構成方法 第6部 第5章 §6.5.2 ★★★ Fock 空間が1粒子空間の直和に対してテンソル積に分かれるので、自由な大正準の状態はモードの積になり、Bose 分布と Fermi 分布が出る
Fock 空間の指数法則
1粒子の正規直交基底 {φα}α=1M を取る(M は有限とし、無限の場合は極限で考える)。第2章の占有数の基底∣n1,…,nM⟩=∏α(a^α†)nα∣0⟩/∏αnα!(フェルミ粒子では nα∈{0,1} で、積の順序は第3章の約束どおり番号の小さいモードを左に置く)はFock 空間の正規直交基底である。
補題 6.5.2(Fock 空間の指数法則)
写像 ∣n1,…,nM⟩↦∣n1⟩⊗⋯⊗∣nM⟩ は、F±(CM) から1モードの Fock 空間の M 個のテンソル積へのユニタリ写像で、各モードの個数演算子 n^α=a^α†a^α を、α 番目の因子だけに働く個数演算子 1⊗⋯⊗n^⊗⋯⊗1 に移す。
証明
正規直交基底を正規直交基底に1対1に移すのでユニタリである。n^α は占有数の基底で対角で、固有値は nα そのものである。フェルミ粒子の場合、c^α を単独で移すと第3章の Jordan–Wigner の文字列(符号)が付くが、n^α=c^α†c^α では符号が2回現れて打ち消し合う。したがって両方の統計で、n^α の像は α 番目の因子の n^ になる。
これは「1粒子空間を直和 CM=C⊕⋯⊕C に分けると、Fock 空間はテンソル積に分かれる」という性質で、指数関数の ea+b=eaeb になぞらえて指数法則と呼ばれる。
分布の定理
定理 6.5.3(自由な大正準の状態は積の状態 ★★★)
H^=∑αεαn^α(第4章の命題で2次形式を対角化した後の形)とし、ボース粒子では μ<minαεα とする。このとき
ρ^G=α⨂Ξαe−β(εα−μ)n^,Ξ=α∏Ξα=α∏(1∓e−β(εα−μ))∓1(6.5.7)
で、平均の占有数は
⟨a^α†a^α′⟩=δαα′eβ(εα−μ)∓11(ボースは nB(εα)、フェルミは f(εα))(6.5.8)
である。異なるモードの占有数は独立で、⟨n^αn^α′⟩=⟨n^α⟩⟨n^α′⟩(α=α′)が成り立つ。
証明
K^=∑α(εα−μ)n^α は互いに可換な項の和なので e−βK^=∏αe−β(εα−μ)n^α で、補題 6.5.2 の写像で各因子は別々のテンソル因子に働く。テンソル積のトレースは各因子のトレースの積なので Ξ=∏αΞα になり、Ξα は例題 6.5.1 の1モードの値 (1−e−yα)−1(ボース)、1+e−yα(フェルミ)である(yα=β(εα−μ))。対角の期待値 ⟨n^α⟩ は α 番目の因子だけの計算になり、例題 6.5.1 の nˉ を与える。非対角 α=α′ では、a^α†a^α′ は占有数の基底の状態を、nα を1増やし nα′ を1減らした別の基底の状態へ移す(フェルミでは符号が付くだけ)。ρ^G はこの基底で対角なので、トレースの対角成分は 0 になる。独立性は積の状態の性質そのものである。
(6.5.8) が Bose 分布と Fermi 分布である。分母の ∓1 の違いは、1つのモードに入れる個数の上限が無いか1か、すなわち交換関係か反交換関係か(第3章)の違いだけで決まっている。eβ(ε−μ)≫1 では両方が e−β(ε−μ) に近づき、粒子が同じモードに重なることがほとんど無くなるので統計の違いが消える。これが Maxwell–Boltzmann 分布の極限である。3つを並べたのが図 6.5.1 である。

図 6.5.1 1つのモードの平均の占有数を y=β(ε−μ) の関数として並べた(点線は厳密な Bose・Fermi 分布、灰色の実線は Maxwell–Boltzmann の近似)。Bose 分布は y→0+ で発散し、Fermi 分布は 1 を超えない。y≳3 では3つがほぼ重なる。
積の対数を展開する:循環の和
(6.5.7) の対数を逃散能 z で展開すると、第2章の置換の和との関係が見える。
命題 6.5.4(循環展開 ★★★)
1粒子の分配関数を Z1(β):=∑αe−βεα とする。ze−βεmin<1 で
lnΞ=ℓ=1∑∞ℓ(±1)ℓ+1zℓZ1(ℓβ)(6.5.9)
が成り立つ。特に Ξ の z2 の係数は Z2±=21[Z1(β)2±Z1(2β)] で、第2章の式(置換の和)と一致する。
証明
(6.5.7) から lnΞ=∓∑αln(1∓ze−βεα) である。∣w∣<1 で −ln(1−w)=∑ℓwℓ/ℓ を使うと、ボースでは ∑α∑ℓzℓe−ℓβεα/ℓ、フェルミでは ln(1+w)=∑ℓ(−1)ℓ+1wℓ/ℓ から符号 (−1)ℓ+1 が付く。α の和を先に取ると ∑αe−ℓβεα=Z1(ℓβ) で、(6.5.9) を得る。Ξ=exp(lnΞ) を z2 まで展開すると 1+zZ1(β)+z2[21Z1(β)2±21Z1(2β)]+O(z3) で、(6.5.3) と比べれば Z2± が読める。
ℓ 番目の項は、第2章で長さ ℓ の巡回置換が与えた Tr(PγA^⊗ℓ)=TrA^ℓ と同じ量である。ℓ 個の粒子が順に入れ替わって輪になると、1粒子が温度 1/ℓ 倍の熱浴にいるのと同じ Z1(ℓβ) を与え、フェルミ粒子では輪の長さが偶数のとき符号が −1 になる。正準の ZN では置換の分解(どの長さの輪がいくつあるか)を全部数える必要があったが、大正準では lnΞ が輪1つずつの和になり、組み合わせの計算が消える。虚時間の経路積分では、この輪は「ℓ 回巻いてから閉じる経路」であり、解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第1章が入れ替えた経路の輪として同じ式を出している。
例題 6.5.2 3つの準位のフェルミ粒子を数え上げる ★★
オリジナルスピンを持たないフェルミ粒子が入る準位が 0, Δε, 2Δε の3つだけある。μ=Δε、βΔε=ln2 とする。
- (1) Fock 空間の8つの基底の状態を書き、Ξ を状態の和で求めよ。定理 6.5.3 の積と一致することを確かめよ。
- (2) 3つの準位の占有数と ⟨N^⟩ を求めよ。
- (3) 粒子数が N=0,1,2,3 である確率を求めよ。
解答
(1) 状態は占有数 (n1,n2,n3)∈{0,1}3 の8つで、重みは e−β∑α(εα−μ)nα である。εα−μ=−Δε,0,+Δε なので、各準位の因子は eβΔε=2、1、e−βΔε=21 で、
Ξ=(000)1+N=12+1+21+N=22⋅1+2⋅21+1⋅21+N=32⋅1⋅21=1+27+27+1=9.
積の公式では (1+2)(1+1)(1+21)=9 で一致する。8項を展開した形が積の展開そのものになっていることが、指数法則の中身である。
(2) f=1/(ey+1) に ey=21,1,2 を入れて f=32, 21, 31、⟨N^⟩=23 である。μ と同じ高さの準位がちょうど半分埋まり、上下が 21 を中心に対称に並ぶ。
(3) 状態の和を N ごとに分けて Ξ で割ると、P(0)=91、P(1)=97/2=187、P(2)=187、P(3)=91 である。大正準の状態は粒子数の違う状態の混合で、⟨N^⟩=23 の周りに Var(N^)=∑αfα(1−fα)=92+41+92=3625 だけ揺らぐ(∑NN2P(N)−49=187+1828+1−49=3625 と一致する)。N=1 の中の3つの状態の比 2:1:21 は、1粒子の正準分布 e−βεα の比そのもので、6.5.6 節で示す「N で切ると正準の状態になる」ことの最小の例になっている。数値は verify_ch6-05.py で確かめた。
1つのフェルミのモードは、空と占有の2つの状態を持つ2準位系である(第3章の Jordan–Wigner の対応)。μ=0 でエネルギー ℏω0 のモードを熱浴に置くと、占有の確率と空の確率の比は e−βℏω0 で、共通例題②の2準位系の熱平衡(第4部第4章の例題の詳細つり合い Pe/Pg=e−βℏω0)と同じ式になる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com