量子力学の様々な構成方法 第6部 第5章 §6.5.6 ★★★ Fock 空間の大正準の状態を粒子数で切ると基準の N 粒子の正準の状態になり、逆に正準の状態を重みで足すと大正準の状態になる。第4部・第3部・第8部の熱平衡と同じものであることを並べる
両向きの同値
この章の結果が同値性の地図(第1部第1章)のどの橋に当たるかを確かめる。地図では、第二量子化(第6部)から密度行列(第4部)へ「熱平衡の占有数」の矢印が引かれている。その中身は次の命題である。第2章の命題(第6部第2章)で、Fock 空間の N 粒子の部分 HN± と、基準の N 粒子の対称化(反対称化)した波動関数の空間はユニタリ写像 UN でつながり、H^ は HN± の上で基準の N 粒子のハミルトニアン H^(N) に移る。
命題 6.5.6(大正準と正準の両向きの対応 ★★★)
P^N を Fock 空間から HN± への射影とする。
- (i) (第二量子化 → 基準)P(N):=TrP^Nρ^G=zNZN/Ξ で、P(N)>0 のとき
P(N)P^Nρ^GP^N=UN†ZNe−βH^(N)UN
が成り立つ。右辺の e−βH^(N)/ZN は、基準の N 粒子系の第4部第4章の熱平衡の状態である。2. (ii) (基準 → 第二量子化)逆に、各 N の基準の熱平衡の状態 ρ^Ncan=e−βH^(N)/ZN を Fock 空間へ移して、重み zNZN/Ξ で足したもの∑N(zNZN/Ξ)UNρ^NcanUN† は ρ^G に等しい。この重みは、各 N の中の状態を正準に固定したうえで、Ω[ρ^] (6.5.4) を最小にする重みとしてただ1つに決まる。
証明
(i) [H^,N^]=0 なので H^ は各 HN± を保ち、e−β(H^−μN^)=⨁NeβμNe−βH^∣HN± と区分対角に書ける。P^N で挟むと N 番目のブロックだけが残り、そのトレースは zNZN である。ブロックを UN で基準の空間へ移すと H^∣HN± は H^(N) に移るので、正規化して主張を得る。
(ii) 足したものは区分対角で、N 番目のブロックは (zNZN/Ξ)e−βH^∣HN±/ZN=zNe−βH^∣HN±/Ξ なので、(i) の分解と同じ ρ^G である。重みの一意性は、ブロックの中を正準に固定した状態 ρ^=⨁NpNρ^Ncan について Ω[ρ^]=∑NpN(FN−μN)+kBT∑NpNlnpN(FN=−kBTlnZN)となり、これは確率 {pN} の上の Gibbs の変分原理(古典版)で、pN∝e−β(FN−μN)=zNZN がただ1つの最小点であることから従う。
(i) で N を1つに固定した場合が第2章の正準の分配関数 ZN± で、(ii) は「正準の状態を粒子数について混ぜると大正準になる」ことである。相互作用のある場合も命題はそのまま成り立つ([H^,N^]=0 しか使っていない)。相互作用が無いときだけ、定理 6.5.3 によって大正準の側が積に分かれ、計算が簡単になる。
同じ分布の4つの出し方
Bose 分布と Fermi 分布は、この巻のいくつかの部で別の道具から出てくる。並べると次のとおりである。
- 第4部(密度行列):第4部第4章は1つのモードの振動子の e−βH^/Z の固有値が等比数列であることから ⟨n⟩=1/(eβℏω−1) を出した。この章の (6.5.11) はそれを μ=0 の Bose 分布として読み直したもので、命題 6.5.6 の (i) で N を量子の個数と読む場合に当たる。
- 第6部(この章):Fock 空間の指数法則で Ξ を積に分け、(6.5.8) を1行で出した。
- 第3部・解析力学の巻(経路積分):循環展開 (6.5.9) の Z1(ℓβ) は、虚時間 ℓβℏ の閉じた経路の経路積分で、粒子の入れ替えが巻き数 ℓ の経路として数えられる(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第1章、虚時間の経路積分の一般の形は 第3部第6章)。
- 第8部(代数):KMS 条件 ω(A^αiβℏ(B^))=ω(B^A^) に A^=a^†、B^=a^ を入れ、H^−μN^ による時間発展 αt(a^)=e−i(ε−μ)t/ℏa^ を使うと
eβ(ε−μ)⟨a^†a^⟩=⟨a^a^†⟩=1±⟨a^†a^⟩(6.5.23)
で、解いて (6.5.8) になる(第8部第4章)。右の等号が交換関係か反交換関係かの違いで、トレースを使わないのでモードが無限個の系でも使える。
4つの道具は、状態を何で特定するかが違う。第4部は固有値、この章は Fock 空間の積の構造、経路積分は閉じた経路、第8部は状態と時間発展の関係(KMS)である。同じ分布が出るのは、どれも同じ e−β(H^−μN^) を別の言葉で書いたものだからである。
学部の統計力学の書き方との対応
学部の統計力学の授業では、理想量子気体を「1粒子状態 α にいる粒子の数 nα の組 {nα} で多粒子の状態を指定する。ボースは nα=0,1,2,…、フェルミは nα=0,1」という数え方の規則から始め、
Ξ={nα}∑exp[−βα∑(εα−μ)nα]=α∏nα∑e−β(εα−μ)nα
と和を積に入れ替えて分布を出す。この章との対応は表 6.5.1 のとおりである。授業で「数え方の規則」として与えられるものは、第2章で証明した占有数の基底の存在(対称化の要請から出る)で、和と積の入れ替えはこの章の補題 6.5.2 である。
表 6.5.1 理想量子気体の書き方の対応| 学部の統計力学の書き方 | この章(第二量子化)の書き方 |
| 多粒子の状態は占有数の組 {nα} で指定する | Fock 空間の占有数の基底 ∣n1,…,nM⟩(第6部第2章) |
| ボースは nα≤∞、フェルミは nα≤1 | 交換関係と反交換関係、c^2=0(第6部第3章) |
| Ξ=∑{n}e−β∑(ε−μ)n | Ξ=TrF±e−β(H^−μN^) (6.5.1) |
| 和と積の入れ替え | Fock 空間の指数法則(補題 6.5.2) |
| nˉα=1/(eβ(εα−μ)∓1) | 定理 6.5.3、または KMS (6.5.23) |
| 光子・フォノンは μ=0 | N^ が保存しないので Lagrange 乗数が無い(6.5.3 節) |
| 正準と大正準は熱力学極限で同じ | 命題 6.5.6。凝縮体の揺らぎでは一致しない(6.5.4 節) |

図 6.5.4 この章の橋。Fock 空間の大正準の状態は、粒子数で切ると基準の正準の状態になり、自由な場合は指数法則で Bose・Fermi 分布に分かれる。同じ分布が経路積分の輪の和と、代数の KMS 条件からも出る。
例題 6.5.6 2粒子の正準を大正準から取り出す ★★
オリジナル1次元の調和ポテンシャル(εj=ℏω(j+21))に同種粒子が入っている。x=βℏω=1 とする。
- (1) 循環展開 (6.5.9) から Ξ の z2 の係数を取り出し、Z2± の値を出せ。
- (2) q=e−x として、第2章の閉じた形 Z2+=q/((1−q)2(1+q))、Z2−=q2/((1−q)2(1+q)) と一致することを確かめよ。
- (3) 2粒子の占有数の組を直接数えて同じ値を出せ。
解答
(1) Z1(β)=1/(2sinh(1/2))=0.9595、Z1(2β)=1/(2sinh1)=0.4255 である。命題 6.5.4 からZ2+=21(0.95952+0.4255)=0.6731、Z2−=21(0.95952−0.4255)=0.2476 になる。
(2) q=e−1=0.3679 で q/((1−q)2(1+q))=0.3679/(0.3996×1.3679)=0.6731、q2/(…)=0.2476 で一致する。式としても Z1(β)=q1/2/(1−q)、Z1(2β)=q/(1−q2) を入れると 21[q/(1−q)2±q/((1−q)(1+q))] を通分して第2章の形になる。
(3) 2粒子の状態は2つの準位 i≤j(ボース)または i<j(フェルミ)の組で、エネルギーは ℏω(i+j+1) である。∑i≤je−(i+j+1)=0.6731、∑i<je−(i+j+1)=0.2476 を数値で数えて一致した(verify_ch6-05.py)。大正準の状態から粒子数 2 の部分を切り出すと、命題 6.5.6 の (i) のとおり、確率 z2Z2±/Ξ の重みで正準の状態が現れる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com