量子力学の様々な構成方法 第6部 第5章 §6.5.3 ★★ μ は保存する粒子数の Lagrange 乗数で、粒子数が保存しないフォノン・光子では μ=0 になり、共通例題①の Planck 分布に戻る
粒子数が保存する場合
μ は「平均の粒子数を指定する」ための Lagrange 乗数なので、閉じた系で粒子数 N が決まっているときは
N=α∑eβ(εα−μ)∓11(6.5.10)
を μ について解く。右辺は μ について単調に増える((6.5.6) の2つ目の式から、傾きは分散を kBT で割ったもので正)ので、解はただ1つある。フェルミ粒子では T→0 で f が階段関数になり、下から N 個の準位が埋まる。T=0 の μ を Fermi エネルギー εF と呼ぶ。金属の電子では低温の μ(T) の補正が (kBT/εF)2 の大きさで、その計算(Sommerfeld 展開)は ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第1章にある。
ボース粒子では μ<εmin でなければ Ξ が発散するので、(6.5.10) の右辺には μ→εmin のときの上限が生じる場合がある。この上限が有限になる系で起こるのが 6.5.4 節の Bose–Einstein 凝縮である。
粒子数が保存しない場合:μ=0 と共通例題①
フォノン(第1章・第4章)や光子は、熱浴とのエネルギーのやりとりで個数そのものが増えたり減ったりする。N^ は保存量でないので、Gibbs の変分原理に ⟨N^⟩ の制約を課す理由が無く、Lagrange 乗数 μ は現れない。すなわち ρ^=e−βH^/Z で、Fock 空間の上でも μ=0 と置いたことになる。別の言い方をすると、個数 N を自由に選べるなら、自由エネルギー F(N) を最小にする N が実現し、そこでは μ=∂F/∂N=0 である。
1つのモード(振動数 ω)に当てると、零点エネルギー ℏω/2 を足した H^=ℏω(n^+21) について、x=βℏω として
Z=e−x/2Ξμ=0=1−e−xe−x/2=2sinh(βℏω/2)1,⟨n^⟩=eβℏω−11(6.5.11)
で、共通例題①の正答(第4部第4章の Z と ⟨n⟩)と同じ形である。第4部第4章は振動子の固有値 ℏω(n+21) の和として出したが、ここでは「量子が n 個いる」と読み、μ=0 の Bose 分布として出した。2つの読み方は、同じ Fock 空間の同じ基底 ∣n⟩ についての同じトレースである。verify_ch6-05.py は2つの式の一致を sympy で確かめている。
2種類の振動子に注意する
第1章で注意したとおり、調和ポテンシャル V=mω2x2/2 の中の Schrödinger 場では2種類の振動子が現れる。1つは粒子が感じるポテンシャルで、その準位 εj=ℏω(j+21) の番号 j がモードの名前になる。もう1つはモード j の場の振動子で、その「量子の個数」が占有数 nj である。大正準の状態で、モード j の場の振動子は振動数 (εj−μ)/ℏ の振動子の熱平衡にあり、占有数は
⟨n^j⟩=eβ(εj−μ)∓11
である。共通例題①の答えは、粒子の振動子(ω)の側では「1粒子のスペクトル εj」として、場の振動子の側では「振動数 (εj−μ)/ℏ の Planck 分布」として現れる。2つを取り違えないために、この章では粒子の振動子の量子数を j(または3次元の n)、場の振動子の量子数を占有数 nj と書き分ける。
例題 6.5.3 1次元の調和トラップのフェルミ粒子の化学ポテンシャル ★★
オリジナルスピンをそろえたフェルミ粒子 N 個が、1次元の調和ポテンシャル(準位 εj=ℏω(j+21)、j=0,1,…)に入っている。
- (1) T=0 での μ の範囲を求めよ。
- (2) μ0:=Nℏω と置くと、どの温度でも ⟨N^⟩(μ0)−N=∑k≥Nf(ℏω(k+21))(f は μ=0 に対する Fermi 分布の形 1/(eβε+1))となることを示せ。
- (3) N=10、kBT=ℏω で μ を求めよ。
解答
(1) T=0 では j=0,…,N−1 が埋まり j=N 以上が空なので、μ は εN−1=ℏω(N−21) と εN=ℏω(N+21) の間ならどこでもよい。T→0+ の極限は、(2) で示すとおりその中点 Nℏω になる。
(2) μ0 から測ると、j=N+k の準位は +ℏω(k+21)、j=N−1−k の準位は −ℏω(k+21) の高さにある。Fermi 分布は f(−y)=1−f(y) を満たすので、下の準位の占有数は 1−f(ℏω(k+21)) と書ける(f の引数は μ0 から測ったエネルギー)。下の準位は k=0,…,N−1 の N 個しか無いので
⟨N^⟩(μ0)=k=0∑N−1[1−f(ℏω(k+21))]+k=0∑∞f(ℏω(k+21))=N+k≥N∑f(ℏω(k+21)).
上の空き(正孔)と下の詰まり(粒子)は k<N では打ち消し合い、下に対応する準位の無い k≥N の分だけ粒子が多く出る。
(3) kBT=ℏω では超過は ∑k≥101/(ek+1/2+1)≈e−10.5/(1−e−1)=4.36×10−5 である。∂μ∂⟨N^⟩=β∑jf(1−f) はこの温度で 1.000/(ℏω) なので、μ=Nℏω−4.36×10−5ℏω となる。等間隔の準位では、μ のずれは e−βℏωN の程度で、kBT/ℏω のべきの補正は現れない。準位の密度が一定なので Sommerfeld 展開の補正の係数がすべて 0 になるためで、ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第1章の2次元の電子気体と同じ事情である。数値は方程式 (6.5.10) を数値で解いて確かめた。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com