量子力学の様々な構成方法 第6部 第6章 §6.6.2 ★★★ 刻みの間にコヒーレント状態の単位の分解を挿むと、伝播関数は1階の作用 ∫[iℏαˉα˙−H]dt の位相の和になり、停留点の方程式は古典の場の Hamilton 方程式になる
完全系を挿む
ハミルトニアン H^=H(a^†,a^) を正規順序の多項式とし、コヒーレント状態の間の伝播関数 ⟨αf∣e−iH^t/ℏ∣αi⟩ を求める。時間を N 等分して ϵ=t/N とし、e−iH^t/ℏ=(e−iϵH^/ℏ)N の因子の間に単位の分解 (6.6.4) を N−1 個挿む。番号を α0=αi、αN=αf とし、1つの刻みの行列要素を (6.6.5) で
⟨αk+1∣e−iϵH^/ℏ∣αk⟩=⟨αk+1∣αk⟩[1−ℏiϵH(αk+1∗,αk)+O(ϵ2)]
と書く。⟨αk+1∣αk⟩ に (6.6.3) を入れ、1−iϵH/ℏ を e−iϵH/ℏ に置き換えると、伝播関数は
⟨αf∣e−iH^t/ℏ∣αi⟩=N→∞lim∫k=1∏N−1πd2αkexpk=0∑N−1[−2∣αk+1∣2−2∣αk∣2+αk+1∗αk−ℏiϵH(αk+1∗,αk)](6.6.7)
となる。これがコヒーレント状態の経路積分の定義である。
指数の最初の3項は、恒等的に
−2∣αk+1∣2−2∣αk∣2+αk+1∗αk=−21αk+1∗(αk+1−αk)+21(αk+1∗−αk∗)αk
と書き直せる。経路が滑らかだとして αk+1−αk≈ϵα˙ と置き、和を積分にすると
⟨αf∣e−iH^t/ℏ∣αi⟩=∫DαˉDαeiS[αˉ,α]/ℏ,S[αˉ,α]=∫0t[2iℏ(αˉα˙−αˉ˙α)−H(αˉ,α)]ds(6.6.8)
を得る。2iℏ(αˉα˙−αˉ˙α) は iℏαˉα˙ と時間の全微分 2iℏdsd(αˉα) だけ違うので、境界の項を別に扱えば作用を ∫(iℏαˉα˙−H)ds と書いてもよい。
この作用は時間の1階微分しか含まない。第3部第2章の位置の経路積分では、運動量の積分を先に済ませて 2mx˙2 の2階の形にしたが、コヒーレント状態では α が位置と運動量の両方を含む複素数なので、もとから相空間の経路積分になっている。実際、α=(x/ℓ+iℓp/ℏ)/2(ℓ=ℏ/(mω))を入れると iℏα∗α˙=21(px˙−xp˙)+2iℏdsd∣α∣2 で、実部は相空間の作用の px˙ と全微分だけ違う(6.6.6節の例題)。解析力学の巻の1階の Lagrangian(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第11章)と同じ形である。
注意
(6.6.8) の連続の形は、(6.6.7) の略記として読む。経路積分に寄与する経路は第3部第2章の位置の経路と同様に滑らかでなく、αk+1−αk は ϵ に比例して小さくならない。そのため連続の形だけからは、H(αk+1∗,αk) の α∗ を1つ後の刻みで、α を前の刻みで評価するという「時間の並び」が読み取れない。この並びが正規順序に当たり、取り違えると定数がずれる。6.6.3節でこのずれを具体的に計算する。第3部第2章の評価点の問題(左端・中点)と同じ種類の注意である。
境界の条件と停留点
(6.6.7) の指数に、両端の変数がどう入っているかを見る。α0=αi は α1∗α0 を通して α0 の形でだけ入り(∣α0∣2 は定数)、αN=αf は αN∗αN−1 を通して αN∗ の形でだけ入る。したがって境界で固定されるのは α(0)=αi と αˉ(t)=αf∗ の2つだけで、αˉ(0) と α(t) は決まっていない。1階の方程式に4つの条件を課すと解けなくなるが、2つなら解がある。
積分の変数 αk と αk∗ を独立に動かして指数を停留させると、αk∗(1≤k≤N−1)について−αk+αk−1−ℏiϵ∂H/∂αˉ=0、αk について αk+1∗−αk∗−ℏiϵ∂H/∂α=0 を得る。ϵ→0 で
iℏα˙=∂αˉ∂H,−iℏαˉ˙=∂α∂H(6.6.9)
となる。これは第6部第1章の古典の複素振幅の Poisson 括弧 {α,α∗}=−i/ℏ による Hamilton 方程式である。ただし境界の条件が α(0) と αˉ(t) に分かれているので、停留点の解では αˉ(s) が α(s) の複素共役になるとは限らない。経路積分の変数 α と αˉ を独立に書くのはこのためである。積分の路を複素平面の中で動かして停留点を通すと、停留点は実の積分路の外にあってよい(停留位相の一般の形。第3部第4章 第3部第4章)。
ハミルトニアンが a^† と a^ の2次以下なら、指数は積分の変数の2次式で、Gauss 積分は停留点の値で厳密に決まる。次の例題で調和振動子について確かめる。
例題 6.6.2 調和振動子の核を Gauss 積分の繰り返しで出す ★★★
オリジナルH^=ℏωa^†a^ とする。
- (1) 複素 Gauss 積分 ∫πd2αe−∣α∣2+uα+vα∗=euv(u,v は複素数)を使い、(6.6.7) の積分を α1 から順に行って、N 刻みの値を求めよ。
- (2) N→∞ で ⟨αf∣e−iH^t/ℏ∣αi⟩=exp(−2∣αf∣2−2∣αi∣2+αf∗αie−iωt) になることを示し、ωt=π/2 で N=10, 100 の誤差を求めよ。
- (3) 停留点の方程式 (6.6.9) を境界の条件 α(0)=αi、αˉ(t)=αf∗ で解き、作用の値が (2) の指数を再現することを示せ。
解答
(1) H(αk+1∗,αk)=ℏωαk+1∗αk なので、指数は γ=1−iϵω として−2∣αf∣2−2∣αi∣2−∑k=1N−1∣αk∣2+γ∑k=0N−1αk+1∗αk である(途中の ∣αk∣2 は両隣から半分ずつ来る)。α1 を含む項は −∣α1∣2+γα2∗α1+γα1∗α0 で、公式で u=γα2∗、v=γα0 とおくと積分は eγ2α2∗α0 になる。これは次の α2 の積分で γα2∗α1 が γ2α2∗α0 に入れ替わったのと同じ形で、同じ操作を N−1 回くり返すと
KN=exp(−2∣αf∣2−2∣αi∣2+γNαf∗αi),γN=(1−Niωt)N
を得る。
(2) (1−iωt/N)N→e−iωt なので主張の形になる。これは e−iωtn^∣αi⟩=∣αie−iωt⟩ と (6.6.3) からも直接出る。ωt=π/2 では ∣γN−e−iπ/2∣ が N=10 で 0.130、N=100 で 0.0124 で、誤差は 1/N で減る(∣γ∣>1 なので ∣γN∣=(1+(ωt/N)2)N/2 が 1 より少し大きい分が主な誤差)。
(3) (6.6.9) は iα˙=ωα、−iαˉ˙=ωαˉ で、境界の条件から α(s)=αie−iωs、αˉ(s)=αf∗eiω(s−t) である。αˉ(0)=αf∗e−iωt は一般に αi∗ と違い、停留点は互いに複素共役でない2本の経路の組である。解の上では iℏαˉα˙−H=ℏωαˉα−ℏωαˉα=0 で作用の体積の部分は消え、残るのは境界の項である。iℏαˉα˙ の形で書いたときの離散の指数の境界の部分 −2∣αf∣2−2∣αi∣2+αˉ(t)α(t) に解を入れると αˉ(t)α(t)=αf∗αie−iωt で、(2) の指数が再現される。2次のハミルトニアンでは停留点の値が厳密な答えで、揺らぎの積分は定数 1 しか与えない。
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