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観測量の値と有界性:正準交換関係を Weyl 形式で入れる

2026年10月17日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第8部 第1章 観測量の代数から始める:C*代数と状態
目次
  1. スペクトルは取りうる値
  2. 有界な元では は満たせない
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第8部 第1章 §8.1.3 ★★ スペクトルが観測量の取りうる値であること、[x,p]=iħ が有界な元では満たせないことを示し、Weyl 形式へ書き換える

スペクトルは取りうる値

要請 (A3) で「値の分布」と書いたものを、C代数の言葉で確かめる。自己共役な元 AA のスペクトルは実数の集合で、∥A∥\lVert A\rVert を超えない範囲 [−∥A∥,∥A∥][-\lVert A\rVert ,\lVert A\rVert ] に入る(自己共役な元のスペクトルが実数であることは C代数の標準的な事実で、ここでは結果を使う)。11 と AA が生成する C*部分代数 C∗(A)C^*(A) は可換なので、定理 8.1.3(1) により C(X)C(X) と同型である。このときの XX が σ(A)\sigma(A) になり、同型は「AA を関数 λ↦λ\lambda\mapsto\lambda に、f(A)f(A) を関数 ff に送る」という対応である。この対応を連続関数計算と呼ぶ。行列なら、A=∑aaPaA=\sum_a aP_a と固有値分解して f(A)=∑af(a)Paf(A)=\sum_af(a)P_a とおく操作と同じである。

この対応から次の2つのことが分かる。1つ目は、AA を測って出る値は σ(A)\sigma(A) の点だけであることである。σ(A)\sigma(A) の外で 00 になる関数 ff については f(A)=0f(A)=0 となるので、どの状態でも ω(f(A))=0\omega(f(A))=0 となり、σ(A)\sigma(A) の外の値には確率が乗らない。2つ目は、正の元の特徴づけである。C*代数では、「A=B∗BA=B^*B と書ける」ことと「AA が自己共役で σ(A)⊂[0,∞)\sigma(A)\subset[0,\infty)」は同値になる。これも標準的な定理で、行列なら「半正定値行列は B†BB^\dagger B の形に書ける」ことにあたる。以後 A≥0A\ge0 と書く。

有界な元では [x,p]=iℏ[x,p]=\mathrm{i}\hbar は満たせない

量子力学の基本の関係 [x^, p^]=iℏ\left[\hat x,\,\hat p\right]=\mathrm{i}\hbar を、そのまま C*代数の関係として課すことはできない。有限次元の行列では、両辺のトレースをとるとすぐ分かる。左辺のトレースは Tr⁡(XP)−Tr⁡(PX)=0\operatorname{Tr}(XP)-\operatorname{Tr}(PX)=0、右辺は iℏn\mathrm{i}\hbar n なので矛盾する。無限次元でトレースが使えなくても、ノルムが有限であるだけで矛盾が出る。

定理 8.1.5(Wintner–Wielandt の定理 ★★)

C*代数の中に、自己共役な xx と任意の pp で xp−px=iℏ1xp-px=\mathrm{i}\hbar1(ℏ>0\hbar>0)を満たすものは存在しない。

証明

そのような x,px,p があったとする。まず xnp−pxn=iℏn xn−1x^np-px^n=\mathrm{i}\hbar n\,x^{n-1} をすべての n≥1n\ge1 で示す。n=1n=1 は仮定そのもので、nn で成り立てばxn+1p−pxn+1=x(xnp−pxn)+(xp−px)xn=iℏn xn+iℏ xn=iℏ(n+1)xnx^{n+1}p-px^{n+1}=x(x^np-px^n)+(xp-px)x^n=\mathrm{i}\hbar n\,x^n+\mathrm{i}\hbar\,x^n=\mathrm{i}\hbar(n+1)x^n。次に両辺のノルムをとる。xx は自己共役なので、命題 8.1.4 の証明と同じ理由で ∥xn∥=∥x∥n\lVert x^n\rVert =\lVert x\rVert ^n である(自己共役な元の冪のスペクトル半径は r(x)nr(x)^n になることによる)。したがって

ℏn∥x∥n−1=∥xnp−pxn∥≤2∥xn∥∥p∥=2∥x∥n∥p∥.\hbar n\lVert x\rVert ^{n-1}=\lVert x^np-px^n\rVert \le2\lVert x^n\rVert \lVert p\rVert =2\lVert x\rVert ^n\lVert p\rVert .

x=0x=0 なら仮定から iℏ1=0\mathrm{i}\hbar1=0 となり矛盾するので、∥x∥>0\lVert x\rVert >0 として両辺を ∥x∥n−1\lVert x\rVert ^{n-1} で割ると ℏn≤2∥x∥∥p∥\hbar n\le2\lVert x\rVert \lVert p\rVert。右辺は nn によらないので、nn を大きくとると成り立たない。

この結果は Wintner(1947)が行列の場合に、Wielandt(1949)が一般のノルム環の場合に示した1A. Wintner (1947), Phys. Rev. 71, 738;H. Wielandt (1949), “Über die Unbeschränktheit der Operatoren der Quantenmechanik”, Math. Ann. 121, 21.下の脚注へ。証明では xx の自己共役性を使ったが、Wielandt の議論は自己共役を仮定しない形でも成り立つ。物理の言葉では、位置と運動量の少なくとも一方は非有界でなければならない。非有界な演算子の定義域とスペクトルの扱いは近似の数理 第3章で述べた。

C*代数に正準交換関係を入れるには、有界な指数関数に書き換える。U(a)≔eiap^/ℏU(a)\coloneqq\mathrm{e}^{\mathrm{i} a\hat p/\hbar}、V(b)≔eibx^/ℏV(b)\coloneqq\mathrm{e}^{\mathrm{i} b\hat x/\hbar}(a,b∈Ra,b\in\mathbb{R})はユニタリで、ノルムは 11 である。位置表示では U(a)ψ(x)=ψ(x+a)U(a)\psi(x)=\psi(x+a)、V(b)ψ(x)=eibx/ℏψ(x)V(b)\psi(x)=\mathrm{e}^{\mathrm{i} bx/\hbar}\psi(x) なので、

U(a)V(b)ψ(x)=eib(x+a)/ℏψ(x+a)=eiab/ℏ V(b)U(a)ψ(x)U(a)V(b)\psi(x)=\mathrm{e}^{\mathrm{i} b(x+a)/\hbar}\psi(x+a)=\mathrm{e}^{\mathrm{i} ab/\hbar}\,V(b)U(a)\psi(x)

となり、

U(a)V(b)=eiab/ℏ V(b)U(a)(8.1.5)U(a)V(b)=\mathrm{e}^{\mathrm{i} ab/\hbar}\,V(b)U(a)\tag{8.1.5}

を得る。これを正準交換関係の Weyl 形式と呼ぶ。(8.1.5) は U(a)V(b)U(a)−1V(b)−1=eiab/ℏU(a)V(b)U(a)^{-1}V(b)^{-1}=\mathrm{e}^{\mathrm{i} ab/\hbar} と同じで、左辺を a,ba,b について展開すると、abab に比例する最低次の項は (ia/ℏ)(ib/ℏ)[p^, x^]=−ab[p^, x^]/ℏ2(\mathrm{i} a/\hbar)(\mathrm{i} b/\hbar)\left[\hat p,\,\hat x\right]=-ab\left[\hat p,\,\hat x\right]/\hbar^2 である。右辺の abab の項 iab/ℏ\mathrm{i} ab/\hbar と比べると [p^, x^]=−iℏ\left[\hat p,\,\hat x\right]=-\mathrm{i}\hbar、すなわち [x^, p^]=iℏ\left[\hat x,\,\hat p\right]=\mathrm{i}\hbar に戻る。(8.1.5) の両辺は有界なので、U(a)U(a) と V(b)V(b) が生成する C*代数(CCR 代数)を考えることができる。この代数の表現が自由度1なら本質的に1つしかないことが Stone–von Neumann の定理(第2部第6章)で、自由度が無限になると表現が無数に分かれることを第8部第3章で示す。

例題 8.1.3 切り詰めた振動子の交換関係 ★★

オリジナル調和振動子の消滅演算子を、個数状態 ∣0⟩,…,∣N−1⟩| 0 \rangle ,\dots,| N-1 \rangle の NN 次元に切り詰めた行列aN=∑n=1N−1n ∣n−1⟩⟨n∣a_N=\sum_{n=1}^{N-1}\sqrt n\,| n-1 \rangle \langle n | を考える。

  1. (1) [aN, aN†]=1−N∣N−1⟩⟨N−1∣\left[a_N,\,a_N^\dagger\right]=1-N| N-1 \rangle \langle N-1 | を示し、両辺のトレースが一致することを確かめよ。
  2. (2) x^N=ℏ/(2mω) (aN+aN†)\hat x_N=\sqrt{\hbar/(2m\omega)}\,(a_N+a_N^\dagger)、p^N=iℏmω/2 (aN†−aN)\hat p_N=\mathrm{i}\sqrt{\hbar m\omega/2}\,(a_N^\dagger-a_N) について [x^N, p^N]\left[\hat x_N,\,\hat p_N\right] を求めよ。
  3. (3) ∥aN∥\lVert a_N\rVert を求め、N→∞N\to\infty で何が起こるかを定理 8.1.5 と結びつけて述べよ。
解答

(1) aNaN†=∑n=1N−1n∣n−1⟩⟨n−1∣=∑k=0N−2(k+1)∣k⟩⟨k∣a_Na_N^\dagger=\sum_{n=1}^{N-1}n| n-1 \rangle \langle n-1 |=\sum_{k=0}^{N-2}(k+1)| k \rangle \langle k |、aN†aN=∑n=1N−1n∣n⟩⟨n∣a_N^\dagger a_N=\sum_{n=1}^{N-1}n| n \rangle \langle n |。差をとると k=0,…,N−2k=0,\dots,N-2 では (k+1)−k=1(k+1)-k=1、k=N−1k=N-1 では 0−(N−1)0-(N-1) なので

[aN, aN†]=∑k=0N−2∣k⟩⟨k∣−(N−1)∣N−1⟩⟨N−1∣=1−N∣N−1⟩⟨N−1∣.\left[a_N,\,a_N^\dagger\right]=\sum_{k=0}^{N-2}| k \rangle \langle k |-(N-1)| N-1 \rangle \langle N-1 |=1-N| N-1 \rangle \langle N-1 |.

左辺は交換子なのでトレースが 00、右辺のトレースは N−N=0N-N=0 で一致する。

(2) 係数の積は ℏ/(2mω)⋅ℏmω/2=ℏ/2\sqrt{\hbar/(2m\omega)}\cdot\sqrt{\hbar m\omega/2}=\hbar/2 なので[x^N, p^N]=iℏ2([aN, aN†]−[aN†, aN])=iℏ[aN, aN†]=iℏ(1−N∣N−1⟩⟨N−1∣)\left[\hat x_N,\,\hat p_N\right]=\mathrm{i}\tfrac\hbar2\bigl(\left[a_N,\,a_N^\dagger\right]-\left[a_N^\dagger,\,a_N\right]\bigr)=\mathrm{i}\hbar\left[a_N,\,a_N^\dagger\right]=\mathrm{i}\hbar\bigl(1-N| N-1 \rangle \langle N-1 |\bigr)。切り詰めの最上段の1か所に −Niℏ-N\mathrm{i}\hbar の欠陥が集まり、トレースの矛盾を打ち消している。

(3) aN†aNa_N^\dagger a_N の最大固有値は N−1N-1 なので、命題 8.1.4 から ∥aN∥=N−1\lVert a_N\rVert =\sqrt{N-1}。N→∞N\to\infty で欠陥は消えるが、そのかわり ∥aN∥\lVert a_N\rVert が発散する。正確な [x^, p^]=iℏ\left[\hat x,\,\hat p\right]=\mathrm{i}\hbar を得るには有界性を手放す必要があり、これが定理 8.1.5 の内容である。

1 A. Wintner (1947), Phys. Rev. 71, 738;H. Wielandt (1949), “Über die Unbeschränktheit der Operatoren der Quantenmechanik”, Math. Ann. 121, 21.

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