量子力学の様々な構成方法 第8部 第2章 §8.2.4 ★★★ 状態の純粋性が GNS 表現の既約性と同値になる。混合状態の分解の仕方は可換子環の中の正の作用素と1対1
既約性と可換子環
表現 π が既約であるとは、すべての π(A) で不変な閉部分空間が {0} と H しかないことをいう。π(A) の全体と交換する有界作用素の全体を可換子環 π(A)′ と呼ぶ。不変な閉部分空間への射影は可換子環に入り(π(A∗)=π(A)† なので、部分空間が不変ならその直交補空間も不変になる)、逆に可換子環の射影の像は不変な部分空間である。このため、既約であることと「可換子環に 0 と 1 以外の射影が無い」ことは同値である。さらに自己共役な作用素のスペクトル射影はもとの作用素と交換するものとすべて交換するので、既約なら可換子環は複素数倍 C1 だけになる(Schur の補題)。
定理 8.2.4(純粋 ⇔ 既約 ★★★)
状態 ω が純粋であることと、GNS 表現 πω が既約であることは同値である。
証明
可約なら混合。πω が可約なら、可換子環に射影 P=0,1 がある。Pξω=0 とすると、すべての A で Pπω(A)ξω=πω(A)Pξω=0 となり、巡回性から P=0 で矛盾する。同様に (1−P)ξω=0。λ:=∥Pξω∥2∈(0,1) とし、
ω1(A):=λ⟨Pξω,πω(A)Pξω⟩,ω2(A):=1−λ⟨(1−P)ξω,πω(A)(1−P)ξω⟩
とおく。これらはベクトル状態なので状態であり、P が πω(A) と交換することから Pπ(A)(1−P)=π(A)P(1−P)=0 となって、交差項が消えω=λω1+(1−λ)ω2。もし ω1=ω なら、すべての A,B で⟨π(B)ξω,(P−λ)π(A)ξω⟩=⟨ξω,(P−λ)π(B∗A)ξω⟩=λω1(B∗A)−λω(B∗A)=0 となり、稠密性から P=λ1 で、P が射影であることと 0<λ<1 に矛盾する。したがって ω は2つの異なる状態の真の凸結合で、混合状態である。
既約なら純粋。ω=λω1+(1−λ)ω2(0<λ<1)と書けたとする。ω2 の正値性から λω1(A∗A)≤ω(A∗A)。稠密な部分空間の上の形式 b(π(A)ξω,π(B)ξω):=λω1(A∗B) を考えると、Cauchy–Schwarz の不等式から
∣λω1(A∗B)∣2≤λω1(A∗A)λω1(B∗B)≤∥π(A)ξω∥2∥π(B)ξω∥2
となり、b は矛盾なく定まって有界である。Riesz の表現定理により、0≤T≤1 を満たす有界作用素 T で⟨π(A)ξω,Tπ(B)ξω⟩=λω1(A∗B) となるものがある。T は可換子環に入る。実際、
⟨π(A)ξω,Tπ(C)π(B)ξω⟩=λω1((C∗A)∗B)=⟨π(C∗)π(A)ξω,Tπ(B)ξω⟩=⟨π(A)ξω,π(C)Tπ(B)ξω⟩.
既約なので T=c1 で、A=B=1 とおけば c=λ。したがって ω1=ω となり、ω を異なる2つの状態の真の凸結合には書けない。
証明の後半は、もっと多くのことを言っている。λω1≤ω を満たす汎関数 λω1 と、可換子環の中の 0≤T≤1 がλω1(A)=⟨ξω,Tπ(A)ξω⟩ で1対1に対応する(逆向きは T から定めた汎関数が正値であることを確かめればよい)。つまり、状態をほかの状態の混合に分ける仕方の全体は、可換子環の中の正の作用素で数えられる。
古典と量子で可換子環が違う
可換な代数 Cm(m 点の上の関数)の状態 ω(f)=∑kpkf(k) の GNS は、pk>0 の点の上の関数の空間で、内積は重み pk つき、π(f) は f を掛ける対角行列、ξω は定数関数 1 である。可換子環は対角行列の全体で、それ自身が可換である。可換子環の射影は「台の点の部分集合」にあたるので、混合の分け方は台の点への振り分けしかなく、端点(1点の測度)への分解はただ1通りになる。一般の C(X) でも同じで、GNS 空間は L2(X,μ)、π(f) は掛け算、可換子環は掛け算作用素の全体である。
量子の側では、命題 8.2.3 の表現 B⊗1 の可換子環は 1⊗Mr(C) になる。実際、T=∑ijEij⊗Tij と書いて Ekl⊗1 と交換させると Tij=δijT′ が出る。r≥2 ならこれは非可換な行列代数で、射影が連続的に無数にある。混合状態を純粋状態に分ける仕方が無数にあるという第4部の事実(第4部第3章のアンサンブルの不定性)は、GNS の言葉では「可換子環が非可換である」ことに言い換えられる。古典と量子の違いは前の章では状態の集合の形(単体か球か)として現れたが、ここでは可換子環が可換かどうかとして現れる。
例題 8.2.4 古典の混合と量子の混合の可換子環 ★★
オリジナル
- (1) C3 の状態 ω(f)=21f(1)+21f(2) の GNS 空間の次元と可換子環を求め、ω を純粋状態の混合に書く仕方が1通りであることを確かめよ。
- (2) M2(C) の最大混合状態 ω(A)=21TrA の GNS 空間の次元と可換子環を求めよ。
- (3) (2) で可換子環の射影 1⊗Q^(Q^=∣ϕ⟩⟨ϕ∣、∣ϕ⟩ は単位ベクトル)から作った成分の状態を求め、∣ϕ⟩ の選び方で分解が変わることを示せ。
解答
(1) Nω は点 1,2 で 0 になる関数の全体(点 3 の値だけをもつもの)で1次元なので、dimHω=3−1=2。Hω は点 1,2 の上の関数で、π(f)=diag(f(1),f(2)) である。これと交換する 2×2 行列は(f(1)=f(2) の f があるので)対角行列だけで、可換子環は2次元の可換代数である。0 と 1 以外の射影は diag(1,0) と diag(0,1) の2つで、どちらからも同じ分解 ω=21δ1+21δ2 が出る。
(2) 命題 8.2.3 で n=r=2 なので dimHω=4、π(B)=B⊗1、可換子環は 1⊗M2(C) で4次元の非可換代数である。
(3) ξω=21(∣00⟩+∣11⟩) である。P=1⊗Q^ とおき、Q^ が実ベクトル ∣ϕ⟩=ϕ0∣0⟩+ϕ1∣1⟩ への射影の場合を計算する。Pξω=21(ϕ0∣0⟩+ϕ1∣1⟩)⊗∣ϕ⟩=21∣ϕ⟩⊗∣ϕ⟩ なので λ=∥Pξω∥2=21、成分の状態は ω1(A)=⟨ϕ∣A∣ϕ⟩(純粋状態)。1−P からは ∣ϕ⟩ に直交する ∣ϕ⊥⟩ のベクトル状態が出る。したがって ω=21ωϕ+21ωϕ⊥ がすべての実単位ベクトル ∣ϕ⟩ で成り立ち、∣ϕ⟩=∣0⟩ なら σz の固有状態の混合、∣ϕ⟩=(∣0⟩+∣1⟩)/2 なら σx の固有状態の混合になる。可換子環の射影の取り方の数だけ、分解の仕方がある。
有限次元では純粋状態の GNS はすべて同じ
命題 8.2.3 により、Mn(C) の純粋状態(r=1)の GNS 空間はどれも Cn で、表現は行列の定義どおりの作用 B↦B とユニタリ同値である。どの純粋状態から出発しても、作り直されるヒルベルト空間は同じ1つになる。有限次元の量子力学で「ヒルベルト空間は1つ」と思ってよいのはこのためで、状態が変わっても、それは同じ空間の中で巡回ベクトルが動くだけである。自由度が無限になるとこれが崩れ、2つの純粋状態の GNS 表現がユニタリ同値でなくなることがある。これが第8部第3章(第8部第3章)の主題である。
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