量子力学の様々な構成方法 第8部 第2章 §8.2.3 ★★★ 有限次元の一般の状態に GNS を当てると、第4部の浄化がそのまま出てくる
Hilbert–Schmidt 空間としての GNS 空間
A=Mn(C)、ω(A)=Tr(ρ^A) とする(前の章で、Mn(C) の状態はすべてこの形に書けることを示した)。ρ^=∑k=1rpk∣k⟩⟨k∣(pk>0、r は ρ^ の階数)と固有値分解すると、
ω(A∗A)=Tr(ρ^A∗A)=Tr((Aρ^1/2)∗(Aρ^1/2))=∥Aρ^1/2∥HS2
となる。ここで ∥X∥HS2=Tr(X∗X) は行列の Hilbert–Schmidt ノルム(成分の絶対値の2乗和)で、内積 ⟨X,Y⟩HS=Tr(X∗Y) で定まる。同じ計算で ω(A∗B)=⟨Aρ^1/2,Bρ^1/2⟩HS である。したがって
[A] ⟼ Aρ^1/2∈Mn(C)(8.2.4)
は内積を保つ写像で、Nω={A:Aρ^1/2=0}、すなわち ρ^ の台(∣1⟩,…,∣r⟩ の張る空間)の上で 0 になる行列の全体である。像は「右側が ρ^ の台に入っている行列」X=XP^(P^=∑k≤r∣k⟩⟨k∣)の全体で、その次元は n⋅r である。作用は πω(B)X=BX(左からの積)、巡回ベクトルは ξω=ρ^1/2 で、確かに ⟨ρ^1/2,Bρ^1/2⟩HS=Tr(ρ^B)。
テンソル積に読み替える
行列の空間 Mn(C) は、線形写像
Φ(X):=i,j∑Xij∣i⟩⊗∣j⟩∈Cn⊗Cn(8.2.5)
で Cn⊗Cn と同一視できる。⟨Φ(X),Φ(Y)⟩=∑ijXijYij=Tr(X∗Y) なので Φ はユニタリで、左からの積と右からの積はそれぞれ
Φ(BX)=(B⊗1)Φ(X),Φ(XC)=(1⊗CT)Φ(X)(8.2.6)
となる(Φ(∣u⟩⟨v∣)=∣u⟩⊗∣v⟩ で、∣v⟩ は成分の複素共役をとったベクトル)。巡回ベクトルは
Φ(ρ^1/2)=k=1∑rpk∣k⟩⊗∣k⟩(8.2.7)
になる。これは ρ^ の浄化(第4部の前半 第4部第2章)そのもので、πω(B)=B⊗1 は「浄化した大きな系の、もとの系の側だけに当たる観測量」である。まとめると次のようになる。
命題 8.2.3(行列代数の GNS ★★★)
Mn(C) の状態 ω(A)=Tr(ρ^A)(ρ^ の階数 r)の GNS 表現は、Hω≅Cn⊗Cr、πω(B)=B⊗1、ξω=∑k=1rpk∣k⟩⊗∣k⟩ とユニタリ同値である。とくに dimHω=nr。
2つ目の因子の基底は正規直交でありさえすればよいので、∣k⟩ を ∣k⟩ と書き直した。この書き直しは2つ目の因子だけのユニタリであり、定理 8.2.1 の一意性はこの自由度を許している。第4部で示した「浄化は補助系のユニタリを除いて一意」という事実は、GNS の一意性の特別な場合である。純粋状態 r=1 では Hω≅Cn となり、基準の状態空間がそのまま戻る。忠実な状態(r=n、ρ^ が逆行列をもつ)では Hω≅Cn⊗Cn で、n2 次元になる。
例題 8.2.3 前の章の浄化を GNS で作り直す ★★★
オリジナルρ^=diag(p,1−p) の状態 ω を M2(C) の上で考える。
- (1) 0<p<1 のとき Nω={0} を示し、dimHω を求めよ。
- (2) 巡回ベクトル Φ(ρ^1/2) を C2⊗C2 のベクトルとして書き、前の章の例題(第8部第1章)のp∣00⟩+1−p∣11⟩ と比べよ。
- (3) p=1 のとき Nω と dimHω を求め、第8.2.1節の計算と比べよ。
解答
(1) ρ^1/2=diag(p,1−p) は逆行列をもつので、Aρ^1/2=0 なら A=0。Nω={0} で、Hω=M2(C) そのもの、dimHω=4。
(2) Φ(ρ^1/2)=p∣0⟩⊗∣0⟩+1−p∣1⟩⊗∣1⟩ で、前の章の浄化 ∣Ψ⟩ と一致する。前の章では浄化を手で与えたが、ここでは ω の期待値の表だけから自動的に出てきた。
(3) p=1 では ρ^1/2=∣0⟩⟨0∣ で、Aρ^1/2=A∣0⟩⟨0∣=0 は A∣0⟩=0 と同じ。Nω は第1列が 0 の行列の全体で2次元、dimHω=4−2=2 である。第8.2.1節の ωg と同じく、純粋状態の GNS は C2 に戻る(∣g⟩ と ∣0⟩ の名前が違うだけである)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com