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出発点の要請:観測量の代数と、その上の状態

2026年10月17日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第8部 第1章 観測量の代数から始める:C*代数と状態
目次
  1. 4つの要請
  2. 量子ビットの代数
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第8部 第1章 §8.1.1 ★★★ 第8部の公理。観測量の代数を先に置き、状態を期待値の汎関数として定義する

第1部で基準に置いた構成(第1部第2章)では、まずヒルベルト空間 H\mathcal{H} があり、状態はその単位ベクトル ∣ψ⟩| \psi \rangle(または密度行列 ρ^\hat\rho)、観測量は H\mathcal{H} の上のエルミート演算子であった。観測量はヒルベルト空間に「後から載る」ものとして扱われる。第8部では順序を逆にする。最初に置くのは観測量の全体が作る代数で、ヒルベルト空間はまだ無い。状態は、観測量を1つ入れるとその期待値を返す写像、つまり代数の上の線形汎関数として定義する。ヒルベルト空間は、代数と状態の組から次の章(第8部第2章)の GNS 構成で作り直される。

この順序にする理由は2つある。1つ目は、実験で触れることができるのは観測量の値と確率だけで、状態ベクトルの位相や表示の選び方は直接には測れないという、Heisenberg が1925年に行列力学を作ったときと同じ動機である(第2部第1章)。2つ目は、自由度が無限にある系(場・熱力学極限の物質)では、同じ交換関係を満たすヒルベルト空間の表現が1つに決まらず、どの H\mathcal{H} を使うかを最初に決めてしまうと相転移や自発的対称性の破れが書けなくなることである。2つ目の理由は第8部第3章から第5章で扱い、この章では出発点の要請と、その要請に登場する2つの対象(C*代数と状態)の性質を整える。

章の流れは次のとおりである。第8.1.1節で要請を書き、量子ビットの代数で期待値から確率が出る仕組みを見る。第8.1.2節で C*代数を定義し、ノルムが代数の演算だけで決まることを示す。第8.1.3節では、正準交換関係 [x^, p^]=iℏ\left[\hat x,\,\hat p\right]=\mathrm{i}\hbar が有界な元では満たせないこと(Wielandt の定理)を証明し、指数関数の形(Weyl 形式)に書き換える理由を説明する。第8.1.4節で状態の性質を調べ、行列代数の上の状態はすべて密度行列で書けることを証明する。第8.1.5節で時間発展を代数の自己同型として書き、共通例題②の Rabi 振動を代数の言葉で解く。第8.1.6節が基準・密度行列・古典の統計との橋の節である。

4つの要請

代数的な構成の要請を、第1部の公理と並べて書けるように4つに分けて述べる。形は Segal が1947年に提案したもの1I. E. Segal (1947), “Postulates for general quantum mechanics”, Ann. of Math. 48, 930.下の脚注へを、のちの教科書で標準になった C*代数の言葉で書き直したものである。

定義 8.1.1(代数的量子論の要請)

  1. (A1) 観測量:物理系の有界な観測量は、単位元 11 をもつ C代数 A\mathfrak A の自己共役な元(A∗=AA^*=A)で表す。C代数の定義は第8.1.2節で与える。
  2. (A2) 状態:物理系の状態は、A\mathfrak A の上の線形汎関数 ω:A→C\omega:\mathfrak A\to\mathbb{C} で、正値性 ω(A∗A)≥0\omega(A^*A)\ge0(すべての A∈AA\in\mathfrak A)と規格化 ω(1)=1\omega(1)=1 を満たすものとする。
  3. (A3) 測定:自己共役な AA を状態 ω\omega で測ったときの期待値は ω(A)\omega(A) である。結果の値の分布は、AA の連続関数 f(A)f(A) の期待値 ω(f(A))\omega(f(A)) をすべての ff について与えることで決まる。
  4. (A4) 時間発展:時間発展は A\mathfrak A の *自己同型の1径数群 αt\alpha_t で表し、時刻 tt の期待値を ω(αt(A))\omega(\alpha_t(A)) とする。

第1部の公理(第1部第2章)と比べると、ヒルベルト空間・状態ベクトル・Born の規則の3つがどこにも出てこない。そのかわり、「状態とは期待値の付け方のことである」という1行が、状態の定義そのものになっている。(A2) の正値性は「2乗の期待値は負にならない」という条件である。A∗AA^*A は AA が自己共役なら A2A^2 で、その期待値は AA の2乗平均にあたるので、負になってはいけない。規格化 ω(1)=1\omega(1)=1 は「確率の和が1」にあたる。(A3) の「値の分布」が本当に確率分布になることは、第8.1.4節で状態の性質を調べたあとに確かめる。

(A1) に「有界な」と書いた理由は、C*代数の元が有界な演算子に対応することにある。位置 x^\hat x・運動量 p^\hat p・ハミルトニアン H^\hat H は有界でないので、そのままでは A\mathfrak A に入らない。これらは、有界な関数(eiap^/ℏ\mathrm{e}^{\mathrm{i} a\hat p/\hbar}、e−iH^t/ℏ\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\hat Ht/\hbar}、スペクトルの射影など)を通して代数に入れる。この書き換えがなぜ必要かは第8.1.3節で証明する。

量子ビットの代数

最も小さい例で要請の意味を確かめる。1個の量子ビット(スピン 12\tfrac12)の観測量の代数は、2×22\times2 の複素行列の全体 M2(C)M_2(\mathbb{C}) である。積は行列の積、A∗A^* はエルミート共役 A†A^\dagger で、1,σx,σy,σz1,\sigma_x,\sigma_y,\sigma_z の4つが基底になる。任意の元は

A=a01+axσx+ayσy+azσz(a0,ax,ay,az∈C)(8.1.1)A=a_0 1+a_x\sigma_x+a_y\sigma_y+a_z\sigma_z\qquad(a_0,a_x,a_y,a_z\in\mathbb{C})\tag{8.1.1}

と書け、自己共役な元は4つの係数が実数のものである。状態 ω\omega は線形なので、基底の4つの値 ω(1)=1\omega(1)=1 と ri≔ω(σi)r_i\coloneqq\omega(\sigma_i)(i=x,y,zi=x,y,z)で決まる。σi\sigma_i は自己共役なので、正値性から rir_i は実数になる(第8.1.4節で示す ω(A∗)=ω(A)‾\omega(A^*)=\overline{\omega(A)} による)。つまり量子ビットの状態は3つの実数の組 r=(rx,ry,rz)\bm{r}=(r_x,r_y,r_z) で決まる。これは基準の言葉の Bloch ベクトルにあたる。どの r\bm{r} が許されるか(∣r∣≤1\lvert \bm{r}\rvert \le1)は正値性から決まり、これも第8.1.4節で示す。

測定の確率は (A3) から次のように出る。単位ベクトル n\bm{n} の向きのスピン σn≔n⋅σ\sigma_{\bm{n}}\coloneqq\bm{n}\cdot\bm{\sigma} はσn2=1\sigma_{\bm{n}}^2=1 を満たすので、固有値は ±1\pm1 だけである。P±≔12(1±σn)P_\pm\coloneqq\tfrac12(1\pm\sigma_{\bm{n}}) とおくとP±2=P±P_\pm^2=P_\pm、P++P−=1P_++P_-=1、σn=P+−P−\sigma_{\bm{n}}=P_+-P_- であり、P±P_\pm は σn\sigma_{\bm{n}} の多項式なので代数の中にある。σn\sigma_{\bm{n}} の任意の関数は f(σn)=f(+1)P++f(−1)P−f(\sigma_{\bm{n}})=f(+1)P_++f(-1)P_- と書けるので、

ω(f(σn))=f(+1) ω(P+)+f(−1) ω(P−),ω(P±)=1±n⋅r2(8.1.2)\omega\bigl(f(\sigma_{\bm{n}})\bigr)=f(+1)\,\omega(P_+)+f(-1)\,\omega(P_-),\qquad \omega(P_\pm)=\frac{1\pm\bm{n}\cdot\bm{r}}{2}\tag{8.1.2}

となる。ff を何にしても期待値が p±=ω(P±)p_\pm=\omega(P_\pm) を重みとする平均になっているので、p±p_\pm を「結果 ±1\pm1 が出る確率」と読む。基準の Born の規則 p±=⟨ψ∣P±∣ψ⟩p_\pm=\langle \psi | P_\pm | \psi \rangle は、ここでは要請に入れておらず、期待値の線形性から出てきた。

例題 8.1.1 期待値の表から確率を出す ★★★

オリジナル量子ビットの状態 ω\omega が ω(σx)=0.6\omega(\sigma_x)=0.6、ω(σy)=0\omega(\sigma_y)=0、ω(σz)=0.8\omega(\sigma_z)=0.8 で与えられている。

  1. (1) σx\sigma_x を測ったときに +1+1 が出る確率を求めよ。
  2. (2) 観測量 A=2⋅1+3(0.6 σx+0.8 σz)A=2\cdot1+3(0.6\,\sigma_x+0.8\,\sigma_z) の取りうる値と期待値、それぞれの値が出る確率を求めよ。
解答

(1) n=(1,0,0)\bm{n}=(1,0,0) として (8.1.2) を使うと p+=(1+rx)/2=(1+0.6)/2=0.8p_+=(1+r_x)/2=(1+0.6)/2=0.8 である。

(2) n=(0.6,0,0.8)\bm{n}=(0.6,0,0.8) は単位ベクトルなので A=2⋅1+3σnA=2\cdot1+3\sigma_{\bm{n}} と書ける。σn=P+−P−\sigma_{\bm{n}}=P_+-P_- と 1=P++P−1=P_++P_- を代入すると A=5P++(−1)P−A=5P_++(-1)P_- となり、取りうる値は 55 と −1-1 である。確率は ω(P±)=(1±n⋅r)/2\omega(P_\pm)=(1\pm\bm{n}\cdot\bm{r})/2 で、n⋅r=0.36+0.64=1\bm{n}\cdot\bm{r}=0.36+0.64=1 だから p5=1p_{5}=1、p−1=0p_{-1}=0。期待値は ω(A)=2+3 n⋅r=5\omega(A)=2+3\,\bm{n}\cdot\bm{r}=5 で、確率から計算した 5⋅1+(−1)⋅05\cdot1+(-1)\cdot0 と一致する。この状態では AA の値が確定しているが、(1) のとおり σx\sigma_x の値は確定していない。

1 I. E. Segal (1947), “Postulates for general quantum mechanics”, Ann. of Math. 48, 930.

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