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出てくるもの3:バンドギャップ問題

2026年10月15日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第10章 実際のバンド計算:密度汎関数理論
目次
  1. 測りたいギャップと Kohn–Sham のギャップ
  2. 分数の電子数と微分の不連続
  3. 補正の方法:GW とはさみの補正
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第10章 §2.10.4 ★★★ Kohn–Sham の固有値は準粒子のエネルギーではない。ギャップを測る量 I−AI-A と Kohn–Sham のギャップの間には交換相関ポテンシャルの跳び Δxc\Delta_{\mathrm{xc}} があり、LDA・GGA はこれを落とす

測りたいギャップと Kohn–Sham のギャップ

半導体のギャップを実験で測るとき、その中身は「電子を1個取り出すのに要るエネルギー」と「電子を1個入れたときに戻るエネルギー」の差である。NN 電子の基底エネルギーを E(N)E(N) とし、

I=E(N−1)−E(N),A=E(N)−E(N+1),Egfund=I−A(2.10.14)I=E(N-1)-E(N),\qquad A=E(N)-E(N+1),\qquad E_{\mathrm g}^{\mathrm{fund}}=I-A\tag{2.10.14}

と書く。II はイオン化エネルギー、AA は電子親和力で、I−AI-A を基本ギャップと呼ぶ。光電子分光(電子を取り出す)と逆光電子分光(電子を入れる)の組で測るのがこの量である。

これに対して Kohn–Sham の計算で直接得られるのは、固有値の差 EgKS=εLUMO−εHOMOE_{\mathrm g}^{\mathrm{KS}}=\varepsilon _{\mathrm{LUMO}}-\varepsilon _{\mathrm{HOMO}}(固体では伝導帯の下端と価電子帯の上端の差)である。2つが一致する理由は無い。Kohn–Sham の固有値は、正しい密度を再現するために置いた、相互作用のない電子の補助の問題の固有値で、電子を出し入れしたときのエネルギー(準粒子のエネルギー)として定義されたものではないからである。

分数の電子数と微分の不連続

両者の関係は、電子数 NN を連続に動かすと見える。電子数が分数の系を、整数の電子数の状態の混合として定義すると、厳密な E(N)E(N) は整数の点を結ぶ折れ線になる(J. P. Perdew, R. G. Parr, M. Levy and J. L. Balduz (1982), Phys. Rev. Lett. 49, 1691)。N−1<N′<NN-1<N'<N では傾きが −I-I、N<N′<N+1N<N'<N+1 では傾きが −A-A で、整数の NN で傾きが I−AI-A だけ跳ぶ(図 2.10.4)。一方、Kohn–Sham の固有値は全エネルギーの占有数による微分である(Janak の定理:J. F. Janak (1978), Phys. Rev. B 18, 7165)。

∂E∂fi=εi(2.10.15)\frac{\partial E}{\partial f_i}=\varepsilon _i\tag{2.10.15}

したがって厳密な汎関数で、NN より少し少ない側の最高被占の固有値は傾き −I-I に等しく、εHOMO=−I\varepsilon _{\mathrm{HOMO}}=-I となる。NN より少し多い側で新しく埋まる軌道の固有値は −A-A に等しい。ところが、NN を下から越えた瞬間に軌道は変わらないのに固有値だけが跳ぶので、交換相関ポテンシャルそのものが NN を越えるとき空間全体で定数 Δxc\Delta_{\mathrm{xc}} だけ跳んでいなければならない。まとめると

Egfund=I−A=EgKS+Δxc(2.10.16)E_{\mathrm g}^{\mathrm{fund}}=I-A=E_{\mathrm g}^{\mathrm{KS}}+\Delta_{\mathrm{xc}}\tag{2.10.16}

で、厳密な汎関数を使っても、Kohn–Sham のギャップは基本ギャップより Δxc\Delta_{\mathrm{xc}} だけ小さい(J. P. Perdew and M. Levy (1983), Phys. Rev. Lett. 51, 1884、L. J. Sham and M. Schlüter (1983), Phys. Rev. Lett. 51, 1888)。

LDA と GGA の vxcv_{\mathrm{xc}} は各点の密度(と勾配)の滑らかな関数なので、電子数を変えても跳ばず、Δxc=0\Delta_{\mathrm{xc}}=0 になる。さらに LDA の E(N)E(N) は整数の間で折れ線より下にたわんだ曲線になり(図 2.10.4)、その傾きである固有値は整数の点で折れ線の両側の傾きの中間の値をとる。この2つの理由で、LDA・GGA のギャップは実験より小さく出る。Si では LDA のギャップは約 0.5 eV0.5\,\mathrm{eV} で、実験の 1.17 eV1.17\,\mathrm{eV} の半分ほどである(M. S. Hybertsen and S. G. Louie (1986), Phys. Rev. B 34, 5390)。Ge のようにギャップの小さい物質では、LDA で伝導帯と価電子帯が重なり、金属と出ることもある。

図

図 2.10.4 電子数 N′N' を連続に動かしたときの基底エネルギー(模式図)。厳密な EE は整数の点を結ぶ折れ線(点線)で、整数 NN で傾きが I−AI-A だけ跳ぶ。LDA・GGA の EE は折れ線より下にたわむ滑らかな曲線(実線)で、傾きの跳びを持たない。

例題 2.10.6 水素原子で微分の不連続を見る ★★★

オリジナル水素原子(電子1個)の厳密な Kohn–Sham の問題を考える。実験値としてイオン化エネルギー I=13.598 eVI=13.598\,\mathrm{eV}、H−^- の電子親和力 A=0.754 eVA=0.754\,\mathrm{eV}(K. R. Lykke, K. K. Murray and W. C. Lineberger (1991), Phys. Rev. A 43, 6104)を使う。

  1. (1) 電子1個の系では厳密な vH+vxcv_{\mathrm H}+v_{\mathrm{xc}} が 00 になることを示し、Kohn–Sham のポテンシャルが原子核の −e2/(4πϵ0r)-e^2/(4\pi\epsilon_0r) そのものになることを確かめよ。
  2. (2) Kohn–Sham の HOMO(1s1s)と LUMO(n=2n=2)の固有値、Kohn–Sham のギャップ、基本ギャップ I−AI-A を求めよ。
  3. (3) 式 (2.10.16) から Δxc\Delta_{\mathrm{xc}} を求め、εHOMO=−I\varepsilon _{\mathrm{HOMO}}=-I が成り立っていることを確かめよ。
解答

(1) 電子1個の系に電子どうしの反発は無いので、厳密な全エネルギーに Hartree の項は無い。式 (2.10.2) では EH[n]E_{\mathrm H}[n] が自分自身との反発として入っているので、Exc=−EHE_{\mathrm{xc}}=-E_{\mathrm H} でこれをちょうど打ち消さなければならない。密度で微分すると vxc=−vHv_{\mathrm{xc}}=-v_{\mathrm H} となり、veff=vext=−e2/(4πϵ0r)v_{\mathrm{eff}}=v_{\mathrm{ext}}=-e^2/(4\pi\epsilon_0r)。Kohn–Sham の問題は水素原子の Schrödinger 方程式そのものになる。

(2) 固有値は −13.598/n2 eV-13.598/n^2\,\mathrm{eV} なので、εHOMO=−13.60 eV\varepsilon _{\mathrm{HOMO}}=-13.60\,\mathrm{eV}、εLUMO=−3.40 eV\varepsilon _{\mathrm{LUMO}}=-3.40\,\mathrm{eV}、EgKS=10.20 eVE_{\mathrm g}^{\mathrm{KS}}=10.20\,\mathrm{eV}。基本ギャップは I−A=13.598−0.754=12.84 eVI-A=13.598-0.754=12.84\,\mathrm{eV}。

(3) Δxc=12.84−10.20=2.65 eV\Delta_{\mathrm{xc}}=12.84-10.20=2.65\,\mathrm{eV}。εHOMO=−13.60 eV=−I\varepsilon _{\mathrm{HOMO}}=-13.60\,\mathrm{eV}=-I で、厳密な汎関数で最高被占の固有値がイオン化エネルギーに等しいことが確かめられる。LUMO の固有値 −3.40 eV-3.40\,\mathrm{eV} は −A=−0.754 eV-A=-0.754\,\mathrm{eV} と大きく違う。2個目の電子が入った瞬間に、1個目の電子が作る反発が現れてポテンシャル全体が持ち上がるので、2個目の電子の固有値は −3.40+2.65=−0.75 eV-3.40+2.65=-0.75\,\mathrm{eV} まで上がる。この持ち上がり Δxc\Delta_{\mathrm{xc}} は、1電子の Kohn–Sham の問題の固有値をいくら正確に求めても現れない。厳密な汎関数を使っても Kohn–Sham のギャップが基本ギャップと違うことを、最も簡単な系で示している。

補正の方法:GW とはさみの補正

測りたいのが電子を出し入れするエネルギーなら、それを直接計算すればよい。電子を1個加えた・抜いた状態の準粒子のエネルギーは、自己エネルギー Σ\Sigma を含む方程式

[−ℏ22m∇2+vext+vH]ψnk(r)+∫Σ(r,r′;Enk)ψnk(r′) d3r′=Enkψnk(r)(2.10.17)\Bigl[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+v_{\mathrm{ext}}+v_{\mathrm H}\Bigr]\psi_{n\bm{k}}(\bm{r})+\int\Sigma(\bm{r},\bm{r}';E_{n\bm{k}})\psi_{n\bm{k}}(\bm{r}')\,\mathrm{d}^3r'=E_{n\bm{k}}\psi_{n\bm{k}}(\bm{r})\tag{2.10.17}

で決まる。Kohn–Sham の式 (2.10.3) は Σ\Sigma を局所的でエネルギーによらない vxc(r)v_{\mathrm{xc}}(\bm{r}) に置き換えたものにあたる。Σ\Sigma を、1電子の Green 関数 GG と遮蔽された Coulomb 相互作用 WW の積で近似するのが GW 近似である(L. Hedin (1965), Phys. Rev. 139, A796)。Hartree–Fock の交換は遮蔽されていない Coulomb 相互作用で電子を出し入れするので、半導体のギャップを大きく出しすぎる。GW はその Coulomb 相互作用を第5部第1章の誘電関数で遮蔽したもので、Hartree–Fock と LDA の間の正しい側に来る。実際の計算では LDA の固有値と波動関数から出発し、Enk−εnk=⟨ψnk∣Σ−vxc∣ψnk⟩E_{n\bm{k}}-\varepsilon _{n\bm{k}}=\langle \psi_{n\bm{k}} | \Sigma-v_{\mathrm{xc}} | \psi_{n\bm{k}} \rangle を1次の補正として求めることが多い。Si の間接ギャップは GW で 1.29 eV1.29\,\mathrm{eV} になり、実験の 1.17 eV1.17\,\mathrm{eV} に近い(Hybertsen and Louie (1986))。

GW は1電子の計算より数桁重いので、手軽な補正としてはさみの補正(scissor 補正)も使われる。LDA のバンドの形は実験とよく合い、ずれは伝導帯全体がほぼ一様に下がっていることにある、という観察に基づき、伝導帯だけを一定の幅 Δ\Delta だけ持ち上げる。Δ\Delta は実験か GW のギャップに合わせて決めるので、予言でなく合わせ込みである。それでも、光の吸収スペクトルの形や有効質量のように、ギャップの値以外のバンドの情報を LDA から引き出すには十分なことが多い。

例題 2.10.7 遷移状態の固有値でイオン化エネルギーを測る ★

オリジナルある原子の最高被占軌道の占有数を ff として、近似汎関数での全エネルギーが E(f)=E(0)−I0f+U2f2E(f)=E(0)-I_0f+\frac U2f^2(I0=16.5 eVI_0=16.5\,\mathrm{eV}、U=7.0 eVU=7.0\,\mathrm{eV})と書けたとする。

  1. (1) Janak の定理 (2.10.15) から固有値 ε(f)\varepsilon (f) を求め、f=1f=1 の固有値と、この汎関数でのイオン化エネルギー I=E(0)−E(1)I=E(0)-E(1) を比べよ。
  2. (2) E(1)−E(0)=ε(1/2)E(1)-E(0)=\varepsilon (1/2) を示し、この関係(Slater の遷移状態)の意味を述べよ。
解答

(1) ε(f)=dEdf=−I0+Uf\varepsilon (f)=\frac{\mathrm{d} E}{\mathrm{d} f}=-I_0+Uf で、ε(1)=−16.5+7.0=−9.5 eV\varepsilon (1)=-16.5+7.0=-9.5\,\mathrm{eV}。I=E(0)−E(1)=I0−U/2=13.0 eVI=E(0)-E(1)=I_0-U/2=13.0\,\mathrm{eV} なので、−ε(1)-\varepsilon (1) は II より 3.5 eV3.5\,\mathrm{eV} 小さい。E(f)E(f) が下に凸(U>0U>0)にたわんでいるので、端の点での傾きは平均の傾きより緩い。これが図 2.10.4 の LDA の曲線で HOMO が浅く出る理由で、厳密な汎関数なら EE は直線(U=0U=0)で −ε(1)=I-\varepsilon (1)=I になる。

(2) E(1)−E(0)=∫01ε(f) dfE(1)-E(0)=\int_0^1\varepsilon (f)\,\mathrm{d} f で、ε\varepsilon が ff の1次式なので積分は中点の値 ε(1/2)=−I0+U/2=−13.0 eV\varepsilon (1/2)=-I_0+U/2=-13.0\,\mathrm{eV} に等しい。電子を半分だけ抜いた状態の固有値を使えば、たわみの影響が打ち消され、全エネルギーの差(Δ\DeltaSCF と呼ぶ)を1回の計算で得ることができる。有限の原子や分子ではこの全エネルギーの差が実験に近いイオン化エネルギーになるが、無限の結晶では電子1個を抜いた変化が全体に広がって密度の変化が 00 に近づき、全エネルギーの差が固有値の差に戻ってしまう。結晶でギャップ問題が避けられないのはこのためである。

木下の勉強ステータス

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