ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第6章 §4.6.3 ★★★ 伝導帯の電子と価電子帯の正孔の Coulomb 引力を戻すと、2体の相対運動が換算質量 mr・遮蔽 εb の水素原子になり、吸収端の下に Eg−R∗/n2 の線が並ぶ。吸収端の上の連続の吸収も引力で持ち上がり、端で有限の段になる
電子と正孔の2体問題
前節では、光が作った電子と正孔は独立に動くとした。実際には、伝導帯に上がった電子と価電子帯に残った正孔は電荷 −e と +e を持ち、Coulomb 力で引き合う。半導体の中では、周りの電子が分極してこの引力を弱めるので、引力のポテンシャルは −e2/(4πε0εbr) になる(εb は背景の比誘電率)。電子と正孔の距離が格子間隔より十分大きければ、両者を有効質量 me・mh の粒子とみなす有効質量近似が使え、2体の Hamiltonian は
H^X=Eg+2mep^e2+2mhp^h2−4πε0εb∣r^e−r^h∣e2(4.6.12)
になる。これは水素原子と同じ形で、重心運動(質量 MX=me+mh、波数 K)と相対運動(換算質量 mr)に分かれる。相対運動の束縛状態のエネルギーと大きさは
En=Eg−n2R∗+2MXℏ2K2,R∗=εb2mr/m×13.6eV,a∗=εbmrma0(4.6.13)
である(n=1,2,…、a0=0.0529nm は Bohr 半径)。この電子と正孔の束縛状態を励起子(Wannier 励起子)と呼び、R∗ を励起子の Rydberg エネルギー、a∗ を励起子の Bohr 半径と呼ぶ。光の波数はほとんど 0 なので、光で作れるのは K≈0 の励起子だけで、吸収スペクトルにはギャップの下 Eg−R∗/n2 に鋭い線が並ぶ。
小さい有効質量と大きい εb の両方が束縛を弱めるので、典型的な半導体の R∗ は meV の程度、a∗ は 10 nm の程度になる。a∗ が格子間隔の何十倍もあることが、式 (4.6.12) の有効質量近似と連続体の遮蔽を使ってよい理由で、同時に R∗ が小さいので室温の熱で励起子はすぐに壊れる。逆に、分子性の結晶(アントラセンなど)やハロゲン化アルカリでは電子と正孔が同じ分子・同じイオンの上に留まる小さな励起子(Frenkel 励起子)になり、R∗ は eV の程度まで大きくなる。分子性固体そのものは 第4部第8章で扱うが、Frenkel 励起子の詳しい扱いはこの巻では行わない。
亜酸化銅 Cu2O では、この水素原子型の系列が n=25 まで観測されている(Kazimierczuk ほか(2014)、Nature 514、343)。半径は n2 に比例して伸びるので、n=25 の励起子は μm の程度まで広がる。
例題 4.6.4 GaAs に近い半導体の励起子 ★★★
オリジナル仮の値として me=0.067m、mh=0.5m、εb=12.9、格子定数 0.565nm(閃亜鉛鉱型)を使う。
- (1) mr、R∗、a∗ を求めよ。
- (2) n=1 と n=2 の線の間隔を求め、吸収スペクトルで2本を分けて見るには温度がどのくらい低ければよいかを kBT と比べて述べよ。
- (3) 半径 a∗ の球の中に基本単位胞(体積 a3/4)がいくつ入るかを求め、有効質量近似が使える理由を述べよ。
解答
(1) mr=0.067×0.5/0.567m=0.0591m。R∗=13.6eV×0.0591/12.92=4.83meV、a∗=12.9/0.0591×0.0529nm=11.6nm。
(2) n=2 の線は Eg−1.21meV で、n=1 との間隔は 43R∗=3.62meV。室温の kBT=25.9meV は R∗ の5倍あり、線の幅(フォノンとの衝突)も熱で広がるので、線は吸収端と重なって見分けられない。kBT が間隔より十分小さい液体ヘリウムの温度(4K で 0.34meV)まで冷やすと、n=1 の線を吸収端から分けて見ることができる。
(3) a∗/a=20.5 で、球の体積 34πa∗3 を a3/4 で割ると約 1.4×105 個の単位胞が入る。励起子の波動関数は非常に多くの単位胞にわたってゆっくり変わるので、単位胞の中の周期的な構造は unk にまとめてバンドの底の有効質量に繰り込み、包絡線だけを水素原子の方程式で決めることができる。εb で遮蔽してよいのも、引力の及ぶ距離に多くの原子があって分極が平均できるからである。
吸収端の上も引力で変わる
電子と正孔の引力は、ギャップの下に線を作るだけでなく、ギャップの上の連続の吸収(電子と正孔が離れていく状態への遷移)も変える。光で電子と正孔を作る行列要素は、2体の相対運動の波動関数の原点の値 ϕ(r=0) に比例する(光は電子と正孔を同じ場所に作るため)。引力があると、電子と正孔が同じ場所にいる確率が高まり、遷移が強くなる。Coulomb 波動関数の ∣ϕ(0)∣2 を自由な平面波のときと比べた比(Sommerfeld 因子)を使うと、吸収端の近くの ε2 は Elliott(1957)、Physical Review 108、1384 の形
ε2∝n=1∑∞n34πδ(x+n21)+θ(x)xS(x),S(x)=1−e−2π/x2π/x,x=R∗ℏω−Eg(4.6.14)
になる(比例係数は式 (4.6.7) の自由な場合の x の係数と同じ)。線の重み 4π/n3 は 2∣ϕn(0)∣2=2/(πa∗3n3) を自由な結合状態密度 x/(2π2a∗3R∗) の係数で割ったものである。
この式の要点は2つある。第一に、x→0+ で xS(x)→2π で、吸収は端で 0 から x で立ち上がるのでなく、有限の値から始まる。3次元の吸収端の形は、引力のために段の形に変わる。第二に、ギャップの下の線は x=−1/n2 に間隔 dx/dn=2/n3 で並び、重みは 4π/n3 なので、単位 x あたりの重みは 2π である。線が詰まっていく所の平均の高さが、ギャップの上の連続の値 2π にちょうどつながる。図 4.6.2 にこの様子を描いた。

図 4.6.2 吸収端の近くの ε2。実線は電子と正孔を独立とした式 (4.6.9) の x、点線は引力を入れた Elliott の連続の部分 xS(x)、縦の棒はギャップの下の励起子の線で、棒の高さは線の重み 4π/n3 の半分にした。x が大きいと S(x)≈1+π/x で、点線と実線の比は 1 へゆっくり近づく。
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