ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第6章 §4.6.4 ★★★ 横波の光は c2q2=ω2εr、縦の振動は εr(ω)=0 で決まる。電子では ωp/εb のプラズモン(銀の 3.8 eV・銅の色)、イオンでは LO フォノンになり、ωL2/ωT2=εr(0)/εr(∞) と赤外の反射帯が出る
縦の振動は εr(ω)=0 で起きる
外から電荷を入れない物質の中では ∇⋅D=0、D=ε0εr(ω)E である。平面波 E0ei(q⋅r−ωt) では εr(ω)q⋅E0=0 になる。横波(q⊥E0)はこれを自動的に満たし、Maxwell 方程式から光の分散関係 c2q2=ω2εr(ω) が出る。縦波(q∥E0)で E0=0 になるためには
εr(ω)=0(4.6.15)
が要る。このとき磁場を伴わない電場だけの振動が、外から何も加えずに存在することができる。これが電荷の密度の集団的な振動で、応答する電荷が電子ならプラズモン、イオンなら縦の光学フォノン(LO フォノン)である。縦の振動は横波の光と結合しないので、光の吸収には直接は現れない。現れるのは、εr=0 の近くで反射率が急に変わること(n~≈0)と、速い電子を通したときのエネルギー損失である。
固体のプラズモン
自由電子の部分に背景の比誘電率を足した εr=εb−ωp2/ω2(ωτ≫1)では、式 (4.6.15) から
ωpl=εbωp,ωp2=ε0m∗nee2(4.6.16)
がプラズモンの角振動数になる。εb=1 なら第4部第2章のプラズマ振動数そのもので、背景の分極があると、電子のずれが作る電場が背景に遮蔽されて復元力が 1/εb に弱まる。ω<ωpl では ε1<0 で光は反射され、ω>ωpl では金属は透明になる(反射率の急な落ち込みをプラズマ端と呼ぶ)。
金属の色は、この自由電子の部分とバンド間遷移の部分の組み合わせで決まる。アルミニウムでは d バンドが無く、3価の自由電子の ℏωp は 15.8eV と紫外の奥にあるので、可視光はほぼ一様に反射され、白っぽい銀色に見える。銅と銀では、満ちた d バンドが Fermi 準位の数 eV 下にあり、d バンドから Fermi 準位の上の s バンドへの遷移が起き始める振動数がある。銅ではそれが約 2eV にあり、緑から青の光が d バンドからの遷移で吸収されるので、反射光は赤と橙に偏る。銀ではそれが約 4eV の紫外にあり、可視光はほぼ一様に反射される(Ehrenreich, Philipp(1962)、Physical Review 128、1622)。これが第4部第2章の Drude だけの模型では説明できなかった銅の色である。
例題 4.6.5 銀のプラズモンと d 電子の分極 ★★
オリジナル銀は1原子あたり1個の s 電子を持ち、その数密度は ne=5.86×1028m−3 である。m∗=m とする。
- (1) s 電子だけの ℏωp を求めよ。
- (2) 銀の反射率から求めた誘電関数の実部は 3.8eV で 0 になり、そこにプラズマ共鳴がある(Ehrenreich, Philipp(1962))。式 (4.6.16) で説明するには εb はいくらであればよいか。その εb がどの電子の分極によるかを述べよ。
- (3) 電子エネルギー損失の強さは −Im[1/εr(ω)] に比例する。εr=εb−ωp2/(ω(ω+iγ))、γ≪ωp で、この量が ωp/εb に山を持つことを示せ。
解答
(1) ωp=nee2/(ε0m) で ℏωp=8.99eV。
(2) εb=(8.99/3.8)2=5.6。3.8eV は 4eV 付近から始まる d バンドからの遷移のすぐ下にあり、その遷移の分極が背景として s 電子の振動を遮蔽する。背景は1ではなく 5 を超える大きさで、銀のプラズモンは d 電子の分極のために自由電子の値から半分以下に下がっている。
(3) 1/εr=1/(ε1+iε2) の虚部は −ε2/(ε12+ε22) で、ε2 が小さいとき、ε1=0 すなわち ω=ωp/εb で分母が最小になり、−Im(1/εr) は 1/ε2 の高さの鋭い山になる。(εb=4、γ=0.05ωp の数値で、山は ω/ωp=0.500 にある。)吸収 ε2 が光の横波の吸収を測るのに対し、−Im(1/εr) は電子が通り過ぎるときに作る縦の電場がどれだけ吸われるかを測るので、縦の振動の振動数に山が立つ。
イオン結晶の LO フォノンと Lyddane–Sachs–Teller の関係
NaCl や GaAs のように単位胞の2つの原子が逆の電荷を帯びた結晶では、光学フォノンで正負のイオンが逆向きにずれ、分極ができる。イオンの対の相対的なずれを u、換算質量を Mr、実効の電荷を q∗、対の数密度を Nion とすると、k≈0 の運動方程式と分極は
Mru¨=−MrωT2u+q∗E,P=Nionq∗u+ε0(εr(∞)−1)E(4.6.17)
である。ωT は短い距離のばねだけによる角振動数、第2式の第2項はイオンより速く応答する電子の分極である。e−iωt で解くと Lorentz 振動子と同じ形の
εr(ω)=εr(∞)+ε0Mr(ωT2−ω2)Nionq∗2=εr(∞)ωT2−ω2ωL2−ω2(4.6.18)
を得る。ここで ωL は εr(ωL)=0 の振動数で、ω=0 とおいて εr(0) と比べると
ωT2ωL2=εr(∞)εr(0)(4.6.19)
が出る。これが Lyddane–Sachs–Teller の関係である(Lyddane, Sachs, Teller(1941)、Physical Review 59、673)。
2つの振動数の意味は、マクロな電場 E が振動に加わるかどうかで分かれる。横の光学フォノン(TO)で q≫ω/c のときは、u が q に垂直で分極の電荷が生じず、E≈0 なので、ばねだけの ωT で振動する。縦の光学フォノン(LO)では、∇⋅D=0 から E=−Nionq∗u/(ε0εr(∞)) という逆向きの電場ができ、それが復元力に加わってωL2=ωT2+Nionq∗2/(ε0εr(∞)Mr) になる。これは式 (4.6.19) と同じ値である。第3部第1章で「長距離の Coulomb 力が LO にだけ余分な復元力を足す」と述べたのは、この電場のことである。ばねだけの模型(第3部第3章の図)が LO と TO を分けないのは、この電場を入れていないためである。
ωT<ω<ωL では式 (4.6.18) が負になり、横波の光は結晶の中を伝わることができない。減衰が無ければこの帯の光は全部反射される(R=1)。この帯を反射帯(Reststrahlen 帯)と呼ぶ。帯の上では εr=1 になる振動数 ωT(εr(0)−1)/(εr(∞)−1) で反射が 0 になる。図 4.6.3 に描いた。

図 4.6.3 イオン結晶の反射率(εr(0)=6、εr(∞)=2.5 の模型)。実線は減衰を 0 とした式 (4.6.18)、点線は減衰 γ=0.05ωT を入れたεr(∞)(ωL2−ω2−iγω)/(ωT2−ω2−iγω)。ωT と ωL の間が反射帯。
例題 4.6.6 LO と TO の分裂と反射帯の幅 ★★
オリジナルGaAs に近い仮の値として、εr(0)=12.9、εr(∞)=10.9、ℏωT=33.3meV とする。
- (1) ℏωL と反射帯の幅を求め、反射帯の光の波長を求めよ。
- (2) 同じ結晶で、イオンが電荷を帯びていない(q∗=0)としたら、εr(0) と ωL はどうなるか。Si のような単体の結晶で LO と TO が k=0 で縮退することと結びつけて述べよ。
解答
(1) ωL/ωT=12.9/10.9=1.088 で、ℏωL=36.2meV。反射帯の幅は 2.9meV で、ℏωT の光の波長は 37.2μm(遠赤外)である。εr(0) と εr(∞) の差(イオンの分極の寄与)が小さいので、帯は狭い。差の大きいハロゲン化アルカリでは帯が広く、この帯の反射を何度も繰り返して赤外の特定の帯だけを取り出す方法が、Reststrahlen(残留線)の名前の元である。
(2) 式 (4.6.18) の第2項が消えて εr(0)=εr(∞)、したがって ωL=ωT になる。単体の結晶では2つの原子が同じ種類なので実効の電荷を持たず、光学フォノンが分極を作らないので、LO と TO は k=0 で縮退し、赤外の光も吸収しない。Si の Γ 点の光学フォノンが赤外で見えず Raman 散乱で見える(第3部第3章)のも同じ理由である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com