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この章で選ぶ HH:狭いバンドと分子の振動(Holstein 模型)

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第8章 分子性固体と有機エレクトロニクス
目次
  1. 分子を1つのサイトとみなす
  2. 分子の歪みとの結合
  3. 帯の描像はどこで破れるか
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第8章 §4.8.1 ★★★ 分子1個を1サイトとみなし、隣へのホッピング tht_{\mathrm h} と、電子が乗ると分子の振動の原点がずれる結合 gg だけを残す

ここまでの第4部では、電子をバンドの中の Bloch 波とみなし、不純物やフォノンでときどき散乱される粒子として Boltzmann 方程式で輸送を計算してきた(第4部第2章)。この描像が成り立つ前提は、散乱と散乱の間に電子が格子間隔より十分長く進むこと、言い換えると散乱によるエネルギーのぼやけ ℏ/τ\hbar/\tau がバンドの幅より小さいことである。Si や Cu ではバンドの幅が数 eV あり、この前提は楽に満たされる。

ナフタレン・ペンタセン・ルブレンのような芳香族の分子が集まった結晶(分子性固体)では事情が違う。分子どうしは van der Waals 力で弱く結びつき、隣の分子の π\pi 軌道の重なりが小さいので、分子から分子へのホッピングは数 meV から数十 meV にとどまる。一方で、分子に電子が1個入ると分子の骨格の結合の長さが変わり、その緩みのエネルギーは 0.1 eV の桁になる。バンドの幅が電子と分子の振動の結合より小さくなると、電子は自分で作った分子の歪みの中に閉じ込められ、熱の揺らぎに助けられて隣へ跳び移る。

この章で選ぶ HH は、tight-binding のバンドに分子の振動との結合を足した Holstein 模型である(4.8.1節)。当てる道具は、電子と一緒に振動の原点をずらす Lang–Firsov 変換と、2つの分子の間の跳び移りを Fermi の黄金律で数える計算である(4.8.2節)。出てくるものの第一は、跳び移りの速さを再配置エネルギー λ\lambda で書く Marcus の式で、駆動力を大きくしすぎると遅くなる「逆転領域」を含む(4.8.3節)。第二は、跳び移りの速さを Einstein の関係で移動度に直した式と、その移動度で動く有機トランジスタ(有機 FET)の電流である(4.8.4節)。第三は、電子の輸送から離れ、分子の向きと双極子そのものを変数に選んだときの秩序で、液晶と強誘電体の入口にあたる(4.8.5節)。最後に、削ったもの(静的な乱れ・振動の量子性・ホッピングの揺らぎ)と近似の裏付けの札、実験の量、授業で習った形との対応をまとめて述べる(4.8.6節)。

この章では、ホッピングと時間が同じ式に現れる(跳び移りの速さ・Landau–Zener の通過)ので、記法の正本に従ってホッピングを章を通して tht_{\mathrm h} と書く。4.8.1節と4.8.2節は第二量子化で書くので、この章では演算子の帽子を省く。電子の消滅演算子は cic_i、分子の振動の消滅演算子は bib_i である。化学反応の速さの慣例に合わせ、跳び移りの速さ(単位時間あたりの確率)を kETk_{\mathrm{ET}}(ET は electron transfer)と書き、波数 kk と区別する。

分子を1つのサイトとみなす

分子性固体の出発点は、第2部の Hückel 法(第2部第2章)で分子1個の π\pi 軌道を求めたところにある。中性の分子では HOMO まで電子が詰まっている。結晶に余分な電子が1個入ると LUMO に、電子が1個抜けると HOMO に、それぞれ1個のキャリアができる。分子の中の他の軌道は、HOMO と LUMO から 1 eV 以上離れているので、輸送を考えるときには使わない。そこで分子 ii の LUMO を1つの軌道とみなし、そこに電子がいるかどうかを ni=ci†cin_i=c_i^\dagger c_i で表す。スピンは輸送の計算では2倍の因子として入るだけなので省き、キャリアは1個だけを考える。

隣の分子 jj の LUMO との重なりから、ホッピング tht_{\mathrm h} が生じる。分子の面と面の間隔は 0.35 nm0.35\,\mathrm{nm} 程度で、炭素の共有結合(0.14 nm0.14\,\mathrm{nm})よりずっと長いので、π\pi 軌道の裾の重なりは小さく、tht_{\mathrm h} は炭素の鎖の t≈2.5 eVt\approx2.5\,\mathrm{eV}(第2部第8章)より2桁から3桁小さい。バンドの幅は、立方格子に並べたとしても 12th12t_{\mathrm h} で、th=5 meVt_{\mathrm h}=5\,\mathrm{meV} なら 60 meV60\,\mathrm{meV} である。室温の熱エネルギー kBT=25.9 meVk_{\mathrm B} T=25.9\,\mathrm{meV} と同じ桁の幅しかない。

分子の歪みとの結合

分子に電子が1個入ると、結合の長さが変わる。たとえばベンゼン環の LUMO は隣どうしの炭素の間で節を持つ所と持たない所があるので、そこに電子が入ると、短くなる結合と長くなる結合ができる。この変形を、分子 ii の1つの振動の座標 xix_i で代表させる。中性の分子では xi=0x_i=0 が平衡点で、そのまわりの振動は角振動数 ωv\omega_{\mathrm v}、質量 MM の調和振動子である。電子が乗ると、分子のエネルギーに xix_i の1次の項 −κxini-\kappa x_in_i が加わり、平衡点が xi=κ/(Mωv2)x_i=\kappa/(M\omega_{\mathrm v}^2) へずれる。振動を量子化して xi=ℏ/(2Mωv) (bi+bi†)x_i=\sqrt{\hbar/(2M\omega_{\mathrm v})}\,(b_i+b_i^\dagger) と書き、無次元の結合定数を g=−κ/2Mℏωv3g=-\kappa/\sqrt{2M\hbar\omega_{\mathrm v}^3} と置くと(符号は bib_i の向きの取り方で決まり、物理には関係しない)、この章で選ぶ HH は次の形になる。

H=εa∑ini−th∑⟨ij⟩(ci†cj+cj†ci)+ℏωv∑ibi†bi+gℏωv∑ini(bi+bi†).(4.8.1)H=\varepsilon _{\mathrm a}\sum_in_i-t_{\mathrm h}\sum_{\langle ij\rangle}\bigl(c_i^\dagger c_j+c_j^\dagger c_i\bigr)+\hbar\omega_{\mathrm v}\sum_ib_i^\dagger b_i+g\hbar\omega_{\mathrm v}\sum_in_i\bigl(b_i+b_i^\dagger\bigr).\tag{4.8.1}

第1項と第2項は第2部第3章の tight-binding の模型(第2部第3章)そのもの、第3項は分子ごとに独立な振動、第4項が電子と振動の結合である。この形を Holstein 模型と呼ぶ(T. Holstein (1959), Ann. Phys. (N.Y.) 8, 325)。

第2部第8章の SSH 模型との違いを確かめておく。SSH 模型では、原子の変位がホッピング(行列の非対角要素)を変えた。Holstein 模型では、分子の変形がサイトのエネルギー(対角要素)を変える。分子性固体では両方があるが、分子の中の結合の変化が大きいので、この章ではまず対角の結合だけを残す。非対角の結合、つまり分子どうしの相対運動で tht_{\mathrm h} が揺らぐ効果は4.8.6節で戻す。

帯の描像はどこで破れるか

(4.8.1) の gg を 00 にすれば、キャリアは幅 12th12t_{\mathrm h} のバンドの中の Bloch 波になる。その Bloch 波をときどき散乱させれば、第4部第2章と同じ Drude の移動度 μe=eτ/m∗\mu_{\mathrm e}=e\tau/m^* が得られる。しかしこの読み方には、自分自身と矛盾しない範囲がある。散乱と散乱の間に進む距離(平均自由行程)ℓ\ell が格子間隔 aa より短ければ、「波数 k\bm{k} の Bloch 波が自由に進む」という出発点が意味を失う。これを Mott–Ioffe–Regel の条件 ℓ≳a\ell\gtrsim a と呼ぶ(A. F. Ioffe and A. R. Regel (1960), Prog. Semicond. 4, 237)。狭いバンドでは速さの上限が小さいので、この条件は移動度の下限に直すことができる。

例題 4.8.1 帯の描像が成り立つ移動度の下限 ★★★

オリジナル格子定数 aa の1次元の鎖に、ホッピング tht_{\mathrm h} の tight-binding のバンド ε(k)=εa−2thcos⁡ka\varepsilon (k)=\varepsilon _{\mathrm a}-2t_{\mathrm h}\cos ka がある。

  1. (1) バンドの底の有効質量 m∗m^* と、群速度の最大値 vmax⁡v_{\max} を求めよ。
  2. (2) 平均自由行程が ℓ=vmax⁡τ≥a\ell=v_{\max}\tau\ge a を満たすための緩和時間の下限を求め、それを Drude の移動度 μe=eτ/m∗\mu_{\mathrm e}=e\tau/m^* に入れて、帯の描像が成り立つ移動度の下限 μmin⁡\mu_{\min} が tht_{\mathrm h} によらないことを示せ。
  3. (3) a=0.5 nma=0.5\,\mathrm{nm}、th=5 meVt_{\mathrm h}=5\,\mathrm{meV} のとき、m∗/mem^*/m_{\mathrm e}・vmax⁡v_{\max}・μmin⁡\mu_{\min} を求めよ。
  4. (4) 同じ結晶で移動度 0.01 cm2 V−1s−10.01\,\mathrm{cm^2\,V^{-1}s^{-1}} が測られたとする。これを Drude の式で読んだときの τ\tau と ℏ/τ\hbar/\tau を求め、バンドの幅 4th4t_{\mathrm h} と比べよ。
解答

(1) ε(k)\varepsilon (k) を k=0k=0 のまわりで展開すると ε≈εa−2th+tha2k2\varepsilon \approx\varepsilon _{\mathrm a}-2t_{\mathrm h}+t_{\mathrm h}a^2k^2 なので、ℏ2k2/(2m∗)=tha2k2\hbar^2k^2/(2m^*)=t_{\mathrm h}a^2k^2 から m∗=ℏ2/(2tha2)m^*=\hbar^2/(2t_{\mathrm h}a^2)。群速度は v=1ℏdεdk=2thaℏsin⁡kav=\frac1\hbar\frac{\mathrm{d} \varepsilon }{\mathrm{d} k}=\frac{2t_{\mathrm h}a}{\hbar}\sin ka で、最大値は vmax⁡=2tha/ℏv_{\max}=2t_{\mathrm h}a/\hbar(ka=π/2ka=\pi/2)である。

(2) vmax⁡τ≥av_{\max}\tau\ge a から τ≥a/vmax⁡=ℏ/(2th)\tau\ge a/v_{\max}=\hbar/(2t_{\mathrm h})。これを Drude の式に入れると

μe≥μmin⁡=em∗ℏ2th=e 2tha2ℏ2 ℏ2th=ea2ℏ.(4.8.2)\mu_{\mathrm e}\ge\mu_{\min}=\frac{e}{m^*}\frac{\hbar}{2t_{\mathrm h}}=e\,\frac{2t_{\mathrm h}a^2}{\hbar^2}\,\frac{\hbar}{2t_{\mathrm h}}=\frac{ea^2}{\hbar}.\tag{4.8.2}

tht_{\mathrm h} を小さくすると m∗m^* が重くなり、同時に許される τ\tau の下限が長くなる。2つの効果が正確に打ち消し、下限は格子定数だけで決まる。条件 τ≥ℏ/(2th)\tau\ge\hbar/(2t_{\mathrm h}) は「散乱によるエネルギーのぼやけ ℏ/τ\hbar/\tau がバンドの幅の程度より小さい」と言い換えることもできる。

(3) m∗=ℏ2/(2tha2)=30.5 mem^*=\hbar^2/(2t_{\mathrm h}a^2)=30.5\,m_{\mathrm e}、vmax⁡=7.60×103 m s−1v_{\max}=7.60\times10^3\,\mathrm{m\,s^{-1}}、τ≥6.58×10−14 s\tau\ge6.58\times10^{-14}\,\mathrm s、μmin⁡=ea2/ℏ=3.80×10−4 m2V−1s−1=3.80 cm2 V−1s−1\mu_{\min}=ea^2/\hbar=3.80\times10^{-4}\,\mathrm{m^2V^{-1}s^{-1}}=3.80\,\mathrm{cm^2\,V^{-1}s^{-1}}。

(4) τ=μem∗/e=1.73×10−16 s\tau=\mu_{\mathrm e}m^*/e=1.73\times10^{-16}\,\mathrm s、ℏ/τ=3.80 eV\hbar/\tau=3.80\,\mathrm{eV} である。バンドの幅 4th=20 meV4t_{\mathrm h}=20\,\mathrm{meV} の 190 倍のぼやけを持つ Bloch 波は、もはや Bloch 波とは呼べない。移動度が μmin⁡\mu_{\min} を2桁下回る物質に Drude の式を当てると、このように自己矛盾した τ\tau が出てくる。この物質の輸送は、バンドとは別の描像で読まなければならない。

多くの有機半導体の薄膜で測られる移動度は 10−310^{-3} から 1 cm2 V−1s−11\,\mathrm{cm^2\,V^{-1}s^{-1}} の範囲にあり、(4.8.2) の数 cm2 V−1s−1\mathrm{cm^2\,V^{-1}s^{-1}} を下回ることが多い。その読み方の手がかりは、次の節から使う (4.8.1) の第4項にある。

木下の勉強ステータス

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