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出てくるもの3:分子の向きと双極子の秩序(液晶・強誘電体の入口)

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第8章 分子性固体と有機エレクトロニクス
目次
  1. 選ぶ変数を変える
  2. 液晶:Maier–Saupe の平均場
  3. 強誘電体:符号の対称性がある秩序
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第8章 §4.8.5 ★★ 電子の運動を捨て、分子の向きや双極子だけを変数に選ぶと、平均場で液晶の1次転移と強誘電体の2次転移が出る。違いは秩序変数の符号の対称性にある

選ぶ変数を変える

分子性固体の分子は、電子を運ぶ以外に、向きと形を持つ。棒状の分子が向きをそろえた液体が液晶(ネマチック相)、分子の中の正負の電荷の偏り(双極子)が自発的にそろった結晶が強誘電体である。どちらでも、電子の HH は分子の中に閉じ込めたまま捨て、分子 ii の向きを表す単位ベクトル ui\bm{u}_i や双極子の向きだけを変数に残す。分子間の相互作用はその変数の関数として与え、統計力学の平均場(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第7章)を当てる。この章で選ぶ HH のもう1つの形で、「電子の輸送」とは別の削り方になっている。

液晶:Maier–Saupe の平均場

ネマチック相の分子は頭と尾を区別しない(u\bm{u} と −u-\bm{u} が同じ)ので、そろい具合は u\bm{u} の1次でなく2次の量で測る。そろう向き(ダイレクター)からの角度を θ\theta として、Legendre 多項式 P2(cos⁡θ)=32cos⁡2θ−12P_2(\cos\theta)=\frac32\cos^2\theta-\frac12 の平均

s=⟨P2(cos⁡θ)⟩(4.8.17)s=\langle P_2(\cos\theta) \rangle\tag{4.8.17}

を秩序変数にとる。向きがでたらめなら s=0s=0、完全にそろえば s=1s=1 である。Maier と Saupe は、1つの分子が周りから受ける向きのエネルギーを −UsP2(cos⁡θ)-UsP_2(\cos\theta)(U>0U>0)と平均場で置いた(W. Maier and A. Saupe (1959), Z. Naturforsch. 14a, 882)。自己無撞着の条件と分子あたりの自由エネルギーは

s=∫01P2(x)eβUsP2(x)dx∫01eβUsP2(x)dx,FN=Us22−kBTln⁡∫01eβUsP2(x)dx(4.8.18)s=\frac{\int_0^1P_2(x)\mathrm{e}^{\beta UsP_2(x)}\mathrm{d} x}{\int_0^1\mathrm{e}^{\beta UsP_2(x)}\mathrm{d} x},\qquad \frac{F}{N}=\frac{U s^2}{2}- k_{\mathrm B} T\ln\int_0^1\mathrm{e}^{\beta UsP_2(x)}\mathrm{d} x\tag{4.8.18}

である(x=cos⁡θx=\cos\theta。頭と尾が同じなので 0≤x≤10\le x\le1 で足りる)。自己無撞着の式は自由エネルギーの ss についての停留条件になっている。

磁性の Weiss の平均場と違うのは、自由エネルギーを ss で展開すると3次の項が残ることである。展開の係数は ⟨P2⟩0=0\langle P_2 \rangle _0=0、⟨P22⟩0=1/5\langle P_2^2 \rangle _0=1/5、⟨P23⟩0=2/35\langle P_2^3 \rangle _0=2/35(⟨⋅⟩0\langle \cdot \rangle _0 は向きがでたらめな分布での平均)から決まり、⟨P23⟩0≠0\langle P_2^3 \rangle _0\ne0 のために3次の項が残る。ss と −s-s は違う状態(棒がそろう向きと、円盤のように面がそろう向き)なので、対称性から3次の項を除く理由は無い。3次の項がある Landau の自由エネルギーでは、2次の係数が 00 になる前に s≠0s\ne0 の極小が s=0s=0 より下がり、ss は 00 から有限の値へ跳ぶ(1次転移)。数値で解くと、転移は kBTNI=0.2202 Uk_{\mathrm B} T_{\mathrm{NI}}=0.2202\,U で起き、そのとき ss は 00 から 0.4290.429 へ跳ぶ(図 4.8.3)。

図

図 4.8.3 Maier–Saupe の平均場 (4.8.18) で求めた秩序変数 ss の温度変化。TNIT_{\mathrm{NI}} で 0.4290.429 から 00 へ跳ぶ(ネマチック相から等方的な液体への1次転移)。平均場の近似の曲線である。

例題 4.8.6 Maier–Saupe の転移 ★★

オリジナル

  1. (1) (4.8.18) の ln⁡∫eβUsP2dx\ln\int\mathrm{e}^{\beta UsP_2}\mathrm{d} x を ss の3次まで展開し、自由エネルギー F/NF/N の2次と3次の係数を求めよ。
  2. (2) s=0s=0 が局所的に不安定になる温度を求め、実際の転移温度 kBTNI=0.2202 Uk_{\mathrm B} T_{\mathrm{NI}}=0.2202\,U と比べよ。
  3. (3) U=0.15 eVU=0.15\,\mathrm{eV} のとき TNIT_{\mathrm{NI}} を求めよ。また T=0.9TNIT=0.9T_{\mathrm{NI}} での ss は図 4.8.3 からいくらか。
解答

(1) 累積量の展開で ln⁡⟨eyP2⟩0=y⟨P2⟩0+y22⟨P22⟩0+y36⟨P23⟩0+⋯\ln\langle \mathrm{e}^{y P_2} \rangle _0=y\langle P_2 \rangle _0+\frac{y^2}{2}\langle P_2^2 \rangle _0+\frac{y^3}{6}\langle P_2^3 \rangle _0+\cdots(⟨P2⟩0=0\langle P_2 \rangle _0=0 なので2次・3次は素のモーメントに等しい)。y=βUsy=\beta Us を入れると F/N=U2(1−βU5)s2−β2U3105s3+O(s4)F/N=\frac{U}{2}\bigl(1-\frac{\beta U}{5}\bigr)s^2-\frac{\beta^2U^3}{105}s^3+\mathcal{O}(s^4)。3次の係数は −kBT⋅(βU)36⋅235=−β2U3105- k_{\mathrm B} T\cdot\frac{(\beta U)^3}{6}\cdot\frac{2}{35}=-\frac{\beta^2U^3}{105} で、正の ss(棒がそろう向き)を有利にする。

(2) 2次の係数が 00 になるのは βU=5\beta U=5、すなわち kBT=0.2 Uk_{\mathrm B} T=0.2\,U。実際の転移はそれより高い 0.2202 U0.2202\,U で起きる。s=0s=0 がまだ局所的に安定なうちに、3次の項のおかげで s=0.429s=0.429 の極小がより低くなるからである。0.2 U<kBT<0.2202 U0.2\,U< k_{\mathrm B} T<0.2202\,U では等方相が準安定に残り、冷やしすぎ(過冷却)が起こりうる。

(3) TNI=0.2202×0.15 eV/kB=383 KT_{\mathrm{NI}}=0.2202\times0.15\,\mathrm{eV}/ k_{\mathrm B}=383\,\mathrm K。0.9TNI0.9T_{\mathrm{NI}} で s=0.625s=0.625 である。

強誘電体:符号の対称性がある秩序

強誘電体の秩序変数は分極の成分 PzP_z で、PzP_z と −Pz-P_z は対称な2つの状態である。したがって Landau の自由エネルギー(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第10章)は偶数次だけを含み、電場 EzE_z の中で

F=c22(T−TC)Pz2+c44Pz4−EzPz(c2,c4>0)(4.8.19)F=\frac{c_2}{2}(T-T_{\mathrm C})P_z^2+\frac{c_4}{4}P_z^4-E_zP_z\qquad(c_2,c_4>0)\tag{4.8.19}

と書ける(4次で切った2次転移の形)。Ez=0E_z=0 では T<TCT<T_{\mathrm C} で自発分極 Ps=c2(TC−T)/c4P_{\mathrm s}=\sqrt{c_2(T_{\mathrm C}-T)/c_4} が現れる。∂F/∂Pz=0\partial F/\partial P_z=0 から Ez=c2(T−TC)Pz+c4Pz3E_z=c_2(T-T_{\mathrm C})P_z+c_4P_z^3 で、T<TCT<T_{\mathrm C} ではこの曲線が S 字になり、分極の向きを反転させるには極値の高さ(抗電場)を超える電場が要る。これが履歴(ヒステリシス)の起源である。

分子性の強誘電体では、分極の起源が分子の中の電子の偏りや、水素結合の上のプロトンの位置にある。単一の分子の結晶で室温を超えて強誘電性を示す例として、クロコン酸の結晶が報告されている(S. Horiuchi, Y. Tokunaga, G. Giovannetti, S. Picozzi, H. Itoh, R. Shimano, R. Kumai and Y. Tokura (2010), Nature 463, 789。自発分極は約 20 μC cm−220\,\mu\mathrm{C\,cm^{-2}}、400 K400\,\mathrm K まで保たれる)。

例題 4.8.7 Landau の強誘電体:感受率と抗電場 ★★

オリジナル(4.8.19) について次を求めよ。

  1. (1) T>TCT>T_{\mathrm C} と T<TCT<T_{\mathrm C} での dPz/dEz\mathrm{d} P_z/\mathrm{d} E_z(Ez=0E_z=0 のまわり)。同じ ∣T−TC∣\lvert T-T_{\mathrm C}\rvert で比はいくらか。
  2. (2) 抗電場 EcE_{\mathrm c} を PsP_{\mathrm s} と c2(TC−T)c_2(T_{\mathrm C}-T) で表せ。
  3. (3) TC=400 KT_{\mathrm C}=400\,\mathrm K、TC+10 KT_{\mathrm C}+10\,\mathrm K で比誘電率から1を引いた値が 100100、300 K300\,\mathrm K で Ps=0.20 C m−2P_{\mathrm s}=0.20\,\mathrm{C\,m^{-2}} とする。c2c_2、300 K300\,\mathrm K での εr−1\varepsilon_{\mathrm r}-1、EcE_{\mathrm c} を求めよ。
解答

(1) dEz/dPz=c2(T−TC)+3c4Pz2\mathrm{d} E_z/\mathrm{d} P_z=c_2(T-T_{\mathrm C})+3c_4P_z^2。T>TCT>T_{\mathrm C} では Pz=0P_z=0 で dPz/dEz=1/[c2(T−TC)]\mathrm{d} P_z/\mathrm{d} E_z=1/[c_2(T-T_{\mathrm C})](Curie–Weiss 則)。T<TCT<T_{\mathrm C} では Pz2=Ps2P_z^2=P_{\mathrm s}^2 を入れて 1/[2c2(TC−T)]1/[2c_2(T_{\mathrm C}-T)]。同じ ∣T−TC∣\lvert T-T_{\mathrm C}\rvert で上は下の2倍である。

(2) Ez(Pz)E_z(P_z) の極値は Pz2=c2(TC−T)/(3c4)=Ps2/3P_z^2=c_2(T_{\mathrm C}-T)/(3c_4)=P_{\mathrm s}^2/3 にあり、そこでの値の大きさはEc=233 c2(TC−T)PsE_{\mathrm c}=\frac{2}{3\sqrt3}\,c_2(T_{\mathrm C}-T)P_{\mathrm s}。

(3) εr−1=1ε0dPz/dEz\varepsilon_{\mathrm r}-1=\frac{1}{\varepsilon_0}\mathrm{d} P_z/\mathrm{d} E_z なので、c2=1/(ε0×100×10 K)=1.13×108 V m C−1K−1c_2=1/(\varepsilon_0\times100\times10\,\mathrm K)=1.13\times10^{8}\,\mathrm{V\,m\,C^{-1}K^{-1}}。300 K300\,\mathrm K では εr−1=1/(2ε0c2×100 K)=5\varepsilon_{\mathrm r}-1=1/(2\varepsilon_0c_2\times100\,\mathrm K)=5。Ec=233×1.13×108×100×0.20=8.7×108 V m−1E_{\mathrm c}=\frac{2}{3\sqrt3}\times1.13\times10^{8}\times100\times0.20=8.7\times10^{8}\,\mathrm{V\,m^{-1}}。この値は、試料全体の分極が一斉に向きを変えると仮定したときの上限で、実際の強誘電体はこれより桁で小さい電場で反転する。分極の向きが違う領域(分域)の境目が動いて、一部から反転が広がるからである。

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