ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第8章 §4.8.4 ★★★ 跳び移りは乱歩なので、拡散係数 D=kETa2 を Einstein の関係で移動度に直す。移動度は温度とともに増える。その移動度で有機 FET の電流が決まる
乱歩と Einstein の関係
1回の跳び移りが隣の分子どうしの間で独立に起きるなら、キャリアの運動は格子の上の乱歩である。立方格子(z=6 個の隣、次元 d=3)で、それぞれの隣へ速さ kET で跳ぶとすると、時間 t の間の跳ぶ回数の平均は 6kETt、1回あたりの変位の2乗は a2 で、向きはでたらめなので ⟨r2⟩=6kETa2t となる。これを ⟨r2⟩=2dDt と比べると、拡散係数は
D=2dzkETa2=kETa2(立方格子。1次元の鎖でも z=2, d=1 で同じ形)(4.8.13)
である。弱い電場 E をかけると、下流への跳び移りの ΔG が −eEa、上流が +eEa になり、その差から平均の速さが出る。その計算は、拡散と移動を結ぶ Einstein の関係 μe=eD/(kBT)(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第9章)と一致する(例題 4.8.4)。(4.8.11) の ΔG=0 の値を入れると、跳び移りの移動度は
μe=kBTea2ℏ2π4πλkBTth2e−λ/4kBT ∝ T−3/2e−λ/4kBT(4.8.14)
となる。
温度で増える移動度
(4.8.14) の温度依存は、バンドの移動度とは逆である。バンドでは温度を上げるとフォノンの散乱が増え、移動度は下がる(第4部第2章)。跳び移りでは、温度を上げると交点を越える熱の揺らぎが増え、移動度は上がる。lnμe=−23lnT−λ/(4kBT)+定数 を T で微分して 0 と置くと、最大は
T∗=6kBλ(4.8.15)
にある。T<T∗ では活性化型(冷やすと下がる)、T>T∗ では前の因子 T−3/2 のために緩やかに下がる。したがって「移動度が温度とともに下がること」は、それだけではバンド伝導の証拠にならない。T∗ より高温側の跳び移りでも同じ向きになるからである。

図 4.8.2 跳び移りの移動度 (4.8.14)(立方格子、a=0.5nm、th=5meV)。最大の温度は T∗=λ/6kB で、λ=0.1,0.2eV でそれぞれ 193,387K、λ=0.3eV では 580K で図の外にある。3本とも Marcus の式で計算した近似の曲線で、どれも例題 4.8.1 の下限 3.8cm2V−1s−1 を2桁以上下回る。
例題 4.8.4 跳び移りの移動度とその温度変化 ★★★
オリジナル立方格子に並んだ分子(a=0.5nm、th=5meV、λ=0.2eV)を考える。
- (1) 1次元の鎖で、電場 E の下で下流と上流への跳び移りの速さを (4.8.11) の ΔG=∓eEa で求め、eEa≪kBT の1次で平均の速さ vd=a(k+−k−) を計算し、移動度が Einstein の関係 eD/kBT に一致することを示せ(eEa≪λ も仮定する)。
- (2) 300K での D と μe を求めよ。
- (3) 移動度が最大になる温度と、μe(200K)/μe(300K) を求めよ。
解答
(1) k±∝exp[−(λ∓eEa)2/4λkBT] を eEa の1次まで展開すると k±≈kET(1±eEa/(2kBT))((λ∓x)2/4λ=λ/4∓x/2+O(x2))。したがって vd=a(k+−k−)=kETa⋅eEa/kBT、μe=vd/E=ekETa2/kBT=eD/kBT。1次元の D=kETa2(⟨x2⟩=2kETa2t=2Dt)と合わせ、Einstein の関係が成り立っている。これは偶然でなく、詳細つり合い k+/k−=eeEa/kBT がこの式で満たされていることの帰結である。
(2) 例題 4.8.3 の kET=1.35×1011s−1 から D=kETa2=3.38×10−8m2s−1、μe=D/(kBT/e)=3.38×10−8/0.02585=1.31×10−6m2V−1s−1=1.31×10−2cm2V−1s−1。
(3) T∗=0.2eV/(6kB)=387K。μe(200)/μe(300)=(300/200)3/2exp[−4kBλ(2001−3001)]=1.837×0.380=0.70 で、100K 冷やすと移動度は3割下がる。
有機 FET
有機半導体の移動度は、薄膜にゲートを付けた電界効果トランジスタ(有機 FET)で測るのが普通である。基板(ゲート電極)の上に厚さ di の絶縁膜を置き、その上に有機半導体の膜とソース・ドレインの電極をのせる。ゲートに電圧 VG をかけると、絶縁膜をコンデンサとして、半導体の絶縁膜側の表面に単位面積あたり Ci(VG−Vth) の電荷がたまる(Ci=ε0εr/di、Vth はしきい値電圧で、罠に捕まる分を差し引くもの)。有機半導体はもともとキャリアをほとんど持たないので、電流を運ぶのはこの誘起された電荷だけである。
長さ L・幅 w のチャネルに沿った位置 y での電位を V(y) とすると、そこでの電荷は Ci(VG−Vth−V(y))、電流は電荷×移動度×電場でID=wμeCi(VG−Vth−V)dV/dy である。y について 0 から L まで積分すると(電位は 0 から VD まで)
ID=LwμeCi[(VG−Vth)VD−2VD2],ID,sat=2LwμeCi(VG−Vth)2(4.8.16)
を得る。第2式は VD=VG−Vth でドレイン端の電荷が 0 になったとき(ピンチオフ)の飽和電流である。この形はシリコンの MOSFET と同じで、その導出とバンドの曲がりは 第4部第9章 で扱う(第4部第9章の式がこの式と同じ形である)。違いは、有機 FET の μe が (4.8.14) の跳び移りの移動度で、電荷の量や温度に依存しうることである。
例題 4.8.5 有機 FET の電流と、1分子あたりのキャリア ★★
オリジナル厚さ 200nm の SiO2(εr=3.9)の上に、例題 4.8.4 の有機半導体(μe=1.31×10−2cm2V−1s−1)で w=1mm、L=50μm の FET を作り、VG−Vth=20V とする。
- (1) Ci と、誘起されるキャリアの面密度 ns を求めよ。分子が a=0.5nm の正方格子で並んだ1層に、キャリアが分子あたり何個いるか。
- (2) 飽和電流と、VD=1V の線形領域の電流を求めよ。
- (3) ID,sat を VG に対して描いた直線の傾きを求め、そこから移動度を読み戻す式を書け。
解答
(1) Ci=3.9×8.854×10−12/(2×10−7)=1.73×10−4Fm−2(17.3nFcm−2)。ns=Ci(VG−Vth)/e=2.16×1016m−2=2.16×1012cm−2。1層の分子の面密度は 1/a2=4×1018m−2 なので、分子あたり 0.0054 個である。キャリアは互いに遠く離れていて、4.8.1節で「キャリアは1個だけ」とした近似が使える。
(2) μe=1.31×10−6m2V−1s−1、w/L=20 なので、飽和電流は 10×1.31×10−6×1.73×10−4×400=9.0×10−7A、線形領域は 20×1.31×10−6×1.73×10−4×(20−0.5)=8.8×10−8A である。
(3) ID,sat=wμeCi/(2L)(VG−Vth) は VG の1次式で、傾きは 4.75×10−5A1/2V−1。傾きを s とすると μe=2Ls2/(wCi)、直線と横軸の交点が Vth である。実際の素子では電極との接触の抵抗と罠のために直線からずれるので、どの電圧範囲で傾きを取ったかを必ず書く。
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