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出てくるもの1:Marcus の速度式

2026年10月15日8分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第8章 分子性固体と有機エレクトロニクス
目次
  1. 黄金律で跳び移りを数える
  2. 逆転領域
  3. 非断熱と断熱
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第8章 §4.8.3 ★★★ 跳び移りの速さは th2t_{\mathrm h}^2 と、2つの放物線の交点を熱の揺らぎで通る確率の積。駆動力 −ΔG-\Delta G が λ\lambda を超えると遅くなる

黄金律で跳び移りを数える

tht_{\mathrm h} が小さいとき、電子が分子1から分子2へ移る速さは、tht_{\mathrm h} を摂動とする Fermi の黄金律(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第12章)で求まる。始めの状態は「電子が分子1にいて、原子核の座標が U1U_1 の熱平衡にある」状態、終わりの状態は「電子が分子2にいる」状態である。原子核を古典的に扱うと、電子が移る瞬間に原子核の座標 qq は変わらないので、エネルギーの保存は U1(q)=U2(q)U_1(q)=U_2(q)、すなわち qq が交点にあることを要求する。黄金律は

kET=2πℏth2 ⟨δ(U2(q)−U1(q))⟩1(4.8.10)k_{\mathrm{ET}}=\frac{2\pi}{\hbar}t_{\mathrm h}^2\,\Bigl\langle\delta\bigl(U_2(q)-U_1(q)\bigr)\Bigr\rangle_1\tag{4.8.10}

となる。⟨⋯ ⟩1\langle\cdots\rangle_1 は U1U_1 の Boltzmann 分布 ∝e−λq2/kBT\propto\mathrm{e}^{-\lambda q^2/ k_{\mathrm B} T} での平均である。

エネルギーの差 ΔU(q)=U2−U1=λ(1−2q)+ΔG\Delta U(q)=U_2-U_1=\lambda(1-2q)+\Delta G は qq の1次式で、qq は平均 00・分散 kBT/(2λ)k_{\mathrm B} T/(2\lambda) の Gauss 分布に従う。したがって ΔU\Delta U も Gauss 分布に従い、平均は λ+ΔG\lambda+\Delta G、分散は 4λ2⋅kBT/(2λ)=2λkBT4\lambda^2\cdot k_{\mathrm B} T/(2\lambda)=2\lambda k_{\mathrm B} T である。Gauss 分布の ΔU=0\Delta U=0 での密度を書くと

kET=2πℏ th2 14πλkBT exp⁡[−(λ+ΔG)24λkBT](4.8.11)k_{\mathrm{ET}}=\frac{2\pi}{\hbar}\,t_{\mathrm h}^2\,\frac{1}{\sqrt{4\pi\lambda k_{\mathrm B} T}}\,\exp\Bigl[-\frac{(\lambda+\Delta G)^2}{4\lambda k_{\mathrm B} T}\Bigr]\tag{4.8.11}

を得る。これが Marcus の速度式である(R. A. Marcus (1956), J. Chem. Phys. 24, 966。溶液中の酸化還元反応のために作られ、溶媒の分極の揺らぎを反応座標にとった)。指数の肩は交点の高さ (4.8.9) を kBTk_{\mathrm B} T で割ったものに等しく、前の因子 (4πλkBT)−1/2(4\pi\lambda k_{\mathrm B} T)^{-1/2} は Gauss 分布の幅から来る規格化である。

逆転領域

(4.8.11) は ΔG\Delta G の Gauss 関数で、ΔG=−λ\Delta G=-\lambda で最大になる。駆動力 −ΔG-\Delta G を 00 から増やすと、はじめは障壁が下がって速くなるが、−ΔG>λ-\Delta G>\lambda では再び遅くなる。これを Marcus の逆転領域と呼ぶ。図 4.8.1 で U2U_2 を下げていくと、交点は q=0q=0 を通り過ぎて左側へ移り、U1U_1 の上で再び高くなる。「エネルギーを多く解放する反応ほど速い」という直観に反するこの予言は、剛直なスペーサーでつないだ分子の中の電子移動で確かめられた(J. R. Miller, L. T. Calcaterra and G. L. Closs (1984), J. Am. Chem. Soc. 106, 3047)。

非断熱と断熱

(4.8.10) は、原子核が交点を1回通るたびに電子が移る確率が小さいことを前提にしている。原子核が交点を速さ q˙\dot q で通るとき、2つの準位の差は ∣dΔU/dt∣=2λ∣q˙∣\lvert \mathrm{d}\Delta U/\mathrm{d} t\rvert =2\lambda\lvert \dot q\rvert の速さで変わる。このときの乗り移りの確率は Landau–Zener の式(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第9章)で 1−exp⁡[−2πth2/(ℏ∣dΔU/dt∣)]1-\exp[-2\pi t_{\mathrm h}^2/(\hbar\lvert \mathrm{d}\Delta U/\mathrm{d} t\rvert )] である。熱的な速さ ∣q˙∣=ωvkBT/2λ\lvert \dot q\rvert =\omega_{\mathrm v}\sqrt{ k_{\mathrm B} T/2\lambda}(λq2\lambda q^2 を 12Mωv2x2\frac12M\omega_{\mathrm v}^2x^2 と読み、運動エネルギーの平均を 12kBT\frac12 k_{\mathrm B} T とした)を入れると、指数の中は

γLZ=2πth2ℏωv2λkBT(4.8.12)\gamma_{\mathrm{LZ}}=\frac{2\pi t_{\mathrm h}^2}{\hbar\omega_{\mathrm v}\sqrt{2\lambda k_{\mathrm B} T}}\tag{4.8.12}

となる。γLZ≪1\gamma_{\mathrm{LZ}}\ll1 なら1回の通過での乗り移りは γLZ\gamma_{\mathrm{LZ}} の確率でしか起きず、速さは th2t_{\mathrm h}^2 に比例する (4.8.11) の形になる(非断熱の移動)。γLZ≳1\gamma_{\mathrm{LZ}}\gtrsim1 では交点を通るたびにほぼ確実に乗り移り、速さは tht_{\mathrm h} によらず、原子核が交点へ来る頻度 (ωv/2π)e−Ea/kBT(\omega_{\mathrm v}/2\pi)\mathrm{e}^{-E_{\mathrm a}/ k_{\mathrm B} T} で頭打ちになる(断熱の移動)。

例題 4.8.3 Marcus の速さと逆転領域の数値 ★★★

オリジナルth=5 meVt_{\mathrm h}=5\,\mathrm{meV}、λ=0.2 eV\lambda=0.2\,\mathrm{eV}、T=300 KT=300\,\mathrm K とする。

  1. (1) ΔG=0\Delta G=0 の kETk_{\mathrm{ET}} を求めよ。
  2. (2) ΔG=−λ\Delta G=-\lambda の kETk_{\mathrm{ET}} と、(1) との比を求めよ。
  3. (3) ΔG=−0.4 eV\Delta G=-0.4\,\mathrm{eV} と −0.6 eV-0.6\,\mathrm{eV} の kETk_{\mathrm{ET}} を求め、逆転領域の意味を述べよ。
  4. (4) 低い振動の ℏωv=10 meV\hbar\omega_{\mathrm v}=10\,\mathrm{meV} を使って γLZ\gamma_{\mathrm{LZ}} を求め、非断熱の式が使えるかを判定せよ。th=20 meVt_{\mathrm h}=20\,\mathrm{meV} ならどうか。
解答

(1) kBT=25.85 meVk_{\mathrm B} T=25.85\,\mathrm{meV}、4πλkBT=0.255 eV\sqrt{4\pi\lambda k_{\mathrm B} T}=0.255\,\mathrm{eV}、e−λ/4kBT=e−1.934=0.1446\mathrm{e}^{-\lambda/4 k_{\mathrm B} T}=\mathrm{e}^{-1.934}=0.1446、2π/ℏ=9.55×1015 eV−1s−12\pi/\hbar=9.55\times10^{15}\,\mathrm{eV^{-1}s^{-1}} なのでkET=9.55×1015×(5×10−3)2/0.255×0.1446=1.35×1011 s−1k_{\mathrm{ET}}=9.55\times10^{15}\times(5\times10^{-3})^2/0.255\times0.1446=1.35\times10^{11}\,\mathrm{s^{-1}}。1回の跳び移りに平均 7.4 ps7.4\,\mathrm{ps} かかる。

(2) 指数が 11 になるので kET=9.36×1011 s−1k_{\mathrm{ET}}=9.36\times10^{11}\,\mathrm{s^{-1}}、(1) の e1.934=6.92\mathrm{e}^{1.934}=6.92 倍である。

(3) ΔG=−0.4 eV\Delta G=-0.4\,\mathrm{eV} では (λ+ΔG)2=(0.2)2(\lambda+\Delta G)^2=(0.2)^2 が ΔG=0\Delta G=0 と同じなので、kET=1.35×1011 s−1k_{\mathrm{ET}}=1.35\times10^{11}\,\mathrm{s^{-1}} に戻る。ΔG=−0.6 eV\Delta G=-0.6\,\mathrm{eV} では障壁が (0.4)2/(0.8)=0.2 eV(0.4)^2/(0.8)=0.2\,\mathrm{eV} に上がり、kET=4.09×108 s−1k_{\mathrm{ET}}=4.09\times10^{8}\,\mathrm{s^{-1}} と、最大値の 2300 分の1になる。解放するエネルギーが λ\lambda より大きいと、そのエネルギーを原子核の振動として受け取る配置が平衡から遠くなり、そこへ揺らぎで行く確率が下がる。

(4) γLZ=2π(0.005)2/(0.010×2×0.2×0.02585)=0.154\gamma_{\mathrm{LZ}}=2\pi(0.005)^2/(0.010\times\sqrt{2\times0.2\times0.02585})=0.154 で、1 より小さいので非断熱の式は使える(誤差は1割程度)。th=20 meVt_{\mathrm h}=20\,\mathrm{meV} では γLZ\gamma_{\mathrm{LZ}} は 16 倍の 2.472.47 になり、断熱の側に入る。このとき (4.8.11) は th2t_{\mathrm h}^2 に比例して速さを過大に見積もるので、上限の目安 (ωv/2π)e−λ/4kBT=3.5×1011 s−1(\omega_{\mathrm v}/2\pi)\mathrm{e}^{-\lambda/4 k_{\mathrm B} T}=3.5\times10^{11}\,\mathrm{s^{-1}} を使う(ここでは障壁の tht_{\mathrm h} だけの低下も無視した)。結晶性のよい有機半導体の多くは、この2つの領域の境目にある。

ほかの巻では

  • 近似の数理 第7章:断熱定理とそのギャップの前提が読め、Landau–Zener の断熱と非断熱の分かれ目の数学の側が分かる

木下の勉強ステータス

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