ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第6章 §5.6.6 ★★ 古典の Hall 効果 σxy=−ne/B と Landau 準位の数え上げは、Chern 数の式の特別な場合である。「満ちたバンドは電流を運ばない」は縦の電流についてだけ正しい
Hall 効果と Landau 準位
授業では、Hall 効果を Drude の運動方程式から出す。電荷 −e・密度 n の電子が磁場 Bez の中で定常的に流れると、E+v×B=0 から v=E×B/B2 で、電流は
j=−neB2E×B,σxy=−Bne(5.6.13)
になる(jx=σxyEy。散乱の時間 τ によらない)。次に、磁場の中の2次元の電子のエネルギーが Landau 準位 εν=ℏωc(ν+21) に分かれ、1つの準位に単位面積あたり eB/h 個(スピン1つあたり)の状態があることを習う。ν 本の準位がちょうど満ちると n=νeB/h で、これを式 (5.6.13) に入れると
σxy=−νhe2
になる。授業の量子 Hall 効果の説明は、ここで止まることが多い。
この章の形では、満ちたバンドの Hall 伝導度は σxy=−Ce2/h で、C は満ちたバンドの Chern 数の和である。2つの式を比べると、磁場の中の満ちた Landau 準位1本の Chern 数は +1 である(この本の符号の流儀で、B が +z を向くとき)。授業の説明が Drude の式に密度を入れるだけで済んだのは、Landau 準位が特別に一様で、Berry 曲率が Brillouin 域(磁場の中では磁気 Brillouin 域)に均一に広がっているからである。Chern 数の式は、磁場の無い QWZ 模型にも、乱れで Landau 準位が広がった場合にも同じ形で使える。授業で習った段の平らさ(乱れがあっても値が変わらないこと)は、Chern 数が整数であることの言い換えである。
満ちたバンドは電流を運ばない、の範囲
授業では、満ちたバンドは電流を運ばないと習う。理由は、群速度 ℏ1∇kεn を Brillouin 域全体で足すと、εn が周期関数なので 0 になることである(検算で QWZ の下のバンドについて数値で 0 になることを確かめた)。この議論は、電場の向き(縦)の電流については正しい。しかし半古典運動の速度には、群速度のほかに異常速度 −k˙×Ωn がある(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第11章)。電場の中で ℏk˙=−eE は全部の電子に共通なので、異常速度を満ちたバンドで足すと ℏeE×ez∫Ωn(2π)2d2k が残り、これは 2πCn に比例する。Berry 曲率の積分は周期関数の微分の積分ではない(An は Brillouin 域の上で周期的に選べるとは限らない)ので、0 になる理由が無い。「満ちたバンドは電流を運ばない」は、正しくは「満ちたバンドは電場の向きの電流を運ばない。電場と直交する向きの電流は Chern 数だけ運ぶ」である。
絶縁体の分類
授業の分類(第2部第7章)では、バンドが満ちていてギャップがあれば絶縁体で、それ以上の区別は無い。この章の形では、同じ絶縁体の中に、ギャップを閉じずに互いに移れない組がある。区別の目印は、2次元で時間反転が無ければ Chern 数(整数)、時間反転があれば Z2 の不変量(偶奇)である。区別は、バルクの電気伝導(どちらも 0)や光の吸収端(どちらもギャップで決まる)には現れず、Hall 伝導度と端の状態に現れる。
例題 5.6.6 Landau 準位の数え上げと Drude の Hall 伝導度 ★★
オリジナル2次元の電子に B=10T の磁場を掛ける。
- (1) 1つの Landau 準位の単位面積あたりの状態の数 eB/h を求めよ。
- (2) 電子の面密度が n=2eB/h のとき、Drude の式 (5.6.13) の σxy を求め、−2e2/h と一致することを確かめよ。
- (3) 自由電子の質量で Landau 準位の間隔 ℏωc=ℏeB/m を求め、ν=2 の段が見えるために温度に要る条件を述べよ。
解答
(1) eB/h=1.602×10−19×10/(6.626×10−34)=2.418×1015m−2。
(2) n=4.836×1015m−2 で σxy=−ne/B=−4.836×1015×1.602×10−19/10=−7.748×10−5S。−2e2/h=−2×3.874×10−5=−7.748×10−5S と一致する。式の上では n=νeB/h を入れると −νe2/h になるので、一致は偶然でない。
(3) ℏωc=1.0546×10−34×1.602×10−19×10/(9.109×10−31)=1.855×10−22J=1.158meV。3番目の準位へ電子が熱で上がらないためには kBT≪ℏωc、つまり T≪13K が要る。実際の半導体では有効質量が小さいので間隔はこれより大きくなる(GaAs の m∗≈0.067me なら約15倍)。Drude の式は散乱の時間によらないが、段が平らになって縦の抵抗が 0 に落ちるには、満ちた準位と空の準位の間のギャップ(ここでは ℏωc)が熱より大きいことが要る。Chern 数による量子化がギャップを前提にするのと同じ条件である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com