実験計画法 第2章 §2.3 ★★★ 母平均の信頼区間・母平均の差の信頼区間・データの予測区間。有効反復数 ne の考え方の出発点
分散分析で因子 A が有意になったら、次に知りたいのは「どの水準が最も良く、そこでの母平均はいくらか」である。この節では、母平均の点推定と区間推定、2つの水準の母平均の差の推定、新しいデータの予測を導く。
母平均の点推定と区間推定
水準 Ai の母平均 μ(Ai)=μ+ai の点推定は、構造式の推定値を足したものである。
μ^(Ai)=μ^+a^i=xˉˉ+(xˉi⋅−xˉˉ)=xˉi⋅.(2.16)
(2.3) より xˉi⋅∼N(μ(Ai),σ2/r) である。σ2 は未知なので Ve で置き換える。
定理 2.12(母平均の信頼区間)
構造式 (2.2) のもとで
t=Ve/rxˉi⋅−μ(Ai)∼tϕe(2.17)
であり、μ(Ai) の信頼率 1−α の信頼区間は
xˉi⋅±tϕe(α/2)rVe(2.18)
である。
証明
Z=(xˉi⋅−μ(Ai))/σ2/r∼N(0,1)。定理 2.9 より W=Se/σ2∼χϕe2 である。Se は水準平均と独立なので、この2つも独立である。
t 分布の定義により Z/W/ϕe∼tϕe。この比を計算すると σ が消えて次のようになる。
σ2/rxˉi⋅−μ(Ai)/σ2ϕeSe=Ve/rxˉi⋅−μ(Ai)
P(∣t∣≤tϕe(α/2))=1−α を μ(Ai) について解けば (2.18) を得る。
この区間では、σ2 の推定に全水準の残差から作った Ve を使っている。その水準のデータだけを使うのではない。
等分散性の仮定のもとでは、どの水準の残差も同じ σ2 の情報を持つ。まとめて使うと自由度が r−1 から a(r−1) に増える。その分 t 分布の上側点が小さくなり、区間が短くなる。
有効反復数
区間 (2.18) の幅は、点推定量の分散 σ2/r によって決まる。一般の配置では、点推定量の分散を
V[μ^]=neσ2(2.19)
と書き、ne を有効反復数と呼ぶ。「その点推定量は、データ ne 個の平均と同じ精度をもつ」という意味である。1元配置の μ^(Ai)=xˉi⋅ では ne=r である。2元配置以上では点推定量がいくつかの平均の和や差になるので、ne の計算に工夫が要る。よく使われる公式の1つ(田口の式)は
ne1=N1+(点推定に用いた要因の自由度の和)(2.20)
で、1元配置に当てはめると (1+(a−1))/(ar)=1/r となり、ne=r と一致する。式 (2.20) の導出と、もう1つの公式(伊奈の式)との使い分けは、点推定量が複数の平均の組合せになる第5章 §5.2 で扱う。有効反復数を使うと、どの配置でも母平均の信頼区間は
μ^±tϕe(α/2)neVe(2.21)
という同じ形で書ける。
母平均の差の推定
2つの水準 Ai,Ai′ の母平均の差 μ(Ai)−μ(Ai′)=ai−ai′ を考える。その点推定は xˉi⋅−xˉi′⋅ である。2つの水準平均は独立なので、その分散は σ2/r+σ2/r=2σ2/r。定理 2.12 と同じ議論で
(xˉi⋅−xˉi′⋅)±tϕe(α/2)r2Ve(2.22)
が信頼率 1−α の信頼区間になる。区間が0を含まなければ、2つの水準の母平均には有意水準 α で差があると判断できる。ただし、この区間をすべての水準の組について繰り返し使うと、全体として誤って差があると判断する確率が α より大きくなる。多くの組を同時に比べるときの扱い(最小有意差など)は第4章で述べる。
データの予測
最適な水準 Ai で将来もう1回実験したときに得られる値 x を予測したい場合を考える。構造式より x=μ(Ai)+ε で、ε は手持ちのデータと独立な新しい誤差である。予測値は母平均の点推定と同じ x^=xˉi⋅ だが、予測の誤差は
x−x^=(μ(Ai)−xˉi⋅)+ε,V[x−x^]=rσ2+σ2=(1+ne1)σ2(2.23)
となる。第1項は母平均の推定の誤差、第2項は新しいデータそのもののばらつきで、2つは独立なので分散が足し算になる。x−x^ は Se とも独立である。そのため次の比が tϕe に従う。
(1+1/ne)Vex−x^∼tϕe
よって信頼率 1−α の予測区間は
xˉi⋅±tϕe(α/2)(1+ne1)Ve(2.24)
である。
落とし穴
信頼区間と予測区間を取り違える誤りが多い。信頼区間は母平均という定数を挟む区間で、繰返し r を増やせば幅はいくらでも小さくなる。予測区間は将来の1個のデータを挟む区間で、r→∞ としても幅は 2tϕe(α/2)Ve 程度より小さくならない。新しいデータは誤差 ε を必ず含み、その分散 σ2 は実験をいくら増やしても消えないためである。
要因が有意でなかったとき
因子 A が F 検定で有意にならなかったときは、水準による違いは無いとみなすことがある。構造式は次に置き直す。
xij=μ+εij
このとき SA も誤差の一部とみなし、Se と足し合わせて新しい誤差分散を作る。
Ve′=ϕA+ϕeSA+Se=N−1ST
これをプーリングと呼ぶ。母平均の点推定は μ^=xˉˉ、有効反復数は ne=N で、信頼区間は次のとおりである。
xˉˉ±tN−1(α/2)Ve′/N
有意でない要因をどの基準でプールするかは、2元配置の交互作用で問題になるので第5章で扱う。通し例は1%で有意なので、プーリングはしない。
例題 2.4 通し例の推定と予測 ★★★
オリジナル通し例(例題 2.2 の分散分析表)について、強度が最も高い水準を最適水準とする。t12(0.025)=2.179 を用いてよい。
- (1) 最適水準での母平均の点推定値と95%信頼区間を求めよ。
- (2) 最適水準と2番目に高い水準の母平均の差について、95%信頼区間を求め、差があると言えるかを判断せよ。
- (3) 最適水準で新たに1本の試験片を作ったときの強度の95%予測区間を求めよ。
解答
(1) 水準平均が最も大きいのは A4(xˉ4⋅=21)なので、点推定値は21である。自由度は ϕe=12 である。ne=r=4、Ve=4.00 より
21±t12(0.025)44.00=21±2.179×1=21±2.18,
すなわち 18.82≤μ(A4)≤23.18。
(2) 2番目は A2(xˉ2⋅=17)。差の点推定は 21−17=4。区間は (2.22) より
4±2.17942×4.00=4±2.179×1.414=4±3.08,
すなわち 0.92≤μ(A4)−μ(A2)≤7.08。区間が0を含まないので、A4 の母平均は A2 より大きいと判断する。
(3) 予測値は 21。(2.24) より
21±2.179(1+41)×4.00=21±2.179×2.236=21±4.87,
すなわち 16.13≤x≤25.87。(1) の信頼区間より2倍以上広い。
確認テスト
オリジナル
- 2.3-1 有効反復数 ne の定義を1文で述べよ。また1元配置の水準平均 xˉi⋅ について、田口の式 (2.20) から ne=r が得られることを確かめよ。
- 2.3-2 確認テスト 2.2-2 の分散分析の結果を用いて、μ(A2) の95%信頼区間を求めよ。t6(0.025)=2.447 を用いてよい。
- 2.3-3 同じデータについて、μ(A2)−μ(A1) の95%信頼区間と、水準 A2 で新たに1回実験したときのデータの95%予測区間を求めよ。
- 2.3-4 定理 2.12 の証明で使った「xˉi⋅ と Ve が独立である」ことが成り立つ理由を、正規母集団の標本平均と偏差平方和の独立性から説明せよ。
- 2.3-5 3水準・繰返し4の1元配置で、次のデータを得た。
A1: 10, 12, 11, 13,A2: 12, 11, 13, 12,A3: 13, 12, 11, 14
分散分析をして、因子 A が有意水準5%で有意でないことを確かめよ。さらにプーリングしたうえで、全体の母平均 μ の95%信頼区間を求めよ。F2,9(0.05)=4.26、t11(0.025)=2.201 を用いてよい。
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