統計学の復習 第8章 §8.4 ★★★ 標本平均は n→∞ で母平均に近づく。証明は Chebyshev の不等式に V[Xˉ]=σ2/n を入れる1行で、近づくのは比率であって個数の差ではない
大数の弱法則
第4章で示した Chebyshev の不等式を1回書いておく。期待値 μ、分散 σ2 の確率変数 Y と任意の ε>0 について
P(∣Y−μ∣≥ε)≤ε2σ2(8.11)
が成り立つ。分布の形が分からなくても、平均と分散だけで「平均から ε 以上離れる確率」の上限を与える不等式である。
定理 8.7(大数の弱法則)
X1,X2,… を、平均 μ・分散 σ2(有限)の母集団からの無作為標本とし、Xˉn=n1∑i=1nXi と置く。任意の ε>0 について
P(∣Xˉn−μ∣≥ε)≤nε2σ2 ⟶ 0(n→∞)(8.12)
である。
証明
定理 8.2 から E[Xˉn]=μ、V[Xˉn]=σ2/n である。式 (8.11) を Y=Xˉn に当てはめると不等式が得られ、右辺は ε を固定して n→∞ とすると 0 に近づく。
式 (8.12) は、「どんなに小さな幅 ε を決めても、n を十分大きくすれば、Xˉn が μ から ε 以上離れる確率をいくらでも小さくできる」ことを表す。この型の収束を確率収束と呼ぶ。証明で使ったのは独立性(非対角項が消えること)と分散が有限であることだけで、母集団分布の形は使っていない。
推定量が n→∞ で母数に確率収束する性質を一致性と呼び、この定理は「標本平均は母平均の一致推定量である」ことを示している(第9章)。確率収束のより一般的な扱いと、より強い型の大数の法則は数理統計の解説 第5章 §5.3 で扱う。
相対度数と確率
成功確率 p のベルヌーイ試行を独立に繰り返し、i 回目が成功なら Xi=1、失敗なら Xi=0 とする。μ=p、σ2=p(1−p) なので、n 回中の成功の割合 p^n=Xˉn について
P(∣p^n−p∣≥ε)≤nε2p(1−p)≤4nε21
となる。最後の不等号は p(1−p)≤1/4 による。試行を繰り返すと、成功の相対度数は確率 p に近づく。「確率 p の事象は、繰り返すとおよそ割合 p で起こる」という日常の理解は、この定理によって数学的な裏付けを持つ。
近づくのは割合であって、成功の回数と期待値の差ではない。成功の回数 Sn=np^n の標準偏差は np(1−p) で、n とともに大きくなる。公平な硬貨(p=1/2)では、表の回数と n/2 の差の標準偏差は n=100 で 5、n=10000 で 50 であり、差そのものは広がる。
一方、割合 p^n の標準偏差は 0.05 から 0.005 に縮む。差が n の速さでしか増えないのに、割合を作るときに n で割るので、割合のぶれは 1/n の速さで小さくなる。
落とし穴
「表が5回続いたので、次は裏が出やすい」という推論は誤りである。各回は独立なので、次の回が表になる確率は過去の結果によらず 1/2 のままである。大数の法則は、過去の偏りを後の結果が打ち消すことで成り立つのではない。偏った最初の数回が、その後の大量の試行の中で割合として薄まることで成り立つ。

図 8.1 公平な硬貨を2000回投げたときの表の割合 p^n(乱数の種を固定した1本の系列)。灰色の帯は p^n のおよそ95%が入る範囲 0.5±1.960.25/n で、その幅は 1/n に比例して狭まる(この系列は n=75 付近で帯の下端に接する)。16回目から150回目あたりまでは表が少なめに出て割合が 0.4 前後にとどまるが、その偏りは後の試行で打ち消されるのでなく、試行の数が増えるにつれて割合の中で薄まる。
例題 8.6 サイコロの目の平均に Chebyshev の不等式を使う ★★
オリジナル公平なサイコロを n 回振り、出た目の平均を Xˉn とする。
- 1回の目の平均 μ と分散 σ2 を求めよ。
- n=1000 のとき、P(∣Xˉn−μ∣≥0.1) の上界を Chebyshev の不等式で求めよ。
- P(∣Xˉn−μ∣≥0.1)≤0.05 を Chebyshev の不等式で保証するには、n をいくつ以上にすればよいか。
解答
(1) μ=(1+2+⋯+6)/6=21/6=3.5 である。E[X2]=(1+4+9+16+25+36)/6=91/6 なので σ2=91/6−3.52=91/6−49/4=(182−147)/12=35/12=2.917 である。
(2) 式 (8.12) から P(∣Xˉn−3.5∣≥0.1)≤1000×0.0135/12=0.2917 である。
(3) n×0.0135/12≤0.05 を解くと n≥0.000535/12=5833.3 で、n≥5834 である。この n は分布の形を一切使わずに保証できる値なので、大きめに出る。中心極限定理を使うと、同じ確率をおよそ5分の1の n で達成できることを例題 8.9 で確かめる。
確認テスト
オリジナル
- 8.4-1 公平な硬貨を投げる。次の記述の正誤を答え、誤りなら理由を1行で述べよ。(a) 投げる回数を増やすと、表の回数と裏の回数の差は 0 に近づく。(b) 投げる回数を増やすと、表の割合が 0.5 から 0.01 以上離れる確率は 0 に近づく。(c) 10回続けて表が出たあとの11回目は、裏が出る確率が 1/2 より大きい。
- 8.4-2 母比率 p が分からない2値の母集団から大きさ n=2500 の無作為標本を取る。標本比率 p^ について、P(∣p^−p∣≥0.02) の上界を、p によらない形で Chebyshev の不等式から求めよ。この確率を 0.1 以下と保証するのに必要な n はいくつか。
- 8.4-3 U1,U2 を独立に区間 (0,1) の一様分布に従う確率変数とし、U12+U22≤1 なら 1、そうでなければ 0 をとる確率変数を B とする。E[B]=π/4 を示し、V[B] を求めよ。この組を独立に n 回作り、B の標本平均の4倍で π を推定する。誤差が 0.01 以上になる確率を 0.05 以下と Chebyshev の不等式で保証するには、n はいくつ以上必要か。
- 8.4-4 無作為標本 X1,…,Xn の母平均 μ が既知で、E[(X−μ)4]=μ4 が有限とする。Tn=n1∑i=1n(Xi−μ)2 について E[Tn]=σ2、V[Tn]=(μ4−σ4)/n を示し、Tn が σ2 に確率収束することを示せ。
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