統計学の復習 第11章 §11.6 ★★★ ピボット (n−1)S2/σ2∼χn−12 を2つの点ではさみ、σ2 について解く。大きい方の点で割ったものが下端になり、区間は s2 について非対称
ピボットから区間を作る
正規母集団 N(μ,σ2) から大きさ n の標本をとり、母分散 σ2 の信頼区間を作る。定理 11.7 の
Q=σ2(n−1)S2∼χn−12
は、未知の σ2 を含むが、その分布 χn−12 は μ にも σ2 にもよらない。このような量をピボットと呼ぶ。第10章の (Xˉ−μ)/(S/n)∼tn−1 も、母平均のピボットである。分布が母数によらないので、表から2つの点を引けば、Q がその間に入る確率が母数を知らなくても決まる。
χn−12 の両側に確率 α/2 ずつを残すと
P(χn−12(1−α/2)≤σ2(n−1)S2≤χn−12(α/2))=1−α
である。括弧の中の不等式を σ2 について解く。各辺は正なので逆数をとると不等号の向きが逆になり、
χn−12(α/2)1≤(n−1)S2σ2≤χn−12(1−α/2)1
となる。各辺に正の (n−1)S2 を掛けて次を得る。
命題 11.8(母分散の信頼区間)
正規母集団から大きさ n の標本を得て、不偏分散の実現値が s2 のとき、母分散 σ2 の信頼係数 1−α の信頼区間は
[ χn−12(α/2)(n−1)s2 , χn−12(1−α/2)(n−1)s2 ](11.15)
である。(n−1)s2=∑(xi−xˉ)2 は偏差平方和である。母標準偏差 σ の区間は、両端の平方根をとって得られる。
正規近似の区間と違って、これは近似でなく正確な区間である(母集団が正規分布であれば)。σ の区間が両端の平方根でよいのは、x↦x が x>0 で増加関数で、a≤σ2≤b と a≤σ≤b が同値だからである。
区間の形の読み方
区間 (11.15) には、母平均の区間と違う点が2つある。
第一に、大きい方の点で割ったものが下端になる。分子の (n−1)s2 は共通で、分母が大きいほど値は小さくなるからである。逆数をとったときに不等号の向きが変わったことの結果で、上側の点 χn−12(α/2) が下端の分母、下側の点 χn−12(1−α/2) が上端の分母に来る。区間を計算したら、下端が上端より小さいことを必ず確かめる。
第二に、区間は s2 を中心に左右対称でなく、「s2± 何か」の形に書くことができない。χ2 分布の上側の点は期待値 n−1 から遠く、下側の点は近い(図 11.3)。逆数をとるとこの関係が入れ替わり、区間は s2 より上の側に長く伸びる。母分散を小さく見積もった標本(s2 がたまたま小さい)でも区間が真の値を含むように、上の側に余裕を持たせた形になっている。
なお、両側に α/2 ずつを残す区間(等裾の区間)は、χ2 分布が非対称なので、信頼係数 1−α の区間のうちで長さが最短のものではない。長さを最短にする区間の求め方は数理統計の解説 第8章 §8.3 で扱う。2級と1級の計算問題では、等裾の区間 (11.15) を使う。
μ が既知のとき、標本分散で与えられたとき
母平均 μ が既知なら、(11.9) の ∑(Xi−μ)2/σ2∼χn2 をピボットにして、同じ手順で
[ χn2(α/2)∑(xi−μ)2 , χn2(1−α/2)∑(xi−μ)2 ](11.16)
を得る。自由度は n である。データから xˉ を推定しなくてよいので、自由度が1つ多い。
落とし穴
問題文のばらつきの量が何で与えられているかを必ず確かめる。区間の分子に要るのは偏差平方和 ∑(xi−xˉ)2 で、不偏分散 s2 が与えられたら (n−1)s2、n で割る標本分散 σ^2 が与えられたら nσ^2、標準偏差 s が与えられたら s を2乗してから (n−1) を掛ける。s と s2、n と n−1 の取り違えは、母分散の区間で最も多い失点の原因である。
正規性の仮定
母平均の区間は、母集団が正規分布でなくても、n が大きければ中心極限定理によってほぼ正しい信頼係数を持つ。母分散の区間はそうならない。定理 11.7 は正規母集団に固有の性質で、母集団が正規分布でないと (n−1)S2/σ2 の分散は 2(n−1) からずれる(S2 の分散が母集団の4次のモーメントに依存するからである)。そのずれは n を大きくしても消えない。たとえば母集団が指数分布のとき、95% のつもりの区間 (11.15) が σ2 を含む割合は、乱数による実験(各 n で20万回)で n=10 のとき約 76.5%、n=30 で約 71.4%、n=100 で約 69.0% であり、n が増えるほどむしろ名目の95% から離れる。正規母集団で同じ実験をすると、どの n でも 95.0% になる。母分散の区間を使う前に、ヒストグラムや Q-Q プロット(第16章)で正規性を確かめるのはこのためである。
例題 11.8 部品の寸法のばらつきの区間 ★★★
オリジナルある部品の長さは正規分布に従うとする。16個を測ったところ、標準偏差(不偏分散の平方根)は s=0.40 mm だった。
- 母分散 σ2 の95% 信頼区間を求めよ(χ152(0.025)=27.488、χ152(0.975)=6.262)。
- 母標準偏差 σ の95% 信頼区間を求めよ。
- 区間が s2 について非対称であることを数値で確かめよ。
解答
(1) 与えられたのは標準偏差なので、まず s2=0.402=0.16 とする。偏差平方和は (n−1)s2=15×0.16=2.4 である。(11.15) から
[27.4882.4, 6.2622.4]=[0.0873, 0.3833](mm2).
大きい方の点 27.488 で割った方が下端になっている。
(2) 両端の平方根をとって [0.0873, 0.3833]=[0.2955, 0.6191] mm である。
(3) s2=0.16 から下端までは 0.0727、上端までは 0.2233 で、上の側が3倍ほど長い。σ の区間でも、s=0.40 から下へ 0.105、上へ 0.219 である。
例題 11.9 n で割った分散が与えられたとき ★★
オリジナル正規母集団から12個の標本をとり、n で割った標本分散 σ^2=121∑(xi−xˉ)2 が 2.5 だった。母分散の95% 信頼区間を求めよ(χ112(0.025)=21.920、χ112(0.975)=3.816)。
解答
偏差平方和は nσ^2=12×2.5=30 である(不偏分散で書けば s2=30/11=2.727 で、(n−1)s2=30 と同じ値になる)。自由度は n−1=11 なので
[21.92030, 3.81630]=[1.3686, 7.862].
11×2.5=27.5 を分子にすると、区間を 11/12 倍に縮めてしまう。分子は「偏差平方和」と覚え、与えられた量からそれを組み立て直すのが確実である。
確認テスト
オリジナル
- 11.6-1 母分散の区間 (11.15) で、上側の点 χn−12(α/2) が下端の分母に来る理由と、区間が s2 について上の側に長くなる理由を説明せよ。
- 11.6-2 正規母集団から20個をとり、偏差平方和が ∑(xi−xˉ)2=38 だった。σ2 と σ の95% 信頼区間を求めよ(χ192(0.025)=32.852、χ192(0.975)=8.907)。
- 11.6-3 母平均が μ=50 と分かっている正規母集団から10個をとり、∑(xi−50)2=25 だった。σ2 の95% 信頼区間を求めよ(χ102(0.025)=20.483、χ102(0.975)=3.247)。
- 11.6-4 品質管理では、ばらつきが「高々どれだけか」を保証したいので、片側の区間 σ2≤(n−1)s2/χn−12(1−α) を使う。この不等式が確率 1−α で成り立つことを示し、n=25、s2=0.09 のときの σ2 と σ の95% 上側信頼限界を求めよ(χ242(0.95)=13.848)。
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