数理統計 第5章 §5.3 ★★★ 確率収束・分布収束、大数の法則、中心極限定理、Slutsky、デルタ法。近似分布と漸近的な信頼区間の基礎
正規母集団でなければ、統計量の厳密な分布はたいてい求まらない。そこで標本の大きさ n を大きくしたときの極限の分布で近似する。この節では、まず「確率変数の列が収束する」ことの意味を定め、次に統計で繰り返し使う4つの定理(大数の法則、中心極限定理、Slutsky の定理、デルタ法)を示す。
収束の種類
定義 5.11(確率収束・分布収束・平均二乗収束)
確率変数の列 T1,T2,… と確率変数 T(定数でもよい)について、
- 任意の ε>0 で次が成り立つとする。
P(∣Tn−T∣>ε)→0.
このとき Tn は T に確率収束するという。記号では TnPT と書く。2. T の分布関数を FT とする。FT の連続点 x のすべてで次が成り立つとする。
P(Tn≤x)→FT(x).
このとき Tn は T に分布収束(法則収束)するという。記号では TndT と書く。極限の分布の名前を書いて TndN(0,1) のようにも書く。3. E[(Tn−T)2]→0 が成り立つとする。このとき Tn は T に平均二乗収束するという。
推定量 θ^n が母数 θ に確率収束するとする。このとき θ^n は一致推定量であるという。
このほかに、確率1で数列として収束する概収束がある(強い意味の収束で、強大数の法則がこの形)。1級の範囲では確率収束と分布収束を使い分けられれば足りる。
強さの関係は「平均二乗収束 ⇒ 確率収束 ⇒ 分布収束」で、逆は一般には成り立たない。ただし極限が定数 c のときは分布収束と確率収束は同じになる(確認テスト 5.3-5)。
分布収束の定義で連続点に限る理由を例で見る。Tn=1/n(定数)は0に収束する。ところが P(Tn≤0)=0 は F0(0)=1 に収束しない。不連続点0を除外しないと、この自然な収束が収束にならない。
Chebyshev の不等式と大数の法則
補題 5.12(Markov と Chebyshev の不等式)
Y≥0 なら、任意の a>0 で次が成り立つ(Markov)。
P(Y≥a)≤aE[Y].
とくに分散が有限な X について
P(∣X−E[X]∣≥ε)≤ε2V[X](Chebyshev).(5.11)
証明
1{⋅} を事象の指示関数とする。Y≥0 なので、次の不等式が常に成り立つ。
Y≥a⋅1{Y≥a}.
期待値をとれば E[Y]≥aP(Y≥a)。Chebyshev は Y=(X−E[X])2、a=ε2 とおけばよい。
定理 5.13(大数の弱法則)
母集団分布の平均を μ、分散を σ2<∞ とする。その無作為標本について XˉPμ。
証明
Chebyshev の不等式 (5.11) に V[Xˉ]=σ2/n を入れると
P(∣Xˉ−μ∣≥ε)≤nε2σ2→0.
(分散が有限でなくても平均が存在すれば成り立つが、その証明は特性関数か切断の議論が要る。試験では上の形で十分である。)大数の法則を Xi2 に使えば n1∑Xi2PE[X2] となる。これと恒等式 (5.3)、次の連続写像定理から S2Pσ2 も出る(4次の積率が無くても成り立つ)。
定理 5.14(連続写像定理)
g を連続関数とする。このとき次が成り立つ。
- TnPT なら g(Tn)Pg(T)。
- TndT なら g(Tn)dg(T)。
極限が定数 c で、g がその点で連続な場合を考える。この場合の確率収束の主張は、ε-δ で直ちに示せる。g は c で連続である。よって任意の ε に対し、次を満たす δ がある。
∣t−c∣≤δ ⇒ ∣g(t)−g(c)∣≤ε.
よって P(∣g(Tn)−g(c)∣>ε)≤P(∣Tn−c∣>δ)→0。
一般の場合の証明は測度論の道具を使うので省く。1級で使うのはほとんど極限が定数の場合である。
中心極限定理
定理 5.15(中心極限定理)
母集団分布の平均を μ、分散を σ2∈(0,∞) とする。その無作為標本について
σn(Xˉ−μ)dN(0,1).(5.12)
証明
積率母関数が0の近くで存在する場合に示す(一般の場合は特性関数で同じ計算をする)。Yi=(Xi−μ)/σ とおく。すると E[Yi]=0、V[Yi]=1 である。このとき
Zn=σn(Xˉ−μ)=n1∑Yi.
独立性から
MZn(u)={MY(nu)}n.
MY(s) を s=0 のまわりで Taylor 展開する。係数は次のとおりである。
MY(0)=1,MY′(0)=E[Y]=0,MY′′(0)=E[Y2]=1.
よって MY(s)=1+s2/2+r(s) と書ける。ただし s→0 で r(s)/s2→0 である。s=u/n を入れて対数をとると
logMZn(u)=nlog{1+2nu2+r(nu)}.
ここで次の2つを使う。
log(1+h)=h+O(h2),nr(nu)=u2⋅(u/n)2r(u/n)→0.
すると右辺は u2/2 に収束する。eu2/2 は N(0,1) の積率母関数である。積率母関数が0の近傍で各点収束すれば分布が収束する(積率母関数の連続性定理)ので、(5.12) を得る。
中心極限定理は「Xˉ はおよそ N(μ,σ2/n) に従う」と使う。これを和で書けば ∑Xi はおよそ N(nμ,nσ2) である。
二項分布の正規近似と連続修正。
X∼Bin(n,p) はベルヌーイの和である。よって (X−np)/np(1−p) はおよそ N(0,1) に従う。X は整数値である。そのため P(X≥k) を近似するときは、区間 [k−21,k+21) の幅を考えて
P(X≥k)≈1−Φ(np(1−p)k−21−np)
とする。これを連続修正という。
ポアソン分布 Po(λ) も、λ が大きければ正規分布で近似できる。Po(λ) を、Po(1) に従う独立な変数の和と見る。項の数は λ 個である(整数でなくても再生性から同じ)。そうして N(λ,λ) で近似する。
二項分布のポアソン近似。
np=λ を一定に保って n→∞ とする。このとき Bin(n,λ/n) の確率関数は
(kn)(nλ)k(1−nλ)n−k=k!λk⋅nkn(n−1)⋯(n−k+1)⋅(1−nλ)n(1−nλ)−k→k!λke−λ
となる(第2因子と第4因子は1に、第3因子は e−λ に収束する)。これは中心極限定理とは別の極限で、まれな事象の回数の近似に使う。
Slutsky の定理とデルタ法
定理 5.16(Slutsky の定理)
XndX、YnPc(定数)なら
Xn+YndX+c,YnXndcX,Xn/YndX/c (c=0).
証明
和の場合を示す。X の分布関数を FX とする。FX の連続点を1つとり、それを x−c と書く。さらに ε>0 を、x−c±ε も連続点になるように選ぶ(不連続点は高々可算個なので選べる)。
2つの事象 Xn+Yn≤x と ∣Yn−c∣≤ε が同時に起きるとする。このとき Xn≤x−c+ε なので
P(Xn+Yn≤x)≤P(Xn≤x−c+ε)+P(∣Yn−c∣>ε).
逆に、Xn≤x−c−ε と ∣Yn−c∣≤ε が同時に起きるとする。このとき Xn+Yn≤x なので
P(Xn+Yn≤x)≥P(Xn≤x−c−ε)−P(∣Yn−c∣>ε).
n→∞ とすると P(∣Yn−c∣>ε)→0 である。よって上極限と下極限は次を満たす。
n→∞limsupP(Xn+Yn≤x)≤FX(x−c+ε),n→∞liminfP(Xn+Yn≤x)≥FX(x−c−ε).
ε→0 とする。FX は x−c で連続なので
P(Xn+Yn≤x)→FX(x−c)=P(X+c≤x).
積と商も、∣Yn−c∣≤ε の事象とその余事象に分けて同じ形で評価できる。
Slutsky の定理は、中心極限定理の σ を推定量で置き換えるときに使う。分散が有限な任意の母集団で、SPσ なので
Sn(Xˉ−μ)=σn(Xˉ−μ)⋅SσdN(0,1).(5.13)
正規母集団なら左辺は厳密に tn−1 に従い(系5.8)、正規でなくても n が大きければ近似的に標準正規に従う。
定理 5.17(デルタ法)
n(Tn−θ)dN(0,τ2) とする。関数 g は次の3つを満たすとする。
- θ で微分可能である。
- 導関数 g′ は θ の近くで連続である。
- g′(θ)=0 である。
このとき
n{g(Tn)−g(θ)}dN(0, g′(θ)2τ2).(5.14)
証明
まず TnPθ を確かめる。次のように分解する。
Tn−θ=n1⋅n(Tn−θ).
第1因子は0に収束し、第2因子は分布収束する。よって Slutsky の定理(積)から Tn−θd0 である。極限が定数なので、これは TnPθ と同じである。
平均値の定理から、ある点 θn∗ で次が成り立つ。
n{g(Tn)−g(θ)}=g′(θn∗)⋅n(Tn−θ).
ここで θn∗ は Tn と真値の間の点である。∣θn∗−θ∣≤∣Tn−θ∣ なので θn∗Pθ である。g′ の連続性と連続写像定理から g′(θn∗)Pg′(θ)。Slutsky の定理(積)を使えば右辺は g′(θ)⋅N(0,τ2)=N(0,g′(θ)2τ2) に分布収束する。
g′(θ)=0 のとき
このとき (5.14) の極限は0に退化し、n の拡大では足りない。2次の Taylor 展開
g(Tn)−g(θ)≈21g′′(θ)(Tn−θ)2
から、次が成り立つ(2次のデルタ法)。
n{g(Tn)−g(θ)}d21g′′(θ)τ2χ12.
例題 5.4 指数分布の率のデルタ法と近似信頼区間 ★★★
オリジナルX1,…,Xn を Ex(λ) からの無作為標本とする。
- n(1/Xˉ−λ) の極限分布を求めよ。
- n(logXˉ+logλ) の極限分布を求めよ。
- n=50、xˉ=0.4 とする。(2) を使って λ の近似 95% 信頼区間を作れ。z0.025=1.960 とする。
解答
指数分布の平均は 1/λ、分散は 1/λ2 である。よって中心極限定理から
n(Xˉ−1/λ)dN(0,1/λ2).
- g(x)=1/x とすると、次のようになる。
g(1/λ)=λ,g′(x)=−1/x2,g′(1/λ)=−λ2.
デルタ法 (5.14) から、漸近分散は λ4⋅(1/λ2)=λ2 である。よって n(1/Xˉ−λ)dN(0,λ2)。2. g(x)=logx とする。g(1/λ)=−logλ、g′(1/λ)=λ である。漸近分散は λ2⋅(1/λ2)=1 で、n(logXˉ+logλ)dN(0,1)。極限の分散が λ によらない点が (1) との違いである。3. (2) から P(∣n(logXˉ+logλ)∣≤1.960)≈0.95。括弧の中を λ について解くと
Xˉ1e−1.960/n≤λ≤Xˉ1e1.960/n.
1/xˉ=2.5、1.960/50=0.2772 を入れると
[2.5e−0.2772,2.5e0.2772]=[1.895,3.299].
(1) を使う方法でも区間は作れる。区間 1/Xˉ±1.960⋅λ/n で、未知の λ を推定値で置き換えればよい。結果は [1.807, 3.193] である。
(2) は分散が母数によらないので置き換えの誤差が入らず、区間は λ の大きい側に伸びた非対称な形になる。こうした変換を§5.5 で分散安定化変換として一般化する。
例題 5.5 二項分布の正規近似と連続修正 ★★
オリジナルX∼Bin(100,0.4) とする。P(X≥50) を、連続修正をした正規近似と、連続修正をしない正規近似で求めよ。正確な値は 0.0271(小数第4位まで)である。
解答
E[X]=40,V[X]=100⋅0.4⋅0.6=24,24=4.899.
連続修正をすると、X≥50 を連続量の X≥49.5 と読み替えて
P(X≥50)≈P(Z≥4.89949.5−40)=P(Z≥1.939)=0.0262.
連続修正をしないと P(Z≥10/4.899)=P(Z≥2.041)=0.0206。
正確な値 0.0271 との差は、修正ありで 0.0009、修正なしで 0.0065 である。整数の上に乗った確率を連続な密度の面積で近似するとき、X=50 の確率は区間 [49.5,50.5) の面積に対応する。そのため境界を 49.5 に置く方が正しい。
確認テスト
オリジナル
- 5.3-1 P(Tn=n)=1/n、P(Tn=0)=1−1/n とする。TnP0 を示し、E[Tn] が0に収束しないことを確かめよ。
- 5.3-2 X1,…,Xn を Po(λ) からの無作為標本とする。n(Xˉ−λ)/XˉdN(0,1) を示せ。
- 5.3-3 成功確率 p のベルヌーイ標本で、n{Xˉ(1−Xˉ)−p(1−p)} の極限分布をデルタ法で求めよ。p=1/2 のとき何が起きるか述べよ。
- 5.3-4 X∼Po(100) のとき、P(X≤90) を連続修正つきの正規近似で求めよ。
- 5.3-5 c を定数とする。Tndc なら TnPc であることを示せ。
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