数理統計 第10章 §10.3 ★ 位置母数・尺度母数の族では、同変推定量のリスクが母数によらない。その中の最良のものが Pitman 推定量
位置母数族と同変推定量
密度 f を1つ固定する。X1,…,Xn が独立に密度 f(x−θ) に従うとし、母数は実数全体を動くとする。このような族を位置母数族と呼ぶ。
Zi=Xi−θ とおくと、Zi は母数によらず同じ密度に従う。データ全体を c だけずらすと、母数も同じだけずれる。そこで推定量にも同じずれ方を要求するのが自然である。
定義 10.8(位置同変推定量)
すべての c∈R と x について
δ(x1+c,…,xn+c)=δ(x1,…,xn)+c
を満たす推定量 δ を位置同変推定量と呼ぶ。損失関数も L(θ,d)=ρ(d−θ) の形(ずれだけで決まる形)を考える。
次の4つはどれも位置同変である。
Xˉ,標本中央値,X1,2X(1)+X(n)
2Xˉ や定数推定量は位置同変ではない。
命題 10.9(同変推定量のリスクは一定 ★★)
損失 ρ(d−θ) のもとで、位置同変推定量 δ のリスクは母数によらない。
証明
Xi=θ+Zi と書くと、同変性から δ(X)−θ=δ(Z+θ1)−θ=δ(Z) である。よって R(θ,δ)=E[ρ(δ(Z))] で、Z の分布は母数によらない。
リスクが定数なので、同変推定量どうしは1つの数で比べられ、最小のものが意味を持つ。これを最良同変推定量と呼ぶ。
最良同変推定量と Pitman 推定量
まず同変推定量の形を決める。δ0 を1つの同変推定量(たとえば Xn)とする。差の組を
Y=(X1−Xn,…,Xn−1−Xn)
とおく。Y はデータをずらしても変わらない(不変)。
証明
δ が同変なら、u(x)=δ0(x)−δ(x) はずらしても変わらない。ずらす量を c=−xn と選ぶと
u(x)=u(x1−xn,…,xn−1−xn,0)
となり、u は Y だけの関数である。これを v(Y) と書けばよい。逆に、δ0 は同変で Y は不変である。よって両者を組み合わせた δ0−v(Y) は同変である。
定理 10.11(Pitman 推定量 ★★)
2乗損失 (d−θ)2 のもとで、最良同変推定量は
δ∗(x)=∫−∞∞i=1∏nf(xi−θ)dθ∫−∞∞θi=1∏nf(xi−θ)dθ(10.5)
で与えられる。これを Pitman 推定量と呼ぶ。
証明
命題 10.9 よりリスクは θ=0 で計算すればよい。補題 10.10 で δ0=Xn とすると、リスクは
E0[(Xn−v(Y))2]=E0[E0[(Xn−v(Y))2∣Y]]
である。内側の条件付き期待値は、Y=y ごとに v(y) の2次式である。これは v(y)=E0[Xn∣Y=y] のとき最小になる。
この条件付き期待値を計算する。変換 xi=xn+yi(i<n)のヤコビアンは 1 である。よって母数が 0 のもとで、(Xn,Y) の同時密度は
i=1∏nf(u+yi)(u は Xn の値, yn=0)
である。したがって
E0[Xn∣Y=y]=∫∏if(u+yi)du∫u∏if(u+yi)du.
観測値 x から yi=xi−xn を作る。積分変数を u=xn−θ と置換すると、u+yi=xi−θ となる。よって
E0[Xn∣Y=y]=∫∏if(xi−θ)dθ∫(xn−θ)∏if(xi−θ)dθ=xn−δ∗(x).
したがって最良の推定量は xn−(xn−δ∗(x))=δ∗(x) である。
式 (10.5) は、尤度 ∏f(xi−θ) を母数の関数とみて正規化したものの平均である。§10.4 の言葉では、実数全体の上の一様な(積分が有限でない)事前分布に対する事後平均に当たる。
正規分布
f が N(0,σ2) の密度であるとする。∑(xi−θ)2=∑(xi−xˉ)2+n(θ−xˉ)2 より
∏f(xi−θ)∝exp{−2σ2n(θ−xˉ)2}
である。これは母数の関数として N(xˉ,σ2/n) の密度に比例する。その平均は xˉ なので、Pitman 推定量は Xˉ である。
例題 10.5 位置をずらした指数分布の Pitman 推定量 ★★
オリジナル
X1,…,Xn が独立に密度 f(x−θ) に従う。ここで f(z)=e−z (z>0) であり、観測は母数より大きい値をとる。
- Pitman 推定量を求めよ。
- そのリスク(2乗損失)を求め、同変な不偏推定量 Xˉ−1 のリスク、および X(1)=minXi のリスクと比べよ。
解答
(1) 尤度は次の形である。
i∏f(xi−θ)={exp{−∑xi+nθ}0(θ<x(1)),(θ≥x(1)).
母数によらない因子 e−∑xi は、分子と分母で約分される。よって
∫−∞x(1)enθdθ=nenx(1),∫−∞x(1)θenθdθ=[nθenθ−n2enθ]−∞x(1)=nx(1)enx(1)−n2enx(1).
比をとって δ∗=X(1)−1/n である。
(2) Zi=Xi−θ∼Ex(1) である。P(minZi>z)=e−nz である。よって Z(1)=X(1)−θ は率 n の指数分布に従う。その平均は 1/n、分散は 1/n2 である。
3つの推定量のリスクは次のとおり。
δ∗Xˉ−1X(1):δ∗−θ=Z(1)−n1 より V[Z(1)]=n21,:Xˉ−1−θ=Zˉ−1 より V[Zˉ]=n1,:V[Z(1)]+E[Z(1)]2=n22.
n≥2 で 1/n2<2/n2≤1/n となり、Pitman 推定量のリスクが最も小さい。
台の端の位置を推定する問題なので、誤差の大きさは 1/n でなく 1/n の速さで減る。
尺度母数族
密度が σ−1f(x/σ)(σ>0)の形の族を尺度母数族と呼ぶ。σr を推定するとしよう。データを c>0 倍すると、推定したい量は cr 倍になる。そこで推定量と損失に次の形を要求する。
δ(cx)=crδ(x),L(σ,d)=(σrd−1)2
命題 10.9 と同じ議論で、同変推定量のリスクは σ によらない。
正の統計量 T が同変、つまり T(cx)=crT(x) であるとする。このとき W=T/σr の分布は σ によらない。推定量を cT の形に限ると、リスクは
E[(cW−1)2]=c2E[W2]−2cE[W]+1
で、c∗=E[W]/E[W2] のとき最小になる。
正規分布の分散の最良同変推定量
N(μ,σ2) で σ2 を推定する。位置と尺度の両方の変換で同変な推定量として、Q=∑(Xi−Xˉ)2 の定数倍 cQ をとる。W=Q/σ2∼χn−12 なので
E[W]=n−1,E[W2]=V[W]+E[W]2=2(n−1)+(n−1)2=(n−1)(n+1).
よって c∗=1/(n+1) で、例題 10.1 と同じ結論になる。
位置と尺度の変換で同変な推定量は、一般には Q と不変量 (Xi−Xˉ)/Q の関数になる。正規分布では Q がそれらの不変量と独立である(Basu の定理)。そのため最良のものは cQ の形の中にある。
例題 10.6 指数分布の平均の最良同変推定量 ★
オリジナル
X1,…,Xn が独立に、密度 θ−1e−x/θ の指数分布に従う。T=∑Xi とし、損失 (d/θ−1)2 を考える。cT の形の推定量の中で、最良のものとそのリスクを求めよ。
解答
W=T/θ は、母数が 1 のときの T と同じ分布に従う。すなわち Ga(n,1) に従う。
E[W]=n,E[W2]=n+n2=n(n+1),c∗=E[W2]E[W]=n+11.
リスクは
(n+1)2n(n+1)−n+12n+1=n+1n−2n+n+1=n+11.
不偏推定量 Xˉ(c=1/n)のリスクは
n2n(n+1)−2+1=n1
で、1/(n+1) より大きい。
確認テスト
オリジナル
- 10.3-1 次の推定量のうち位置同変なものを選べ。
Xˉ,標本中央値,Xˉ+1,2Xˉ,X(n)−X(1)
2. 10.3-2 X1,…,Xn が独立に区間 (θ−21,θ+21) 上の一様分布に従う。Pitman 推定量を求めよ。そのリスクを求めて Xˉ のリスク 1/(12n) と比べよ。ただし (0,1) 上の一様分布の順序統計量について、次を使ってよい。
V[U(1)]=V[U(n)]=(n+1)2(n+2)n,Cov(U(1),U(n))=(n+1)2(n+2)1
3. 10.3-3 X1,…,Xn が独立に N(0,σ2) に従う。損失 (d/σ2−1)2 を考える。c∑Xi2 の形の推定量の中で、最良のものとそのリスクを求めよ。4. 10.3-4 補題 10.10 を使わずに、N(θ,1) の Pitman 推定量が Xˉ になることを、式 (10.5) の積分を平方完成で計算して示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com