数理統計 第10章 §10.4 ★★★ ベイズ推定量は事後期待損失を各 x で最小にする。2乗損失なら事後平均。共役事前分布での事後分布とベイズリスクの計算が頻出
ベイズリスクとベイズ推定量
母数 θ に確率分布(事前分布)π(θ) を置く。リスク関数をこの分布で平均した数
r(π,δ)=∫ΘR(θ,δ)π(θ)dθ(10.6)
をベイズリスクと呼ぶ。r(π,δ) を最小にする推定量を、π に関するベイズ推定量と呼ぶ。これを δπ と書く。観測 x のもとでの θ の事後分布は、Bayes の定理より
π(θ∣x)=m(x)f(x∣θ)π(θ),m(x)=∫Θf(x∣θ)π(θ)dθ(10.7)
である。m(x) を周辺密度と呼ぶ。
定理 10.12(ベイズ推定量は事後期待損失の最小化 ★★★)
各 x について、事後期待損失
∫L(θ,d)π(θ∣x)dθ
を最小にする d=δπ(x) を選ぶ。こうして作った δπ はベイズ推定量である(r(π,δπ)<∞ とする)。特に
- 2乗損失 (d−θ)2 では事後平均 δπ(x)=E[θ∣x]、
- 重み付き2乗損失 w(θ)(d−θ)2 では δπ(x)=E[w(θ)θ∣x]/E[w(θ)∣x]、
- 絶対損失 ∣d−θ∣ では事後分布の中央値
がベイズ推定量である。
証明
積分の順序を入れ替えて、式 (10.7) の f(x∣θ)π(θ)=π(θ∣x)m(x) を使うと
r(π,δ)=∫Θ∫L(θ,δ(x))f(x∣θ)dxπ(θ)dθ=∫{∫ΘL(θ,δ(x))π(θ∣x)dθ}m(x)dx.
m(x)≥0 なので、波括弧の中を各 x で最小にすれば全体が最小になる。
(1) 波括弧の中は d2−2dE[θ∣x]+E[θ2∣x] である。d で微分して 0 とおくと d=E[θ∣x]。(2) 同様に d2E[w∣x]−2dE[wθ∣x]+E[wθ2∣x] を d で微分すればよい。(3) 確認テスト 10.1-3 の結果を事後分布に当てはめる。
共役事前分布
事前分布と事後分布が同じ分布族に入るとき、その事前分布を共役事前分布と呼ぶ。事後分布の計算では、θ を含む因子だけを残して既知の密度の形を読み取ればよい(正規化定数は最後に合わせる)。
命題 10.13(代表的な共役事前分布 ★★★)
- X∼Bin(n,p) で事前分布がベータ分布 Beta(a,b) なら、事後分布は次のベータ分布である。
p∣x∼Beta(a+x,b+n−x)
事後平均は
E[p∣x]=a+b+na+x=a+b+nn⋅nx+a+b+na+b⋅a+ba.
2. X1,…,Xn が独立に Po(λ) に従うとする。事前分布が Ga(α,β) なら、t=∑xi として
λ∣x∼Ga(α+t,nβ+1β).
事後平均は
E[λ∣x]=nβ+1(α+t)β=nβ+1nβxˉ+nβ+11αβ.
3. X1,…,Xn が独立に N(θ,σ2) に従い、分散は既知とする。事前分布が N(μ0,τ2) なら
θ∣x∼N(n/σ2+1/τ2nxˉ/σ2+μ0/τ2, n/σ2+1/τ21).
証明
(1) π(p∣x)∝px(1−p)n−x⋅pa−1(1−p)b−1=pa+x−1(1−p)b+n−x−1 は Beta(a+x,b+n−x) の密度の形である。Beta(A,B) の平均 A/(A+B) から事後平均を得る。
(2) π(λ∣x)∝λte−nλ⋅λα−1e−λ/β=λα+t−1exp{−λ(n+1/β)}。尺度が 1/(n+1/β)=β/(nβ+1) のガンマ分布の形で、平均は形状×尺度である。
(3) ∑(xi−θ)2=∑(xi−xˉ)2+n(θ−xˉ)2 を使うと、θ を含む指数部分は
−2σ2n(θ−xˉ)2−2τ2(θ−μ0)2
である。2次と1次の係数は
θ2: −21(σ2n+τ21),θ: σ2nxˉ+τ2μ0
なので、平方完成すると主張の正規分布になる。
3つの事後平均はどれも「データから作った推定量」と「事前分布の平均」の重み付き平均になっている。データの重みは n が大きいほど 1 に近づき、事前分布の影響は小さくなる。事前分布の重みは、事前分布が何個分の観測に相当するかを表している。
- ベータ分布なら a+b 個分。
- ガンマ分布なら 1/β 個分。
- 正規分布なら σ2/τ2 個分。
不偏なベイズ推定量は存在しない
命題 10.14(不偏推定量とベイズ推定量 ★★)
2乗損失のもとで、δ が事前分布 π に関するベイズ推定量であるとする。これが同時に母数の不偏推定量でもあるなら、r(π,δ)=0 である。
証明
母数とデータの同時分布での期待値を E と書く。E[δθ] を2通りに計算する。
E[δθ]E[δθ]=E[δE[θ∣X]]=E[δ2]=E[θE[δ∣θ]]=E[θ2](δ=E[θ∣X] を使った),(不偏性 E[δ∣θ]=θ を使った).
よって
r(π,δ)=E[(δ−θ)2]=E[δ2]−2E[δθ]+E[θ2]=0.
通常のモデルではベイズリスクが 0 になることは無いので、不偏推定量は(真の確率分布である)事前分布に関するベイズ推定量にはならない。たとえば N(θ,σ2) の Xˉ は、どの正規事前分布に関するベイズ推定量でもない。事後平均は、Xˉ を事前平均の方へ縮めた値になる。
例題 10.7 一様事前分布でのベイズ推定量とベイズリスク ★★★
オリジナル
X∼Bin(n,p) とする。事前分布を (0,1) 上の一様分布 Beta(1,1) とし、2乗損失を考える。
- ベイズ推定量を求めよ。n=10、x=3 のときの値を求めよ。
- ベイズ推定量のベイズリスクを求め、X/n のベイズリスクと比べよ。
解答
(1) 命題 10.13 (1) で a=b=1 とすると、事後分布は Beta(x+1,n−x+1) である。ベイズ推定量は事後平均 δπ=(X+1)/(n+2) である。たとえば n=10、x=3 とする。このとき推定値は 4/12=1/3 となる。
(2) 例題 10.2 (1) で a=1 とすると
R(p,δπ)=(n+2)2np(1−p)+(1−2p)2.
一様分布のもとで E[p]=1/2、E[p2]=1/3 なので
E[p(1−p)]=21−31=61,E[(1−2p)2]=1−4⋅21+4⋅31=31.
よって
r(π,δπ)=(n+2)2n/6+1/3=6(n+2)2n+2=6(n+2)1.
X/n のベイズリスクは E[p(1−p)]/n=1/(6n) である。これは 1/(6(n+2)) より大きい。X/n は不偏なので、命題 10.14 からもベイズ推定量にならないことが分かる。
例題 10.8 損失関数でベイズ推定量が変わる例 ★★
オリジナル
X1,…,Xn が独立に、密度 λe−λx の指数分布に従う。事前分布を λ∼Ga(α,β) とし、t=∑xi とおく。
- 事後分布を求めよ。
- 2乗損失 (d−λ)2 のベイズ推定量を求めよ。
- 損失 (d−λ)2/λ2 のベイズ推定量を求めよ(α+n>2 とする)。
- 次の値のとき、(2)・(3) の値と最尤推定値 n/t を求めよ。
α=2,β=1,n=10,t=4
解答
(1) 事後密度は
π(λ∣x)∝λne−λt⋅λα−1e−λ/β=λα+n−1exp{−λ(t+1/β)}
である。よって事後分布は Ga(A,s) で、
A=α+n,s=tβ+1β.
(2) 事後平均 As=(α+n)β/(tβ+1)。
(3) 定理 10.12 (2) で w(λ)=λ−2 とすると
δ=E[λ−2∣x]E[λ−1∣x]
である。Ga(A,s) について
E[λ−k]=Γ(A)sA1∫0∞λA−k−1e−λ/sdλ=Γ(A)sAΓ(A−k)sA−k=Γ(A)Γ(A−k)s−k(A>k)
より
E[λ−1]=(A−1)s1,E[λ−2]=(A−1)(A−2)s21.
比は (A−2)s=(α+n−2)β/(tβ+1) である。
(4) tβ+1=5 なので、3つの値は次のとおり。
- (2) の事後平均は 12/5 = 2.4。
- (3) の推定値は 10/5 = 2。
- 最尤推定値は 10/4 = 2.5。
同じ事後分布からでも、損失関数が違えばベイズ推定量は違う値になる。
確認テスト
オリジナル
- 10.4-1 事後分布のもとで E[(θ−d)2∣x] を最小にする d が事後平均であることを確かめよ。それには次の式を示せばよい。
E[(θ−d)2∣x]=V[θ∣x]+(E[θ∣x]−d)2
2. 10.4-2 X1,…,X5 が独立に Po(λ) に従い、観測の和が 12 であった。事前分布 λ∼Ga(2,1) のもとで、事後分布と2乗損失のベイズ推定値を求めよ。それが xˉ と事前平均の重み付き平均になっていることを確かめよ。3. 10.4-3 X1,…,X4 が独立に N(θ,4) に従い、標本平均が 2 であった。事前分布 θ∼N(0,1) のもとで事後分布を求めよ。また、このベイズ推定量のベイズリスクを求めよ。4. 10.4-4 X∼Bin(n,p) とする。π を (0,1) 上の任意の事前分布とする(両端 0, 1 に確率を置かないもの)。X/n は2乗損失のベイズ推定量にならないことを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com