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双対空間と余接ベクトル

2026年10月22日14分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第3章 1形式と双対
目次
  1. 双対空間と双対基底
  2. 基底の取り替えと変換則
  3. 余接空間と座標基底
  4. 物理の例:波数は余接ベクトル
  5. 確認テスト
  6. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

物理のための微分幾何入門 第3章 §3.1 ★★★ 上付きと下付きの添字の区別はここで生まれる。ベクトルの成分と1形式の成分は逆向きに変換し、組み合わせると座標に依らない数になる

第2章では、多様体の各点 pp に接空間 TpMT_pM を置いた。座標基底は ∂i=∂/∂xi\partial_i=\partial/\partial x^i で、その変換則も作った。接ベクトル VV は、関数に方向微分 V(f)V(f) という数を対応させる。

この章では向きを逆にして、接ベクトルを受け取って数を返す線形写像を扱う。その写像を余接ベクトル、点ごとに余接ベクトルを並べたものを1形式と呼ぶ。

1形式は物理のいたるところに現れる。関数の微分 df\mathrm{d} f、力が微小な変位にする仕事、熱力学の熱 δQ\delta Q、平面波の波数、解析力学の運動量は、どれも1形式である。この章の前半では双対空間と微分 df\mathrm{d} f を定義し、「勾配」を矢印として描くには計量という余分な構造が要ることを確かめる。後半では線積分と完全微分を扱い、熱 δQ\delta Q が完全微分でなく 1/T1/T を掛けると完全微分になることを見る。

最後の2節では解析力学に移る。運動量 pi=∂L/∂q˙ip_i=\partial L/\partial\dot q^i が下付きの添字を持つ理由を変換則から示し、Legendre 変換を接束から余接束への写像として読む。§3.5 では、Lagrangian の変数 (q,q˙,t)(q,\dot q,t) を独立に動かしてよい理由を、接束という多様体の座標として説明する。

この章の結果は、第4章のテンソル、第5章 §5.2 の添字の上げ下げ、第12章の微分形式、第14章の相空間でそのまま使う。解析力学の計算の詳細は、虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第1部第4章(Euler–Lagrange 方程式)と第7章(Legendre 変換)に送る。

双対空間と双対基底

まず、多様体を離れて有限次元の線形代数で話を組み立てる。VV を nn 次元の実ベクトル空間とする。

定義 3.1(双対空間)

VV から実数への線形写像の全体を V∗V^* と書き、双対空間と呼ぶ。和とスカラー倍は値ごとに定める。

(α+β)(v)=α(v)+β(v),(c α)(v)=c α(v)(\alpha+\beta)(v)=\alpha(v)+\beta(v),\qquad (c\,\alpha)(v)=c\,\alpha(v)

V∗V^* の元を双対ベクトル(共変ベクトル)と呼ぶ。

双対ベクトルは、ベクトルを1本受け取って実数を1つ返す線形な規則である。V=RnV=\mathbb{R}^n の元を縦ベクトルで書くと、双対ベクトルは横ベクトルで書け、値は行列の積で計算する。この見方は計算には便利だが、横ベクトルを縦ベクトルに戻す規則(転置)は基底の選び方に依存する。その依存性が、この章の後半で「勾配には計量が要る」という形で現れる。

この章から先は、和の記号 ∑\sum を省く総和規約を使う。1つの項の中で同じ添字が上と下に1回ずつ現れたら、その添字について 11 から nn まで和をとる。たとえば αiei\alpha_ie^i は ∑i=1nαiei\sum_{i=1}^n\alpha_ie^i のことである。第1章と第2章では和を ∑\sum で書いたが、表す中身は同じである。

定理 3.2(双対基底)

VV の基底 e1,…,ene_1,\dots,e_n を1つ選ぶ。双対ベクトル e1,…,ene^1,\dots,e^n を次の条件で定める。

ei(ej)=δij(3.1)e^i(e_j)=\delta^i{}_j\tag{3.1}

このとき e1,…,ene^1,\dots,e^n は V∗V^* の基底になる。したがって V∗V^* も nn 次元である。任意の α∈V∗\alpha\in V^* は、α=αiei\alpha=\alpha_i e^i とただ1通りに書ける。係数は αi=α(ei)\alpha_i=\alpha(e_i) で与えられる。

証明

線形写像は基底での値で決まるので、条件 (3.1) は eie^i をただ1つに定める。

1次独立性を示す。ciei=0c_ie^i=0 と仮定し、両辺を eje_j に作用させる。左辺は ciδij=cjc_i\delta^i{}_j=c_j になる。したがって、すべての係数 cjc_j が0である。

張ることを示す。任意の α∈V∗\alpha\in V^* に対して β=α(ei) ei\beta=\alpha(e_i)\,e^i と置く。各基底ベクトルでの値は β(ej)=α(ei)δij=α(ej)\beta(e_j)=\alpha(e_i)\delta^i{}_j=\alpha(e_j) で、α\alpha の値と一致する。2つの線形写像が基底の上で一致するので β=α\beta=\alpha である。

ベクトル v=vjejv=v^je_j に α\alpha を作用させると、線形性と (3.1) から次の式を得る。

α(v)=αivj ei(ej)=αivi(3.2)\alpha(v)=\alpha_iv^j\,e^i(e_j)=\alpha_iv^i\tag{3.2}

特に α=ei\alpha=e^i と選ぶと ei(v)=vie^i(v)=v^i である。双対基底の eie^i は、ベクトルからその第 ii 成分を取り出す写像になっている。

基底の取り替えと変換則

基底を ea′=Aja eje'_a=A^j{}_a\,e_j と取り替える(AA は正則行列)。新しい双対基底と成分がどう変わるかを調べる。

命題 3.3(変換則)

新しい双対基底は e′a=(A−1)aj eje'^a=(A^{-1})^a{}_j\,e^j である。ベクトルの成分と双対ベクトルの成分は、それぞれ次のように変わる。

v′a=(A−1)aj vj,αa′=Aja αj(3.3)v'^a=(A^{-1})^a{}_j\,v^j,\qquad \alpha'_a=A^j{}_a\,\alpha_j\tag{3.3}

さらに、組み合わせた数 αivi\alpha_iv^i は基底に依らない。

証明

候補 e~a=(A−1)ajej\tilde e^a=(A^{-1})^a{}_je^j を eb′e'_b に作用させる。

e~a(eb′)=(A−1)ajAkb ej(ek)=(A−1)ajAjb=δab\tilde e^a(e'_b)=(A^{-1})^a{}_jA^k{}_b\,e^j(e_k)=(A^{-1})^a{}_jA^j{}_b=\delta^a{}_b

これは (3.1) の条件そのものなので、定理 3.2 の一意性から e~a=e′a\tilde e^a=e'^a である。

成分は、前の小節の公式 v′a=e′a(v)v'^a=e'^a(v) と αa′=α(ea′)\alpha'_a=\alpha(e'_a) から計算する。

v′a=(A−1)aj ej(v)=(A−1)ajvj,αa′=α(Ajaej)=Ajaαjv'^a=(A^{-1})^a{}_j\,e^j(v)=(A^{-1})^a{}_jv^j,\qquad \alpha'_a=\alpha(A^j{}_ae_j)=A^j{}_a\alpha_j

最後に、2つを組み合わせると AA と A−1A^{-1} が打ち消し合う。

αa′v′a=Ajaαj (A−1)akvk=αjδjkvk=αjvj\alpha'_av'^a=A^j{}_a\alpha_j\,(A^{-1})^a{}_kv^k=\alpha_j\delta^j{}_kv^k=\alpha_jv^j

(3.3) の2つの式を見比べる。双対ベクトルの成分 αa\alpha_a は、基底と同じ行列 AA で変わる。ベクトルの成分 vav^a は、逆行列 A−1A^{-1} で変わる。添字を下に書く量は基底と同じ向きに、上に書く量は基底と逆向きに変わる、というのが添字の位置の意味である。

上付き・下付きの規則

  • 基底ベクトル eae_a と双対ベクトルの成分 αa\alpha_a は下付きである。どちらも行列 AA で変わる(共変)。
  • ベクトルの成分 vav^a と双対基底 eae^a は上付きである。どちらも逆行列 A−1A^{-1} で変わる(反変)。
  • 総和規約は上と下の組にだけ使う。同じ位置の添字どうしの和 αiwi\alpha_iw_i は、基底を変えると値が変わるので意味を持たない。

双対ベクトルは、図 3.1 のように平行な等間隔の線(3次元なら面)の族として描ける。α\alpha の値が整数になる線を引くと、値 α(v)\alpha(v) は矢印が横切る線の本数(端数を含む)になる。線の間隔が狭いほど α\alpha の成分は大きい。矢印と線の族を同じ図に描くだけで値が読め、ベクトルの長さや角度は使わない。

図

図 3.1 双対ベクトル α=2 dx+dy\alpha=2\,\mathrm{d} x+\mathrm{d} y を、値 2x+y2x+y が整数になる線の族で描いたもの(下の数字が線の値)。ベクトル v=(1.5, 1)v=(1.5,\,1) は値 00 から 44 までの線を横切り、α(v)=2⋅1.5+1=4\alpha(v)=2\cdot1.5+1=4 に一致する。

余接空間と座標基底

多様体に戻る。各点の接空間 TpMT_pM は nn 次元のベクトル空間なので、その双対空間を考えることができる。

定義 3.4(余接空間と1形式)

接空間の双対空間 Tp∗M=(TpM)∗T^*_pM=(T_pM)^* を、点 pp の余接空間と呼ぶ。その元を余接ベクトルと呼ぶ。座標基底 ∂i\partial_i に対する双対基底を dxi\mathrm{d} x^i と書く。

dxi(∂j)=δij(3.4)\mathrm{d} x^i(\partial_j)=\delta^i{}_j\tag{3.4}

各点 pp に余接ベクトル ωp∈Tp∗M\omega_p\in T^*_pM を滑らかに対応させたものを1形式と呼ぶ。成分で書くと ω=ωi(x) dxi\omega=\omega_i(x)\,\mathrm{d} x^i である。

記号 dxi\mathrm{d} x^i を選んだ理由は §3.2 で明らかになる。座標関数 xix^i の微分を定義すると、それがちょうど (3.4) を満たす。

第2章 §2.2 で、別の座標 x′ax'^a への取り替えで座標基底が次のように変わることを見た。

∂a′=∂xj∂x′a ∂j\partial'_a=\frac{\partial x^j}{\partial x'^a}\,\partial_j

これは命題 3.3 の Aja=∂xj/∂x′aA^j{}_a=\partial x^j/\partial x'^a の場合である。逆行列は ∂x′a/∂xj\partial x'^a/\partial x^j なので、(3.3) から余接ベクトルの基底と成分の変換則が決まる。

dx′a=∂x′a∂xj dxj,ωa′=∂xj∂x′a ωj,V′a=∂x′a∂xj Vj(3.5)\mathrm{d} x'^a=\frac{\partial x'^a}{\partial x^j}\,\mathrm{d} x^j,\qquad \omega'_a=\frac{\partial x^j}{\partial x'^a}\,\omega_j,\qquad V'^a=\frac{\partial x'^a}{\partial x^j}\,V^j\tag{3.5}

最初の式は、微小な変位の連鎖律と同じ形をしている。両者が一致することは §3.2 で確かめる。

平面の極座標

x=rcos⁡θx=r\cos\theta、y=rsin⁡θy=r\sin\theta とする。逆の関係 r=x2+y2r=\sqrt{x^2+y^2} と θ=arctan⁡(y/x)\theta=\arctan(y/x) を微分すると、(3.5) の最初の式は次の形になる。

dr=x dx+y dyr,dθ=−y dx+x dyr2(3.6)\mathrm{d} r=\frac{x\,\mathrm{d} x+y\,\mathrm{d} y}{r},\qquad \mathrm{d}\theta=\frac{-y\,\mathrm{d} x+x\,\mathrm{d} y}{r^2}\tag{3.6}

逆向きには dx=cos⁡θ dr−rsin⁡θ dθ\mathrm{d} x=\cos\theta\,\mathrm{d} r-r\sin\theta\,\mathrm{d}\theta と dy=sin⁡θ dr+rcos⁡θ dθ\mathrm{d} y=\sin\theta\,\mathrm{d} r+r\cos\theta\,\mathrm{d}\theta である。条件 dθ(∂θ)=1\mathrm{d}\theta(\partial_\theta)=1 を確かめる。第2章の結果 ∂θ=−y ∂x+x ∂y\partial_\theta=-y\,\partial_x+x\,\partial_y を代入すると、(y2+x2)/r2=1(y^2+x^2)/r^2=1 になる。

物理の例:波数は余接ベクトル

平面波 cos⁡(k⋅x−ωt)\cos(\bm k\cdot\bm x-\omega t) の位相 ϕ=kixi−ωt\phi=k_ix^i-\omega t を考える。空間の変位 Δx\Delta x に対する位相の変化は kiΔxik_i\Delta x^i で、変位について線形である。波数 kk は、変位を受け取って位相の変化を返す余接ベクトルである。図 3.1 の線の族は、位相が 2π2\pi の整数倍になる波面そのものにあたる。

結晶の逆格子も同じ構造を持つ。格子の基本並進ベクトル a1,…,ana_1,\dots,a_n を基底に選ぶと、逆格子の基本ベクトル bib^i は次の条件で決まる。

bi(aj)=2π δijb^i(a_j)=2\pi\,\delta^i{}_j

これは双対基底の 2π2\pi 倍である。bib^i を普通は位置ベクトルと同じ空間の矢印として描くが、その描き方には Euclid の内積を使っている。

例題 3.1 三角格子の双対基底 ★★

オリジナル2次元の三角格子の基本並進ベクトルを次のように選ぶ(単位は格子定数 aa)。

a1=(1, 0),a2=(12, 32)a_1=(1,\,0),\qquad a_2=\Bigl(\tfrac12,\,\tfrac{\sqrt3}2\Bigr)

  1. 双対基底 e1,e2e^1,e^2 を、dx,dy\mathrm{d} x,\mathrm{d} y の線形結合で求めよ。
  2. 点 P=(2, 3)P=(2,\,\sqrt3) の位置ベクトルを a1,a2a_1,a_2 の線形結合で書け。その係数が双対基底の値になることを確かめよ。
  3. 逆格子の基本ベクトル bi=2πeib^i=2\pi e^i の長さを、Euclid の内積で dx,dy\mathrm{d} x,\mathrm{d} y を矢印と同一視して求めよ。
解答
  1. e1=α dx+β dye^1=\alpha\,\mathrm{d} x+\beta\,\mathrm{d} y と置き、2つの条件を書く。

α=1,12α+32β=0\alpha=1,\qquad \tfrac12\alpha+\tfrac{\sqrt3}2\beta=0

よって β=−1/3\beta=-1/\sqrt3 である。同様に、e2=γ dx+δ dye^2=\gamma\,\mathrm{d} x+\delta\,\mathrm{d} y に2つの条件を課す。

γ=0,32δ=1\gamma=0,\qquad \tfrac{\sqrt3}2\delta=1

よって δ=2/3\delta=2/\sqrt3 で、次の結果を得る。

e1=dx−13 dy,e2=23 dye^1=\mathrm{d} x-\frac{1}{\sqrt3}\,\mathrm{d} y,\qquad e^2=\frac{2}{\sqrt3}\,\mathrm{d} y 2. 位置ベクトルを c1a1+c2a2c^1a_1+c^2a_2 と置き、成分を比べる。

c1+12c2=2,32c2=3c^1+\tfrac12c^2=2,\qquad \tfrac{\sqrt3}2c^2=\sqrt3

これを解くと c2=2c^2=2 と c1=1c^1=1 である。一方、双対基底の値は次のとおりで、係数と一致する。

e1(P)=2−33=1,e2(P)=233=2e^1(P)=2-\frac{\sqrt3}{\sqrt3}=1,\qquad e^2(P)=\frac{2}{\sqrt3}\sqrt3=2 3. 成分の組を矢印と同一視すると b1=2π(1,−1/3)b^1=2\pi(1,-1/\sqrt3) と b2=2π(0,2/3)b^2=2\pi(0,2/\sqrt3) になる。どちらも長さは次の値である。

∣bi∣=4π3 a\left\vert b^i\right\vert =\frac{4\pi}{\sqrt3\,a}

矢印として見ると、b1b^1 は a2a_2 に直交する。同じく b2b^2 は a1a_1 に直交する。この直交性は内積を使って初めて言える性質で、条件 bi(aj)=2πδijb^i(a_j)=2\pi\delta^i{}_j だけからは出てこない。

確認テスト

オリジナル

  1. 3.1-1 平面の基底 e1=(1,0)e_1=(1,0)、e2=(1,1)e_2=(1,1) を考える。その双対基底を dx,dy\mathrm{d} x,\mathrm{d} y の線形結合で求めよ。
  2. 3.1-2 1形式 ω=x dy−y dx\omega=x\,\mathrm{d} y-y\,\mathrm{d} x を、平面の極座標の dr,dθ\mathrm{d} r,\mathrm{d}\theta で書け。
  3. 3.1-3 確認テスト 3.1-2 の1形式を、次の2つのベクトル場に作用させよ。

V=−y ∂x+x ∂y,W=x ∂x+y ∂yV=-y\,\partial_x+x\,\partial_y,\qquad W=x\,\partial_x+y\,\partial_y

直交座標の成分で計算した値と、極座標の成分で計算した値が一致することを確かめよ。4. 3.1-4 基底を ea′=Ajaeje'_a=A^j{}_ae_j と取り替える。ベクトルの成分の変換則 v′a=(A−1)ajvjv'^a=(A^{-1})^a{}_jv^j を、関係式 v=vjej=v′aea′v=v^je_j=v'^ae'_a だけから導け。

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

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